ゆとり世代だから立ち上げた“65歳以上”のための部屋探し業

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第3回

ゆとり世代だから立ち上げた“65歳以上”のための部屋探し業

「利益が出ない」などの理由から新規事業が打てず、硬直してしまっている企業は多いのではないか。だが、ベンチャーなら早さが信条。連載「先鋭ベンチャー LOCK ON!」では、奮闘するスタートアップの姿をレポートする。

R 65 不動産代表・山本遼さん。1990年愛媛県生まれ。愛媛大学卒業後、新卒で愛媛の不動産会社に就職。転勤のため上京した後、社会人4年めで独立。「65歳以上の元気な高齢者」に特化した不動産仲介業を手がける。「ギリギリまで薬剤師として働いて78歳で亡くなった祖母の姿も、起業に影響を与えました」

R18(18歳以上)とかR15(15歳以上)など、映画やゲームといったコンテンツに適した年齢制限を表すときに使う「R(Ratingの頭文字)」の表記。

その「R」を冠したユニークな企業が2015年創業した「R65 不動産」だ。文字どおり「65歳以上」に特化して部屋探しを手伝う不動産会社。とはいえ、有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅(サ高住)といった支援を必要とする人向けの部屋探しではない。ワンルームや1LDKなどいわゆる普通の賃貸物件のなかで「高齢者OK」な部屋を探し、仲介するサービスである。

「当然のことですが65歳以上の高齢者でも、支援など必要ない方はたくさんいる。一方で『高齢者』『シニア』というと十把一絡げにされて、途端、部屋が借りにくくなるという現実があった。このミスマッチを埋めているわけです」と、創業者の山本遼さんはいう。 R65とは程遠い、平成生まれの27歳。しかし、65歳以上をターゲットにこのビジネスを立ち上げた。モチベーションのひとつは「共感」だったという。

「“ゆとり世代は……“と、ひとくくりにされてきましたからね(笑)」(山本さん)。

将来、『おじいちゃん』と呼ばれたくなかった

起業に至ったきっかけは前職時代。新卒で入社した不動仲介会社での3年めの頃、接客した80代の女性に「これまで5軒の不動産会社で門前払いされた」といわれたことだった。

「その女性はとても元気そうで、お金もあった。けれども“高齢者”というだけで、大家さんから『家賃を払えるのか?』『火事などを出さないか』『孤独死するのではないか?』とリスクが高いと判断されたわけです。裏を返すと『なるほど、こうした元気な高齢者向けの賃貸紹介のニーズは高いんだな』と実感しました」(山本さん)。

もっともビジネスチャンスに気づくより先に感じたのは“違和感“だった。「高齢者」というイメージだけで、ことさらネガティブに判断される。それは「ゆとりw」などと揶揄される教育を受けた自分たち世代のレッテルとまさに重なったからだ。

大学4年のときのインターンの経験も後押しした。2011年、山本さんは東日本大震災のあとに陸前高田で復興支援をする会社社長のもとで働いた。厳しい現実の中にいながらも「よりよい未来ためのチャンスだ」とポジティブに地元の雇用を生み出そうと動く姿に触発された。

「ちょうど『社会起業家』が注目された時期で、彼らがすごくかっこよくみえました。自分も世の中の課題を解決するソーシャルビジネスを手がけたい憧れもありました。そんなとき、まさに身近に高齢化問題という課題が出現。もっといえば自分が年をとったときに『高齢者だから……』と一緒くたにされ、住みたい場所に住めないのはイヤだったのです。『山本さんは、どんな部屋に住みたいですか?』と聞かれ、選べるようにしたかったんですよ」(山本さん)。

そして2015年5月、会社勤めをしながら、ウェブ上に65歳以上が入居可な賃貸物件を集めた情報サイトを立ち上げた。サイト名を「R65不動産」とした。ネーミングについてのこだわりもあった。

「シルバーとか高齢者とか、何となくネガティブな“色”のついた名前にはしたくなかったのです。僕ならいくら自分たち世代向けでも『ゆとり不動産』から借りたくないから(笑)」(山本さん)。

最初はあくまで趣味の延長。半年ほどはアクセスもさっぱり増えず、問い合わせもほぼゼロだった。考えてみれば、メインターゲットがシニア層。なかなかネットで検索してもらえなかった。

「R65不動産」のウェブサイト。サイト上にも不動産情報は公開しているが、問い合わせをうけてマッチングするケースが圧倒的に多いという。「お客さまが高齢者なので『物件情報をメールで送る……』というわけにもいかず、よくてファクス、あるいは郵送ということがほとんどですね」

しかし「取材させてくれ」とウェブメディアから声がかかると潮目が変わった。その記事を見た看護師や医師や理学療法士といった医療関係者、また自治体の職員から「部屋を探している高齢者の方から相談を受けていて……」と紹介が入るようになった。

「ジワジワとはいえ、部屋を借りたい高齢者のお客さまが次々に集まりました。今はそうした医療関係者や行政のチャネルだけじゃなく、ネットをみたご子息さんからの『親の部屋を借りたい』という問い合わせも多いです。ようは、それくらい部屋を借りられないぐらい、状況が深刻だったわけです」(山本さん)。

こうしてニーズに引っ張られる形で、山本さんはこの事業に本腰を入れることを決意。その年には会社を辞めて、独立した。基本は不動産仲介料をフィーとして受け取るビジネスモデル。現在は借り入れ物件も持ち、40室ほどは管理物件にもしている。そして経営が安定したことで、去年からは法人化したわけだ。

それにしても、先述したような「家賃を払えるのか?」「火事は大丈夫か?」「孤独死するのでは?」という物件の大家や不動産仲介会社が抱える課題をどうクリアしているのか。つまり高齢者が借りられる物件が少ないというそもそものハードルを、山本さんは、どのように乗り越えているのか。

「リスクに対して、シッカリと準備することが大切です」(山本さん)。

「体調どう?」と声がけできる関係性を築く

「高齢者に貸してもよい」という新規案件を探すと同時に、前職からつきあいのあった大家や不動産会社に声がけして、紹介物件を確保している。その際に欠かせないのが、大家の不安を解消するための2つの「準備」だ。

ひとつはまず「保険」。

繰り返しになるが、物件オーナーが、高齢者への賃貸を避けたがる大きな理由は「契約中に亡くなる可能性が高いのではないか?」という不安だ。とくに独居の場合、亡くなったあとの発見が遅くなり、特殊清掃などを入れざるをえなくなること。このコストが、大家にとって高齢者入居を躊躇させるハードルになる。

「そこでリスクを軽減するため、しっかりと入居者側に保険に加入してもらうようにしたのです。実は、火災保険の特約契約などでけっこうカバーできます。独居老人の場合は遺族に負担を頼むことも難しいのですが、保険なら問題ありません」(山本さん)。

そして、もう一点の準備が「入居者と密なコミュニケーションをとる」ことだ。山本さんは、意識的に入居者と大家と会わせて、契約前の面談を実施している。

入居者の健康面などで不安を抱く大家でも実際に顔をあわせ「80代には思えなくらい元気だ」とわかるだけでも、まず不安が解消される。さらに「R65不動産」で借り上げている物件もいくつかあるが、その入居者に関しては、山本さんを介して三者で食事やお茶などを飲みながら、「住んでみて何か困りごとは?」「最近、体調はいかがですか?」などと、言葉を交わす場を用意する。

「こうして関係性ができると、その後も定期的に体調や相談ごとなどのコミュニケーションが生じます。すると『いま調子が悪い』『それなら病院いってみたら』とか、『万が一のときはここに連絡をしてほしい』といった突っ込んだ会話が自然に交わせるようになります。自然と“見守り”ができるようになるのです」(山本さん)。

こうしたコミュニケーションが「亡くなったあと発見が遅くなる」といったリスクを低減されるのだ。

それでも「責任が持てない」「不安だ」という場合は、山本さんが連帯保証人になる場合もあるという。入居者の部屋探しの際に、密なコミュニケーションを図るため、「この人は滞納しないな」とか「どれくらい財産に余地があるか」とかが判断しやすい。

結果として、「それなら安心できる」と「R65不動産」には多くの65歳以上OKな物件が集まる。また「関心がある」という不動産会社、大家からの問い合わせも絶えないという。 「まだまだ数十名お待ちいただいている状態で、すべての方のニーズを満たすには足りません。ただ、少子高齢化は今後も進み、高齢者の方への物件提供に興味を示す大家さんや不動産会社が増えていくことは間違いないと思います」(山本さん)。

経済合理性にもとづいて形成された現代社会では、地域コミュニティ、家主と入居者のコミュニケーションがスポイルされがちだった。病院で亡くなることが増え、生活者と「死」の距離が離れた結果、ことさら死に畏怖の念を抱く人が増えた感もある。こうしたコミュニケーションの欠如が、高齢者の物件探しを困難にしている最大の理由。山本さんは、そんな関係性を新たに構築することで、このビジネスを成功に導いたのだ。

「懐かしい未来を」――。

陸前高田で地域の復興を手伝った際、山本さんはリーダーを務める起業家たちのそんな言葉にカッコよさを感じたという。「昔はよかったよね」と壊れたものをただ懐かしむのではなく、これから100年後にも残したい「昔よかったものを未来につくろう」という意気だ。

山本さんが「R 65不動産」で目指しているのも、きっとそれだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。