ロマンか投資か? ソフトバンクが変形ロボに取り組む理由

ロマンか投資か? ソフトバンクが変形ロボに取り組む理由

2018.05.02

自動車から人型のロボットへ変形する、まるでアニメのようなロボットが発表された。この開発には、ソフトバンクグループのアスラテックが関わっている。現時点ではロマン以外にこれといった実用性を見出せない変形ロボットだが、なぜアスラテックはこうした活動にもリソースを投じているのだろうか。

子供のころの夢を叶えた「変形ロボ」

ジェイダイト・ライド有限責任事業組合を構成するソフトバンクグループのアスラテック、遊園地などの遊戯機械や舞台装置製造の三精テクノロジーズ、そしてBRAVE ROBOTICSの3社は共同で、乗用人型変形ロボット「J-deite RIDE(ジェイダイト・ライド)」の試作機を発表した。

J-deite RIDEは、自動車型(ビークルモード)から変形して全高約3.7mという大型の人型(ロボットモード)に変形するロボットだ。ものすごく乱暴に言ってしまえば「実物大トランスフォーマー」と言っていいだろう(ちなみに玩具のトランスフォーマーを展開するタカラトミーもこの「J-deite」プロジェクトをトランスフォーマー公式プロジェクトとしてに認定している)。

実際、J-deiteプロジェクト自体が、設計と開発を担当するBRAVE ROBOTICSの石田賢司社長が子供の頃に見たアニメなどから育んだ「ロボットは変形して合体して空を飛ぶもの」というこだわりから生まれたものだという。まさに子供の夢をかなえたプロジェクトなのだ。

ビークルモードではクーペなのだが後部が妙に長めで、ハッチバックというよりはワゴン風にも見える。全幅が約1.9mもあることもあって、前から見た時のインパクトはかなり押しが強い
こちらがロボットモード。ちなみにデザインは「機動戦士ガンダム」など往年のロボットアニメのメカデザインで知られる大河原邦男氏によるもの。写真もいわゆるガワラ立ちを意識してみた

ビークルモードからロボットモード、あるいはその逆の変形にかかる時間は約50秒程度と、オープンカーのリトラクタブルルーフほどではないが、全体が動くことを考えるとかなり高速。ユニークなのは、ビークルモードでは2人が着座できるのだが、搭乗したままの状態で変形し、ロボットモードになっても人が乗ったままで操縦できる点だ。

変形中。ちょっと見えづらいが、首の右側に人の手が見える。中に人がいて手を振っているところだ

ビークルモードではタイヤと電動モーターで、ロボットモードではタイヤまたは両足で歩くことができる。ビークルモードでの最高速度は理論値で60km/h、ロボットモードの最高速度は車輪走行時で30km/h、歩行時で100m/hとなっている。バッテリーは内蔵されており、外部電源なしに最大で3時間の動作が可能だ。ただし現時点では自動車として認可された車両ではないため、基本的に公道を走ることはない。また、歩くと言っても膝を曲げて人間のように歩くのではなく、体全体を傾けてから片方の足を少し上げて前に出す、という玩具のような歩き方になる。

なお、試作機の設計と開発はBRAVE ROBOTICSが、制御ソフトウェアをアスラテックが、それぞれ担当している。また三精テクノロジーズはロボットの変形テクノロジーを活用し、アミューズメントパーク向けの変形ロボット型遊戯機械を開発していくという。

実用性は? 商業として成り立つのか

ロボットアニメ世代(筆者もその一員だが)には非常に「刺さる」プロジェクトではあるが、まだまだ「人が乗って変形できる」という最初の段階をクリアしたばかりであり、日本に新たな電動自動車メーカーが増えたというわけではない。現段階では、実用性という意味ではほぼゼロに近い。そのためか発表会の後に開催された質疑応答では、実用性のない「高価なおもちゃ」という批判があるのでは、といった意地の悪い質問も飛び出たほどだ。

右から、設計・開発担当のBRAVE ROBOTICS・石田賢司社長、制御担当のアスラテック・吉崎航チーフロボットクリエイター、三精テクノロジーズの大志万公博代表取締役副社長

ただ、前述したようにJ-deite RIDEで得られた変形メカニズムなどは三精テクノロジーズがアミューズメント機器に流用するとしており、技術的な側面からは実用化の目処は立っているわけだ。では、制御ソフトウェアのほうはどうだろうか。実際に「車から人型に変形するロボットの制御」というのは、他に流用が利くものなのだろうか。仮にアミューズメント機械に流用できるとしても、台数がそれほど多く出るとは考えにくい。

そんな、素人考えでは採算の取りにくい事業へ参加している理由を、アスラテックの吉崎航チーフロボットクリエイターに伺ったところ、基本的には将来の開発へ向けて経験値を高めているという段階であり、現時点で採算をどうこういうレベルではないとした上で、J-deite RIDEの制御ソフト「V-Sido OS」は、2014年に先行して開発された、全高1.3mの「J-deite Quarter」と同じ制御系を採用しており、たとえばテスト機として小型機を作り、大型化する際にどのように応用するかについて、重要な知見が得られたという。

同社の「V-Sido OS」は小さいものではホビーロボットから、ペッパー、クラタスといった人間大〜超大型サイズの二足歩行ロボットまで、さまざまなサイズの機体を制御してきた蓄積がある。J-deite RIDEについても、全身のセンサー類からのデータをモニタリングしているとのことで、今回のプロジェクトでは、将来の開発において小型機を先に作り、それを大型化したロボットを制御する際のノウハウを得られたわけだ。

また、自動車と人型での変形というのはあまり実用的ではないように感じられるが、変形機構自体は、たとえば何らかの工作ロボットがトラックに乗るように四角く変形するといった、コンパクト化に高価的な機構の開発や制御に応用が利くかもしれない。そもそも将来は「移動・運搬用のロボット」と「それに合体して作業する個別のロボット」というような分業も十分考えられるわけで、変形・合体をアニメっぽい、おもちゃっぽいとバカにする理由はないのだ。

J-deiteプロジェクトは、将来ロボット史をひも解いたとき、実は案外重要な位置付けにおかれることになる可能性もある。一見採算性のない事業にソフトバンクグループが投資しているというのも、案外こういった将来を見据えた先行投資なのかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○清水和夫の自動運転ソシオロジー
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
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○阿久津良和のITビジネス超前線
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○山下洋一のfilm@11
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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu