「い・ろ・は・す」の中身は売れる前と同じ!? メーカーの「容器」に隠された裏話

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第5回

「い・ろ・は・す」の中身は売れる前と同じ!? メーカーの「容器」に隠された裏話

2017.03.22

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

商品のかたちにはこんなヒミツが……

スーパーやコンビニで商品を見ていると、一定の「形」があることがわかります。納豆ならあのパック、ティッシュならあの箱……。たとえばポテチも、メーカーを問わず、形が整った「成形ポテト」は筒型、ほかのポテチは袋入りで売られています。

もちろん、別の形に変えることだってできます。でも企業はほぼ、そうしません。なぜって、売れなくなるからです。我々消費者は商品を選ぶとき、パッケージは0.数秒しか見ないと言います。この一瞬で「あなた、ポテチならここですよ!」と訴えなければいけないから、消費者の頭の中にしっかり入った形を、おいそれと変えられないのです。また、決まり切った「あけ方」「注ぎ方」をヘタに変えたらクレームがきかねません。

しかしそれでも、企業はたまに容器を変えてきます。たまに、ちょっとした工夫でバカ売れする例があるからです。今回はマーケティングと容器の関係について「なるほど!」となる話をお送りします。

パッケージに「時代の流れ」を取り入れ、大ヒット!

バカ売れの顕著な例が、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」。実を言うと、この商品が出た09年より前、同社の水は苦戦していました。「森の水だより」等の商品はあったものの外国産の水に勝てなかったのです。クオリティには自信があったようです。同社は昭和の昔から富山や山梨など「名水」が出る場所に工場を建てており「ブランド名を隠した調査をすると高い評価を得ていた」と言います。

そんななか、ペットボトルの開発者が、関係あるかどうかわからないけど……と話を持ってきました。500ml入りのペットボトルを一気に軽量化できた、どこかで使えないか、と言うのです。そこでマーケティング担当者はワラにもすがる思いで「エコ」に関する意識調査をしました。すると多くの人が「エコのために何かガマンしたり、お金や時間を使うのは嫌」だけど「デメリットがなければ選びたい」と言ったのです。担当者は考えました。外国産の水は、運ぶためにも燃料が必要。一方、自社の水は国産。「水でエコ」「地産地消」というコンセプトにすれば、選んでもらえるかもしれない……。

こうして販売されたのが「い・ろ・は・す」。容器をくしゃっとつぶせることが新鮮で、当時は「エコの可視化」などと言われたものです。その後の大ヒット、定番化は言うまでもありません。販売当初、同社の方から聞いた話によると、中身は同じなのですが……。

次の大ヒットは醤油の話。醤油は塩分が高いから常温でも腐らないのは常識ですが、実は、酸素に触れると味が劣化します。皿にチョロチョロと注いだとき、透明感があって皿の模様が見えるのは新鮮な醤油。透明感を失ったのが空気に触れ、酸化した醤油です。

昭和の昔は、醤油はビンかペットボトル入りが当たり前でした。なぜなら、サザエさんちのような大家族が多く、大きなビンで買ってもすぐ使い切ったからです。でも、核家族化、個食化が進んだ現代、でっかい醤油など買ったら何ヶ月いつくことか。そこでヤマサ醤油は「液体は出すけど空気は入れない」容器を開発。「鮮度の一滴」という名で売り出しました。商品は大ヒットし、その後も業界には「酸化しないボトル」が登場します。

いずれも「エコブーム」や「個食化」など、時代の流れを考え容器を変えた、というわけです。

ふりかけ「ゆかり」が新たな容器で新市場を開拓!?

また、容器を使いやすく変え大ヒットした例もあります。

たとえばコンドーム。最近はカップ型になっていて、取り出したときにどっちが表でどっちが裏かがわかりやすくなっています。

さらには納豆のタレ。ミツカングループの『金のつぶパキッ!とたれとろっ豆』は、納豆の容器のフタにタレが封入してあります。納豆のフタをとって、パキッと真ん中で割って、あとはかき混ぜるだけ。糸を引くビニールフィルムもなければ、開け損なうと中身が飛び散る袋入りのタレもなくなって、販売数はなんと3倍に伸びた、といいます。

また森永乳業の『森永ビヒダスヨーグルト4ポットシリーズ』は、ヨーグルトがつきにくいフタを開発しています。蓮の葉の上を水滴がコロコロっと転がる映像、ご覧になったことはないですか? 同社は他メーカーとともに、この構造を研究。お客さんからもらっていた「フタについたヨーグルトをとるのが面倒」「捨てるときフタを洗うのが面倒」といった声に、見事、答えました。

そんな中、最後に紹介したい例は、赤しそふりかけの「ゆかり」(三島食品)です。

皆さんご存じの定番商品ですが、これをペン型の容器に入れたところ商品は大ヒット! 元々は「焼酎にも『ゆかり』をかける」という社長が「持ち歩きに便利だから」と使い始めた容器だったとか。しかし、お酒を飲みに行ったときに取り出し、サッと振りかけると、周囲の女性が「なにそれ!?」と大ウケしたそう。社長さんがどんな店で飲んでいたかはさておき「これはいける!」と商品化したのだそうです。

すると、これがネットで大ヒット。「ペン型だとキャラ弁をつくるときに使いやすい」といった新たな使い方もあって「つくるとあっという間に売れる」状態とか。

この商品のすごいところは、容器の形を根本から変えてしまったこと。あくまでネットで「ネタ商品」として盛り上がっている状況ですが、この商品は「定番商品も、容器を変えれば新たな使用シーンを訴求できる」という事実を示しています。

今後もし、コンビニやスーパーで「あれ? 入れ物変わった?」と思う商品を見たら、上記のような視点で「なぜ変えたのだろう……」と考えてみると、スッキリするかもしれませんね!

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。