なんで企業は「世のため人のため」的なことを言いだすのか

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第3回

なんで企業は「世のため人のため」的なことを言いだすのか

2017.02.17

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

経営の神様といわれる松下電器(パナソニック)の創業者・松下幸之助氏の言葉を前にすると、背筋が伸びる思いになりますね

CMを見ると、よく企業のスローガンも目にします。アサヒグループホールディングスは「その感動を、わかちあう。」同社はこの言葉を「コーポレートブランドステートメント」と定めているようです。パナソニックは、ブランドスローガンが「A Better Life, A Better World」で、キャンペーンワードが「Wonders! by Panasonic」。コスモ石油は「ココロも満タンに」と「ずっと地球で暮らそう。」と2つの言葉をスローガンにしています。

企業により呼び方は様々ですが、多くの企業は社外向けに「我々はこんなことを実現する会社ですよ!」と伝えるスローガンを持っているわけです。

また、社内向けのスローガンを目にすることもあります。こちらも「経営理念」「企業理念」など呼びかたは様々ですが、共通点をあげるなら……いずれも高邁です。

アサヒグループの経営理念は「最高の品質と心のこもった行動を通じて、お客様の満足を追求し、世界の人々の健康で豊かな社会の実現に貢献します。」というもの。さらに「行動理念」も制定されています。アサヒグループの「企業行動指針」を一部引用すると、そこには「環境と安全への配慮」「公正で透明性のある企業倫理」など様々な項目があって、「独創的でスピーディーな企業行動」という項目の中には「時代の変化を先取りし、常に前向きで、スピーディーな企業行動に努めます。」と社員のあるべき姿が記されています。

なんか、きれい事にも思えます。まず、具体的じゃない。さらに言えば「それができたら苦労しないよ」とも感じます。

しかし、取材で様々な経営者に会うと、みんな口を揃え、企業理念やスローガンは大事、と言うのです。なんででしょう?

社長さんたちはサッカーの監督に近い!?

簡単に言えば、経営理念は、国で言えば「憲法」にあたるものなのです。

経営はサッカーに近い、と言われます。野球であれば1球ごとに、次はバントだ、ヒットエンドランだ、と監督が選手に指示を出せますが、サッカーは監督が選手に「ここへパスを出せ」と指示を出せません。同様に、企業活動のほとんどの場面で、社員は経営幹部の指示を仰ぐのでなく、自分自身で「こうする」「これはやめる」と判断していくことになります。

だから「当社は何を目指す」と明確にわかっていなければ、現場は正確な判断ができません。サッカーに例えれば……同点で後半ロスタイムを迎え、フォワードは「勝ちを狙って攻める」と考え、ディフェンダーは「引き分けでいい、守る」と思っていたとします。これではチームが機能しません。ディフェンダーが引き分け狙いで時間稼ぎを始めたら、フォワードはさぞイライラするでしょう。

そして、企業の理念を社員に浸透させていくことこそが、経営者の腕の見せ所なのです。ではどうすれば、高邁な経営理念やスローガンを全社員に浸透させられるのでしょうか?

西武、東急、サントリー スローガンの意味は?

例を挙げましょう。例えば西武鉄道は、社外に向け「でかける人を、ほほえむ人へ。」というスローガンを掲げています。でも、そう言えば部下も動くほど、組織は簡単なものではありません。経営陣は「スマイル&スマイル室」という部署を設立しました。この部署の社員には「西武線沿線をより多くのお客さまの笑顔で満たす」、その実現に向け「前例にとらわれることなく、斬新な仕掛けを考える」という使命が与えられました。

その後、実際に「スマイル&スマイル室」の社員は今までなかった企画列車を走らせようとします。例えば、電車の中で生ビールが飲め、どこに着くかはわからない「ミステリービアトレイン」。生ビールを電車の中で出すのは、保健所の指導に従う必要もあり、かなりハードルが高いのです。でも西武鉄道・若林久社長の答えは「安全を犠牲にしないなら、どんどんチャレンジしよう!」でした。

同時に若林社長は“乗客を笑顔にする試み”をした社員をとにかく誉めたと言います。例えば、社長がミステリービアトレインの盛り上がりを視察したときです。参加者が記念撮影しているところを駅員が見つけ、記念に制帽を貸してあげました。乗客は大喜び、社長はこの姿を見て「素晴らしい!」と誉めました。するとほかの社員も安心して「そうか、こういったサービスをすべきなのか!」と考えるようになり、次第に「でかける人を、ほほえむ人へ。」というスローガンが浸透していくわけです。

ちょっと高邁すぎて、意識が高いスローガン。でもよく練られているのです。例えばサントリーの「水と生きる」。あまり知られていませんが、同社は千利休も認めた山崎の水など、日本の名水を使う権利を持っていたりします。「うちは水からこだわっているのですよ」という矜持が見えてきます。

ほかには、東急グループの「美しい時代へ」。平成以降、世の中は物質的に豊かになり、人は「何がほしいか」でなく「どう生きるか」を考えるようになりました。価値観が多様化したのです。しかし誰もが「美しさ」は求め続けるはず。一方、東急グループは百貨店、不動産、スポーツジム、学童保育など様々な企業を持っています。そこで、これらグループ企業の活動を通し、皆が「美しさ」を追求する応援をしよう! といった意味が込められています。

就活のときや、ほかの企業を訪ねるとき、スローガンや企業理念の意味を調べていくと、先方に喜んでもらえるかもしれませんね。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。