高級車の概念を変える? メルセデス・ベンツ新型「Aクラス」に試乗

高級車の概念を変える? メルセデス・ベンツ新型「Aクラス」に試乗

2018.05.31

メルセデスブランドのエントリーモデルである「Aクラス」がフルモデルチェンジした。すでにジュネーブショーで発表されているが、改良したボディと「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースが新技術として注目されている。先頃、アドリア海に面したのどかなクロアチアのリゾート地で国際試乗会に参加したので、新型Aクラスのインプレッションをレポートする。

メルセデス・ベンツのコンパクトカー「Aクラス」の新型にクロアチアで試乗した(全ての画像:メルセデス・ベンツ日本)

高級車メーカーがコンパクトカーに踏み込んだ理由

そもそも、「Aクラス」とはどんなクルマなのだろうか。高級車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツがコンパクトカーの路線に踏み込んだのは1997年頃のこと。ほぼ同じ時期に全長3.6mのAクラスと全長2.6mの「スマート」(2人乗り)を発表した。

初代Aクラスは1993年のフランクフルトモーターショーに出展された「Vision 93 A」の量産モデルだ。メルセデスが「カローラ」クラスのクルマを作るということで日本メーカーも驚いたが、もっとも驚異を感じたのは同じドイツのフォルクスワーゲン(VW)だった。高級車メーカーがコンパクトカーを開発する背景には、どんな考えがあったのだろうか。

なぜ高級車メーカーのメルセデスがコンパクトカーに参入したのか

メルセデスは1980年代に“小ベンツ”と呼ばれた「190E」をリリースした。オイルショックや環境問題などを考えると、大きな高級車だけを作り続けることに限界を感じていたのかもしれない。

米国や英国における自動車の歴史を見ると分かるように、大きな高級車メーカーには恐竜のように絶滅のリスクがつきまとう。環境と安全問題、エネルギーと資源問題などを考え合わせると、大きなクルマだけを作っていては、未来も事業を続けていけるとは限らないのだ。その意味で、高級ブランドのメルセデスではあるが、プレミアムなコンパクトカーを開発することには、30年くらい前からの強い信念があった。

更に大きくなった5ドアハッチバック

1997年に誕生したAクラスは、エンジンを水平15度に寝かせるという発想で、衝突時にエンジンがサンドイッチ構造の床下に落ちることで、そのエネルギー吸収を高めていた。ちなみに、全長2.6mのスマートはエンジンをリヤに搭載していた。Aクラスと同じ考えだったのだ。

今回でAクラスは4代目となるが、3代目からはモノコックボディとなり、全長4mを超えるCセグメントに移行した。メルセデスのラインアップ的には、Bセグメントは「スマート フォーフォー」(4人乗り)、Aセグメントは「スマート フォーツー」(2人乗り)となる。

4代目の新型Aクラスは、先代Aクラスよりも全長が120mm伸びて4,419mmとなっている。幅は+16mm、ホイールベースは+30mmということで、更に立派に見えるようになった5ドアハッチバックだが、来年にはセダンタイプも登場する。先代のプラットフォームを大幅に改良しているが、主な変更点は車体剛性の強化と音振動対策だ。さらに、空力特性も見直して、空気抵抗係数(Cd値)ではクラストップの0.25を実現。速度の高いアウトバーンでは燃費改善に大きく利きそうだ。

さらに大きくなった新型「Aクラス」

「高級車といえばFR」は通用しなくなる

エンジンはルノー・日産製の1.4リッターを大幅改良したものとメルセデスオリジナルの2リッターターボを用意。欧州では1.5リッターのディーゼルが搭載されるが、近い将来にプラグインハイブリッド車(PHEV)が登場することは間違いないだろう。

ギアボックスは7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を使うが、実際に乗ってみると発進時のスムースネスが進化している。2リッターターボの「A250」は、350Nm前後のトルクを発生するかなりの俊足ぶり。1.4リッターターボの「A200」も250Nmのトルクを発揮するので、これでも十分なパフォーマンスだ。

走行性能も満足のいくものだった

驚いたのはエンジンではなく、Cセグメントとしての完成度の高さと高級感だ。FF(前方にエンジンを積み、前輪で駆動)とは思えないほど、NVH(自動車の乗り心地を測る基準、「N」はノイズ、「V」は振動、「H」はハーシュネス=荒れた路面を走行する際の揺れや音)性能が高かった。

FFはフロントタイヤで駆動するので、サスペンションのブッシュ(サスペンションの連結部に装着する部品、基本はゴム製)などを固くする必要があるし、エンジンの振動もハンドルに伝わりやすい一方で、全長を大きくせずキャビンを広く使えるので、ファミリカー(大衆車)として発展した。それに対し、FR(前方にエンジンを積み、後輪で駆動)は高級車というのが従来の図式だった。だが、メルセデスが20年もかけて開発してきた新型Aクラスは静かでしなやかで、FRかFFか分からないほど、質感の高い走りが実現している。

FFとは思えないほど走りの質感が高かった新型「Aクラス」

リヤサスペンションは「A250」がマルチリンクを使うが、17インチタイヤの「A200」にはトーションビームを採用する。その狙いは、すでに述べているようにPHEV対応だ。バッテリーのスペースを確保するのが、その最大の理由。マルチリンクは4MATIC(AWD、四輪駆動)にも対応可能なので、更に高性能な「A45 AMG」の展開も視野に入っているだろう。

ということで、新型AクラスはFFの常識を打ち破るほど静かで乗り心地がよかった。エンジンに関しては可もなく不可もなく、という感じだが、気になるのはPHEVの出来栄え。きっと「EQパワー+」(EQ Power +)の名前で登場するはずだ。

インテリアは高級車「Sクラス」を思わせるほど先進的で、メーターは横長の大型液晶パネルに映し出される。今回、メルセデスがこだわったのは「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースだ。デジタル技術を駆使した操作系だけでなく、AIを使った音声認識も実用化している。

インテリアは「Sクラス」を思わせるほど先進的

「AI」はバズワード化し、言葉の意味があいまいになっている側面もあるが、メルセデスの場合はドライビング中に必要な用途に特化している。音声認識は全世界の23カ国語に対応。もちろん日本語で話しかけても大丈夫だ。試乗では実際にMBUXを使ってみた。

AI搭載のMUBX、協力サプライヤーも多彩

「ヘイ、メルセデス」と語りかけることからMBUXは始まる。従来の認識とは異なり、AIが搭載されているので使い方はロボットのよう。例えば「明日どこどこに行くけど傘は必要?」と聞けば、天気予報を調べて「傘は要りませんよ」と答えてくれる。あるいは渋滞に巻き込まれたとき、「会議に送れるのでボスにメールして」と指示すると、MBUXはメールを作成し、送信してくれる。まるで夢のようなことが可能となる。

MBUXは交通や運転環境に特化したデータベースを持つので日常的な会話はできないが、ドライバーのアシスタントとしては良きパートナーになりそうだと思った。そんな素敵なシステムが、メルセデスのエントリーモデルから実用化されたわけだ。

AI搭載のMUBXはドライバーの良きパートナーとなりそうだ

MBUXが使う音声認識技術は米国のニュアンス(Nuance)という企業が提供している。カーナビはドイツのヒア(HERE)、天気(米国)のソースは「Foreca」「Autonavi」を使うが、データベースはIBMを使用している。 インフォテイメントのOSはリナックス(Linux)、車載用コンピュータはエヌビディア(NVIDIA)と多彩なサプライヤーが協力している。

このように、車内での体験にも新味のあるメルセデス・ベンツの新型Aクラス。日本上陸は秋以降になりそうだが、高級車はFRという固定概念は捨てたほうがよいかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu