狙い通り売れる? 続々と登場の“若き成功者”向けコンパクトSUV

狙い通り売れる? 続々と登場の“若き成功者”向けコンパクトSUV

2018.05.16

プレミアムでコンパクトなクロスオーバーSUVは増える一方だ。直近でもボルボ「XC40」、BMW「X2」、ジャガー「E-PACE」といった具合で新顔が日本に登場しており、選択肢の充実ぶりが際立っている。ここで疑問に感じるのは、これらのクルマが一様に全く同じ人、つまり“若き成功者”をターゲット顧客に据えているように見えるところ。これではシェアの奪い合いになりそうだし、そもそも若い成功者がそんなにたくさんいるものなのかも気になる。

クロスオーバーSUVのブームに端を発する昨今の状況

いまのクロスオーバーSUVのブームは2000年あたりから、米国を中心に始まった。

もともと、オフロードでの走破性が高いSUVは、トラックと同じ「ラダーフレーム構造」だったが、1990年代にトヨタ自動車「RAV4」やホンダ「CR-V」が乗用車と同じ「モノコック構造」のSUVをリリース。オフロード性能は少し落ちるかもしれないが、オンロードでの乗り心地や安定性が高いモノコック構造のSUVは、一般ユーザーに評判が良く、それぞれ想定以上のスマッシュヒットとなった。

トヨタがクロスオーバーSUVのパイオニアと紹介する「RAV4」は近く、5代目(画像)へとフルモデルチェンジする。米国では2018年末頃、日本では2019年春頃に発売の予定だ(画像提供:トヨタ自動車)

その後、乗用車とSUVのいいとこどりをしたクロスオーバーに、さらに高級という概念をくわえて登場したトヨタ「ハリアー」は、SUVなのに高級ホテルのエントランスに乗りつけても様になるのが新鮮だった。

そうやって泥くささを払拭し、都会的なイメージを身につけたクロスオーバーSUVの火がチラホラと見え始めていたところに、油を注ぐかたちとなったのが2000年登場のBMW「X5」。新しいモノに敏感なお金持ちがこぞって飛びつき、一気にブームに火がついたのだ。以降、様々なフォロワーが出現したが、単なる流行モノではなく、一大ジャンルになることを決定付けたのはポルシェ「カイエン」だろう。

2017年10月の東京モーターショーに展示された新型「カイエン」

ミレニアル世代がメインターゲット

最初は比較的、大きなサイズのプレミアム・カーから普及していったが、時とともにあらゆるジャンルに波及してきた。最近ではプレミアム・ブランドを超えたハイ・ブランド、その逆の大衆ブランドでもサイズにかかわらずクロスオーバーSUVのラインアップを取りそろえており、一過性のブームではなく、完全に乗用車のメインストリームになってきている。

そんな中、いま最も盛り上がっているのが、プレミアム・ブランドのコンパクトサイズ。いわゆるCセグメント(フォルクスワーゲン「ゴルフ」を代表とする大きさのクラス)のクロスオーバーSUVが続々と登場しているのだ。直近ではBMW「X2」にボルボ「XC40」、ジャガー「E-PACE」といった新規車種がそろって日本市場に上陸してきた。

CセグメントのSUVが充実してきている(画像はジャガー「E-PACE」)

高級感があって都市部で使いやすいサイズのモデル達は、道路や駐車場の事情にあまり恵まれていない日本では持てはやされることだろう。サイズ以外にも共通点はあるのだが、それはメインとするターゲット・カスタマーが「ミレニアル世代」だということだ。そこでマイナビニュース編集部から上がった疑問が「そんなにたくさん車種が、同じ客層をターゲットとしてそれぞれ売れていくものなのか? 若い世代でプレミアム・ブランドを買えるようなお金持ちが日本にそんなにいるのか?」ということ。なるほど、それは他人事ながら心配ではある。

ユーザーの高齢化に悩む自動車メーカー

ミレニアル世代とは、1980~1990年代に生まれ、2000年代に成人する人たちを指す、主に米国で使われているマーケティング用語で、たしかにプレミアム・ブランドの自動車でも最近は頻繁に使われている。少し前までは「ジェネレーションY」の方がよく耳にしたものだが、そう大きく世代に違いがあるわけではないようだ。

ミレニアル世代はデジタルネイティブであるとともに、リーマンショックで景気が悪いときに育っているなどの特徴があり、消費行動が変わってきているのでマーケティングの世界では大いに研究がなされている。ウインドーショッピングなんて面倒なことはせず、オンラインで買えるならそのまま買い、店頭にいくにしてもネットで調べてシビアに売価を見極め、一目散に決めた店に行くだけ。それ以上に賢いシェアリング・エコノミーへも移行しつつある。それは売る側にとっては脅威でもあるだろう。

米国や欧州、それに日本といった自動車成熟国の自動車メーカーは、常にユーザーの高齢化という課題を抱えている。日本でもだいぶ前から若者のクルマ離れが叫ばれており、トヨタ「クラウン」などは最たるモデル。平均ユーザーは60代超えで、次の次あたりのモデルチェンジでは免許返納の年齢に達してしまうのではないかと戦々恐々としているとも聞く。

2018年のフルモデルチェンジを予定するトヨタ「クラウン」でもユーザーは高齢化している(画像は2017年10月の東京モーターショーに展示された「クラウン コンセプト」)

近年ではメルセデス・ベンツが、ユーザーの高齢化に対応するため、コンサバだったイメージから大変革を図った。攻めのデザインにスポーティな走り、それにコンパクトカーのラインアップを充実させて見事に販売台数を増やした。

ユーザーの年齢層を下げることにも成功しているが、それ以上に、従来の高齢なユーザーにもウケがいいのがポイントでもある。今どきの50代、60代は身体が元気なだけではなく気持ちも若く、若者と同じ感覚のモノを求めているのだ。だから、ミレニアル世代がターゲットとは言いつつも、本当のヤングだけではなく「ヤング・アット・ハート」な人たち全般が対象なわけで、Cセグのプレミアム・コンパクトSUV達もそういった売れ方をしていくだろう。

ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は、「XC40」(画像)でターゲットとする顧客を「ヤング・アット・ハート」な人たちと表現していた

ミレニアル世代に直撃するクルマはあるのか

だいたいにして、ミレニアル世代のハートを鷲づかみにするようなクルマは、まだ現れていないような気がする。デジタルネイティブを意識してコネクテッドなどにも力を入れてはいるが、劇的に何かが変わるほどのインパクトはない。渋滞情報とリンクしたカーナビが賢いとか、周辺の美味しいレストランを案内してくれるなどは、以前からある機能の延長線上。せいぜい新しいのが、同乗者に喜ばれる“クルマのWi-Fiスポット化”あたりだが、日本はSIMの料金が高いので一部に限られる。それだったら、手持ちのスマホやタブレットをきっちり装着できるホルダーが付いているぐらいでもいいのでは? と思ってしまう。

フォルクスワーゲンが「ID BUZZ」のコンセプトカーで見せていたように、「ポケモンGO」的にARを活用し、フロントウインドーの現実風景に矢印などを映しこんだカーナビ機能、あるいはAIロボティクスぐらいまで行くと、ガラリと話が変わってくるだろう。

ただ、ライドシェアの成長をみれば、クルマを買うということ自体が廃れることもありえる。日本では規制があって、まだ守られてはいるが。

競合ひしめくコンパクトSUV市場

「日本に若者の成功者がそんなにいるのか?」という疑問に関しては、絶対的に自信のある答えは持っていない。アベノミクスが始まってから、金融緩和と財政出動が上手く機能していた2013年は、想定以上のペースでデフレ脱却方向にいったが、翌年の消費税増税がこれまた想定以上で逆に冷や水を浴びせかけることになり、個人消費が落ち込んだ。その後、財政は緊縮気味ではあるものの、景気はなんとか持ち直しの傾向で、雇用統計や給与総額などではかなりいい数値が出てきている。これで2019年の消費増税がなければ、デフレからの好ましい脱却も夢ではないというのが全体の傾向だ。

成功者となると、日本はベンチャーに優しくないのが現状なので生まれにくいのは確かだろう。金利が安い今は大チャンスだが、銀行も斜陽気味なので実績のない者には貸さない状況のようだ。

だから、若くして成功する者が続出するということにあまり期待はできないが、プレミアム・コンパクト・クロスオーバーSUVはそこまで高価ではないので、基本的には順調に売れていきそうだ。エントリー価格は400万円程度で中心が500万円前後。これはDセグメントのセダン、BMW「3シリーズ」やメルセデス・ベンツ「Cクラス」あたりと同等であり、日本でもそれなりにボリュームがある。ここが食われる可能性はあるだろう。

ただし、ジャンル全体としては大きく成長することが期待できるが、これだけ車種が増えてくると過当競争になるおそれはある。前述の新規3車種以外でも、メルセデス・ベンツ「GLA」は大人気だし、アウディ「Q3」ももうすぐフルモデルチェンジで手強い存在だ。リーズナブルなところではプジョー「3008」なども手が出しやすい。

プレミアム・コンパクト・クロスオーバーSUV市場が拡大するのは間違いなさそうだが過当競争のおそれもある(画像はメルセデス・ベンツ「GLA」)

結局のところ勝ち残るには、機能的には優秀な日本車を超える魅力がどれだけあるかどうかに尽きる。

新顔SUV3車種の評価は?

BMW「X2」はハードウェアのクオリティが期待通りに高く、FFながらハンドリングも楽しい。BMWには同セグメントの「X1」があり、そのクーペバージョンでプレミアム度をさらに増した「X2」は本来ならばニッチで販売台数は多くを望めないところだが、想像しているよりも後席の空間がしっかり確保されていて、利便性でのネガは少ない。さらに、クーペとして車体を低くしたおかげで全高は1,550mm以下。つまり、立体駐車場に入るサイズとなっており、これは都市部での購入動機に直結するから意外と人気になりそうだ。

「X2」の発表会ではBMWのブランド・フレンドに就任した香取慎吾さんが登場。若者世代へのアピールのためなのか、今までと違ってなんだかくだけた感じだなと思ったが、乗ってみればBMWらしい骨太なモデルだったことに個人的には安心している。

BMWらしく骨太なクルマに仕上がっていた「X2」

ボルボは一昨年からハードウェアもデザインも大幅に進化。中国のジーリーホールディングスの傘下になって資金力を得たことで成功を収めつつあるのだが、「XC40」も気合いが入っている。その昔のボルボといえば、安全ではあるものの、走りには面白みがないイメージが強かったが、今では全く違う。ターボエンジンはパワフルで十二分に速く、シャシー性能もハイクオリティだ。

面白いのは、いたずらにスポーティに振りすぎていないこと。自動車はスポーティとうたった方が全体的にウケがいいので、猫も杓子もそっち方向にいきがちだが、「XC40」は素直でコントローラブル。スポーティに走らせようと思えばきちんとついてくるが、普段はリラックスして走れる特性なのが、日常生活では嬉しい。

ボルボ「XC40」は素直でコントローラブルだが、スポーティーに走らせようとすればきちんとついてくる

ジャガー「E-PACE」はそれとは逆で、スポーツカー・ブランドとして只者ではない雰囲気を走りからも放っている。エンジンは高性能であるだけではなく、アクセルをちょっと踏んだだけでもグワッと加速していくような勢いがある。ハンドリングも然りで、ステアリング操作に俊敏に反応。好みは分かれるところかもしれないが、その個性の強さに勝機がある。ちなみに、現在のジャガーはインドのタタの傘下。ボルボもジャガーも、ついでにいえばマツダも元はフォード傘下だったが、リーマンショックでそれぞれ離れてからのほうが、クルマの魅力が増しているのは興味深いところだ。

ジャガー「E-PACE」はスポーツカーとしての個性を前面に押し出す

結論として、ここであげた新規3車種は、ブランドで1番の販売台数になるぐらいに魅力があり、成功を収めるポテンシャルは間違いなくある。ユーザー年齢層がどれぐらいに収まるかにも注目していきたい。

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。