Googleのお仕事。【第3回】スマートスピーカー「Google Home」を支える、0歳児の母

Googleのお仕事。【第3回】スマートスピーカー「Google Home」を支える、0歳児の母

2018.04.04

特集「Googleのお仕事」の第3回は、Google APAC パートナーオペレーションマネージャーの津田 恵理子氏に話を聞いた。津田氏は、約7年半前にグーグルの日本法人へ入社、現在は Google の検索関連のプロダクトに関するパートナー企業への技術的な支援を担う。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

昨年10月に発売されたGoogle Homeでは、話しかけるだけで音声で様々な回答をくれる。その製品の裏には、スマートフォン向けに提供している「Google アシスタント」があるが、サードパーティが連携アプリを開発できる「Actions on Google」に関する、パートナー企業への技術的な支援を津田氏は行っている。その立場の醍醐味、仕事の中身について話を聞いた。

Google Homeを手に持つGoogle APAC パートナーオペレーションマネージャー 津田 恵理子氏

「効率よく仕事」「上下関係がフランク」というGoogle の社風

もともとは、金融系のシステムエンジニア(SE)をやっていたという津田氏。SEの仕事も楽しかったそうだが、その一方でさまざまなビジネスに携われる仕事に就きたいと思っていたという。「日本や世界にはいろいろな仕事がありますよね。それまで金融の世界しか知らなかったので、そこから離れていろいろな仕事に触れて、自分の知見を広げたいと思っていました」(津田氏)。

そう考えていた時に、グーグルに勤めている大学時代の友人から「ぜひ Google を受けてみないか」という誘いを受けたのが、Google に入社するきっかけ。津田氏が入社後に受けたカルチャーショックは「非常に効率良く仕事ができる」という点だった。

「社内では、メールのやりとりは Gmail ですし、スケジュール管理は Google カレンダーですし、社内エンジニアによって最適化されていて、非常に効率良く仕事ができる。昔の働き方は、今と比較していろいろな無駄があったと気づかされました」(津田氏)

また、ダイバーシティへの取り組みについても、Googleは非常に先進的だと話す。津田氏は現在、日本人のみならず、中国人やイタリア人、フランス人などさまざまな国の人が所属するチームで働いているそうだが、女性でそれも子育て中の管理職が非常に多いと言う。

Google は若い企業で、社員の年齢も若く、出産・子育てを経験する社員も多い。子供を産んだ社員がその後も気持ちよく働き続けられるようさまざまな工夫がされて、社員の意識もそういった社員に寛容で男性社員でも育休を取る社員が多いという。なかでも津田氏が驚いたことは、津田氏が2017年に出産のため産休に入った直後の昇進だったという。

「自分でもまさか産休に入った直後に昇進させてもらえるとは思っていなかったです。純粋にこれまでの仕事を評価してもらえて本当に嬉しかった」と津田氏は実感を込めて語ったが、その言葉からも、職場環境がいかに従業員にとって心地いいものか、ひしひしと伝わってくる。

品質の良いアプリを作ってもらうためにパートナーを支援

冒頭で紹介したように、津田氏がグーグルに入社したのは今からおよそ7年半前。当初は広告を担当し、入社2年半後に現在のチームに移動したという。現在所属するチームでは、これまでに「Google Now」や、アプリを検索に組み入れられる「App Indexing」などを担当した。

また、「Google アシスタント」の日本語化に際しては、社内でテストした結果をアメリカ本社や日本に常駐していたエンジニアにフィードバックするといったこともやっていたという。そして現在は、「Google アシスタント」の上で動くアプリ「Actions on Google」の、パートナー企業への技術的支援を主に行っている。

「ボイスユーザーインタフェース(VUI)は、誰もが初めて触るものなので、これまでWebアプリや Android アプリは作り慣れていても、(Actions on Google アプリは)企業にも知見がない。(VUIの)デザインをどうするかといった部分から一緒に作り上げていくということをやっています」(津田氏)

Actions on Google の技術支援においては、実装の手助けが主な内容となるが、最も大きな目的は「品質のいいアプリを作ってもらう」という部分にあるそうで、技術的に可能かどうかということだけでなく、VUIのデザインなどもアドバイスしているという。

「VUIデザインにはセオリーがありまして、ある程度セオリーにそったものにするだけで、ユーザーの使いやすさや印象が全然違ってくるんです。いかにシンプルに、人間の会話のような自然さを再現するかというところは非常に重要になってきます」(津田氏)

例えば、ユーザーがアプリを終わらせたい時に、ある人は「しゅうりょう」と言い、別の人は「おわり」と言うかもしれないし「やめる」と言うかもしれない。しかし、アプリ制作者が、終わりは「しゅうりょう」としか考えずに実装したとしたら、「おわり」では終われなくなってしまう。

「簡単な例ですが、終わりたいのに終われないのは非常にストレスに感じるんです。この部分は、終了に相当するフレーズをたくさん追加するだけなので実装は簡単なんです。そういった気づきをアドバイスすることで、品質を高めてもらうようにお願いしています」(津田氏)

また、Actions on Google にも Android アプリなどと同じようにポリシーが設定されているが、そのポリシーはやや厳しめになっているという。そこで、ポリシーをクリアするためのVUIのアドバイスも行っているそうだ。

「Actions on Google は基本的に会話でやりとりするので、アプリは "問いかけをした状態でなければマイクをオープンにし続けてはいけない"というポリシーがあるんです。そのポリシーに沿いながら、スムーズにやりとりを続けるために、例えば『お調べしました』で止めるのではなく、『お調べしましたが、どれがいいですか』とすれば、問いかけになってそのまま会話が続くようにマイクをオープンにできる、といった感じです。こういった部分をアドバイスしたりしています」(津田氏)

現在、Actions on Google をはじめとしたボイスアシスタントの分野は、非常に注目を集めている。

そのため津田氏は、「本当に急激に伸びているプロダクトで、未来があって、業界が盛り上がり始めたところですので、業界を牽引していく Google でそのプロダクトに携われているのは個人的に嬉しいですし、いい経験になっていると思います」と、非常にやりがいを感じているようだ。

もちろん、調整が難しい部分もある。例えばActions on Google の品質として、Google 側が考えるレベルと、パートナーが考えるレベルに差がある場合があり、改善の調整が難しいという。そして、品質改善には、継続して開発するモチベーションも不可欠となるが、そのモチベーションをどこまで維持できるか、という部分も課題と津田氏は指摘する。

ボイスアシスタント分野の注目度の高さから、Actions on Googleに興味を示すパートナーも非常に多い。しかし現状では、Android アプリなどと違い、Actions on Google では収益化の要素が現状は存在しないため、開発モチベーションの維持が難しいのだ。

「新しいものにいち早く取り組むという部分をモチベーションとしてやっていただいています。しかし、我々としてはユーザーにとっていいものを出さないと使われなくなってしまうので、いいものを出した方がパートナー側にもいいと思っています。本来は、アプリのロンチ後も改善し続ける必要があるのですが、そこまでモチベーションを維持できるかという部分は難しいと思います」(津田氏)

新しいプラットフォームということもあり、まだまだ開発途上でActions on Google のプラットフォーム側にもバグがあるのも事実。

ただ、VUIという最先端のテクノロジー開発である以上、早急に対処が必要な重大なバグはともかく、とにかく世に放ってフィードバックを元に改善していくという手法が、Googleに限らず近年のVUIの目覚ましい発展に寄与している側面もある。一方で担当者の津田氏にとっては「パートナーからのバグの修正依頼との間で板挟みになることも多々ある」と苦労が耐えない様子だ。

そういった中でも、やりがいは非常にあると津田氏。

「日本のマーケットはこれだけ盛り上がっていて、Google としても日本には注力していますが、アメリカ本社の人たちは日本語がしゃべれないので、我々に頼ってもらわざるを得ないんです。我々がいなければこのプロダクトは日本で広がっていかないな、という気持ちはあるので、一人のメンバーとして貢献できているのは高いモチベーションになっています」(津田氏)

人々の生活の一部になり、当たり前に使われるように

津田氏に、Actions on Google を今後どのように使って欲しいか聞いたところ、「個人的なものですが」という前置きをしつつ、育児をしている人に使って欲しいとのことだった。

津田氏自身も、2017年に出産を経験しており、子供を抱っこしたり、授乳したりという育児の場面では、携帯やスマートフォンを操作出来ないと話す。そうした場面でも、Google Home であれば、声でテレビを付け、音楽を再生できる。「育児しているお父さんやお母さんにとって、Google Home は非常に便利なプロダクトと感じています」(津田氏)。

Google Home

また、現在0歳児の子供の育児を行っている津田氏らしい提案もあった。

「Actions on Google アプリに『育児ノート』というものがあります。おむつを取り替えたり、授乳したりというそれぞれの時間を声で記録できるアプリです。ノートに記録するにしても携帯に記録するにしても、とても面倒なんですが、声で記録できるのはとても便利だと思います。ぜひ使ってもらって、便利さをわかってもらえると嬉しいなと思います」(津田氏)

Google Home などのボイスアシスタントが今後どう進化していくのか。津田氏は、人々の生活の一部になり、当たり前に使うようになってほしいと願う。

「Android やiOSが登場したときには、一部の人が"なんだこれは、面白いな"と言って使っている感じでしたが、今は多くの人が当たり前のようにアプリを使ってショッピングしたり、チャットをしたりする世界に急激になっています。それと同じように、ボイスアシスタントが生活にナチュラルに溶け込んで、生活の一部になるぐらいまで持っていきたいと思っています。それにはパートナーさんがとても重要で、レストランや美容院を予約したいといったことをボイスでできるようにならないと、人々の生活をサポートするといったところまで持って行けません。パートナーさんには重要な役割があると思いますので、我々としてはパートナーさんをサポートして、質の高いアプリを出してもらって、人々の生活を豊かにするというところを一緒にやっていきたいと思います」(津田氏)

Google Home を代表とするボイスアシスタントは、昨年登場したときのような盛り上がりから比べるとやや一服した感がある。いわゆるアーリーアダプタへのアプローチが一巡したと言ってもいいだろう。

今後は、スマートフォンが普及したのと同じように、一般の人たちへどこまで普及させられるかが課題となるはずで、それには津田氏も指摘するように、Google だけでなくパートナー企業の取り組みも重要となってくる。しかし、津田氏のような考えで取り組む人がGoogle にいる限り、前途は明るいと言えるだろう。

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

2018.11.14

VAIOが独自機構の新型モバイルPC「A12」を発表

パソコン事業の成長は数年続き、海外展開も拡充

パソコンのVAIOから、ITブランドのVAIOを目指す

VAIOが業績が好調だ。2017年度は売上、利益ともに2ケタ成長となる増収増益を達成した。PC事業が順調なことに加え、EMS事業も進展したことが奏功したという。11月22日にはオールラウンダーPCというコンセプトを打ち出した新型モバイルパソコン「VAIO A12」を発売する。国内PC事業は合従連衡や海外への売却が続くが、数少ない「純国産」のPCメーカーであるVAIOの今後の戦略とは。

VAIO A12

働き方改革を追い風に地固め、今後は拡大を目指す

VAIOは、ソニーから独立後、法人向けビジネスを中心に据えたことで、早くから黒字化を実現しており、今期も順調な決算となった。売上高は前年同期比10.8%増となる214億8,800万円、営業利益は同13.9%増となる6億4,800万円で、過去最高益を達成した。

PCの法人需要が旺盛で好調な決算となった

法人向けモバイルPCの伸びが前年比30%増と順調だった点が特徴で、その背景にあるのが昨今のトレンドとなっている「働き方改革」だ。テレワークやフリーアドレスなど、それまでの決まったデスクに座ってデスクトップPCを操作するという環境から、ノートPCを持ち歩いて仕事をするという環境に移っていくなかで、VAIOの製品構成がこれに上手くはまった。

VAIO株式会社 代表取締役 吉田秀俊氏

VAIOでは、2017年から11~15インチのモバイルPCでラインアップを構築しており、今年はその後継機種を投入していた。パフォーマンスに特化したVAIO True PerformanceやVAIO Premium Editionといったバリエーションモデルも提供してはいるが、一方でVAIO ZやVAIO Z Canvasといった過去のハイエンドモデルに相当する製品はなく、あくまで「メインターゲットは法人ユーザー」を想定していることが伺える。

同社の吉田秀俊代表取締役は、今後も数年はPC事業が伸長を続けると想定している。働き方改革の拡大を受けて法人需要がさらに伸びることに備え、ラインアップをさらに拡充することで売り上げを伸ばしたい考えだ。

構想3年、開発2年の「VAIO A12」

これを目指して今月発売する新ラインアップが、12.5インチサイズのデタッチャブルWindows PC「VAIO A12」だ。市場にある課題とその解決を徹底的に図ったという製品で、求められているPCはクラムシェルか2in1か、タブレットタイプかコンバーチブルかデタッチャブルか、そういったゼロからの検討を行った結果、「構想3年、開発2年」を費やして仕上げたモバイルPCだという。

VAIO A12は、既存のカテゴライズでは、タブレットとキーボードの着脱機構を備えたいわゆる2in1モバイルPCだ
「膝上で使える」問題の解決や、まともなキーボードの搭載など、クラムシェルPCの使い勝手を求めた

前提とした課題がすべて解決しない限り製品化を見送るという強い意識で開発されたのがA12であり、それには新たな技術的ブレークスルーが必要となった。それが「Stabilizer Flap」と呼ばれる新たなデタッチャブルの機構だ。

「Stabilizer Flap」と呼ばれる独特のデタッチャブル機構が最大の特徴

きっかけは書籍の背の動きだったそうだが、軽量なPCを実現しながら、クラムシェル型と同等の使い勝手を実現した。キーボード部にはVGAやLAN端子を含む多くの端子類を装備して、周辺機器との接続性を求める日本の法人ユーザーのニーズに対応させた。実際、すでにA12導入に向けて動いている法人の中には、「VGAがあるのが選択の決め手」というところもあるそうだ。

機能はとにかくニーズの実現を徹底し、端子が豊富という今では貴重な仕様。手持ちのモバイルバッテリで本体を充電できる5V充電機能もいざというときに役立つ

コンシューマ向けで考えると、端子を減らしてスッキリとしてさらに薄型化、軽量化、低価格化も期待したいところだが、豊富な端子に対する法人ニーズは根強く、その点はVAIOとして譲れない線ということだろう。ただ、薄型軽量であることにはこだわり、タブレットとしては重さ607グラムで薄さ7.4ミリ、キーボードユニットを装着しても重さは1,099グラムまで抑え込んだ。

ソニー時代から同社が得意とする高密度実装技術を活かし、薄型軽量化にもこだわった

海外市場に再挑戦、PCラインアップも早々に増やす

PC事業では、一度は撤退した海外市場に向けて再挑戦にも乗り出している。販売エリアを順次拡大しており、今年は12カ国まで拡大した。今後は北米、中国、欧州での展開を計画している。特に欧州へは「検討中というわけではなく、決めている。来年早々にも展開する」(吉田氏)という。

PC事業の勝算はあるのか。吉田氏は、会社としてのVAIOが240人体制になり、「(ソニー時代に比べ)限られたリソースの中でどう成長戦略を描けるか」が課題であったと振り返る。この1年は「足りているもの、足りていないものを見極める」ことに集中し、独立後1~3年という「短期決戦を乗り切った」と話す。

引き続き、「VAIOはPC事業だけで将来生き残れるのか、という(市場の)問いに答えなければならない」としており、その答えとしては、「ビジネスユーザーにPCは必要なので、PCが大きな核としてVAIOを支えるのは間違いない」とするが、それだけではPC事業としての生き残りには不十分というのが吉田氏の認識だ。

そのため、技術革新や世の中の進化に伴って、ユーザーの生産性をいかに高められるかという観点で新しいPCを打ち出し、生き残りを図っていく考え。その一つの回答が「VAIO A12」となるが、来年以降の新製品でもそうした点を踏まえた新製品を投入していく。「来年度はもう少し違った形で生産性を高める製品を提供していく」という意向を示しており、年明け早々には今までとは異なるタイプの製品を企図しているようだ。

現行のラインアップ。最上部にあるのがVAIO A12で、来年さらなる新ラインアップを展開する

PCはVAIOのコアだが、VAIOはPCブランド脱却目指す

吉田氏は「貪欲な姿をもちながら、VAIOのブランドを伸ばす」と話すが、ここで大きな戦略の柱となるのは、「PCブランド」としての「VAIO」ブランドからの脱却だという。PC事業は順調とは言え、ライバルも多い。MicrosoftのSurfaceだけでなく、レノボとその傘下のNEC、富士通、鴻海傘下のシャープ、東芝、そしてデル、HPといった米国勢もあり、働き方改革の影響で伸びた市場をどこまで獲得できるかは未知数だ。

吉田氏は「次世代ITブランドとしてのVAIOを目指す」としており、単にPC単体を売るのではなく、セキュリティやキッティングといった付加価値サービスも盛り込むことで、トータルソリューションとしてのPC事業を展開する。

これに、EMS事業でのシナジーも追加していきたい考えだ。あわせてPCの周辺機器などを扱うことで、PC事業の強化にも繋げていき、市場全体の活性化も狙える。ハード、ソフトの両面から事業領域を拡大していく。

PC事業は、周辺機器やセキュリティソリューションなどでさらなる拡大を目指す

EMSやパートナーの強化、IoTなどの新規事業など、ビジネス領域の拡大で企業としてのVAIO自体の強化を目指すが、今後も屋台骨となるPC事業で好調を維持できるか。ここまでの短期決戦を乗り切り、ここから一過性の盛り上がりではなく継続した強い事業構造への転換を図る、吉田氏が「フェーズ2」と呼ぶVAIOの新たな成長戦略がはじまったばかりだ。