マツダのクルマづくりが変わる? 鍵を握る“ラージ”と“スモール”

マツダのクルマづくりが変わる? 鍵を握る“ラージ”と“スモール”

2018.05.07

マツダの昨今のクルマづくりといえば、「一括企画」「コモンアーキテクチャー」「魂動デザイン」といった言葉で語られてきたが、これからは新たに「ラージ」と「スモール」という概念が追加となるようだ。今後、マツダのクルマは変わるのか。

新世代商品群で採用した高効率なクルマづくり

2017年度に販売台数165万台を達成したマツダ。決算会見に登壇した小飼雅道社長は、マツダが今後、200万台体制を目指していくとの方針を明言した。この規模拡大を実現するため、次世代商品群(2018年度中に発売)の新車開発では2つのアーキテクチャーを柱にするという。

2017年度の決算会見に登壇したマツダの小飼雅道社長は、マツダが次世代商品群を「ラージ」と「スモール」という2つのアーキテクチャーに分離することを明らかにした

2012年の「CX-5」から始まった新世代商品群でマツダは、一括企画のもと、コモンアーキテクチャー構想による効率の高い開発と商品化を行ってきた。

一括企画とは、数年先までの商品で求めるべき価値を事前に見極め、その上で新たに投入予定の機能や装備を全ての車種に展開できるよう、あらかじめ想定しながら新車開発を進める手法である。

これにより、先に売り出した車種に対しても、後に発売した車種で採用する新装備をマイナーチェンジ(マツダでは商品改良という言い方をする)の際に織り込み、マツダ車の全てで共通した商品価値を持たせられるようにした。例えば安全装備については、車種の上下を問わず、また発売時期の前後を問わず、常にマツダ車には同様の安全対策が施されているようにする、といった具合だ。

2017年12月に商品改良を受けて発売となった「デミオ」(画像)は安全装備が充実した

6年で40万台の成長を実現したマツダ

コモンアーキテクチャーとは、共通プラットフォームとは異なり、部品の共用ではなく、性能を共通にしていくという考え方だ。例えば排気量の大小を問わず、エンジンの燃焼向上を同じように実現するため、燃焼室の考え方を共通化する一方、採用する部品の取捨選択は排気量に応じ、個別に行うといったような設計戦略である。同じターボエンジンでも、排気量の大小によってターボチャージャーの仕様が異なることもあり得るということだ。

こうした考え方によりマツダは、年間販売台数を2011年度の125万台から、6年間で40万台増やすことに成功した。しかし、ここからさらに35万台増の200万台体制を実現するには、若干の軌道修正が必要になったということである。それが、「ラージ」と「スモール」の表現になっている。

巨大な市場で売れる大きなクルマ

「ラージ」と「スモール」を端的に言えば、米国・中国市場向けと、日本を含むそれ以外の市場向けということができるだろう。もちろん、「CX-5」などは重なる車種になるかもしれない。

スモール商品群は「CX-3」や「新型CX」(トヨタとの米国合弁工場で作る新しいクルマ)などを中心に120万台規模、ラージ商品群は「CX-5」を中心に「CX-8」「CX-9」を加えて80万台規模、合わせて200万台規模を目指すとマツダは説明する

世界の自動車メーカーが主力と考える米国は、極端にいえば大きなクルマしか売れない市場だ。その結果、世界の自動車メーカーから発売される新車は年々、車体寸法が大きくなっている。例えばドイツ車のアウディでは、「A4」と「A6」の見分けが単独ではつきにくいほどだ。

車体が大きくなれば取り回しが悪くなり、車庫の出し入れに手間がかかり、日本市場では使いにくくなる。一方、道幅が日本と同じくらい狭い欧州では、路上駐車が当たり前なので、車庫入れに手間取るといった不便はそこまで感じないのかもしれない。

日本で軽自動車の人気が高まり、市場の40%近くを占めるようになったのは、単に税金や高速道路料金が安いといった経済性だけが理由なのではない。現在の軽自動車規格の車体寸法が、1960年代の初代トヨタ「カローラ」や日産「サニー」に近く、国内の道路・交通事情に最適なサイズだからである。経済性重視だけが理由であるなら、200万円近い軽自動車が売れるはずもない。

米・中と国内の二正面作戦に限界か

北米を強化し、同時に中国にも力を注ぐ上で、より大柄な車種開発に力を注がなければならないと考えたとき、国内市場も視野に入れながらのコモンアーキテクチャーでは、なかなか開発が難しいだろう。それは単に、車体の大小だけの問題ではない。大型化によって生ずる重量増に対し、環境性能(燃費)と動力性能をどのように両立していくかという面でも、1つの理想的な構想から目標を達成していくことはチャレンジングであるはずだ。

コモンアーキテクチャーで大小さまざまなクルマを作り分けてきたマツダだが、200万台体制を目指すには2つのアーキテクチャーが必要と判断したのだろうか

一気にクルマの電動化を進め、例えば全車種を電気自動車(EV)にしていくなら、コモンアーキテクチャーでも対応可能かもしれない。だが、マツダは将来的な電動化を視野に入れながら、世界初のHCCI(予混合圧縮着火)技術を実用化し、今年の発売を予定する「SKYACTIV‐X」など、エンジン主体の動力を優先する。したがって、仕向け市場に応じた、すなわち車体の大小に応じた動力のすみ分けも必須となる。

スモールとラージの区別は、プラットフォームを含む車体の大小だけでなく、パワートレーン(動力)の選択においても必要になるだろう。

目指すはプレミアムブランドの仲間入り?

次に考えてみたいのは、125万台規模から165万台へと6年間で成長を遂げたマツダが、なぜ200万台を目指すのかという点だ。それはまさしく、プレミアムブランドとしての地位の確立にあるはずだ。プレミアムブランドになることは、単に高級車メーカーへと脱皮を図ることではない。質の高い個性的なメーカーとしての存在感を高め、高価格帯でのバリュー・フォー・マネーを実現することである。そこに値引きなしの販売という考えも含まれる。

東京・碑文谷にあるマツダの次世代ブランド店舗

日本では、メルセデス・ベンツやBMWなどとトヨタが同列に考えられがちだが、実は販売台数で1,000万台級のトヨタやフォルクスワーゲン(VW)、ルノー・日産・三菱連合に対し、メルセデス・ベンツもBMWも、またアウディも200万台程度の規模でしかない。なおかつ、グループとしてではなく、メルセデス・ベンツやBMWといった個別ブランドで見た場合の販売台数は180万台前後にとどまる。

200万台前後の規模の強みは、クルマづくりの方向性を明確にし、確固たるブランドの姿を強めることができるところにある。メルセデス・ベンツは「最善か無か」という哲学でクルマづくりを行い、BMWは「駆けぬける歓び」、アウディは「技術による先進」だ。また、国内でメルセデス・ベンツやBMWと比べられるスウェーデンのボルボは、わずか60万台という規模でしかない。

日本のメーカーでいえば、マツダやスバルのようなメーカーの方が、ブランドの姿を1つの方向に定めやすいといえる。

日本でいえばマツダは、ブランドとしての統一感を追い求めやすい規模のメーカーといえるだろう

マツダファン以外に高付加価値商品を訴求できるか

BMWが200万台を目指した際、彼らは「ブランドの方向性、“らしさ”を将来的に保つには、それくらいの規模が必要だ」といった。そして、MINIやロールスロイスを含むグループで200万台を達成し、2016年に100周年を迎えた。

マツダは、2020年に創業100周年を迎える。その先の2024年に200万台メーカーを目指そうとすることは、社内的にも節目として理解しやすいだろう。

だが、なぜ200万台を目指すかについて、消費者へ十分な意義が通じてこその数値ではないか。念願の北米にトヨタとともに生産工場を持つことができて、その工場に40万台の生産能力があるといっても、消費者が買ってくれなければ無意味である。

200万台規模となれば、既納客とは別の消費者にもマツダ車を買う意味を感じてもらう必要がある。ただしそれは、良品安価の方向ではない。

アウディの年次記者会見で感じたこと

プレミアムブランドの在り方を考える上で、6年前、アウディの年次記者会見に出席したときのことを振り返ってみたい。決算報告やその年の目標などを発表する場である年次会見だが、アウディは前日に最新のクルマに試乗する機会を設け、その晩には前夜祭を開催。翌日に会見を行った。

試乗会では、高速域からのフルブレーキングや、簡易スラロームコースで操縦安定性を確認する運転体験などが用意され、その場で技術者と懇談することもできた。晩餐会では、ル・マン24時間レースに出場するその年のレーシングマシンが飾られ、出場ドライバーと開発責任者が同席して記者の質問に答えた。ホテルと記者会見場の往復には広報車を借りられた。

「技術による先進」をスローガンにするアウディが、最新の市販車の性能を実体験させ、将来技術が盛り込まれたレーシングカーを記者に見せたことは、翌日の決算報告とその先へ向けた経営指針に現実味を与えた。

アウディは年次記者会見の出席者に対し、自らの商品、技術を存分に見せつけた(画像は2018年2月の日本自動車輸入組合試乗会で撮影したアウディ「R8 Spyder」)

当時、対前年比19パーセント以上の伸びを示したアウディも、当時の年間販売台数はわずか130万台であり、今日のマツダより少ない。

マツダはブランドメッセージの浸透に注力すべき

マツダが6年後の2024年に200万台を目指すということは、メルセデス・ベンツやBMW、アウディと規模で並ぶメーカーになることを意味する。だとすれば、それらと競合してなお、マツダを消費者に選んでもらえる価値、ブランド力を持っている必要があるのではないだろうか。いや、今日ですら、マツダは4~5年前のドイツプレミアムブランド各社の販売台数に達しているのである。

そのために、マツダの企業メッセージである「Zoom-Zoom」や「Be a Driver」を実感できる催しが、たとえ経済媒体に対してでも、決算発表会に合わせて行うべきだったのではないだろうか。もっといえば、それくらいの広報予算を持たなければ、ドイツ御三家と国内外で競うことは難しいだろう。実際、アウディの年次記者会見に私は日本から招待されたのである。

プレミアムブランドも味わった規模拡大の蹉跌

200万台という数字だけが先行し、それに合わせるようにクルマを投入するようになれば、それも危険だ。なぜなら、ドイツメーカーが200万台を目指すために車種を増やした際、新車の仕上がりが車種によってバラつき、ことに新登場の車種においては、完成度が未熟な面が散見されたからである。同様のことがマツダでも起こる可能性はある。

それでも、ドイツのプレミアムブランド各社が販売台数を落ち込ませずに済んだのは、確固たる企業メッセージに裏付けされたブランド力が市場に浸透していたからだ。そのために長い年月を要している。

ドイツのプレミアムブランドも数を追いつつ完成度の高いクルマを作るのにはてこずった(画像は2018年2月の日本自動車輸入組合試乗会で撮影したBMW「M760Li xDrive」)

働き方改革で、仕事の効率化が求められる昨今だが、ものづくりの領域は試行錯誤の繰り返しであり、失敗も成功のための貴重な経験の下地になる。だが、失敗の修正には時間と手間が必要で、仕事の効率化とは逆の向きにある。かといって、従業員の数を急に増やせるわけでもない。

失敗を減らし、効率よく新車開発を行うにはコンピュータシミュレーションを多用せざるを得ず、結果、性能確認のための実走行試験は開発の後ろの工程へと回される。万一そこで不具合が生じても、後戻りはできない。そして不十分な製品が新車として売り出されることが起こりかねないのである。それでは結局、ブランドの印象を悪化させかねない。

ホンダは規模を追い求めて失敗した。つまり、数を前面に打ち出すことには危険を伴うのだ。マツダが数を主張するのであれば、その反作用にも眼を向けておくべきだろう。

ブランド強化に数字がついてくる姿が理想

アウディは、2011年に「アーバン・フューチャー・イニシアティブ・サミット」を開催し、2030年のクルマの姿を模索し始めた。そして、プレミアムブランドとしてクルマを存続させる方法を今も考え続けている。そのサミットに参加した話を当時、マツダの金井誠太副社長(現会長)に伝えると、「今のマツダでは2020年を考えるのがようやっとだ」との答えであった。だが、200万台体制を目指す今であれば、もう考え始めていなければならないはずだ。

2030年を見据えた技術開発の長期ビジョンでは、内燃機関を磨きこんでいく姿勢を示しているマツダ。この方針とブランド強化がどのように結びつくのかに注目したい(画像はマツダ「CX-5」)

電動化や自動運転と、「Zoom-Zoom」や「Be a Driver」がどう結びつくのか。以前、マツダの藤原清志専務にインタビュー(電動化について自動運転について)した際にヒントが語られたが、それが消費者の腑に落ちるようにする活動が必要ではないだろうか。

2024年に200万台を目指すと表明するより先に、マツダが宣言すべきはブランドを一層強化する商品の方向性であったのかもしれない。結果として、あとから数(販売台数)がついてきたという道を同社には歩んでほしいと願う。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。