SUVブームには逆行? マツダが「アテンザ」の大幅改良に本気な理由

SUVブームには逆行? マツダが「アテンザ」の大幅改良に本気な理由

2018.05.24

マツダが「アテンザ」に大幅な改良を加え、予約受注を開始した。自動車業界では世界的なSUVブームが巻き起こっているが、マツダはセダンとワゴンというボディタイプを持つアテンザの改良に相当、力が入っている様子だ。市場動向と逆行することも辞さないマツダの動きだが、背景にはどんな考えがあるのだろうか。

マツダの新型「アテンザ」。予約受注は本日開始、発売は2018年6月21日だ

マツダ車全体に波及する「アテンザ」の商品価値

アテンザはマツダが同社のフラッグシップと位置づけるクルマで、ボディタイプはセダンとワゴンから選べる。開発を担当するマツダの脇家満主査は、アテンザを「マツダのフラッグシップとしてラインアップの先頭に立つクルマ。(ブランドメッセージである)『走る歓び』の理想に向け進化し続ける姿を示し、ブランドを牽引する存在」と表現する。商品改良でアテンザを進化させることについては、「クルマとしての基本車型であるセダンをしっかり作り込み、熟成させ、商品価値を上げることは、ラインアップ全体に波及効果があり、グローバル成長につながる」とした。これが、SUVブームの状況下でもマツダがアテンザに大幅な改良を加える理由の1つだ。

新型「アテンザ」のワゴン。現行型の販売状況を見ると、内訳としては最上級グレード「L Package」の構成比率が最も高く60%で、ディーゼルの比率も60%だそう。セダンとワゴンの比率は半々だ

では実際に、アテンザの何が変わったのか。まずデザインとしては、フロントとリアに変更点がある。フロントを一見すると分かるのは、グリルの形状が「横軸」から「メッシュ」へと変わっていること。その理由をチーフデザイナーの玉谷聡氏は「顔の彫りを深くしたかった」と説明した。

左が現行型、右が新型。新型「アテンザ」のメッシュの作り込みには「クラフトマンシップ」(玉谷氏)が注ぎ込まれているそうで、例えばグリルのセンターを挟んで左側と右側では、光の反射量が異なるような造形となっている。これにより一方が少し明るく見えて、もう一方は少し暗く見える。これが立体感につながるそうだ

現行アテンザのグリルは横方向に「フィン」が6本通っていて、そのフィンの深さで奥行きを表現していたのだが、どうしてもフィンの前端は前の方に出っ張っている感じだった。新型アテンザでは開口自体を深く奥に入れることで立体感を出している。

顔の彫りが深くなると、前から見たときクルマに奥行きが出る。「奥まっていく立体感の方向性」で、クルマの「前進感」や「スピード感」を表現しているというのが玉谷氏の解説だ。

デザインテーマは「Mature elegance」

もう1つ、デザインで大きく変わったのは「シグネチャーウィング」という部分だ。これはグリルの下を通って左右に伸びていく銀色のラインのことだが、スポーティーで若々しく、エネルギッシュな感じを表現していたV字型の現行アテンザに対し、新型はラインをヘッドランプの下に通している。その理由を玉谷氏は、「もともと持っているアテンザの背骨、軸がしっかり通っている所にシグネチャーウィングの流れを持ってきて、クルマ全体の骨格を強調しようと考えた」と話した。

シグネチャーラインがサイドのデザインと合わさって水平方向のラインを形成する

今回のデザインテーマ「Mature elegance」が示すように、マツダは新型アテンザで成熟したクルマの姿を見せようとしている。シグネチャーラインをエネルギッシュな感じから落ち着いた雰囲気に変えたのも、そのテーマに沿った改良といえるだろう。

全体に「大人っぽさ」を目指して変わった印象のデザインだが、これは同社が開発中の次世代商品群でも追求しているテーマらしい。玉谷氏も「もう少し大人のブランドになりたいという思いもあって、『デミオ』も大人っぽくなっている。アテンザはフラッグシップとして、最も大人でなければならない」と話していた。

苦労なく走れる走行性能に磨き

では、走りの部分ではどう進化したのだろうか。マツダがアテンザの走りで目指すのは「エフォートレス・ドライビング」(Effortless Driving)の境地。「苦労がない」「楽な」といった意味を持つ“Effortless”という言葉をマツダが使ったのには意味がある。

今回の改良でマツダは、アテンザのドライバーに「余計な注意を払う必要がなく、余裕を持って、自然に運転を楽しむことができる環境」(脇家主査)を提供することを目指したという。ハンドリングと乗り心地で追求したのは、歩いているときと同じような感覚でドライバーが体のバランスを保てること。そのため、サスペンション、ボディ、タイヤなど、広範囲にわたる改良を加えたそうだ。余計な注意を払わずに済む、歩行と同じような“Effortless”な運転感覚。これがアテンザでマツダが提示したい走行性能だ。

フロントと同様に、リアでも骨格を強調すべくシグネチャーウィングに変更を加えている。現行「アテンザ」では下の方に黒い部分を多めに作ってスポーティーな感じを表現していたが、新型では下の方までボディカラーで統一し、「しっかりと質感を表現して重心を低く」(玉谷氏)したとのこと

走りの面ではパワートレインにも進化がある。アテンザではガソリンエンジンとディーゼルエンジンを選べるが、どちらもマツダの最新型だ。ディーゼルは出力とトルクが向上しており、ガソリンには燃費向上に効く「気筒休止技術」(詳しくはこちら)を採用している。

他にも変わった部分はある。例えば静粛性が上がっていたり、内燃機関へのこだわりを示すマツダらしくマフラーが大径化していたり、インテリアについても全面的に変更が加えてあったりする。これだけ変わったので当然だが価格も上がっていて、最上級グレードであるクリーンディーゼルエンジンの「XD L Package」(4WD)で比べると、現行型が税込み400万1,400円からであるのに対し、新型は同419万400円からだ。

新型「アテンザ」のインテリア。配色は大胆なツートーンだ。「空間としては全体的に安定感、拡がり感を重視、エレメントは余計なものはなるべく背景化して目立たなくし、見せる部分と見せない部分をはっきり」させたと玉谷氏

国内セダン市場の状況に危機感を抱くマツダ

ところで、アテンザの販売面や市場環境はどのような状況なのだろうか。マーケティングを担当する国内営業本部の空閑俊夫(くが・としお)氏によると、アテンザが属するセグメントの市場規模自体は2014年頃から少しずつ縮小しているそうだ。これにはSUVブームも関係しているだろう。ちなみに、同じセグメントにはワゴンであればSUBARU(スバル)の「レヴォーグ」、セダンであればトヨタ自動車の「カムリ」などがいて、輸入車にはメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」といった売れ筋がそろっている。

「アテンザ」が属するセグメントの状況。国産セダン・ワゴンは漸減傾向だが輸入車の販売台数は大きく減っていない。アテンザは月間1,000台規模だが、直近ではエイジングのせいもあって減少気味。大幅改良のテコ入れ効果に期待を寄せる

特徴的なのは、市場自体は縮小しているのに輸入車勢が販売台数を維持しているところ。この状況を空閑氏は「クルマ好きの本質的なお客様はしっかり残っている印象」と見る。実は、この状況こそ、マツダがアテンザの改良に力を入れるもう1つの理由だ。

アテンザ開発主査の脇家氏は「昨今は日本でも、お客様の需要がSUVにシフトし、セダンやステーションワゴンは売れていないといわれている。確かに国産ブランドではその傾向がある」と認めた上で、「一方で、輸入車ブランドが堅調に売れ続けていることも事実」とし、この状況にマツダとして非常に強い危機感を感じており、「アテンザのこれからの生き様も含め、どうにかしなければという気持ち」を強く持っていると語った。

「アテンザ」開発担当主査の脇家氏(左)とチーフデザイナーの玉谷氏。玉谷氏が着用しているのは、新型「アテンザ」のインテリアに採用した新素材で作ったジャケットだ

それには「セダンやステーションワゴンでしか持ち得ない資質を極めて、クルマの普遍的で本質的な理想価値を磨き、志を持って、最新の技術とデザインで作り上げることにより、『やっぱりアテンザがマツダにとってのフラッグシップだね』と再確認してもらう」(脇家氏)ことが重要であり、アテンザを運転したい、所有したいと顧客に考えてもらうことが必要とする。これが今回の商品改良で示したいマツダの意志なのだそうだ。

SUVブームでも輸入車セダンの勢いが堅調であることが、「ブームに関係なく良いものは売れる」という意味であるとするならば、その状況の中でシェアを落とす国産ブランドにとっては危機的状況だろう。この状況を打破すべく、クルマの本筋ともいえるセダンに力の入った改良を加えるのも、欧州のプレミアムブランドと競っていかなければならないマツダにとっては当然の話だ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu