JR東日本が進める特急の「全車指定席化」

JR東日本が進める特急の「全車指定席化」

2018.04.10

JR各社が実施した2018年3月17日のダイヤ改正は、さほど大規模なものではなく、全国的な話題となる事柄も少なかった。けれども、JR東日本の長距離列車戦略上では、見逃せない変化があった。

東京~銚子間の「しおさい」など、房総方面の各特急の普通車指定席増強が行われたのである。地味ではあるが、長期的な施策が着実に遂行されつつあると感じた変更である。

指定席が増えた分、自由席は減った。これはどういう目論みのもとに行われたことなのだろうか。

自由席主体だった房総特急

東京駅に発着し、千葉県下の総武本線、内房線、外房線各方面へ向かう特急は、国鉄時代の1972~1975年に運転を開始した。いずれも運転距離は120~130km程度であり、400~500km以上走るのが常識だった当時の特急の感覚からは大きく外れた短距離列車であった。そのため列車の性格としては急行に近く、食堂車がないのはもちろん、編成の大半が普通車自由席となった点でも、異色の存在であった。

左:東京~銚子間を走る特急「しおさい」。房総方面の特急は今回の改正で指定席が増やされた。右:「しおさい」の指定席表示

房総方面行きの特急は、国鉄がJR東日本となっても同様の性格のまま続いた。2005年までには国鉄時代の車両は引退し、完全に新型車両へ置き換えられたが、列車自体は自由席主体の「気軽に乗れる特急」でありつづけた。

文字通り「特別な急行列車」であった1950年代には、特急は全車指定席が当たり前。普通の急行列車が自由席主体であったのに対し、座席を事前に指定しておけること自体が、特急としての特別なサービスであったのだ。

しかし、特急の増発に伴い利用客が急激に増えるにつれ、輸送力は不足をきたしてきた。そのため、混雑時の輸送調整を目的に、1960年代なかばから、東海道新幹線の「こだま」を皮切りに自由席を設ける特急が次々に現れだしたのだ。1972年に国鉄が一定間隔で頻発する特急に「L特急」との愛称を付けた頃には、特急にも自由席があるのが当然のこととなっている。「房総特急」などは、その典型であった。

乗務員の負担が大きい自由席

ホームなどに置かれる指定席券売機も増えた(写真は新宿駅の「成田エクスプレス」用のもの)

しかし、特急の自由席には、鉄道会社側から見ての弊害もあった。気軽に乗れるということで、事前の特急券購入が徹底せず、車内で乗務員(車掌)から特急券を購入する客が、かなりの数に上ってしまったのだ。

走る特急内で、扉の開閉や案内放送など他の業務をこなしつつ特急券を発売することは、乗務員にとってかなりの負担となる。釣り銭の用意と乗務後の売上精算も、相当な手間である。

利用客、特に近い距離しか乗らない定期券利用者が「面倒」という理由に甘え、車内発売に頼っている側面は否めない。比較的最近まで、特急券が購入できる自動券売機がそれほど多くなかったという事情もあろう。

私が実見した限りではあるが、夜遅くに東京を発車する房総方面行きの特急の自由席で、自由席1両につき乗務員が1人乗っているようなケースがあった。それでも車内改札と特急券の発売は遅々として進まなかった。

こうした、収入に対して過剰とも思える人員、人件費を割かねばならない実状への、ひとつの解答が「全車指定席化」だ。背景としては、インターネット予約や指定席券売機の普及により、窓口も人員削減が可能となったこともあるだろう。

JR東日本の新幹線列車では「はやぶさ」「かがやき」などが現在、全車指定席で運転されているが、過去に自由席があった在来線特急が全車指定席化されたのは、2014年に平日朝夕の高崎線特急「あかぎ」が「スワローあかぎ」となったのが始まりだ。

「ひたち」「ときわ」は、品川駅乗り入れを機に、全車指定席となった

続いて、2015年には、品川駅への乗り入れが始まった常磐線特急が「ひたち」「ときわ」と改称され、やはり全車指定席化されている。こちらは、朝夕の通勤客主体の特急ではなく、終日頻発している特急である。

これらの列車は、乗車日、乗車列車のみ指定される「座席未指定券」を購入すれば座席の指定を受けずに乗車できるが、あくまで空席利用。使っている席の指定席特急券を持った利用客が来れば、譲らねばならない。

指定席特急料金自体は他の列車より安く設定されているが、車内で特急券を購入すると、事前購入より割高な料金が適用される。例えば50kmまでの区間の場合、通常、首都圏で適用されるB特急料金は自由席510円、指定席1030円(通常期)だが、「スワローあかぎ」「ひたち」「ときわ」の指定席は750円、ただし車内料金は1010円となる。事前に特急券を購入しておけば、車内改札も省略される。つまり、割安に乗りたければ「特急券の事前購入」へと誘導されるようになっている。

房総特急も将来、全車指定席化?

今回の房総特急の指定席増強では、特に「スワローあかぎ」などのようなソフト面での施策は取られておらず、通常の特急料金のままだ。特急料金だけの「房総料金回数券(指定席用・自由席用)」が以前から発売されているため、今後はこれの販売強化が図られることと思われる。

左:JR東日本在来線特急の全車指定席化の草分けとなった「スワローあかぎ」。右:両国~館山間に全車指定席で運転された「さざなみ91号」

そして、いずれは全車指定席化へと向かうのであろう。「しおさい」「さざなみ」「わかしお」といった房総特急と、すでに全車指定席化された各特急は、首都圏の通勤客、ビジネス客主体の特急という、列車としての性格に、かなり似た面があるからである。

今回の指定席増強は、将来への布石と思われる。すでに「館山若潮マラソン」のランナー輸送列車として運転された「さざなみ91号」などの臨時列車が、全車指定席で運転された実績もある。

ただ、40年以上、房総特急の利用客が使い慣れてきた自由席を廃止するには、かなりの経過措置が必要だろう。これから数年間、どのような施策が取られるのかを注視していきたい。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。