【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

2016.06.21

【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

電通<4324>は1906年設立。光永星郎が01年に設立した日本広告及び06年に設立した日本電報通信社の2社が合併し発足した。36年、日本電報通信社が有したニュース通信部門を売却し、広告代理店専業となる。

 2015年3月期よりIFRSを適用しているため、決算短信上の収益(ネット売上高)は7064億円であるが、「顧客に対して行った請求額及び顧客に対する請求可能額の総額」として公表しているグロス売上高は連結で4兆5260億円。2位の博報堂(連結売上高:1兆1130億円)、3位のアサツーディ・ケイ(連結売上高:3519億円)を大きく引き離し、国内広告業界の首位を独走している。

 電通は日本のみならず、15年の売上総利益に基づく広告コミュニケーション産業のランキング(『アドバタイジング・エージ』誌発表)においても世界5位を記録する、グローバルな企業集団である。

 そうは言っても、今でこそグローバルな地位と活発なクロスボーダーM&Aのイメージを持つ電通であるが、意外にも10年頃までは国内での売上高が90%以上のドメスティックな企業であった。00年代前半までの海外展開は主に日本の電通を海外に輸出するというスタイルで、自前で拠点をつくり、人を雇うことで海外への足掛かりを得る形を取っていた。

 転機となるのは13年4月の英国イージス社の買収であるが、まずはそれ以前をかいつまんで見て行きたい。

■これまでに行った主なM&A

年月 内容
2004.6 スポーツマーケティング会社のワールド・スポーツ・グループ・ホールディングス(シンガポール)の株式の30%を買収。
2004.9 韓国における電通関連会社である電通イノベック(売上高35億円)の株式を40%から85%まで追加取得。
2005.8 電通国際情報サービスを通じて、ソフトウェア開発のブレイニ―ワークス(売上高100億円)の株式を66.1%から95.3%まで追加取得。
2005.11 電通国際情報サービスを通じ、IT分野で協業していた兼松エレクトロニクス(売上高631億円)の株式の12%を34億2000万円で譲渡。
2005.11 CRMの専門会社であるインターロジックス(売上高5億円)の株式を14.71%から50.01%まで追加取得、子会社化。
2005.11 電通国際情報サービスを通じ、ITコンサルティングなどを手掛ける日本ビジネスクリエイト(売上高7億8000万円)の株式75.6%を5億4000万円で譲渡。
2005.11 株式交換により連結子会社の電通テック(売上高1569億円)の株式の31.1%を約131億円程度で追加取得、完全子会社化。
2006.3 電通国際情報サービスを通じ、コンピュータ解析・コンサルティングのエステック(売上高9億円)の株式の100%を買収。
2006.3 セールスプロモーションや交通広告を得意とする名鉄エージェンシー(売上高159億円)の株式の50%を買収。
2006.7 大型撮影用スタジオの運営を行う横浜スーパーファクトリー(売上高7億円)の全株式を9600万円で買収。
2006.9 キャラクター・マーチャンダイジング業界大手のソニー・クリエイティブプロダクツ(売上高74億円)から第三者割当増資の引受により株式の33.33%を買収。
2007.10 英国及び米国のクリエーティブ・ブティックのアティック社の株式の100%を買収。
2007.12 公開買付によりeマーケティング事業に強みを持つオプト(売上高255億円)の株式の18.1%を102億円で買収。
2008.4 キャラクター・マーチャンダイジング業界大手のソニー・クリエイティブプロダクツ(売上高74億円)の株式の33.33%を譲渡。
2008.11 ビデオグラム販売を行うジェネオン・エンタテイメントの株式の過半数を米国のUPIEに譲渡、ジェネオン・エンタテイメントとUPIEの日本法人UPJが合併。
2008.11 米国の独立系広告会社のマックギャリー・ボウエン社(売上高51億円)の株式100%を買収。
2009.3 公開買付によりインターネットやモバイルメディアの広告の取扱いを行うサイバー・コミュニケーションズ(売上高517億円)の株式を85億円で追加取得(47.49%→84.59%)。
2009.5 株式交換によりサイバー・コミュニケーションズ(売上高517億円)の株式13.95%を買収、完全子会社化。
2009.7 サイバー・コミュニケーションズの子会社でありSEMを中心とするインターネット広告事業の電通サーチ&リンクの株式20%を譲渡。サイバー・コミュニケーションズは引き続き51%保有。
2009.10 DPZ社との合弁により設立したブラジルの電通ラテンアメリカの株式49%を買収、完全子会社化。
2010.1 店頭・街頭販促を手掛ける中国のサントレンドグループ(売上高251億円)の株式40%を買収。
2010.1 デジタル・マーケティング・サービスを展開するイノベーション・インタラクティブ社(米国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2010.12 マーケティングサービス提供のオプト(売上高506億円)の株式14.4%を譲渡。
2010.12 製造業向けコンサルティングのITIDの株式34パーセントを買収、完全子会社化。
2011.1 インドにおける総合広告代理店である電通コミュニケーションズ、電通マーコム、電通クリエーティブ・インパクトの(インド)株式26パーセントを買収、完全子会社化。
2011.2 デジタル・クリエーティブ・エージェンシーのファーストボーン・マルチメディア社(米国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2011.6 独立系のデジタル・マーケティング・エージェンシーのステーキ・グループ社(英国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2012.1 独立系広告代理店のMLロジャース(米国)の株式100%を買収、電通ネットワーク・ウエストに吸収合併。
2012.2 フランスの広告代理店であるピュブリシスグループとの戦略的提携契約を解除し、同社の株式9.31%を約664億円で売却。2%のみ継続保有。
2012.4 子会社の電通ネットワーク・ウエストを通じ、独立系デジタルエージェンシーのラブ社(ブラジル)の株式100%を買収、完全子会社化。
2012.5 インターネットサイト運営のカカクコム(売上高200億円)の株式15.06%をカルチュアコンビニエンスクラブ(CCC)から買収。
2012.6 カナダの広告会社ボス社(売上高約18億円)の株式100%を買収、電通ネットワーク参加の電通カナダに吸収合併。
2013.1 米国の独立系PR会社ミッチェル・コミュニケーション・グループ(売上高約9億円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2013.3 メディア・デジタル領域に強みを持ち、欧州に堅固な事業基盤を確立する英国の広告会社イージス社(売上高1兆4,996億円)の株式100%を4090億円で買収、完全子会社化。
2013.4 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディアを通じて、中国のデジタルメディア・エージェンシーである北京创世奇迹广告有限公司の株式100%を買収、完全子会社化。
2013.4 電通プラスを通じてタイのコンサルティング会社ブランドスケープ社(売上総利益1億1000万円)を買収。
2013.5 電通イージス・ネットワークを通じて、企業のブランド戦略を支援するベルギーのニューワールドグループ(売上総利益約17億円)の株式100%を買収。
2013.5 電通メディア・アンド・ホールディングス・インディアを通じて、インドのデジタル・クリエーティブ・エージェンシーのウェブチャットニー・スタジオ社(売上総利益3億1000万円)の株式80%を買収。
2013.5 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディアを通じ、ルーマニアのデジタルメディア・エージェンシーのKinecto International SRLの株式100%を買収。キネクト・アイソバーに社名変更。
2013.7 イージス・メディア・イタリアを通じて、イタリアのインターネット広告会社シンプル・エージェンシー(売上総利益約35億円)の株式約70%を買収。
2013.9 イージス・メディア・イベリアを通じて、スペインの広告会社ワイメディア(売上総利益13億9000万円)の株式51%を買収。同時にワイメディアが出資するスペインの広告会社ウインクの株式31.8%を買収。
2013.9 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディア・チャイナを通じて、中国のデジタル・クリエーティブ・エージェンシーのTRIO社(売上総利益5億5000万円)の株式100%を買収。トリオ・アイソバーに社名変更。
2013.10 イージス・メディア・ロシア&CISを通じて、ロシアの広告会社トラフィック(売上総利益6億3000万円)を買収。トラフィック・アイソバーに社名変更。
2014.2 電通イージス・ネットワークを通じて、中国のソーシャル・クリエーティブ・エージェンシーのベラウォム社(売上総利益3億4000万円)の株式100%を買収。
2014.2 電通イージス・ネットワークを通じて、ドイツのデジタル・マーケティング・エージェンシーのエクスプリード社(売上総利益16億4000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2014.3 電通イージス・ネットワークを通じて、フランスのモバイルエージェンシーのレ・モビリザーズ社(売上総利益1億1000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2014.5 電通イージス・ネットワーク傘下の米国イージス・ライフスタイル社を通じて、米国の総合マーケティング会社のMKTG(売上総利益43億3000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。(※プレスリリースは買収手続き開始のみ)
2014.9 電通イージス・ネットワークを通じて、米国の総合デジタルエージェンシーのコバリオ(売上総利益34億4000万円)のエージェンシー部門を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、英国のソーシャルメディア・マネジメント・エージェンシーのテンペロ(売上総利益7億8000万円)の株式100%を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、ブラジルで屋外・交通広告を専門とするOOHプラス(売上総利益7億4000万円)の株式100%を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、カナダのデジタルエージェンシーのスポーク(売上総利益1億7000万円)の株式100%を買収。
2015.1 電通イージス・ネットワークを通じて、インドの総合デジタルエージェンシーのWATコンサルト(売上総利益3億2000万円)の株式90%を買収。段階的に100%まで取得することに同社株主と合意。
2015.4 電通イージス・ネットワークを通じて、米国のデータ分析・消費者インサイトに基づくコンサルティング会社のフォーブス・コンサルティング(売上総利益9億2000万円)の株式100%を買収。
2015.4 電通イージス・ネットワークを通じて、イスラエルのデジタルエージェンシーのアバガダ・インターネット(収益6億2千万円)の株式100%を買収。
2015.6 電通イージス・ネットワークを通じて、ポーランドのデジタル・パフォーマンス・エージェンシーのマーケティング・ウィザーズ(収益2億9000万円)の株式100%を買収。
2015.7 電通イージス・ネットワークを通して、ブラジルのデジタルエージェンシーのリダイレクト・デジタル・マーケティング(収益1億6000万円)の株式100%を買収。
2015.7 医療用医薬品のマーケティングに特化したシナジーメディカルコミュニケーションズ(売上高8億2000万円)の株式100%を買収。
2015.10 電通イージス・ネットワークを通して、フランスでアクティベーション領域に強みを持つマーケティング会社のゾーンフランシェ(収益5億9000万円)の株式100%を買収。
2015.12 電通イージス・ネットワークを通して、フィリピンのクリエーティブ・エージェンシーののジェイミーサイフー・グループ(収益4億3000万円)の株式70%を買収。今後段階的に100%まで取得することを同社株主と合意。

 イージス社買収以前の電通は国内でのM&Aが比較的多い。

 傘下の電通国際情報サービスではIT分野における開発系の同業・近隣業種の買収を手掛けるが、今回は広告業に着目したい。

 以下は電通単体のものとして公開されているデータであるが、テレビに次いで二番目に大きい新聞広告での売上高が05年から14年までの10期で半分近くに減少している。電通は国内の広告費シェアの25%以上と、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌の4つのメディアで1位の企業。従ってこの推移は業界全体のトレンドと大きな乖離(かいり)は無いだろう。新聞での売上高減少を埋め合わせるために別媒体でのノウハウと売り上げの取り込みを急いだのは必然だ。

 国内では、06年4月には名古屋鉄道子会社の名鉄エージェンシーの株式50%を買収。名鉄エージェンシーは鉄道子会社だけあって交通広告(OOHメディア)に強みを持ち、電通が手薄であった分野をカバーできる。同年7月には撮影用スタジオの横浜スーパーファクトリーを買収、これはテレビ分野での広告とシナジーが高い。07年10月のオプト、09年3月のサイバー・コミュニケーションズの買収は、今後マーケットの拡大が見込めるインターネット分野でのノウハウの取り込みといったところか。

 一方で、海外では合弁会社の設立などで既に足掛かりのある米国・アジアでの買収が中心で、欧州には進出できていない。

 イージス社買収を語る前に、12年2月のピュブリシスとの戦略的提携の解除と株式譲渡は外せない。ピュブリシスグループは世界第3位のメガエージェンシーである。電通はピュブリシスのグローバルな経営の手法や戦略にシナジーを求めたが、電通の持株比率は11.31%のマイノリティーに留まったために満足のいく成果は出せなかったものとされる。なお、ピュブリシスはその後広告業界世界第2位のオムニコムと合併し、売上高総利益2兆2300億円の世界最大手の広告会社となっている。

 ピュブリシスとの提携を解除した電通はグローバルな展開を諦めず、新たなパートナーとして選んだのが英国の大手広告代理店のイージスである。12年7月に買収手続きを開始し、当初は年内のクロージングを予定していたにも関わらず、実際に買収が成立したのは13年3月。折しも尖閣問題で日中関係が悪化する中、中国からの承認が下りず手続きが長引いた。当事者が中国で一定の売り上げを持つM&Aに関しては中国当局の承認を要するため、電通に限らず、この時期にクロスボーダーM&Aを手掛けた企業は苦戦を強いられた。

 約4000億円の巨額を投じたイージス買収であるが、米国・アジアへの足場を固めつつあった電通と欧州に盤石な事業基盤を持つイージスの提携は、マーケットや顧客、拠点などの相互補完という意味で非常にシナジーが大きい。イージスはIFRS適用企業であるが、買収当時の日本基準での売上高は約11854.7百万ポンド=1兆4996億円(1ポンド=126.5円、以下同様)とされる。直近のイージスの連結純資産は585億円、連結営業利益は184億円であるから、営業利益ベースで実に19年程度ののれんをつけた価額での買収ということになる。

 ところで、電通はイージスの買収資金のうち2000億円を銀行からの短期借入金で賄ったところ、自己資本比率が前期末に比べ18%減の27%となった。機動的なM&Aを展開していくためにも財務体質を改善する必要があると判断した電通は、上場以来初の増資に踏み切る。発行済み株式数の10%に当たる自己株式を売り出して約1200億円を調達、借入金の一部返済に充当した。イージスの買収を公表した12年7月から期待感で株価が上昇しており、当時の約1.5倍の1株3191円の値がついた。13年は市場の活況により大型の公募増資が相次いだ年であり、株高も追い風となった形だ。

■ネットデットと自己資本比率

 その後、財務の懸念を払拭した電通はイージスを海外本社とし、欧州もターゲットに加えて矢継ぎ早にM&Aを展開する。ベルギーのニューワールドグループやイタリアのシンプル・エージェンシーなども含めて13年のみで10件以上のM&Aを手掛けている。翌14年以降も対象業種は同業の広告会社・マーケティング会社などで一貫しており、拠点と世界的なシェアの拡大が狙いのM&Aが続く。広告の中でもとりわけデジタル分野が目立つのは、インターネットやスマートフォンの普及を受けて、電通が17年に向けた中期経営計画の課題にデジタル領域の進化と拡大を掲げるためである。中国のベラウォム、カナダのスポーク、インドのWATコンサルト、ポーランドのマーケティング・ウィザーズ他、洋の東西を問わず買収を続けている。

 ではどのくらい「時間を買った」のか、売上高と利益の推移を見ると分かりやすい。

■業績推移

■国内外売上高推移

 国内売上高は07年の1兆9972億円をピークに落ち込み始め、10年の1兆5403億円でいったん下げ止まる。その後15年3月期の時点でもまだピーク時には及ばない。一方で、海外売上高は好調である。イージスの業績が含まれるとともにM&Aが活発であった14年3月期には売上高2兆4265億円、その後も度重なるM&Aにより伸長を続ける。決算期の変更があった15年12月期でも既に過去最高売り上げを記録している。海外セグメントに牽引されて、全体での売上高・利益の伸長も目覚ましい。 20年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて広告業界の需要も増加が見込まれるという。

 近年はクロスボーダーのM&Aに注力していた電通だが、17年度に向けての中期経営計画において、グローバルでのポートフォリオの多極化やデジタル領域の進化と拡大などとともに日本市場での更なる事業基盤強化を課題として挙げている。世界的には再編の動きの見られる広告業界だが、日本国内にも余波は及ぶのだろうか。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。

大手コンビニ3社、成人誌の販売中止を相次ぎ決定

大手コンビニ3社、成人誌の販売中止を相次ぎ決定

2019.01.22

セブン、ローソンに続きファミマも成人誌を販売中止

インバウンドの増加、オリンピックの開催も影響か

コンビニ最大手のセブン-イレブンと業界3位のローソンが成人向け雑誌の販売中止を発表したのに続き、業界2位のファミリーマートも同様の方針を打ち出した。大手3社の足並みがそろい、日本国内のほとんどのコンビニ店頭から成人誌が消える。

国内のセブン-イレブン店舗数は2万店を超え、ローソンとファミマが1万5,000店前後でこれに続く。それぞれ今年の8月末までに取り扱いを原則中止するという。これまで一部店舗で成人誌の販売を中止していた例はあったが、今回は各社全店舗で取り扱いを中止する。業界では昨年1月から、ミニストップが他社に先駆けて全店で取り扱いを中止していた。

もともと諸外国にくらべ、女性や子どもの目につきやすいコンビニ店頭などに成人誌が置かれている日本のゾーニングの現状は特殊であるとの批判があった。また、インバウンドで訪日外国人が増え、この論調に拍車がかかっていたほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、イメージ低下を防ぐ要請が強まっていたという背景がある。

コンビニでの成人誌の購買層は近年、高齢男性に偏るとともに売り上げの減少も顕著であったといい、ゾーニングの問題が取り扱い中止の大義名分になったという見方もある。ある出版関係者は、「一部では電子版などネット展開を強化している流れはあるが、今でもコンビニは重要な販路なので、相当な混乱があるだろう」と話す。どちらにせよ、日本の成人誌は岐路に立たされることになる。