Googleのお仕事。【第5回】日本から世界へ、Googleマップで飛び出すエンジニア

Googleのお仕事。【第5回】日本から世界へ、Googleマップで飛び出すエンジニア

2018.04.10

特集「Google のお仕事」の第5回は、グーグル シニア エンジニアリング マネージャーの後藤 正徳氏に話を聞いた。後藤氏は、"ガラケー"の時代から11年にも渡り、Google マップに携わってきた存在だ。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

スマートフォンを持つユーザーであれば、その大部分が利用した経験を持つであろうGoogle マップだが、ただ単に「地図をスマホで見る」という目的以上の価値を、後藤氏らの開発チームは日々模索し提供している。Google マップの開発は、世界中の拠点で協力して進めているが、その中でも日本チームが貢献した要素は少なくない。これまでの歴史、そしてこれから作り出す歴史、未来を、後藤氏に伺った。

Googleマップのチームで作った"マップシャツ"を着た、グーグル シニア エンジニアリング マネージャー 後藤 正徳氏

文化の違いがGoogleマップの強み

後藤氏らのチームは現在、モバイル版 Google マップ下部にひょっこりと現れる「タブ」など、色々な機能を開発している。

「実は、"マップ"ってある意味で複雑なんです。見ただけでパッと使い方に気づかないユーザーもいらっしゃいます。検索窓が付いていても、何を検索すれば良いのかわからない。交通機関の乗り換え方法だって、どのようにして探せばいいかわからない。そういった検索が苦手な人に対しても、できるだけ直感的に情報にたどり着けるようにする機能がこの『タブ』です」(後藤氏)

機能を公開してから、タブ機能のユースケースは増えている。例えば「周辺のスポット」には、夕方に晩ごはんを食べる場所を探したいといった場合に飲食店が、また最近では周囲のお花見情報(期間限定)などが表示され、利用されるケースが多い。クルマでも、現在の道路の混雑状況を確認したり、駐車した場所を表示したりと、地図だからこそ生きる情報をさまざまに提供している。

タブ機能では、ITリテラシーが低い人であってもわかりやすいように地図に紐付くサービスを、わかりやすく表示してくれる

グーグルの日本法人は東京・六本木ヒルズに拠点があるが、ここではGoogle マップの提供当初から開発の中心チームの一つとしてマップエコシステムの発展に貢献してきた。

ユーザーに写真レビューをアップしてもらう機能や、地図の付加情報を集約して掲載する際の機械学習を使ったインフラに携わる作業、アプリそのもののプラットフォームなど、「東京チームは本当に初期からGoogle マップの開発に携わってきたので、触っていないところはないくらいです」と後藤氏は笑いながら語る。

ただ、冒頭でも触れたようにあくまで Google の製品開発は全世界の拠点で分散・協調して行われる。

「東京がアイデアを出して、他国チームが開発するということもあるし、その逆もあります。例えば、他国チームが東京にやって来た時に新宿へ行ってもらって、『100以上あるどこの出口から外に出るんだ』『満員電車が凄い』といった東京ならではの環境を体験してもらうわけです。地図とは面白いもので、国によって"マップ"に対する考え方が違うんですよ。だからこそ、国ごとの違いをお互い学びながら、製品開発に生かしていく。最大公約数的に、Google マップを使いやすくしていくのが私たちの仕事です」(後藤氏)

文化の違いから、意見がぶつかることもある。だがそれを乗り越え、例え似たような機能を開発していても「とりあえずどちらも作って、比較して、一緒に改善していこう。そういったコラボレーションが活発なんです。時差を超えて、Gmail や Google ハングアウト(コミュニケーションツール)でビデオカンファレンスしてやっています」(後藤氏)という。

アイコンや写真など、カラフルにわかりやすく情報を教えてくれる"タブ"機能

文化の違いでは一つ事例がある。

レストラン情報といえば、日本のガイドブックはどれもそのお店をひと目で理解してもらうために、写真や装飾、絵などで極力視覚的に伝えようとする。一方で欧州のガイドブックは、意外にも文章で埋め尽くされ、写真は非常に限られた枚数でしか掲載されないものが多い。

どちらが良いか、ではなく、Google マップとしてユーザーに対してどれだけ親切に情報を提供するのか。それを追求した結果が、カラフルで、写真いっぱいの、わかりやすい表示だとしたら、それはひとえに東京チームの貢献度の高さを表すものではないのだろうか?

