古都ではなく大学の街、京都が見出した再配達問題の解決策

古都ではなく大学の街、京都が見出した再配達問題の解決策

2018.04.06

世界に名だたる観光都市の京都市。だが同時に、京都市は39の大学・短大が集まる「大学の街」でもある。少子高齢化の中、京都市の0歳~17歳までの人口比率は各歳0.7~0.8%にとどまるが、18歳~22歳までは1.1~1.4%まで上がり(2015年国勢調査データより)、実に15万人が在学しているという。東京大学に並ぶ京都大学に加え、同志社大学や立命館大学といった西の私立名門校も多く京都にあることも一因だろう。

大学生はある意味で社会人以上に忙しい。勉強にスポーツ、サークル、アルバイト、インターン、社会人を"卒業"するまでのおよそ50年間、最後の"夏休み"としてやりたいことをやれる時期だけに、家にいないという学生も多い。一方で、学生世代はその殆どがスマホネイティブ世代。スマートフォンでECサイトを利用することに障壁はなく、当たり前の環境だ。

ただ、ECの拡大による物流の破綻は社会問題化している。改めて説明するまでもないだろうが、ヤマト運輸が社員の業務環境の是正のために配達指定時間の組み換えや値上げを実施したほか、ヤマト運輸の人手不足対策に合わせた賃金引き上げに伴って、競合他社も賃金の見直しの波が押し寄せるとも言われている。

物流にしわ寄せがきた最大の要因は、再配達問題だ。国土交通省が2014年に行ったサンプル調査では、宅配便の個数のおよそ2割が再配達となっている。しかもこの数字、全宅配物における数字であり、法人受け取りなど受け取り率が高いものも含めた総数になっている。つまり、一般家庭における再配達率はさらに高い。

国土交通省Webサイトより

再配達率を減らすために

京都市とパナソニック、京都産業大学の三者と、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の三社が昨年11月から今年の1月末まで、「京(みやこ)の再配達を減らそう」プロジェクトを行った。このプロジェクトでは、京都産業大学の学生や教職員らの協力のもと、再配達問題の解消に向けて実証実験した。

プロジェクトでは、宅配ボックスをアパートや大学に設置。再配達率の低下や、それに伴う環境負荷の軽減がどの程度見込めるかを調査した。前述の一般家庭における再配達率では、大学生中心ということもあり、アンケート回答によれば43%にも達していた(推計値)。

設置された宅配ボックスと、利用した学生

宅配ボックスは、一般的な日用品が複数個詰まった程度のEC宅配ダンボールであれば入る程度の大きさ。近年、新築マンションの多くは宅配ボックスを設置しているが、「アパートでは1~2割行くかどうか」(不動産管理会社担当者)。アパートは設置スペースに余裕がなく、結果として再配達率が高止まりしてしまうようだ。

実証実験では、宅配ボックスを設置したことで、再配達率が15%まで激減。アンケート協力者11名の21日累計、サンプル数117個の結果とは言え、33回もの再配達を削減できたことは大きな成果といえよう。ただしこの数字にはまだ課題がある。

残りの15%、18回の再配達結果のうち、半数の9回が「(荷物が)大きいため」という理由で再配達となっていた。これについてパナソニック エコソリューションズ社 外廻りシステムビジネスユニット 外廻り設備商品推進部 部長の中島 裕章氏は、「今回の製品は"ハーフタイプ"。ミドルタイプの製品も拡充することで、大型製品も拡充したい」と語る。仮に、このミドルタイプを設置していた場合、9回の大型荷物を収納できていたと仮定して「8%まで減らせたのではないか」(中島氏)。

パナソニックは、これまで福井県あわら市で戸建住宅における再配達問題解決のための実証実験を行っていた。こちらではミドルタイプをすでに提供しており、実際に再配達率も8%と、ミドルタイプ投入時の仮定と同じ結果を示している。実際には、アパート向け製品は他の住人と共有ボックスとなるため、実験結果にもあった再配達理由の「ボックスがいっぱい」というケースから幾分の数字の上振れはあるだろう。

追加投入されたミドルタイプ(左)は右のものよりも倍の大きさの荷物を収容できるという

ただ、およそ4割から1割まで、1/4減らせるという結果は大きな意味を持つ。実際、実証実験に参加した日本郵便などの配達員も再配達の負担は大きいと口にしており、設置率の低いアパートや戸建住宅でも宅配ボックスが広まれば、作業負荷が軽減できる。今回の実証実験による試算では、配達に伴うCO2の削減は京都市全体のアパート換算で年間約900t、配達員の業務時間削減は同じ換算で年間219人分にも達する。環境面はもちろん、労働力の最適化は、少子高齢化が進む日本にとって福音にほかならない。

パナソニック エコソリューションズ社 外廻りシステムビジネスユニット 外廻り設備商品推進部 部長 中島 裕章氏
大幅な環境負荷の軽減、人手不足への解決策となる宅配ボックス

もう一つ、実証実験には「公共用」も用意された。近年、駅などの公共施設にECサイト運営者が受け取りボックスを設置するケースが増えている。これに似た形で、京都産業大学が学生と教職員の受け取り用に実証実験で宅配ボックスを設置した。受け取りには、発行された受け取り番号・パスワードを入力する必要がある。ただこちらは、大型から小型まで、形状に合わせたサイズのボックスが用意されており、納品できなかった理由でも「サイズ」は比較的少数に落ち着いていた。

公共用の意義は、ずばり「ライフスタイルにあわせた受け取り方法の検証」。利用したという教職員は、共働きで受け取り時間を区切られてしまう自宅への宅配よりも、帰宅前に立ち寄れる大学での受け取りの方が良いと話す。帰宅時に手荷物が増えることになるものの、それよりも受け取れないという心理的負担の軽減を優先したいという気持ちが上回るようだ。

一方で学生も同様の理由で利用しており、公共用宅配ボックスでは検証期間中、最大で9個の商品を受け取った学生がいたという。学生特有の事情としては、新学期などに新しい教材を受け取る必要があるが、大学に持ち込む手間と再配達によるタイミングの不一致を考慮すれば「大学で受け取る方が便利」(学生)。

京都市長の門川 大作氏は、今回の実証実験について「売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しという言葉があるが、京都では『未来良し』も含めた四方良しにしたい。環境も含めて考えることで未来へと繋げたい」と、近江商人の言葉を引用して話す。一方でパナソニックは、実証実験を受けてミドルタイプの追加投入を決めたが、冷蔵品の保管やボックスの満庫、利用方法の周知など課題もあると語る。

京都市長 門川 大作氏

アパート向けについては実証実験の設置をそのまま設備として転用することが決まったが、公共用については撤去の可能性が高く、京都市の担当者も「(公共施設への設置は)前向きに考えたいが、現状は決まったことはない」と話す。一朝一夕で進められることではないものの、三大都市圏を中心として急速に拡大するEC需要はさらなる物流の逼迫を招く。国や自治体の補助金制度の拡充など、行政を巻き込んだ早急な対策が求められそうだ。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

関連記事
スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

関連記事