縮小する結婚式市場、スマ婚が逆転の口火を切る - ショールームの意図とは

縮小する結婚式市場、スマ婚が逆転の口火を切る - ショールームの意図とは

"格安結婚式"を実現する「スマ婚」が、東京都・渋谷にショールームを開設した。くつろげる空間を併設しており、無料でコーヒーを飲みながら、結婚式に関する情報を収集できるオープンスペースだ。道玄坂の一等地で始めた新たな試みは、ゆるやかに縮小しつつあるブライダル市場の中で、どのような位置づけにあるのだろうか。

スマ婚の渋谷ショールーム。明るく広々とした空間で、初めての人も入りやすそうだ

ターゲットの減少で市場は縮小する一方

矢野経済研究所によると、2015年のブライダル関連市場規模は前年比99.3%の2兆5,480億円だった(挙式・披露宴、家具、旅行、ジュエリー、結納関連、結婚情報サービスの主要6分野の合計)。その中で過半数を占める挙式・披露宴の関連市場規模は同99.4%の1兆4,160億円。ここ数年ずっと、微減傾向にある。

厚生労働省がまとめた2015年の婚姻件数は約63万5,000件で、前年比98.6%(速報ベース)。この数字は戦後最小だという。人口減によって婚姻件数が減少しているだけでなく、晩婚化や経済的な事情から、挙式・披露宴を行うカップルも減っている。

挙式件数の減少による大幅な売り上げ減を防ぐため、ブライダル関連サービスでは、価格を引き上げる傾向にある。リクルート ブライダル総研の「ゼクシィ結婚トレンド調査2015」によると、挙式・披露宴の総額平均は352.7万円。消費増税の影響もあるが、前年調査より19万円増加している。

5年で50万円もアップ!?

「5~6年前だと、披露宴の平均予算は300万円ほどだった。それがここ数年で50万円も上がっている。経済的な理由から挙式をしなかったり、家族だけの食事会で済ませたり、といったカップルが増えたことで挙式件数も減り、式場は売り上げ確保のためにまた単価を上げる、という悪循環に陥ってしまった」とスマ婚を運営するメイション 渋谷支社の新地将史支社長は説明する。

メイション 渋谷支社の新地将史支社長。手に持っているのは同社の人気コンテンツ「子育て卒業証書」。子どもの結婚をもって、子育てを「卒業」するという意味で両家両親へ贈る

結婚式の2次会代行サービス「2次会くん」で業績を伸ばしていたメイションは、2009年に「スマ婚」を立ち上げた。リーマンショック後の経済低迷を背景に、派手な演出を行わない"地味婚"や、挙式そのものを行わない"ナシ婚"が広がり始めた時期だ。

「それまで、挙式から披露宴まで、式場がすべてプロデュースするスタイルだった。それだと利用者にとっては式場やドレスの選択肢も少なく、業者間の競争原理も働かないので高額になりがち。スマ婚では、式場・ドレスなどを自由に選べるため、業者間でも競争が起こり、挙式・披露宴の価格破壊を引き起こせた。現在、スマ婚が手がける挙式・披露宴は平均200万円前後と、一般的な式場の6割程度で済む」と新地支社長はいう。

大安吉日に都心の人気ホテルで挙式

平均200万円前後で挙式・披露宴ができるスマ婚。その仕組みはこうだ。

まず、ホテルやゲストハウスなどの結婚式場から挙式・披露宴会場の空きスペースを仕入れる。もともと空いているものなので、ホテルとしては「遊ばせておくよりは利益になる」と格安でスマ婚に卸す。スマ婚が式場から仕入れるのはスペースとサービススタッフと料理だけ。衣装や司会者、カメラマン、装花、引き出物などはスマ婚で用意して持ち込む形となる。

空きスペースを仕入れるとなると、日曜・祝日のほか、大安・友引といった結婚式をあげるのに縁起が良いとされる日はすでに埋まってしまって、選べる日時が限られてしまうのでは、という疑問が生じる。それに対して新地支社長は、「式をあげるカップルが減り、ホテル、ゲストハウスともに空きが増えた。宿泊が好調なホテルも、宴会場を埋められないでいる。そのため、良い日取りでも案内できる場所はいくつもある」と説明する。

ショールームにはメーカー、価格、デザインの異なるドレスとタキシードが陳列されている。このほか、カタログに載っているものからも自由に選べる

リーマンショック以降、企業はコスト削減のため、ホテルでの宴会や大掛かりなイベントを削減する傾向にある。企業の宴会ニーズ減少はホテル側にとって痛手であり、アイドルタイムは極力減らしたい。こういった傾向は東京都心の有名ホテルでも多く見られる。スマ婚がリーガロイヤルホテル東京やヒルトン東京など、多くの人気ホテルと提携できる所以である。

好きなドレスを安く選べる

ドレスも同様だ。一般的な式場の場合、衣装業者1~2社とのみテナント契約しているため利用者にとっても選べる種類があまり多くない。式場内に構えるドレスショールームのテナント料が高額なことも、衣装のレンタル料金を引き上げる要因となっている。

メインドレスの場合、レンタルの平均単価は40万円前後。お色直しのカクテルドレスや新郎のタキシードを入れると、衣装代だけで80万円を超えるのがザラだ。一方、スマ婚では40社ほどの衣装レンタル業者と提携。より幅広い選択肢が用意され、利用者はデザイン、価格帯から好きな物を自由に選べる。衣装レンタル業者間が競争することで低価格を実現でき、スマ婚の場合はドレスとタキシードのセットを10~15万円で提供できるという。選べるドレスの種類が多く、しかも安いのである。

披露宴で使用したブーケをドライフラワーにするサービスも行っている

逆に、装花は1社のみと日本全国規模で提携しているため、大量仕入れにより低価格を実現した。ブーケと、両家両親に贈呈する花束、合わせて2万円からとリーズナブルだ。これが、総額で平均350万円ほどかかる挙式・披露宴を、総額200万円で開催できる仕組みである。

お金はいつ払う?

一般的には350万円かかるといわれる挙式・披露宴。スマ婚では総額200万円ほどで実現できる仕組みを紹介したが、新郎新婦にとってありがたいシステムが他にもある。

それは、新地支社長いわく「ブライダル業界では掟破り」な"後払い"システム。「100万~120万円でも挙式・披露宴ができるプランもある。ご祝儀の範囲で挙式でき、"後払い"も受け付けている」とのことだ。

オリジナル婚姻届まで提供中。実は、婚姻届は決められた記載内容と様式を守れば、デザインや色はある程度自由に作って良い。スマ婚では役所提出用と保存用の2セットを提案

式をあげる際、数カ月前に内金として数万~数十万円、式の1週間前までに残りの全額を式場に支払うのが一般的だ。ご祝儀を受け取る前に300万円以上を用意しなければいけないため、ブライダルローンを利用するカップルも多い。そこでスマ婚では、ご祝儀の範囲内で挙式・披露宴ができるプランを用意。内金としては1万円払う必要があるものの、残りは披露宴が終わってからの後払いでもOKだ。

利用する式場には前金で費用を払わなければいけないので、まずはスマ婚が立て替え。式が終わってから利用者がスマ婚へ費用を支払う。「結婚はゴールではなくスタート。結婚式で借金を抱えてからスタート、では新しく始まる生活の重荷になってしまう。1組でも多くのカップルに、結婚式のすばらしさを味わってほしいし、その後の生活をより良いものにしてほしい。その思いから、このシステムを導入した」(新地支社長)とのことだ。

節約志向の高まりを受けて

身の丈に合っている、かつ自分たちらしい結婚式にしたいというニーズが高まっているという。「バブル時代はスモークを焚いたりゴンドラを使ったりと派手な演出を競っていたが、今は絆を重視したオリジナルの演出を希望するカップルが多い。お仕着せの演出ではなく、2人が心をこめてゲストをもてなしたいという思いが強くなってきている」(新地支社長)とのことだ。

たとえば披露宴会場入り口でゲストを迎えるウェルカムボードや、テーブル上の席札など、随所に新郎新婦の手作りアイテムを盛り込むのが流行している。メイションは、アイディアを提供するだけでなく、こういった手作りアイテムでゲストをもてなしたいカップルをサポートするため、ショールームでもDIY体験イベントを実施中だ。

ショールームでは定期的にDIYイベントを開催。結婚が決まっていない人でも自由に参加できる

結婚に関する悩みをすべて解決

2016年4月27日、スマ婚は新宿のショールームを渋谷に移転。新たな試みとしてカフェのようにくつろげるスペースを併設した。無料のコーヒーを飲みながらウエディングドレスを眺めたり、結婚情報誌を読んだりと来店者は自由に過ごすことができる。「具体的に結婚が決まっていないカップル、2次会の幹事を請け負ったご友人にも来ていただきたい。1人でも友人同士でもいい。フラッと入って情報を収集したり、気が向いたらDIYイベントに参加したり、気になることがあればプランナーにいつでも声をかけてくれれば。気軽に入れるブライダルカフェとして、結婚に関する悩みをすべて解決できる場所にしたい」と新地支社長は意気込みを語ってくれた。

コーヒーは数種類から好きなものを選んで自由に飲める
ショールームと離れた場所にある個別ブース。プランナーと落ち着いて相談できる
最近は子どもがいる家庭の"ファミリーウエディング"が増えているため、キッズスペースも設置
婚約指輪、結婚指輪、ブライダルジュエリー、引き出物も取り扱っている

結婚予備軍の取り込みがカギ

今後ますます少子化は進み、婚姻件数は減少していくと予想されている。さらに挙式・披露宴資金に対する意識も、年々シビアになってきている。

「ひと昔前は、披露宴や新婚旅行に費用をかけることが夢としてとらえられていた。しかし、今は現実的なカップルが増えている。結婚式後の生活を見据え、身の丈にあったセレモニーを行い、余ったお金はその後の生活資金にまわす。特に女性のほうが現実的にみているようだ」(新地支社長)。なかなか浮揚しない経済環境の中で、この傾向はさらに強まっていくだろう。

そうした状況である以上、ブライダル業界も今後は、結婚情報誌やWebサイトに広告を掲載したまま、「お客が来るのを座して待つ」という従来型の"待ち"のビジネスでは、売り上げ維持は難しい。

若者の街である渋谷に、気軽に入れるカフェスペースを併設したショールームを作ったスマ婚。まだ結婚を具体的に考えていない若年層の潜在ニーズに訴え、将来の顧客化を狙う"攻め"の戦略だ。スマ婚によって「結婚予備軍争奪戦」の火蓋が切られたといっても過言ではない。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。