経済に陰りをもたらすかもしれない“熱中症”に向けた啓発活動

経済に陰りをもたらすかもしれない“熱中症”に向けた啓発活動

2018.05.09

2017年、2,869万人と過去最高のインバウンド観光客が日本を訪れた。そうした外国人観光客による経済効果も莫大だ。

物品購入費はもちろん、宿泊費、飲食費、交通費などで4兆4,000億円を超えたといわれている。そしてリピート率が高いという特徴もある。訪日外国人観光客の約6割がリピーターなのだそうだ。まずは東京、大阪、京都といった代表的な都市を訪れ、2度目には金沢や広島といった地方を観光することも多い。筆者は取材の関係で昨年、広島県・厳島を訪れたが、7割ほどが外国人ではないかと思ったほどだ。

そして2018年、昨年よりもハイペースでインバンドが訪日している。3,000万人を超すと予測され、さらなる経済効果が期待できる。

ただ、懸念がないわけではない。それは、日本独特の“暑さ”だ。この暑さを知らずに訪日し、熱中症になってしまうということも考えられる。この暑さに辟易し、リピートする意欲を失うばかりか、最悪の場合、熱中症で命を落としかねない。

インバウンドに啓発活動

こうしたインバウンド向けに、熱中症に対する啓発活動を行い始めた一般財団法人がある。日本気象協会だ。そして、啓発活動を告知するため、5月8日にメディア向け発表会が行われた。

左:発表会が行われたホテル椿山荘東京からの眺め。右:啓発活動のロゴマーク

日本気象協会は、天気予測や気象情報を提供するところというイメージを持つ方が多いだろう。だが、熱中症対策にも熱心だ。すでにこの取り組みは今夏で6回目となる。そして、今年は増え続けるインバンド向けに啓発活動を始めた。なお、この啓発活動には「熱中症ゼロへ」というタイトルがつけられている。このタイトルには、“熱中症による死者をゼロにする”という意味が込められている。

日本気象協会 常務理事 事業本部長 古市信道氏

発表会の冒頭では、日本気象協会 常務理事 事業本部長 古市信道氏が挨拶に立った。古市氏は「ハーモナビリティ」というキャッチを披露したが、その意味は「自然と調和した社会」の実現を目指すということらしい。さらに「自然を人間がコントロールすることはできない。緩和策と適用策が必要だ」とした。緩和策は温室効果ガスを削減を進め、温暖化を抑えること、適応策は「高温障害対策」「熱中症予防」「洪水危機管理」といった施策を社会全体の取り組みとして実施することだという。

「2月に気候変動適用法案が閣議決定された。国民、企業、官公庁が一体となって熱中症対策に取り組み、日本気象協会も気象情報を核に予防に関わっていきたい」(古市氏)と話す。

周囲が海・太平洋高気圧・ヒートアイランドの複合

続いて、日本気象協会 気象予報士 石榑亜紀子氏が登壇。日本の夏の暑さについて解説した。「日本は四方を海で囲まれており、湿気が高い。その湿気と気温により、暑さを感じやすくなる。また、これからの季節、南方の熱気を含んだ太平洋高気圧が張り出してくる。その影響も大きい。さらに、都市部ではヒートアイランド現象が生じやすい」と話した。

石榑氏によると、コンクリートやアスファルトは、熱を持つのに時間がかかるが、冷えるのにも時間がかかる。つまり、日が落ちても暑さが収まりにくいということだろう。また、今年の夏は例年よりも暑いと予測され、7月は特に厳しくなりそうだと結んだ。

左:日本気象協会 事業本部 メディア・コンシューマ事業部 メディア事業課 石榑亜紀子氏。右:同 コンシューマ事業課 コンテンツグループ 曽根美幸氏

そして、日本気象協会で「熱中症ゼロへ」プロジェクトを率いる曽根美幸氏が、具体的な施策について解説した。それによると「1:熱中症とは何か知る」→「2:今いる環境が熱中症になりやすいか気づく」→「3:熱中症予防のための正しいアクション」をいかに知ってもらうかが大切だという。

椿山荘の庭園で和傘を披露する外国人モデル。右の方はウガンダ出身だが、日本の夏の方が圧倒的に暑いそうだ

さらに外国人観光客向けには、観光案内所で熱中症対策のリーフレットを配布したり、直感的にわかりやすいピクトグラムを掲示したりで、熱中症対策の啓発を行うという。ユニークなところでは、ホテル椿山荘東京や目白庭園といった、インバウンドに人気の施設・スポットで和傘をレンタル。強い日差しを避けてもらおうという試みも計画している。

こうした啓発活動に賛同する企業・団体も増えている。

たとえば日本コカ・コーラ「アクエリアス」、森永製菓「ICEBOX」および「森永甘酒」、石垣食品「フジミネラル麦茶」、エフティ資生堂「エージーデオ24」および「シーブリーズ」など、15企業・17商品ブランドがオフィシャルパートナーになっている。

オフィシャルパートナーのロゴが入ったパネルと、商品の一部

また一般財団法人 公園協会、ホテル椿山荘東京、ロフト、公益財団法人 日本テニス協会、公益社団法人 日本ボート協会、公益社団法人 日本ゲートボール連合などが協力事業者になっている。特にスポーツ系の協会による啓発は欠かせない。夏の運動で熱中症にならないよう、広く競技者に知ってもらう必要があるからだ。また43の自治体も協力する。

一方、オフィシャルパートナーはもっと裾野を広げるべきだと思う。現在の17商品ブランドは、どれも熱中症予防に有効な商品ばかり。商品ブランドだけでなく、熱中症予防にさまざまなカタチで関わる企業にもパートナーになってもらうべきだ。

たとえばデベロッパー。森ビルが開発した六本木ヒルズは、毛利庭園や66プラザ・エリアといった緑化した場所を併設している。平成16年に国土交通省がサーモグラフィを使って調査したところ、アスファルト舗装が約45度だったのに対し、毛利庭園エリアでは約30度、つまり15度もの差が生じた。また、六本木ヒルズでは、ミスト散布という施策も採っている。

現在、東京は空前の再開発ラッシュだ。メガオフィスや高層レジデンスは、緑地が併設されることが多い。ヒートアイランド現象の低減に少しでも配慮してほしい。

「熱中症ゼロへ」は長い道のりだが有意義な活動

さて、熱中症による死者数は、数百から多い年では1,000名を超える。これをゼロにする道のりは長い。とにかく啓発活動を行い、熱中症予防の正しい知識を広めるのが先決なのだろう。日本気象協会では6回目の施策になるが、その手応えについて曽根氏にたずねると、「熱中症という言葉が広まり、メディアにも取り上げられることが多くなった」と話す。

余談だが、発表会が行われた5月8日は、3月下旬並みに気温が下がった。例年ならばゴールデンウィーク以降は初夏を思わせる陽気になることが多い。その方が、発表会に参加したメディアも実感がわいただろう。古市氏が冒頭で話した「自然は人間がコントロール」できないという言葉に、確かに……とうなずきながら低い気温のなか、駅まで向かった。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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