【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

2016.06.21

【電通】クロスボーダーM&Aで“世界の電通”へ

電通<4324>は1906年設立。光永星郎が01年に設立した日本広告及び06年に設立した日本電報通信社の2社が合併し発足した。36年、日本電報通信社が有したニュース通信部門を売却し、広告代理店専業となる。

 2015年3月期よりIFRSを適用しているため、決算短信上の収益(ネット売上高)は7064億円であるが、「顧客に対して行った請求額及び顧客に対する請求可能額の総額」として公表しているグロス売上高は連結で4兆5260億円。2位の博報堂(連結売上高:1兆1130億円)、3位のアサツーディ・ケイ(連結売上高:3519億円)を大きく引き離し、国内広告業界の首位を独走している。

 電通は日本のみならず、15年の売上総利益に基づく広告コミュニケーション産業のランキング(『アドバタイジング・エージ』誌発表)においても世界5位を記録する、グローバルな企業集団である。

 そうは言っても、今でこそグローバルな地位と活発なクロスボーダーM&Aのイメージを持つ電通であるが、意外にも10年頃までは国内での売上高が90%以上のドメスティックな企業であった。00年代前半までの海外展開は主に日本の電通を海外に輸出するというスタイルで、自前で拠点をつくり、人を雇うことで海外への足掛かりを得る形を取っていた。

 転機となるのは13年4月の英国イージス社の買収であるが、まずはそれ以前をかいつまんで見て行きたい。

■これまでに行った主なM&A

年月 内容
2004.6 スポーツマーケティング会社のワールド・スポーツ・グループ・ホールディングス(シンガポール)の株式の30%を買収。
2004.9 韓国における電通関連会社である電通イノベック(売上高35億円)の株式を40%から85%まで追加取得。
2005.8 電通国際情報サービスを通じて、ソフトウェア開発のブレイニ―ワークス(売上高100億円)の株式を66.1%から95.3%まで追加取得。
2005.11 電通国際情報サービスを通じ、IT分野で協業していた兼松エレクトロニクス(売上高631億円)の株式の12%を34億2000万円で譲渡。
2005.11 CRMの専門会社であるインターロジックス(売上高5億円)の株式を14.71%から50.01%まで追加取得、子会社化。
2005.11 電通国際情報サービスを通じ、ITコンサルティングなどを手掛ける日本ビジネスクリエイト(売上高7億8000万円)の株式75.6%を5億4000万円で譲渡。
2005.11 株式交換により連結子会社の電通テック(売上高1569億円)の株式の31.1%を約131億円程度で追加取得、完全子会社化。
2006.3 電通国際情報サービスを通じ、コンピュータ解析・コンサルティングのエステック(売上高9億円)の株式の100%を買収。
2006.3 セールスプロモーションや交通広告を得意とする名鉄エージェンシー(売上高159億円)の株式の50%を買収。
2006.7 大型撮影用スタジオの運営を行う横浜スーパーファクトリー(売上高7億円)の全株式を9600万円で買収。
2006.9 キャラクター・マーチャンダイジング業界大手のソニー・クリエイティブプロダクツ(売上高74億円)から第三者割当増資の引受により株式の33.33%を買収。
2007.10 英国及び米国のクリエーティブ・ブティックのアティック社の株式の100%を買収。
2007.12 公開買付によりeマーケティング事業に強みを持つオプト(売上高255億円)の株式の18.1%を102億円で買収。
2008.4 キャラクター・マーチャンダイジング業界大手のソニー・クリエイティブプロダクツ(売上高74億円)の株式の33.33%を譲渡。
2008.11 ビデオグラム販売を行うジェネオン・エンタテイメントの株式の過半数を米国のUPIEに譲渡、ジェネオン・エンタテイメントとUPIEの日本法人UPJが合併。
2008.11 米国の独立系広告会社のマックギャリー・ボウエン社(売上高51億円)の株式100%を買収。
2009.3 公開買付によりインターネットやモバイルメディアの広告の取扱いを行うサイバー・コミュニケーションズ(売上高517億円)の株式を85億円で追加取得(47.49%→84.59%)。
2009.5 株式交換によりサイバー・コミュニケーションズ(売上高517億円)の株式13.95%を買収、完全子会社化。
2009.7 サイバー・コミュニケーションズの子会社でありSEMを中心とするインターネット広告事業の電通サーチ&リンクの株式20%を譲渡。サイバー・コミュニケーションズは引き続き51%保有。
2009.10 DPZ社との合弁により設立したブラジルの電通ラテンアメリカの株式49%を買収、完全子会社化。
2010.1 店頭・街頭販促を手掛ける中国のサントレンドグループ(売上高251億円)の株式40%を買収。
2010.1 デジタル・マーケティング・サービスを展開するイノベーション・インタラクティブ社(米国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2010.12 マーケティングサービス提供のオプト(売上高506億円)の株式14.4%を譲渡。
2010.12 製造業向けコンサルティングのITIDの株式34パーセントを買収、完全子会社化。
2011.1 インドにおける総合広告代理店である電通コミュニケーションズ、電通マーコム、電通クリエーティブ・インパクトの(インド)株式26パーセントを買収、完全子会社化。
2011.2 デジタル・クリエーティブ・エージェンシーのファーストボーン・マルチメディア社(米国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2011.6 独立系のデジタル・マーケティング・エージェンシーのステーキ・グループ社(英国)の株式100%を買収、完全子会社化。
2012.1 独立系広告代理店のMLロジャース(米国)の株式100%を買収、電通ネットワーク・ウエストに吸収合併。
2012.2 フランスの広告代理店であるピュブリシスグループとの戦略的提携契約を解除し、同社の株式9.31%を約664億円で売却。2%のみ継続保有。
2012.4 子会社の電通ネットワーク・ウエストを通じ、独立系デジタルエージェンシーのラブ社(ブラジル)の株式100%を買収、完全子会社化。
2012.5 インターネットサイト運営のカカクコム(売上高200億円)の株式15.06%をカルチュアコンビニエンスクラブ(CCC)から買収。
2012.6 カナダの広告会社ボス社(売上高約18億円)の株式100%を買収、電通ネットワーク参加の電通カナダに吸収合併。
2013.1 米国の独立系PR会社ミッチェル・コミュニケーション・グループ(売上高約9億円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2013.3 メディア・デジタル領域に強みを持ち、欧州に堅固な事業基盤を確立する英国の広告会社イージス社(売上高1兆4,996億円)の株式100%を4090億円で買収、完全子会社化。
2013.4 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディアを通じて、中国のデジタルメディア・エージェンシーである北京创世奇迹广告有限公司の株式100%を買収、完全子会社化。
2013.4 電通プラスを通じてタイのコンサルティング会社ブランドスケープ社(売上総利益1億1000万円)を買収。
2013.5 電通イージス・ネットワークを通じて、企業のブランド戦略を支援するベルギーのニューワールドグループ(売上総利益約17億円)の株式100%を買収。
2013.5 電通メディア・アンド・ホールディングス・インディアを通じて、インドのデジタル・クリエーティブ・エージェンシーのウェブチャットニー・スタジオ社(売上総利益3億1000万円)の株式80%を買収。
2013.5 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディアを通じ、ルーマニアのデジタルメディア・エージェンシーのKinecto International SRLの株式100%を買収。キネクト・アイソバーに社名変更。
2013.7 イージス・メディア・イタリアを通じて、イタリアのインターネット広告会社シンプル・エージェンシー(売上総利益約35億円)の株式約70%を買収。
2013.9 イージス・メディア・イベリアを通じて、スペインの広告会社ワイメディア(売上総利益13億9000万円)の株式51%を買収。同時にワイメディアが出資するスペインの広告会社ウインクの株式31.8%を買収。
2013.9 電通イージス・ネットワーク傘下のイージス・メディア・チャイナを通じて、中国のデジタル・クリエーティブ・エージェンシーのTRIO社(売上総利益5億5000万円)の株式100%を買収。トリオ・アイソバーに社名変更。
2013.10 イージス・メディア・ロシア&CISを通じて、ロシアの広告会社トラフィック(売上総利益6億3000万円)を買収。トラフィック・アイソバーに社名変更。
2014.2 電通イージス・ネットワークを通じて、中国のソーシャル・クリエーティブ・エージェンシーのベラウォム社(売上総利益3億4000万円)の株式100%を買収。
2014.2 電通イージス・ネットワークを通じて、ドイツのデジタル・マーケティング・エージェンシーのエクスプリード社(売上総利益16億4000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2014.3 電通イージス・ネットワークを通じて、フランスのモバイルエージェンシーのレ・モビリザーズ社(売上総利益1億1000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。
2014.5 電通イージス・ネットワーク傘下の米国イージス・ライフスタイル社を通じて、米国の総合マーケティング会社のMKTG(売上総利益43億3000万円)の株式100%を買収、完全子会社化。(※プレスリリースは買収手続き開始のみ)
2014.9 電通イージス・ネットワークを通じて、米国の総合デジタルエージェンシーのコバリオ(売上総利益34億4000万円)のエージェンシー部門を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、英国のソーシャルメディア・マネジメント・エージェンシーのテンペロ(売上総利益7億8000万円)の株式100%を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、ブラジルで屋外・交通広告を専門とするOOHプラス(売上総利益7億4000万円)の株式100%を買収。
2014.12 電通イージス・ネットワークを通じて、カナダのデジタルエージェンシーのスポーク(売上総利益1億7000万円)の株式100%を買収。
2015.1 電通イージス・ネットワークを通じて、インドの総合デジタルエージェンシーのWATコンサルト(売上総利益3億2000万円)の株式90%を買収。段階的に100%まで取得することに同社株主と合意。
2015.4 電通イージス・ネットワークを通じて、米国のデータ分析・消費者インサイトに基づくコンサルティング会社のフォーブス・コンサルティング(売上総利益9億2000万円)の株式100%を買収。
2015.4 電通イージス・ネットワークを通じて、イスラエルのデジタルエージェンシーのアバガダ・インターネット(収益6億2千万円)の株式100%を買収。
2015.6 電通イージス・ネットワークを通じて、ポーランドのデジタル・パフォーマンス・エージェンシーのマーケティング・ウィザーズ(収益2億9000万円)の株式100%を買収。
2015.7 電通イージス・ネットワークを通して、ブラジルのデジタルエージェンシーのリダイレクト・デジタル・マーケティング(収益1億6000万円)の株式100%を買収。
2015.7 医療用医薬品のマーケティングに特化したシナジーメディカルコミュニケーションズ(売上高8億2000万円)の株式100%を買収。
2015.10 電通イージス・ネットワークを通して、フランスでアクティベーション領域に強みを持つマーケティング会社のゾーンフランシェ(収益5億9000万円)の株式100%を買収。
2015.12 電通イージス・ネットワークを通して、フィリピンのクリエーティブ・エージェンシーののジェイミーサイフー・グループ(収益4億3000万円)の株式70%を買収。今後段階的に100%まで取得することを同社株主と合意。

 イージス社買収以前の電通は国内でのM&Aが比較的多い。

 傘下の電通国際情報サービスではIT分野における開発系の同業・近隣業種の買収を手掛けるが、今回は広告業に着目したい。

 以下は電通単体のものとして公開されているデータであるが、テレビに次いで二番目に大きい新聞広告での売上高が05年から14年までの10期で半分近くに減少している。電通は国内の広告費シェアの25%以上と、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌の4つのメディアで1位の企業。従ってこの推移は業界全体のトレンドと大きな乖離(かいり)は無いだろう。新聞での売上高減少を埋め合わせるために別媒体でのノウハウと売り上げの取り込みを急いだのは必然だ。

 国内では、06年4月には名古屋鉄道子会社の名鉄エージェンシーの株式50%を買収。名鉄エージェンシーは鉄道子会社だけあって交通広告(OOHメディア)に強みを持ち、電通が手薄であった分野をカバーできる。同年7月には撮影用スタジオの横浜スーパーファクトリーを買収、これはテレビ分野での広告とシナジーが高い。07年10月のオプト、09年3月のサイバー・コミュニケーションズの買収は、今後マーケットの拡大が見込めるインターネット分野でのノウハウの取り込みといったところか。

 一方で、海外では合弁会社の設立などで既に足掛かりのある米国・アジアでの買収が中心で、欧州には進出できていない。

 イージス社買収を語る前に、12年2月のピュブリシスとの戦略的提携の解除と株式譲渡は外せない。ピュブリシスグループは世界第3位のメガエージェンシーである。電通はピュブリシスのグローバルな経営の手法や戦略にシナジーを求めたが、電通の持株比率は11.31%のマイノリティーに留まったために満足のいく成果は出せなかったものとされる。なお、ピュブリシスはその後広告業界世界第2位のオムニコムと合併し、売上高総利益2兆2300億円の世界最大手の広告会社となっている。

 ピュブリシスとの提携を解除した電通はグローバルな展開を諦めず、新たなパートナーとして選んだのが英国の大手広告代理店のイージスである。12年7月に買収手続きを開始し、当初は年内のクロージングを予定していたにも関わらず、実際に買収が成立したのは13年3月。折しも尖閣問題で日中関係が悪化する中、中国からの承認が下りず手続きが長引いた。当事者が中国で一定の売り上げを持つM&Aに関しては中国当局の承認を要するため、電通に限らず、この時期にクロスボーダーM&Aを手掛けた企業は苦戦を強いられた。

 約4000億円の巨額を投じたイージス買収であるが、米国・アジアへの足場を固めつつあった電通と欧州に盤石な事業基盤を持つイージスの提携は、マーケットや顧客、拠点などの相互補完という意味で非常にシナジーが大きい。イージスはIFRS適用企業であるが、買収当時の日本基準での売上高は約11854.7百万ポンド=1兆4996億円(1ポンド=126.5円、以下同様)とされる。直近のイージスの連結純資産は585億円、連結営業利益は184億円であるから、営業利益ベースで実に19年程度ののれんをつけた価額での買収ということになる。

 ところで、電通はイージスの買収資金のうち2000億円を銀行からの短期借入金で賄ったところ、自己資本比率が前期末に比べ18%減の27%となった。機動的なM&Aを展開していくためにも財務体質を改善する必要があると判断した電通は、上場以来初の増資に踏み切る。発行済み株式数の10%に当たる自己株式を売り出して約1200億円を調達、借入金の一部返済に充当した。イージスの買収を公表した12年7月から期待感で株価が上昇しており、当時の約1.5倍の1株3191円の値がついた。13年は市場の活況により大型の公募増資が相次いだ年であり、株高も追い風となった形だ。

■ネットデットと自己資本比率

 その後、財務の懸念を払拭した電通はイージスを海外本社とし、欧州もターゲットに加えて矢継ぎ早にM&Aを展開する。ベルギーのニューワールドグループやイタリアのシンプル・エージェンシーなども含めて13年のみで10件以上のM&Aを手掛けている。翌14年以降も対象業種は同業の広告会社・マーケティング会社などで一貫しており、拠点と世界的なシェアの拡大が狙いのM&Aが続く。広告の中でもとりわけデジタル分野が目立つのは、インターネットやスマートフォンの普及を受けて、電通が17年に向けた中期経営計画の課題にデジタル領域の進化と拡大を掲げるためである。中国のベラウォム、カナダのスポーク、インドのWATコンサルト、ポーランドのマーケティング・ウィザーズ他、洋の東西を問わず買収を続けている。

 ではどのくらい「時間を買った」のか、売上高と利益の推移を見ると分かりやすい。

■業績推移

■国内外売上高推移

 国内売上高は07年の1兆9972億円をピークに落ち込み始め、10年の1兆5403億円でいったん下げ止まる。その後15年3月期の時点でもまだピーク時には及ばない。一方で、海外売上高は好調である。イージスの業績が含まれるとともにM&Aが活発であった14年3月期には売上高2兆4265億円、その後も度重なるM&Aにより伸長を続ける。決算期の変更があった15年12月期でも既に過去最高売り上げを記録している。海外セグメントに牽引されて、全体での売上高・利益の伸長も目覚ましい。 20年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて広告業界の需要も増加が見込まれるという。

 近年はクロスボーダーのM&Aに注力していた電通だが、17年度に向けての中期経営計画において、グローバルでのポートフォリオの多極化やデジタル領域の進化と拡大などとともに日本市場での更なる事業基盤強化を課題として挙げている。世界的には再編の動きの見られる広告業界だが、日本国内にも余波は及ぶのだろうか。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる