なんで「ガリガリ君」や「一平ちゃん」は妙な味を出してくるのか

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第1回

なんで「ガリガリ君」や「一平ちゃん」は妙な味を出してくるのか

2017.01.16

いま、世の中を「ご乱心の味」とでも呼ぶべき商品が賑わしています。記憶に新しいところでは、カップ焼そば「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」のショートケーキ味。対抗するかのように「ペヤング」からは「チョコレートやきそばギリ」が発売されます。

バレンタイン向けに、1月18日に発売された特別版「明星 一平ちゃん夜店の焼そば チョコソース」。ウスターソースとチョコソースが混ざった特製ソースやふりかけなどをかけると、甘ったるい香りが広がり、食べると未知なる味に……

アイスなら「ガリガリ君」の「コーンポタージュ」味や「ナポリタン」味、懐かしいところではキューリ味のコーラ「ペプシアイスキューカンバー」や「生茶 ザ・スパークリング」なんてのも。ちなみに「一平ちゃん」のショートケーキ味は、ネットで「キリストもブチ切れるレベル!!」「飲み込めないほどマズい!」と大好評。Twitterの検索ワード上位に進出する勢いでした。

では、企業はなぜ、こんな「ご乱心」をするのか、してしまうのか!? 先ほど、筆者はネットの「マズい!」という評価を「大好評」と書きました。実を言うとこれら商品には充分、出す意味があるのです。

「ご乱心の味」はコンビニ側も求めている!?

定番商品は常に「飽きられる」こととの戦いを強いられています。もし消費者に飽きられ売上が落ちると、コンビニやスーパーの棚にスペースがもらえなくなるのです(これを「棚落ち」とも言います)。特にコンビニには「この棚に商品を置いている限りは、1日あたりこれくらいの利益は出すこと」といった基準があります。しかも、一度棚落ちしてしまうと消費者に忘れられてしまい、復活はさらに難しくなります。

そこでメーカーは、常に商品をリニューアルし、消費者に「あのブランドは面白い」と認識してもらう必要があるのです。これはコンビニ等の小売り業者にとっても有り難い話。いま、消費者はコンビニに「必要なモノを買いに行く」のでなく「エンターテインメント」も求めています。筆者の私も、正直、仕事の休憩時間などに「何か面白いモノないかな?」とコンビニに行きます。そんな思いに応えられる「え! 何これ!」という商品は、小売り業者も求めているのです。

人気YouTuberの動画に「PR」とついているわけ

しかも「ご乱心の味」はSNSで拡散していきます。あなたもこの類を食べたら、SNSに写真や感想をあげたくなりませんか? ショートケーキ味の一平ちゃんは、Twitterでも「おみやげにもらって、感想を聞かせてほしいと言われた……」など阿鼻叫喚の様相。しかしこれが、ブランドの宣伝になっているのです。もたらされるのは「メジャー感」。今までガリガリ君やペヤングを食べたことがなかった人や、その存在を忘れていた人も「なんか人気らしいな」「じゃあ、普通のソーダ味なら食べてみるか」となって、利益の柱である定番商品の売り上げが伸びるのです。

その根底には「いま、広告のありかたが様変わりしている」という現実があります。以前、広告と言えば「メディアにお金を払ってメッセージを“伝える”もの」でした。ゴールデン番組でドーンと全国テレビCMを行えば知名度アップが期待できたのです。

しかし、ネットではそうはいきません。ネット上での広告は「我々消費者に面白がってもらい、人づてで“伝わる”もの」。理由は単純です。テレビのように情報をぶっ込むわけにいかず、ユーザーに興味を持ってもらい、リンクをクリックしてもらわなければ見てもらえないから。だから企業は人気YouTuberにお願いし、自社商品のPRになる動画をつくってもらったり、Twitterで笑わせにかかってフォローしてもらったりしているのです。

「マイクロトレンド」が広告の新たなキーワード

しかも、SNSには「面白い情報は拡散していく」という特性があります。

たとえばSNSが一気にメジャー化した2010年、ユニリーバ・ジャパンの男性化粧品ブランド「AXE(アックス)」はボディソープを興味深い広告手法で売り出しました。「新宿駅前風呂場」なるものをつくり、グラビアアイドルが体にAXEのロゴをつけ公開入浴する、といった仕掛けを始めたのです。このネタは、世の男性の「バカバカしいこと大好き」というヤンチャ心や「しょうがないから全力で釣られてやる」といったユーモア心をくすぐり「Twitterで申し込むとサンプルがもらえる」的なイベントもあいまって大成功をおさめました。

そう、現在は「マイクロトレンド」の時代。

たとえばダウンタウンやジャイアンツのようなメジャーな存在がメディアを席巻するのでなく、「マイクロ」=「個人」が情報源になり、SNS上での「トレンド」が形成される時代なのです。先のボディソープの例でも「湘南海岸風呂場」だったら「わりと当たり前」で、これほどウケなかったでしょう。だから食品の企業も「ご乱心の味」を出すのです。だって、SNS等で話題になれば「広告換算すれば安いもの」ですから。

その証拠に「ご乱心の味」は、低価格帯のアイスやカップ麺や飲料など、若者向けの商品に多くないですか? これは「SNSを使っているのはおもに若者」だから。実を言うと「ご乱心」に見え、非常に高度な広告戦略だったんですね。

ただし、企業側にすれば「マズい」はやはり痛手。企業にとって一番うれしいのは「SNSで話題になり、商品も在庫は捌けた」状況のはず。たとえばカップヌードルの「ミルクシーフードヌードル」は、ちゃんと在庫を捌き、しかも期間限定で幾度か出すなど、マーケティング面だけでなく売り上げ面でも大成功しています。

いずれにせよ、そんな企業発のエンターテインメント、あなたは乗りますか? ちなみに筆者はこのたぐい、全力で釣られるように心がけています。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書に「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu