KDDIがシリコンバレーに作った

KDDIがシリコンバレーに作った"出島"が目指す未来

2018.05.14

「シリコンバレー」という言葉を聞いて、「ITの何かを指す」と理解できる人は少なくないはずだ。GoogleとApple、Facebook、Amazonという日本でも著名な4社を「GAFA」と呼ぶが、Amazon以外の3社は本社をこの地に構え、Amazonも開発拠点をいくつもシリコンバレーに抱えている。

米西海岸にあるカリフォルニア州 サンフランシスコ・ベイエリアの地域全体を指すのが「シリコンバレー」とされている。この地にはかつてのITの雄であるヒューレット・パッカードやゼロックスのパロアルト研究所、それらから派生したインテルなど、ITの源流であるコンピューター、すなわちハードウェアのシリコンをもじって「シリコンバレー」と呼ばれるようになった。

前述のGAFAのうち、Appleを除く3社は収益の多くを広告やサービスといったソフトウェアで稼いでいる。GAFA以外にも、TwitterやUber、Squareといった日本でもサービス展開している企業が多数本社を構えており、次から次へとサービスを生み出す、かつての米西海岸で起きた「ゴールドラッシュ時代」が今もなお続いている土地と言えよう。

日本企業も多数集積

この地には、そうしたITの先端サービスが集積していることから、多くの日本企業も拠点を構えている。JETROの2016年の調査によれば、ベイエリアにおける日系企業は770社で過去最高を更新、サービス産業の中で、情報システム系企業は27.2%が同エリアに進出している(資料はこちら、PDF)。

例えば、ソニーのゲーム部門であるSony Interactive Entertainmentはカリフォルニア州サンマテオを本社所在地としているし、パナソニックも全社横断プロジェクト「Panasonic β」のチームを、同州 クパチーノのAppleの新社屋横に配置している。

同社は、同じくシリコンバレーで米スタートアップに投資する「パナソニック ベンチャーズ」を2017年4月に立ち上げた。パナソニックはそれまでも、1998年から40件以上の投資実績を残していたが、コーポレートベンチャーキャピタルとして新たに独立組織化することで、意思決定の迅速化と、純粋なベンチャーキャピタルとしての判断に近い投資を目指すようだ

そのパナソニックと同じく、コーポレートベンチャーキャピタルを持つのがKDDIだ。

同社は2012年に「KDDI Open Innovation Fund(KOIF)」を設立。当初は運用総額50億円で国内外のIT系ベンチャー企業への投資を行っていたが、ファンド名称の通りに「オープン・イノベーションを加速させる」ため、2014年には2号ファンドを設立して100億円規模にまで拡大した。

そしてこの4月、同ファンドを含むスタートアップ支援などで中心的役割を果たしてきた髙橋誠氏がKDDI 代表取締役社長に昇格。これにあわせ、KOIFも3号ファンドを設立。運用総額はさらに300億円にまで拡大させ、国内外のさまざまな企業と、同社の根幹である通信領域の次世代規格「5G」を見据えた事業共創を目指すという。

この記事では、シリコンバレーで日々生まれるスタートアップを見つけ出すKDDI Investment Teamの傍島 健友氏に、シリコンバレーとKDDIの接点、傍島氏が肌で感じたシリコンバレーの今などを、3回に渡ってお伝えする。

KDDI Investment Teamの傍島 健友氏

シリコンバレーは「日本の2~3年先」

傍島氏は、日々現地のスタートアップと会う中で体感したこととして「誤解を恐れずに言えば、2~3年、シリコンバレーの方が日本よりも先を行っている」と語る。

「過去にはFacebookやGoogleの社員ともKDDIとの連携について話をしましたし、今は、新しい企業とも話をしていて感じるのは、彼らは本当に『スーパー頭がいい』。スタートアップも、3社~4社と会社を何度も起こしているシリアルアントレプレナー(連続起業家)がほとんどで、経験豊富なのです」(傍島氏)

数年先を行くと傍島氏が語るのも無理はない。

例えば、中国のMobikeやofoが先行して注目を集めたシェアサイクルだが、当然シリコンバレーでも米自動車大手のFordや、Limeといったスタートアップがサービスを展開している。日本でも、NTTドコモが千代田区と始めた「ちよくる」を起点にサービスを拡大させたほか、フリマアプリ「メルカリ」が2月より「メルチャリ」をスタートさせて話題となった。

サンフランシスコ市内でも、複数のシェアサイクルサービスが提供されている

同じ枠組みで地元に最適化させたサービスをスタートさせるだけであれば、当然立ち上げの苦労もあるが、ある程度の成功は見込める。一方で今、シリコンバレーで増加しているのが「電動スクーター」のレンタルアプリだ。前述のLimeが「Lime-S」としてサービスをスタートしているし、そもそもLimeは「BIRD」というサービスに対抗して、自転車とは別にLime-Sをスタートさせたようだ。

自転車は、誰もが乗りやすく、ある程度高速で移動できるとはいえ、やや野暮ったく、女性は使いづらい。それであれば、誰もが気軽に、簡単に乗れて、疲れなくて済む電動スクーターでいいのではないか。これは勝手な推測だが、連続起業家が「ニッチな課題を捉え、大きくスケールさせる」という資質を持って、導き出したのがこの新サービスではないだろうか。

電動スクーターは、この地で新しい形態としてスタートした"シェアエコ"

ちなみに、大手を振ってこの新サービスを日本でも、という訳にはいかない。中国のシェアサイクルと同様に、あらゆる道路での乗り捨てが問題になっているほか、電動スクーターのたぐいは、歩道走行や一方通行の逆走が完全に禁じられているにもかかわらず常態化しているなど、現地の日本人の話では「かなりマナーが悪い。スタートアップだからといって何をやってもいいというわけではないと問題になっている」状況だという。

傍島氏は、KOIFによる出資を通して、こうしたシリコンバレーにおける新サービスの日本進出を支援する業務を担う。

「日本ですぐに事業化する、あるいはもう少し先で日本を目指したいというスタートアップを見ています。私が見定めるのは、既存の事業とどうコラボレーションできるかがベースライン。ただ、少し先の新しいものや、一歩先、二歩先を見て、将来役に立つな、というところも含めて、ピースに嵌りそうな先の点を見ています」(傍島氏)

特に傍島氏が重要視するのが「非連続性」。前述のようにハードウェアを必要とするサービスもあれば、GoogleやFacebookのようなWeb上でほとんどのサービスを提供する企業もある。

「ITは、絶えず変わり、非連続な動きが本当に多い。ちょっと想像しただけで見えてくる面白いもの(スタートアップ)を見つけるだけではなく、非連続な目線で、自分たちが何をやっていくのか、そのゴールに向かって一緒にやっていけるスタートアップは何なのかを見据えていくのです」(傍島氏)

状況が絶えず変わるという意味では、実は2015年第4四半期から、米スタートアップ業界での投資額は全体的に「落ち込んでいる」(傍島氏)という状況だ。

これは、GAFAのようなメガベンチャーが若い新たな芽をM&Aで飲み込んだり、2015年より以前にユニコーン企業と呼ばれる非上場のスタートアップが上場した際に、目立った成果を上げられず、伸び悩んでいる状況から投資が減っているのだと筆者は考える。日本でも有名なTwitterが良い例で、2013年の上場時には初値で45.10ドルを記録したが、その後も赤字が常態化しているため、現在は32.02ドルにとどまっている。

(左から)Google、Facebook、Appleの本社(一帯)。ベイエリアと呼ばれる地域に、いくつものビルを構え、シリコンバレーの中核をなす

ただし、これは表面上の話と傍島氏。「よく見てみると、"良いスタートアップ"にはちゃんとお金が入っているのです。それまでは、バブル的に駄目なスタートアップにもそれなりにお金が入っていたが、これが入らなくなった。そういう意味では、実はあまり"変わらない"というのが実情」(傍島氏)。

一方で「私たちは純粋な投資ファンドではないので、そもそもマーケット全体よりも『日本で一緒にビジネスを』が主観。少しぐらい額が減ったところでマーケットの層は厚く、ミッションのためにスタートアップを見つけるという目的は変わらない」と、傍島氏はにこやかに話す。

ワクワクを提案し続ける"出島"の役割

傍島氏のミッションは、投資して、日本進出を支援し、KDDIの、auのお客さまに最新のサービスを使ってもらうこと。4月に新社長に就任した髙橋氏は、会社のスローガンを「ライフデザイン企業への変革」から「ワクワクを提案し続ける会社」へと再定義した

「ワクワクは、私自身がサンフランシスコで山ほど感じていることです(笑)。例えば、4年前に出資したOssiaという会社は、10m以内、部屋の中のさまざまな機器に無線で、ワイヤレスで充電できるのです。楽しいと思いませんか(笑)。もちろん、これは一端で、それが成功するかどうかはまた別の話です。そこにある技術を、どのように捉えて形にするかが私たちの仕事。シリコンバレーは良い素材がたくさんある。ですが、それを活かすも殺すも料理人(日本企業)次第。どうやって料理していくか、とても難しいですが、ワクワクというキーワードで面白いものをしっかり考えていきたいです」(傍島氏)

傍島氏がそう言って、もう一つ話してくれた"ワクワク"は「Halo Neuroscience」。KOIFによる最新の投資先で、ヘッドホンを頭に装着すると、神経科学に基づいて脳の運動野をヘッドホン内側の突起で刺激。一種の興奮状態を作り出すことで、スポーツのトレーニング効率を上げるという。

「通信キャリアがなぜ脳科学なのか?」とも思うが、通信インフラを提供する企業という安心感と、幅広いお客さま(企業・個人)との接点を持つという側面などから出資に至ったという。「当然、日本国内で大きく販売していくにはさまざまなハードルがありますが、その課題をしっかりクリアするのも私たちの役割。お客さまのライフデザインをどう支え、ワクワクを提案し続けられるのか、考えていきます」(傍島氏)。

企業も個人も、スマートフォンを中心とするエコシステムの中に組み込まれつつある。ひいては、アナログな存在もデジタルデータへと変えられ、あらゆる情報が手元のディスプレイの中にあることが当然の世界となっていくだろう。通信会社という、普段から意識するようであまり意識することのないauという存在を、どう身近に感じてもらい、どうユーザーに"お役立ち"していくのか。

江戸時代に長年続いた鎖国政策で、西洋の数少ない情報を多く取り込んだ長崎・出島のように、現代の最先端を行くサンフランシスコの地で、傍島氏らのチームが果たす"出島"の役割は大きいのかもしれない。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。