経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

「明治製菓は大正時代にできた会社」「ググるでなくグゴるになるところだった」と聞くとちょっと飲み会で話してみたくなりませんか? 社名に関するあれこれ、今回は有名企業の社名の由来をお伝えします。

三菱財閥より三菱鉛筆が先!?

トヨタ自動車が、じつは「トヨダ」になるはずだった話は有名かもしれません。創業家の性は「豊田=とよだ」と濁ります。実際、会社ができた1936年には「トヨダ号」という車もできていたのです。しかし、全国からマークを募集すると、デザインが非常にすっきりした作品があって……なぜか濁点がない! 何の間違いか「トヨタ」となっていたんです。しかしこのとき経営陣は、個人名を冠することなく社会的企業として成長しよう、画数も末広がりの8画だ、とこれを採用します。ちなみに愛知県豊田市にあるからトヨタ、というのは嘘です。元は「挙母(ころも)市」だったのですが、企業城下町として栄えたため、自治体が「豊田市」と改名しています。ちなみに工場の場所は「豊田市トヨタ町」。余談ですが、群馬には「太田市スバル町」が、大阪府には「池田市ダイハツ町」もありますよ。

同じ三菱なのに……誤認していた人は多いでしょうね

さて、この「間違い起源の社名」類はまだあって、同じく世界的企業の「google」もじつはそれ。1997年、創業者は「膨大な情報の組織化」という願いを込め、10の100乗を表わす「googol(グーゴル)」を社名にしようと考えます。ところがドメイン名を登録したとき綴りを間違え「google.com」としてしまったそう。「セレンディピティ」という考え方があります。何かの偶然、間違いで生まれてしまったものを活かそう、という考え方です。もしかしたら創業者は、偶然できた「google」の綴りを気に入ったのかもしれません。なお、幻の社名「googol」でグゴって……じゃなくてググってみると、ちゃんと10の100乗と出てきます。ほかの検索エンジンだと「googleではありませんか?」と出てくるのですけどね(笑)。

 そして最後にちょっとややこしい例も。先に書きましたが「明治製菓」は大正時代の創業です。簡単に言えば、明治時代に創業した「明治製糖」の子会社だったため、「明治製菓」になったのですね。さらには「三菱鉛筆」。この会社、世界の三菱グループとは一切関係がありません。三菱グループの由来は、創業者・岩崎弥太郎の家紋「三階菱」と、彼の故郷・土佐の山内家の家紋「三ツ柏」に由来すると言われています。一方「三菱鉛筆」の社名は、同社製の鉛筆が1901年に「逓信省(現:総務省)御用品」として採用されたことが由来。芯の硬さが一号、二号、三号の3種類で、かつ創業家の家紋が「三鱗(みつうろこ)」だったため、これを図案化して三菱のマークを考案したと言います。ちなみに、三菱財閥の商標登録より10年先のこと。あのマークは鉛筆の方が先だったのです。なお、ちょっとした都市伝説もあります。「三菱財閥から三菱鉛筆に“よくグループ会社と勘違いされるから、いっそグループに入りませんか?”と誘いがあった」しかも「三菱鉛筆は“自主独立を守りたいから”と断った」なるものです。本当だったら面白い! のですが、これは、三菱鉛筆の社長さんをインタビューしたとき、きっぱり否定されました(笑)。

世界的企業は社名から違うぜ!!

ここからもう少し、世界的企業の由来をお伝えしたいと思います。まずは「ソニー」。じつは創業当初、同社は「東京通信工業」という社名でした。しかし、創業者の盛田昭夫と井深大は1955年に日本初のトランジスタラジオ「TR-55」を発売すると、自社製品に「SONY」のマークを入れ、社名も「SONY」変更します。なぜかと言えば……まだ会社が小さかった時代から「世界進出」を考えていたから。

「東京通信工業」だと長すぎるのです。そこで彼らは、英字で表わすことができ、いい意味を持つ単語を探します。また、なるべく世界中で同じ発音で表せるほうがいい、と考えました。たとえば「JAPAN」はドイツ語だと「ヤパン」になります。そういうのを避けなきゃ! というわけで彼らは「音」という意味の英語「SONIC」の語源である、ラテン語の「SONUS」(ソヌス)と、「坊や」という意味の「SONNY」(ソニー)を由来に「SONY」という社名を創り上げます。志が高い!

「志」と言えば、本田技研工業も同じです。よくある創業者名=社名のパターン? と思われるかもしれません。余談ですが「ブリヂストン」は創業者が石橋正二郎氏だから「ストーン=石」と「ブリッジ=橋」を掛け合わせ「ブリヂストン」、サントリーは創業者の鳥井信治郎氏の「トリイ」と、主力商品だった「赤玉ポートワイン(太陽のように見えるマーク)」を組み合わせ、太陽=サンとトリイでサントリーです。しかし本田技研には人名だけでなく、志も込められていたのです。

それは「技研」の二文字。創業者・本田宗一郎は、飛行機もつくってみたい! と考える夢いっぱいの人物でした。そして「技術」「研究」という大きな志をテーマに「本田技術研究所」を立ち上げました。これがのちに奏功します。いま同社は「ホンダジェット」をつくっています。もし「本田自動車」だったら、社業と社名が一致しなくなっていました。本田宗一郎が大きな夢を持って起業したことが、今も社名に息づいている、というわけです。カッコいい!

あなたが起業するなら、どんな社名にしますか? いつか、日本経済に大きな影響を与える会社をつくったら、ぜひ、私に社名の由来を書かせてください。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu