auが「ケータイ」の復活をサポートする理由

auが「ケータイ」の復活をサポートする理由

2018.05.14

「亡くなったおばあちゃんの写真が手元になかったので嬉しい」「子供たちの小さい時の写真はケータイばかりだったので」――。KDDIが「ワクワクを提案し続ける会社」を会社のミッションとして掲げる中で、2016年から進めている「おもいでケータイ再起動」というイベントがある。

これまで、名古屋と仙台、福岡のKDDI直営店で開催し、この5月にはグループ会社である沖縄セルラー電話の「au NAHA」で初めて開催した。このイベントは、auユーザーのみならず、NTTドコモ、ソフトバンクユーザーのケータイをもよみがえらせる、思い切った企画として、好評を得ている。

なぜ、KDDIはこのイベントを続けるのか。イベントの価値や、今後の展開について、KDDI コミュニケーション本部 宣伝部 ブランドプロモーショングループ グループリーダーの西原 由哲氏に話を聞いた。

KDDI コミュニケーション本部 宣伝部 ブランドプロモーショングループ グループリーダー 西原 由哲氏

他キャリア製品も"復活"

おもいでケータイ再起動はこれまで、小規模イベントを含めれば750名のケータイ(スマートフォン含む)を"再起動"してきた。古くは2000年頃の携帯から、今の主要携帯キャリア3社だけでなく、ツーカーなど、統廃合された携帯キャリアの端末を含めて持ち込まれている。

盛況だったau NAHAでのおもいでケータイ再起動。沖縄セルラー電話のキャラクター「auシカ」も来場した

持ち込まれた多くのケースは、バッテリーの過放電や充電ケーブルを破棄してしまったことで充電できなくなったというパターンだ。中には、バッテリーが膨らんでしまって使い物にならなくなったり、あるいは一部他キャリア製品については起動するためにSIMが必要だったりと、再起動できないケースもある。

一部回収したケータイは、その場で破断作業が行われる。回収した端末から、レアメタルなどを回収、スマホなどのパーツに再利用される。持ち込まれるケータイは、他キャリア製品も少なくない

ただ、KDDIは電池パックをチェック・充電する専用の機械を用意して、起動できる電圧を確保し、750名の笑顔を呼び起こしてきた。西原氏も「毎回、お客さまの反応が新鮮で、泣いている人や喜んでいる人、こちらとしても良かったなと思える」と話す。

バッテリーチェッカーで、最低限の充電を行う。携帯の端子が壊れてるなどのケースでもバッテリーに直接充電できるため、このイベントでしか復活できない携帯も少なくない

同社は、カスタマー・エクスペリエンス(CX)重視の姿勢を2016年から打ち出しているが、このイベントはまさに「お客さまが諦めていることを解決し、期待を超える体験価値」を生み出すものとして、「ワクワクを提案し続ける会社」を体現するものといえよう。

小さいようで大きい、お客さんの琴線に触れる仕掛けとして、再起動したケータイから写真をその場でプリントする企画を用意した。今回沖縄・那覇で参加したお客さんの一人は、「家ではプリンターを起動しないし、そもそもケータイが起動しないから諦めていた。こうやって写真をもらえて嬉しい」と話す。

このイベントにかかっているのはバッテリーチェッカーなどの器具の一部費用と人件費だけ。逆に言えば、西原氏らが自分たちで手を動かし、まだまだ仕組み化されていないことの裏返しだが、西原氏は「人と人が対面してやるからこそ、私たちが提供する"ワクワク"を感じてもらえるのかなと」と説明する。

「多くのお客さまから、『auユーザーでホントに良かったです』と言われるんです。多分、『こういうことをやってくれる良い会社で良かった』という意味だと思うんですが、これを他社ユーザーでも受け入れることで『ああ、auって温かいんだな』と感じてもらう。CMだけでは感じられない、"auらしさ"を感じとってもらうことが、私たちの存在を意識してもらえる一端になればと思っています」(西原氏)

実際、イベントに参加した人に質問を投げかけると、「前日にニュースで見た」「ラジオを聴いた」というドコモ、ソフトバンクユーザーがおよそ1/3ほどいた。「昔利用していたので、またauに戻ろうと思いました」「奥さんがずっとドコモなのでなかなか難しいですが、私としてはauに戻りたいですね」と、反応は様々だが、お客さんの心に響いたことに違いはない。

今はドコモユーザーという男性。「妻が許せばauに戻りたいと思いました」と話す
親のケータイの暗証番号を必死に探し当てようとする子供たち。この直後、家族みんなで暗証番号を解読した

「私たちのサービスを、他社ユーザーでも、徐々にauへと関心を寄せてもらえるに。そんな環境作りになれたらなと」(西原氏)。今回のイベントでも、5月11日~13日の3日間で100名を超えるユーザーの参加を見込む。累計で1000人の思い出を取り戻す節目が見えてくる段階だが、「まだまだCXの領域は、他部署も含めて模索中」(西原氏)だという。

現状のイベントはそれぞれが単発の"点"に見え、"線"にはなっていない。ただ、「当初から映像や写真を撮影して、思い出が復活した様子を残している。これらの蓄積を、多くの人にアーカイブとして見られるようにしたい。それは、このイベントを線として繋げて見せるだけでなく、ほかのCXの活動にも作用するような、汎用性のある工夫を進めていきたい」と西原氏は言う。

イベント開始当初は、KDDIの広報部として、オウンドメディアのいち企画としてスタートした。これを宣伝部に移管して西原氏らが進めるのは「会社として、このCXをブランド価値にしていくこと。au=CXという価値を、より広く、お客さまに伝え、ブランド化していくことだ」(西原氏)。

この女性は、中学生と高校生になった子供たちの10年前の写真をプリント。とても懐かしい画像のようで、写真を見ながら笑みをこぼしていた

携帯キャリアの存在意義は、「ケータイ」が全盛だった10年前と今で大きく変わりつつある。

どの携帯キャリアでも同じ端末が並び、スマホで使うサービスもSNSや動画、音楽など、携帯キャリアに依存しないものも増えた。さらに言えば、格安スマホと言われるMVNOが徐々に浸透してきたことで、「MNOの存在価値とは何か」をどう伝えるのか、西原氏らは宣伝部として、強く打ち出さなくてはならない状況にあるのだろう。

スマホやスマートホームなど、さまざまなデバイスがあらゆる身の回りに増えていく中で、機械ではなくあえて「人と人の接点を強く打ち出す」というKDDIのカスタマー・エクスペリエンス。この「CX」は、auというブランドが心の内側に入ることで、「ワクワクを提案し続ける会社」というミッションの前提になっているのかもしれない。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。