Googleのお仕事。【第5回】日本から世界へ、Googleマップで飛び出すエンジニア

Googleのお仕事。【第5回】日本から世界へ、Googleマップで飛び出すエンジニア

2018.04.10

特集「Google のお仕事」の第5回は、グーグル シニア エンジニアリング マネージャーの後藤 正徳氏に話を聞いた。後藤氏は、"ガラケー"の時代から11年にも渡り、Google マップに携わってきた存在だ。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

スマートフォンを持つユーザーであれば、その大部分が利用した経験を持つであろうGoogle マップだが、ただ単に「地図をスマホで見る」という目的以上の価値を、後藤氏らの開発チームは日々模索し提供している。Google マップの開発は、世界中の拠点で協力して進めているが、その中でも日本チームが貢献した要素は少なくない。これまでの歴史、そしてこれから作り出す歴史、未来を、後藤氏に伺った。

Googleマップのチームで作った"マップシャツ"を着た、グーグル シニア エンジニアリング マネージャー 後藤 正徳氏

文化の違いがGoogleマップの強み

後藤氏らのチームは現在、モバイル版 Google マップ下部にひょっこりと現れる「タブ」など、色々な機能を開発している。

「実は、"マップ"ってある意味で複雑なんです。見ただけでパッと使い方に気づかないユーザーもいらっしゃいます。検索窓が付いていても、何を検索すれば良いのかわからない。交通機関の乗り換え方法だって、どのようにして探せばいいかわからない。そういった検索が苦手な人に対しても、できるだけ直感的に情報にたどり着けるようにする機能がこの『タブ』です」(後藤氏)

機能を公開してから、タブ機能のユースケースは増えている。例えば「周辺のスポット」には、夕方に晩ごはんを食べる場所を探したいといった場合に飲食店が、また最近では周囲のお花見情報(期間限定)などが表示され、利用されるケースが多い。クルマでも、現在の道路の混雑状況を確認したり、駐車した場所を表示したりと、地図だからこそ生きる情報をさまざまに提供している。

タブ機能では、ITリテラシーが低い人であってもわかりやすいように地図に紐付くサービスを、わかりやすく表示してくれる

グーグルの日本法人は東京・六本木ヒルズに拠点があるが、ここではGoogle マップの提供当初から開発の中心チームの一つとしてマップエコシステムの発展に貢献してきた。

ユーザーに写真レビューをアップしてもらう機能や、地図の付加情報を集約して掲載する際の機械学習を使ったインフラに携わる作業、アプリそのもののプラットフォームなど、「東京チームは本当に初期からGoogle マップの開発に携わってきたので、触っていないところはないくらいです」と後藤氏は笑いながら語る。

ただ、冒頭でも触れたようにあくまで Google の製品開発は全世界の拠点で分散・協調して行われる。

「東京がアイデアを出して、他国チームが開発するということもあるし、その逆もあります。例えば、他国チームが東京にやって来た時に新宿へ行ってもらって、『100以上あるどこの出口から外に出るんだ』『満員電車が凄い』といった東京ならではの環境を体験してもらうわけです。地図とは面白いもので、国によって"マップ"に対する考え方が違うんですよ。だからこそ、国ごとの違いをお互い学びながら、製品開発に生かしていく。最大公約数的に、Google マップを使いやすくしていくのが私たちの仕事です」(後藤氏)

文化の違いから、意見がぶつかることもある。だがそれを乗り越え、例え似たような機能を開発していても「とりあえずどちらも作って、比較して、一緒に改善していこう。そういったコラボレーションが活発なんです。時差を超えて、Gmail や Google ハングアウト(コミュニケーションツール)でビデオカンファレンスしてやっています」(後藤氏)という。

アイコンや写真など、カラフルにわかりやすく情報を教えてくれる"タブ"機能

文化の違いでは一つ事例がある。

レストラン情報といえば、日本のガイドブックはどれもそのお店をひと目で理解してもらうために、写真や装飾、絵などで極力視覚的に伝えようとする。一方で欧州のガイドブックは、意外にも文章で埋め尽くされ、写真は非常に限られた枚数でしか掲載されないものが多い。

どちらが良いか、ではなく、Google マップとしてユーザーに対してどれだけ親切に情報を提供するのか。それを追求した結果が、カラフルで、写真いっぱいの、わかりやすい表示だとしたら、それはひとえに東京チームの貢献度の高さを表すものではないのだろうか?

グーグルのエンジニアになるために必要なこと

後藤氏はグーグル入社前、とあるメーカーの研究所で、ストレージシステムや大規模なスーパーコンピューターの開発に携わっていた。

「開発していて強く感じたのは、素晴らしいハードウェアを作っても、箱だけでは意味がない。それを活かすためのソフトウェアやデータ、システムが大事なんだと。そんなときに、自分たちが作っていたスーパーコンピューターのような規模で分散処理環境を用意して、しかも実世界の問題解決のために取り組んでいる企業があると知った。それが Googleだったんです」(後藤氏)

筆者は後藤氏を以前から取材しており、記事にしきれなかったネタもある。ただ、以前、そして今回のインタビューでも共通して、後藤氏は「テクノロジーを使って人々の生活を変える」と強調していた。

前述の通り後藤氏は、もともと地図の分野で働いていたわけではない。だが今や、Google マップだけであらゆることを語り尽くせるスペシャリストになった。自身の持つスキルで知らない分野を開拓し、その道を極めた。これがマップオタクだったら、それはGoogleマップのためにはならなかったかもしれない。あくまで「テクノロジー」を知る人間だからこそ、Googleマップの足りないポイントを日々補って来られたのだろう。

「地図と言われて一般のユーザーの方は、ただの紙の地図を思い浮かべるはず。ですが、検索や住所入力、さらにお店を探せて、カテゴリでたどれて、写真も見られる、ユーザーが投稿できる。そして、世界中のユーザーの投稿が日本語に翻訳されて表示されます。さらにGoogle アシスタントと組み合わせれば、地図という概念を超えて、毎日の生活をアシストできるんです」(後藤氏)

後藤氏は、「Google は、スペシャリストはもとより、幅広くエンジニアリングに取り組める人を重視している」と話す。後藤氏自身も幅広いテクノロジーの見識があったからこそ、Google マップのスペシャリストになれた。「Google マップに取り組んでいた人が、広告や検索、Androidチームに行くこともある」(後藤氏)というように、エンジニアはテクノロジーのスペシャリストとして、さまざまなGoogleの製品・サービスに貢献している。

忘れもしない2011年3月11日に起きた東日本大震災。Google の「パーソンファインダー」というサービスが、震災から1時間46分後の16時32分に公開された。2010年に起きたハイチ地震の際に作られたこの安否情報確認サービスは、日本のエンジニアなどの協力のもと、3月11日、12日と連日アップデートした。

「言葉にすると難しいところもありますが、あの震災が世界的に見て『インターネットが活用された大規模な災害』の初期の事例と言っていいと思います。私たちはインターネットに関わる会社ですから、災害に対してインターネットをどう活用していくのか、本当に色々議論して行ったんですね。パーソンファインダーに限らず、色んな形でサービスとして提供できたことで、他国で起きたほかの災害に対しても寄与できた部分があるように思います」(後藤氏)

例えば、Google マップで過去のストリートビューを遡って見られる「タイムマシン」機能について、後藤氏は「津波被害などで大きく様変わりしてしまった場所の光景を思い起こす、という意味で大切な存在なんだと、その機能の重要性に改めて気づけましたね」と振り返る。

ガラケーからスタートした後藤氏のマップ

"ガラケー"で使えるマップ、デスクトップ版、そしてスマートフォンとすべてを見てきた後藤氏は、「Google のありとあらゆるリソースを使い開発してきたと思います」と笑う。

「世界の多くは、道路名+番号で地域指定しますが、日本は細かく番地で示すピンポイントの"住所"。ですから、アメリカで作られた住所指定と日本の住所指定の整合性を取るのは本当に大変だった。最近まで私が携わっていた頃の機能が使われていました」(後藤氏)

しかし、Google の検索精度の向上への努力はとどまる所を知らない。ナレッジグラフと呼ばれるさまざまな情報の関連性をまとめた機能や、そこから先のエージェント機能「Google アシスタント」など、高度化する Google の検索機能にあわせてGoogle マップも進化している。

第3回で取り上げた津田氏が語ったように、音声による検索はすぐそこの未来だ。SFのように機械が自分の求める情報を的確に提供するためには、情報の整理を進めなければならない。だからこそ、人の生活に密着したマップの情報整理が必要不可欠なのだ。

「これまでのマップは、紙の地図が画面に入ったものが主でした。これからは、その時その場所、人、時間、地図だけでなく、実際の世界をアシスタントしなければならない。その時、ユーザーのコンテクストを理解する、いかに実世界を理解するか、が重要になります。個人個人の地図として、いかに作り変えていけるか。地図の民主化と、実世界のアシスタント。それが、私が目指す未来です」(後藤氏)

「地図」の高度化は、クルマの自動運転や、物流におけるドローン配送など、さまざまな分野で求められている。人の歴史は、地図を作る歴史でもあった。コロンブスがアメリカ大陸をインドと勘違いしたのは地図がなかったから。伊能忠敬が20年弱に渡り地図製作を行ったのは諸外国に対して日本の正確な領土を規定するためだったとも言われる。

Googleマップとてまだまだ未完成、後藤氏らは今日も、世界に新しい地図の価値を提供するために開発を続けている。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。