いよいよ無人運転車が公道に? 自動運転を取り巻く環境が変わり始めた

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第2回

いよいよ無人運転車が公道に? 自動運転を取り巻く環境が変わり始めた

2017.05.08

自動運転が話題にならない日はない。多くのニュースで報道されるようにクルマのロボット化が実現すれば、私達の暮らしは大きく変わり、未来はもっと楽しく、便利になるかもしれない。だが、その実現には課題は少なくないし、何よりもクルマを作るのは自動車メーカーなのである。

進む自動車会社とIT企業のコラボレーション

しかし、日本でも自動車メーカーとIT企業のコラボレーションが進んでいる。ここに挙げる1つの例は、DeNAと日産自動車のコラボレーションだ。両社は完全自動運転を目指して提携し、ロボットタクシーの開発と運用に熱心だ。こうした起業家精神によるイノベーションは、社会を変える大きな原動力になるが、一歩間違えると、人の命を奪う乗り物なので、安全性や耐久信頼性には細心の注意を払って取り組んでもらいたい。その点、日産が車両開発を担当するので安心だ。

DeNAは自動運転技術の活用に熱心だ。写真は最大12名が乗車できる運転席のない電気自動車の自動運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」。2016年7月にDeNAが日本国内に導入し、これまでにイオンモール幕張新都心に隣接する公園や秋田県仙北市の田沢湖畔などで走行を行った実績がある

2017年3月末に都内で開かれた起業家向けのイベント「Slush Tokyo 2017」で、当時は日産CEOだったカルロス・ゴーン氏(現在は日産会長)は、近未来の自動運転のビジョンを明らかにした。そのイベントで明らかになった自動運転のロードマップはこうだ。

・2018年頃には高速道路で複数車線の自動運転(レベル3~4)

・2020年頃には市街地の自動運転(レベル3~4)

・2022~2023年頃にはロボットタクシー(レベル5)

ロボットタクシーの実現に向けて、現在はDeNAと日産が協力して取り組んでいるが、ロボットタクシーの事業運営はDeNAが行い、日産が車両を提供することになりそうだ。

規制官庁も動き出した

さて、起業家達はイノベーションに熱心な安倍政権を味方につけ、ロボットタクシーの実現に向けては関係省庁も動いている。自動運転に関する規制は、現行法では2つの法律が存在する。1つは車両の安全性を定める保安基準(道路運送車両の保安基準)だ。これはクルマの技術的な要件の法令であり、公道を走るクルマは、その構造や装置の性能などが保安基準に適合するものでなければならないと規定されている。

この保安基準は国連で定める基準と相互に関係しており、日本と欧州は政府が許認可権を持つので、保安基準に合致しないクルマは製造販売ができない。この保安基準には自動運転が想定されていなかったので、早急に新基準を制定するため、国連欧州経済委員会の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」で議論されている。

しかし、ロボットタクシーとなると、さらに新しい基準策定が必要で、国土交通省自動車局も頭を悩ませているのではないだろうか。車内に人が存在しないので、「ゆりかもめ」のように遠隔操作する必要があるはずだ。通信などを利用して、万が一の時の緊急停止措置は不可欠と法令で定めることは可能だ。

もう1つの重い規制は、警察庁が管轄する道路交通法(略して道交法)だ。この法律は「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路交通に起因する障害の防止に資すること(1条)」を目的としている。早い話が、「ある一定のルールを守って安全に運転してください」という法律だが、この道交法は人を対象としているので、ロボットタクシーとなると、「AI(人工知能)を人と見なすのか?」などの新しい概念が必要となる。

遠隔操作のクルマにドライバーは必要なのか

私がSIP(内閣府主宰の自動運転の戦略的イノベーション会議)に構成員として参画した3年くらい前は、自動運転に消極的だった警察庁。最近では、かなり積極的に自動運転の扉を開こうとしている。2016年6月には、自動運転の実現に向けて警察庁としてどのように取り組むべきなのか、という会議が始まった。

その第1回「自動運転の段階的実現に向けた調査検討委員会」では、「遠隔型自動走行システム」について議論されていた。道路交通法(道交法)が関係する国連欧州経済委員会の「道路交通安全作業部会(WP1)」では、遠隔操作に関して「自動運転車の実証実験については、クルマのコントロールが可能な能力を有し、それが可能な状態にある者がいれば、その者が車両内にいるかどうかを問わず、現行条約の下で実験が可能である」という解釈が了解された。

つまり、遠隔操作が可能なら、車内に人がいなくてもよいということになる。これを受けて警察庁は、2017年4月に「遠隔操作で走る無人自動運転車の公道実験は、新たに定めた道路使用許可の審査基準を満たせば許可する」ことを明らかにした。

しかし、法令では「遠隔操作が可能」と書かれていても、現実的には通信切れなどがない完全な遠隔システムを構築することになるので、技術的なハードルは高い。だが、クルマの技術基準を規制する国土交通省と、人の責任とルールを規定する道交法を管轄する警察庁が、ともに自動運転の実用化にむけて積極的に取り組んでいることは間違いない。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある
何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる