Googleのお仕事。【第6回】グーグルで働き、一度辞め、再びグーグルに舞い戻った男

Googleのお仕事。【第6回】グーグルで働き、一度辞め、再びグーグルに舞い戻った男

2018.04.11

六本木ヒルズで1300名の社員が働くグーグル。そのなかで製品開発本部長として働くのが徳生 裕人氏だ。音声アシスタント対応のスピーカー「Google Home」など、様々な記者会見にも登壇し、いまでは日本におけるグーグルの顔でもある。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

しかし、徳生氏の仕事は何も日本に限ったことをしているわけではない。グーグルでは「日本だけ」というプロダクトが開発されることはあまりなく、ほとんどが「日本市場に向きつつ、グローバル展開を意識した製品」を開発することが求められるのだ。

グーグル 製品開発本部長 徳生 裕人氏

グーグルだから体験できた「世界」

徳生氏はかつて、アメリカの YouTube で仕事をしていたことがある。

「アジア地域の責任者だったが、アジアのためだけのアイデアでは『グーグルにとってのバリューにならない』として企画が通らない。そこで、アジアで役立つし、世界に通用する企画として、YouTube のモバイル版や、字幕機能を開発した。YouTube には世界中のコンテンツがあるが、英語圏のモノが多い。それらに自動で音声を認識し、字幕をつける機能を提案・開発し、8年を経た現在では10億本もの動画に字幕がついていることが、今までで一番いい仕事としての記憶に残っている」(徳生氏)

今では、製品開発本部長として、日本の「グーグル合同会社」に籍を置いていることになる。仕事内容としては、日本を含む世界中のグーグルのオフィスで様々な製品の開発が行われている中、国内向けの検索プロダクト戦略を統括する立場にいる。

「検索を中心に、世界中のエンジニアと日本のために取り組む仕事が半分。もう半分は日本のエンジニアと、日本と関係ないモノを開発する仕事をしている。今では大きな組織ならではの面白さを感じる」(徳生氏)

徳生氏が入社した頃は、全社員数でも数十人しかいなかったが、現在の六本木ヒルズにあるグーグルオフィスには、エンジニアだけでも数百人が在籍している。昔に比べて組織が巨大化し、仕事が進めにくくなるのかと思いきや、実際はそんなことはないと徳生氏は語る。

「日本も大きなスケールになってきたが、すべての部署がひとつのビルに入っているのがいい。アメリカ・マウンテンビューのオフィスでは、仕事を進める相手で、場合によっては10軒ほどのビルに別れている。日本のオフィスは小さくもないが、全員の顔が見えるのがいい。いくつもの部署が関わっていても、意思決定がしやすいのが魅力」(徳生氏)

徳生氏がいちプロダクトマネージャーとして、心がけているのが一度は直接会って話を進めるということだ。グーグルと聞くと、すべてはメールとチャットとビデオ会議で仕事が進んでいくのかと思いきや、会うことを重視するとはちょっと意外だ。

「もちろん、ビデオチャットやメールじゃないとできない仕事もあるが、Face to Faceの方が、話が早いこともある。特に全く関係のないチームに助けを求めるときは、国内であれ海外であれ、できるだけ足を運んでいる。プロダクトマネージャーの仕事は多くの人に会わないといけない。限られた時間のなかで、足を運んでリーズナブル(話のわかる)なやつだと思われれば、あとはメールで済んでしまう。プロダクトマネージャーに限った話ではないが、各チームのなかで、個人の信頼を築く能力はとても大事だ」(徳生氏)

グーグルでも越えられない「壁」

徳生氏の仕事は、朝、自宅から始まる。

アメリカ・マウンテンビューの本社とのミーティングをするには、時差を考えるとこの時間帯が最適で、日本が朝8時ならば、アメリカ・西海岸は16時ということになる。

「朝は家からビデオ会議に参加して、通勤ラッシュを避けて昼ぐらいに出社している。夜も自宅で子どもを寝かしつけたあと、21時とか22時からマウンテンビューのチームが起きる前にメールを送るようにしている。日本と西海岸での会議であれば、朝の時間でなんとかなるが、相手が東海岸とか、西海岸とロンドンで同時になどのケースでは深夜1時になってしまう。とにかく時差を何とかしたい。誰か非同期のビデオ会議システムを作ってくれないものか」(徳生氏)

世界最先端を行くグーグルを持ってしても、地球の時差にはかなわないようす。もちろん、時差に悩まされるのはグーグルが世界中にオフィスを持っており、拠点間隔たりなく開発を行っているからだ。グーグルでは、日本で採用されたとしても、世界で働くことができるという。

「僕の場合は上からの異動辞令みたいな感じだったが、プロダクトマネージャーやエンジニアがアメリカで働きたいと思えば、社内の求人を探して、面接して、受かればいい。基本的には世界中のポスティングが明らかになっているので、スキルなどがマッチすれば移る自由はいくらでもある」(徳生氏)

実際に海外のグーグルオフィスにおいて、開発のキーポジションに日本人が携わっていることも多いと話す。一方で、「日本食が好き」「日本に住んでみたい」という外国人エンジニアが、日本に関わった仕事をしに、六本木ヒルズでのジョブを求めてくるケースもあるようだ。

「グーグルの社員証は世界中、どのオフィスにも入れる。どこのオフィスにどれくらい回ったかで、自慢できる機能もあるぐらい(笑)」(徳生氏)

徳生氏は2005年にグーグルに入社した。社会人デビューは当時の郵政省(現・総務省)。その後、製造技術スタートアップで3年、過ごした後、グーグルに入社している。

「兄が2002年にグーグルに入社しており、インターナショナルのプロダクトマネージャーの募集があるから受けてみないかと誘われた。当時のグーグルはGmailとか Google Earth の提供を開始したばかりで、中を覗いて見たいとも思った。まだ世界でも7000人、日本拠点も数十人しか居なかった」(徳生氏)

入社後はYouTubeのプロダクトマネージャーとなり、アメリカでYouTubeのモバイルや字幕機能などを開発。その後、日本に帰国したのちにグーグルを一度辞めている。

「もともと小さい会社で働きたいというのがあった。グーグルのなかでは、面白い仕事がみつかったり、アイデアを持ち合って、人が集まり、自然発生する仕事もあれば、そうでない時もある。その時、ちょうど、自分の仕事として区切りのいいタイミングがやってきた。ここは外に出る機会だと思って飛び出した」(徳生氏)

外に飛び出してベンチャー企業の経営に携わったのち、再びグーグルで働くことになる。

「以前はYouTubeだったが、今度はプロジェクトが異なり、グーグル本丸の検索の仕事だった。検索自体も音声認識やナレッジグラフなど、2010年当時には想像もしなかった進化をしていた。日本のグーグルも組織が大きくなり、数百人のエンジニアがいて、大きな事ができる素地が備わっていた」(徳生氏)

立ち位置が変化したGoogle、求められるもの

わずか数十人しか居ない頃からグーグルに入社し、一度、外から俯瞰した後、再び、グーグルに戻った徳生氏。日本でもグーグルが大きくなっていく中、社会的責任をひしひしと感じるようになったという。

「昔は半ば、無邪気に新しい技術に注目して製品を作っていれば良かった。しかし、何十億人という人が使うようになったら、ユーザーやパートナー、Webサイトに対して不公平な扱いがあってはいけない。YouTubeの削除ポリシーをやっていたときも、どんな動画がよくて、何がダメなのか、それを我々が判断していいのかなど、一つ一つの製品判断が複雑化していった」と徳生氏は振り返る。

製品開発に「社会的責任」が重くのしかかってくる中、そうした問題の複雑さや難しさは徳生氏のようなプロダクトマネージャーやエンジニアにとって、楽しく働くためのやりがいでもあるという。

「多くの人が使うGoogleのプロダクトで難しい課題を解決できれば、非常に大きなインパクトにつながる。課題解決には新しい技術が必要かもしれないし、地道な最適化かもしれないし、時には何かを見出すための地道な分析作業かもしれない。ただ、日々の問題を手直しするのではなく、正しく大きく解決する方法を考えることに、みな喜びを感じるし、成功すれば評価につながる。細かいタスク管理ではなく、Google のミッションに沿ったインパクトが出せるか、そういう意味では仕事のゴールははっきりしていて、エンジニアの満足度が高いように思う」(徳生氏)

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」というグーグルのミッションは、ネットユーザーだけでなく、グーグルで働く人にとっても、有益なもののようだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。