グーグルのエンジニアになるために必要なこと

後藤氏はグーグル入社前、とあるメーカーの研究所で、ストレージシステムや大規模なスーパーコンピューターの開発に携わっていた。

「開発していて強く感じたのは、素晴らしいハードウェアを作っても、箱だけでは意味がない。それを活かすためのソフトウェアやデータ、システムが大事なんだと。そんなときに、自分たちが作っていたスーパーコンピューターのような規模で分散処理環境を用意して、しかも実世界の問題解決のために取り組んでいる企業があると知った。それが Googleだったんです」(後藤氏)

筆者は後藤氏を以前から取材しており、記事にしきれなかったネタもある。ただ、以前、そして今回のインタビューでも共通して、後藤氏は「テクノロジーを使って人々の生活を変える」と強調していた。

前述の通り後藤氏は、もともと地図の分野で働いていたわけではない。だが今や、Google マップだけであらゆることを語り尽くせるスペシャリストになった。自身の持つスキルで知らない分野を開拓し、その道を極めた。これがマップオタクだったら、それはGoogleマップのためにはならなかったかもしれない。あくまで「テクノロジー」を知る人間だからこそ、Googleマップの足りないポイントを日々補って来られたのだろう。

「地図と言われて一般のユーザーの方は、ただの紙の地図を思い浮かべるはず。ですが、検索や住所入力、さらにお店を探せて、カテゴリでたどれて、写真も見られる、ユーザーが投稿できる。そして、世界中のユーザーの投稿が日本語に翻訳されて表示されます。さらにGoogle アシスタントと組み合わせれば、地図という概念を超えて、毎日の生活をアシストできるんです」(後藤氏)

後藤氏は、「Google は、スペシャリストはもとより、幅広くエンジニアリングに取り組める人を重視している」と話す。後藤氏自身も幅広いテクノロジーの見識があったからこそ、Google マップのスペシャリストになれた。「Google マップに取り組んでいた人が、広告や検索、Androidチームに行くこともある」(後藤氏)というように、エンジニアはテクノロジーのスペシャリストとして、さまざまなGoogleの製品・サービスに貢献している。

忘れもしない2011年3月11日に起きた東日本大震災。Google の「パーソンファインダー」というサービスが、震災から1時間46分後の16時32分に公開された。2010年に起きたハイチ地震の際に作られたこの安否情報確認サービスは、日本のエンジニアなどの協力のもと、3月11日、12日と連日アップデートした。

「言葉にすると難しいところもありますが、あの震災が世界的に見て『インターネットが活用された大規模な災害』の初期の事例と言っていいと思います。私たちはインターネットに関わる会社ですから、災害に対してインターネットをどう活用していくのか、本当に色々議論して行ったんですね。パーソンファインダーに限らず、色んな形でサービスとして提供できたことで、他国で起きたほかの災害に対しても寄与できた部分があるように思います」(後藤氏)

例えば、Google マップで過去のストリートビューを遡って見られる「タイムマシン」機能について、後藤氏は「津波被害などで大きく様変わりしてしまった場所の光景を思い起こす、という意味で大切な存在なんだと、その機能の重要性に改めて気づけましたね」と振り返る。

ガラケーからスタートした後藤氏のマップ

"ガラケー"で使えるマップ、デスクトップ版、そしてスマートフォンとすべてを見てきた後藤氏は、「Google のありとあらゆるリソースを使い開発してきたと思います」と笑う。

「世界の多くは、道路名+番号で地域指定しますが、日本は細かく番地で示すピンポイントの"住所"。ですから、アメリカで作られた住所指定と日本の住所指定の整合性を取るのは本当に大変だった。最近まで私が携わっていた頃の機能が使われていました」(後藤氏)

しかし、Google の検索精度の向上への努力はとどまる所を知らない。ナレッジグラフと呼ばれるさまざまな情報の関連性をまとめた機能や、そこから先のエージェント機能「Google アシスタント」など、高度化する Google の検索機能にあわせてGoogle マップも進化している。

第3回で取り上げた津田氏が語ったように、音声による検索はすぐそこの未来だ。SFのように機械が自分の求める情報を的確に提供するためには、情報の整理を進めなければならない。だからこそ、人の生活に密着したマップの情報整理が必要不可欠なのだ。

「これまでのマップは、紙の地図が画面に入ったものが主でした。これからは、その時その場所、人、時間、地図だけでなく、実際の世界をアシスタントしなければならない。その時、ユーザーのコンテクストを理解する、いかに実世界を理解するか、が重要になります。個人個人の地図として、いかに作り変えていけるか。地図の民主化と、実世界のアシスタント。それが、私が目指す未来です」(後藤氏)

「地図」の高度化は、クルマの自動運転や、物流におけるドローン配送など、さまざまな分野で求められている。人の歴史は、地図を作る歴史でもあった。コロンブスがアメリカ大陸をインドと勘違いしたのは地図がなかったから。伊能忠敬が20年弱に渡り地図製作を行ったのは諸外国に対して日本の正確な領土を規定するためだったとも言われる。

Googleマップとてまだまだ未完成、後藤氏らは今日も、世界に新しい地図の価値を提供するために開発を続けている。

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2019.06.17

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2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu