なぜ炭酸飲料は必ず丸い容器に入っているのか

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第4回

なぜ炭酸飲料は必ず丸い容器に入っているのか

2017.03.08

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

世の中にあふれる様々な「容器」。なぜコンビーフの缶だけ台形なんだろう? 納豆パックの底にある溝ってなんなんだ? などと考える人はまずいないと思いますが、実は! 様々なメーカーが工夫に工夫を重ねた結果「あの形」になっているんです。

コンビーフといえば台形ですよね

たとえばペットボトル。まず、飲んだことがある炭酸飲料を思い浮かべて下さい。必ず、上から見ると丸い形の容器に入っていませんか? 炭酸飲料の容器は、内側から外側へ圧力がかかります。もし四角いペットボトルに入れると圧力で形がゆがむため、丸い形の容器に入っているんです。

缶だって負けていません。缶飲料が目の前にあったら、まじまじとパシュッとあく口の部分を見てください。あく部分の形、よく見ると左右非対称なんです(とくに、缶を空けるときに指で引っ張るタブの左右あたり)。なぜなら、口の部分が左右対称だと缶があけにくくなるから。タブを引っ張ったときに力が一点にかからず左右に分散し、缶を空けるためにより強い力が必要になってしまうのです。

さらには、缶コーヒーのなかに飲み口の部分が大きいもの、ありませんか? あれは、パシュッとあけた瞬間や飲んでいるとき、コーヒーの香りが漂うようわざわざ大きくつくってあるんです。さらに、コーヒーは炭酸じゃないのに、缶を空けるとパシュッと音がする場合があります。これは、コーヒーが酸化しないよう缶に封入してある不活性ガスを多めに入れ、わざと内側の圧力を高めているから。なんのために……と言えば。

「缶をあけた瞬間、コーヒーの香りをあけた人の鼻まで届けるため」なんですね。

容器にまつわる努力、涙ぐましいと思いませんか?

納豆の容器の下側の溝がなければ納豆はできない

飲料だけでなく、食品も負けていません。まずは納豆。なぜパックの底には溝があるのだろう……? などと考えたことがある方はまずいないと思われますが、なんと! 「例の溝」がないと納豆ができないのです。

納豆はこんな順番でつくられます。まず豆を煮て、次に納豆菌をふりかけて容器に入れます。その後、納豆菌がよく働く温度に保たれた「室」(むろ)に入れて発酵させるんですね。考えてみれば、納豆になってから容器に入れていたら、糸を引いて大変そう。

さてそんななか、納豆菌の繁殖に欠かせないものがあります。それは「酸素」。でもって容器の底が真っ平らだと、底のほうは酸素が足らず、納豆菌がうまく繁殖しなくなってしまうんです。もし底の溝がなければ、一部は納豆になっていて、一部は煮豆のまま、というヘンな納豆ができてしまいます。そんなわけで、納豆パックの底には、空気を循環させるための溝があるんです。また、納豆の発泡スチロールのパックは保温性が高く、温度管理もしやすいそうですよ。

さらにはコンビーフ。世の中に様々な缶はあれど、なぜかコンビーフだけ台形です。その理由は「入れにくかったから」。コンビーフは牛赤身肉を高温で煮て、柔らかくほぐしたあと、牛脂や調味料と混ぜてつくります。あの「もそっ」とした肉の線維の食感が好き、という読者も多いでしょう。ただし、もそっとしているからこそ、缶に肉を詰めるとき、上からしっかり押さえないと空気が入って酸化しやすくなってしまいます。コンビーフが登場した当時は、手で詰めていたのでなおさらでした。でも台形の狭い側を下にして肉を詰めれば、上から押した力が下に行くほど強く伝わり、ギュッと酸素を抜くことができたんです。

ちなみに「ノザキのコンビーフ」を販売する会社の方いわく「今は技術も進化したから、標準的な缶にも詰められます。でも台形でないと売り場でコンビーフに見えないようで……普通の缶に入れたものを出してもあまり売れなかったんですよね」とのことでした。あの台形の缶は「枕缶」と言います。そして、あの形が売り場でアイコン化していたんですね。

ポテトチップスの袋がパンパンに膨らんでいる理由は?

なぜこんなことをいちいち知っているのか、と言うと、それは筆者が企業の経営者やマーケティング担当者を取材してきたから。彼らのほとんどは「この商品にはこんな工夫が!」と誇らしげに語ります。皆、それだけ情熱を込め、モノづくりをしているのでしょう。

ほかにも、容器にまつわる話はいくらでもあります。たとえば卵のパック。卵を入れるくぼみを見ると、あえて、卵が底まで落ちないようにつくってあります。これは卵を保護するため。考えてみれば、卵がパックのくぼみの底までしっかり落ちていたら、ドサッと置いた衝撃がモロに卵に伝わって、割れやすくなってしまいます。

また、ポテトチップスの袋にも工夫が。なぜパンパンに膨らんでいるかというと、ただ中身が割れないようにしているんです。「たくさん入っているように見せたいんじゃ?」というのはえん罪です。また、入っているのは「空気」ではありません。ポテトチップスの油も、酸化すると味や匂いが落ちてしまいます。そこで、缶コーヒーと同じように不活性ガス(いろんなものと結合しないガス)が詰められているんですね。

ほかにも、お弁当なら「レンジで温めたあと水蒸気が食品にかからない工夫」がされていたり、調味料の容器は液だれを防ぐ工夫がされていたり……企業がつくる「容器」には、さまざまな努力が詰まっています。じろじろ眺めて工夫に気付けば、企業を訪ねた時に雑談のネタができ「細かいことに気付く人なんだな」「うちの商品が好きなんだな」と印象づけることができるかもしれません。

気になる人は、ぜひ見て下さい。「中身を食べちゃえばゴミ」なんて言わず……。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu