KDDI社員が実践した、海外赴任で文化の壁を乗り越えるための「秘策」

KDDI社員が実践した、海外赴任で文化の壁を乗り越えるための「秘策」

2018.05.16

KDDIのシリコンバレーにおける取り組みについて、KDDI Investment Teamの傍島 健友氏へのインタビューを2回に渡ってお伝えした。最終回となる第3回では、シリコンバレーにおけるコミュニケーションの苦労話と、シリコンバレーという土地柄、日本企業がこの地とどう向き合うべきか、語ってもらった。

英語を話せても「3歳児くらいの感覚」

筆者は今回、複数の企業取材で渡米したが、正直ほとんど英語を話すことができない。テクノロジー企業の取材については、IT用語の多くが「カタカナ言葉」として利用されているため、細かい表現でわからない部分はあっても、ある程度の理解はできる。ただ、日常会話やビジネスのやり取りともなればその難易度は格段に上がる。

KDDI Investment Team 傍島 健友氏

傍島氏のレベルは私と比較してはいけない程度高いと思うが、それであっても「希望してのこととはいえ、海外で暮らすことは初めてで、英語の勉強も我流。正直、何か伝えようとしても伝えられない3歳児になったような感覚でした」と傍島氏は話す。海外法人へ赴任するケースは、どの国の企業であっても少なくないはずだが、日本企業は母国語の壁があるうえに、通常の異動ローテーションの一貫として海外赴任があるため、言語に慣れたタイミングで異動するということも少なくないだろう。

「例えて言うなら、『席をちょっと詰めて』が言えないのですよ(苦笑)。ほかにも、『そこの塩を取ってください』も、『塩取って』なのか『塩を取っていただけますか?』のニュアンスの違いがある。アメリカ人は『ストレートにNOを突きつける』というイメージを抱きがちですけれど、実際には相手をリスペクトしながら、丁寧にNoとはっきり言う。そんな小さなニュアンスにも気をつけなくてはいけない、そういった感覚を養うことが大変です」(傍島氏)

シリコンバレーでは、多くの日系企業が拠点を構えているため、そういったところで情報交換も少なくないのだろうと思いきや、「企業ごとにそれぞれミッションが違う。私としては、日本人との交流をできるだけ控えるようにしています。私たちのミッションは、日本人ではなく、こちらにいる地場の外国人とのビジネス。「シリコンバレーで日系企業がやってはいけないこと」といった話も大切ですが、語学や人脈作りなど、本当にやらなくてはいけないことを考えると、地道にそれを積み重ねなくてはならないのです」(傍島氏)。

ただし、KDDIのほかのメンバーや、自宅に帰った時も日本語を話すという、語学留学とは異なる環境のため「家族を連れて海外に来るのと、ホームステイとは違う。ちゃんと英語を学べるかというと、それはまた別の話」と傍島氏は苦笑いする。「意外と難しいポイントは、英語圏の歴史や地理についての話です。西海岸は移民の町だから、さまざまな歴史・地理の話が飛び交う。ヨーロッパがなぜ、今こういう状況なのか等、その辺りのベースがない人間にとっては難しい」(傍島氏)。

切り札は「バーベキュー」

ただ、それを乗り越えるために傍島氏が取り組んでいる秘策がある。「真面目にバーベキュー」(傍島氏)だ。

「子供の学校の友達や親を呼んで、飲みながらコミュニケーション取ることを真面目にやっています(笑)。この3年間、日本人は呼ばず、現地の人だけでずっとです。そのお陰で、昨年の後半あたりから、サンクスギビングやクリスマス、ハヌカなどの集まりに呼んでもらえるようになったのです。『日本から来て大変だよ』と話すと、みんなサポートしてくれる。『Give first』が当たり前なんですよね」(傍島氏)

真面目にバーベキューすることでコミュニケーションが深まり、コミュニティに参加でき、英語も勉強できる。ただし、その裏には苦労もある。

「こちらでは飲み会が少ないし、かと言ってパーティも難易度が高い。日本では簡単に『居酒屋飲みニケーション』しやすいですけれど、こちらは菜食主義者や宗教の違いから、簡単においそれとご飯を共にできないのです。とはいえ、バーベキューでも『こちらの家族を呼んだらこちらも』『お肉は食べられない』『お酒も飲めない』など、色々ある(苦笑)。その意味でも、文化を学ぶ必要がありますね」(傍島氏)

こうした体験を通して傍島氏が感じたことは、スタートアップの観点のみならず「シリコンバレー全体が、特殊な街」ということだ。日本人も多く、中国系も、そして欧州、アフリカ系も多い。「色々な国から色々な人が来ている街。だから、スタートアップの起業家は目線がグローバルなのだなと思うのです」(傍島氏)。

手段としてはアメリカからヨーロッパ、南米へ、そしてアジアと広げる方法が定着しているものの、「基本はグローバル」(傍島氏)。アメリカも全体の一部であって「グローバルで通用するためにやることを、日々考えている」(傍島氏)のだという。

そんなシリコンバレーを相手に、どう日本は戦っていくのか。

IT企業の規模の格差や昨今の中国勢の伸びなどから悲観論も多く見られるが、「日本人だからできない、ということを逐一上げていたらキリがない」と傍島氏は言う。例えば、言語の壁についても、前述の傍島氏の体験談を引用すれば、「とりあえず英語を話せるかどうか」という問題以上に、細かいニュアンスの問題もある。

「だからできない、というのは違うと思うのです。私たち日本人は、できない理由を並べがちだと思うのですが、こちらの人々は『どうやったらできるのか』という考えをとことん詰めてくるのです。あと一歩の発想力と、技術力という面では、日本も決して劣っていないはず。マインドをどれだけ前に向けていけるかが重要」(傍島氏)

メルカリやスマートニュースなど、日本でも大きなシェアを持つアプリが、シリコンバレーにも拠点を構えて進出している上に、傍島氏らKDDI ∞ Laboとして支援してきたスタートアップ企業の起業家たちも「シリコンバレーに何人か来ている」という(傍島氏)。

日本でも起業を容易にして、新しい事業の芽を見出そうという取り組みは多く見られる。社内起業家制度は、ソニーやパナソニックといった大手電機メーカーがスタートさせており、政府も法人の設立手続きをネットで一括申請できるようにする仕組みを、2019年度からスタートさせると言われている。

「失われた20年」によって、傍島氏が語った「できない理由を並べる」ことが当たり前になった感もあるが、よりオープンに、迅速に、新しいことをどんどん進めようという環境が日本でも整いつつある。KDDIは4月に、オープンイノベーション推進企業として知財功労賞の経済産業大臣表彰を受賞したが、その先駆者としてのポジションに甘んじることなく、よりドライブできるのか。シリコンバレーからの新風を、KDDIがいかに取り込めるかが大きな鍵となりそうだ。

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。