ICTの活用指導力が最下位、奈良県が大学・企業と「教育」に取り組むワケ

ICTの活用指導力が最下位、奈良県が大学・企業と「教育」に取り組むワケ

2018.04.11

文部科学省は、学校におけるICT環境の整備状況や、教員のICT活用指導力に関して調査する「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」を毎年公表している。奈良県は、教育のICT活用指導力において、毎年低迷していた。

能力別5項目のうち、奈良県は「都道府県別 教員のICT活用指導力の状況」や「児童・生徒のICT活用を指導する能力」「情報モラルなどを指導する能力」「校務にICTを活用する能力」の4項目で47都道府県最下位を記録。奈良県教育委員会 奈良県立教育研究所 副所長の石井 宏典氏は、「ここ5年ほど、(調査で)指導力は46位、47位を行ったり来たりという低い状況だった」と現状を素直に認める。

奈良県教育委員会 奈良県立教育研究所 副所長 石井 宏典氏

遅れを取り戻すために奈良県教育委員会が取り組んだのは、「ICT活用教育 奈良モデル」の構築だった。

周回遅れ、でも逆手に取って「フロントランナー」へ

奈良モデルでは、児童・生徒・教員・地域・家庭という教育に関連するすべての立場において、ICT活用能力の向上を目指す。昨今は生徒のICTに対する慣れ・親しみと、教員のICTに対する理解のギャップがあるとして大きな問題となっている。特に奈良県は教育のICT活用指導力が下位に低迷するように、その最たる例といっても良い。

一方で石井氏は、そうした状況だったからこそ、「立ち遅れていた立場を逆手に取り、ここからの取り組みは最先端に舵を切ることができる。『遅れているから』と気後れするのではなく、フロントランナーとしてやっていけるのではないか」と話す。例えば、これまでの教育におけるICT活用は"箱モノ"ばかりに目が行く。

実際、冒頭の調査では、ICT環境の整備状況を「教育用コンピューター台数」や「無線LAN整備率」「超高速インターネット接続率」といった切り口で捉えている。当然ながら、これらは前提条件として必要な指標だ。だが、グローバルでICTを当たり前としたビジネス環境が拡大する中で、大切なのは「子供たちがICTをどう活用できるか」だ。ひいては、奈良県の課題である「大人が子供にICTを前提に勉強させられるか」でもある。

同研究所 研究開発部 ICT教育係長 小崎 誠二氏

同研究所の研究開発部 ICT教育係長の小崎 誠二氏は、「奈良モデルでは、生徒と教員、双方がICTをフルに活用できるよう、日本マイクロソフトやアドビシステムズ、モリサワ、内田洋行などと包括契約を結び、全員が最新のソフトウェアを利用できるようにした」と話す。

近年、ソフトウェアは買い切り型から常に最新のソフトウェアを利用できるサブスクリプションモデルへと移行しつつある。継続した課金を負担に感じる印象もあるが、一方でイニシャルコストを気にせずに、世のトレンドに遅れることなく最新のソフトウェアをキャッチアップできるメリットは小さくない。

奈良モデルでは、企業と包括契約を結ぶことで、「個別に1個ずつ契約するよりも総コストは抑えられるようにした。何より、奈良県として自由に(ソフトウェアを)使えるようにしたことは大きい。これまでのように学校単位などでは、使いたい先生・学校ばかり先行して、格差があった。県全体で使えるようにしたことで、誰もが分け隔てなく利用できれば、利用することに躊躇する可能性が減るし、包括契約だから使わないことがあってもコストは抑えられる」(小崎氏)という。

高大連携のなぜ

企業との包括契約には続きがある。

こうした新しい時代の教育は、子供たちに勉強を教えたいという思いを持っている先生たちにとっては高い壁だ。2020年から必修化される小学校における「プログラミング的思考」は、勘違いされがちだがプログラミング教育ではない。あくまで物事を論理的に、プログラム開発における思考過程を追うような教育のことだ。

一方で、ICTを活用した指導力とは、まさにPCやタブレットのソフトウェアを用いて算数、理科、はたまた美術など、さまざまな教科を教えることだ。先生たちは、その多くが大学を出て、そのまま教職員になる。学校という世界しか知らない。もちろん、それ自体を否定するわけではない。

ただ、石井氏は「先生たちが先生になるのは、『あの先生の、あの教えが素晴らしかったから自分も教えたい』という原体験が大きいはず。それ以外の世界を知らない。だからこそ、新しいことを学び、共有できる環境が必要だ」と話す。教え方に加えて、新しい今の時代に即した教育を。そこで奈良県は高大連携で一つの取り組みを始めた。

慶應義塾大学SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアムの高大連携WGで、情報教育の実践型「授業レシピ」と地域連携型ネットワーク構築に向けた取り組みだ。ファブ地球社会コンソーシアムとしては、デジタルを活用したモノづくり(ファブリケーション)の世界が広がる中で、それを高大連携によって前提となる知識を広く広げたいという想いがある。

"レシピ"とは、いわゆるアクティブラーニング型の授業を実行するだけでなく、授業を俯瞰した先生たちによる評価、体験した生徒たちの成果物をレシピに残すことを目指す。子供たちがどういう過程でモノを作り上げたのか、先生の俯瞰した評価なども交えて参照できれば、後続する、ほかの学校の先生にも参照できる。

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の中澤 仁氏は、「高校は30年前からWordとExcelしか教えていない。高大連携はかねてから求められているものだが、その内実は、高校はきちんとした情報リテラシーの生徒を育てたいし、大学はそうした生徒をさらに伸ばすということをやるべきなのに、そうした良い循環が起きていないのが実態だ」と話す。

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 中澤 仁氏

テクノロジーがかつての一部の企業しか持てなかった時代とは異なり、すべてがサービス化され、価格面、技術面の双方で人々の手に渡りやすくなった今、「3Dプリンターやレーザーカッター、プログラマブルミシンなど、その手で簡単にモノを作れるということを、鉛筆で文字を書くのと同じようにスキルとして教えられる、ということをもっと広げられたら」(中澤氏)。

ものづくりを生徒が"お手軽"体験

そこで3月の行ったのが、企業も交えた「つくりかたの未来講座」だ。3Dプリンターなどの環境を提供するファブラボ鎌倉や、カメラセンサーを提供するオリンパス、電子楽器のヤマハ、そして「奈良モデル」に参画しているアドビシステムズなどが、授業に必要なツール・サービスを提供した。

未来講座では、慶大が作成した情報教育のレシピに沿って「課題設定能力」と「課題解決能力」「情報伝達能力」を育てるような授業を行う。この日の例では、「掃除」をテーマに、ソニーのIoTセンサー「MESH」やオリンパスのカメラセンサーを用いて、「どうやったら掃除が楽しく出来るようになるのか」を生徒たちに考えさせた。

ソニーのIoTセンサー「MESH」は、さまざまなセンサーを連携してさまざまな機能を実現できる

「つくりかた」と謳うからには、実際にモノも作らせた。奈良県内の高校から集められた40人弱が、初めて会う人と共に、さまざまなアイデアを出し合い、どう課題を捉え、解決へと導き、どう素晴らしいモノに仕上がったのかを伝えるということを一連で体感した。あるチームは一人がすべてを発表し、別のチームは実演を交えて説明し、概念だけを説明したチームもあった。

レーザーカッターで実際に小物を作ったチームもあった

この講座を通して中澤氏らが伝えたいことは、作ったモノの完成度の高さではなく、勉強したという事実でもない。

「(生徒に対して)今日は、遊びに来たと思ってほしい。何の遊びかと言えば、レーザーカッターでプレートが作れること。三次元プリンターでオブジェクトが作れること。それがもし家にあったら、いろんな遊びが可能になること。未来講座という名前がついているが、今すぐできることを体験してもらう講座だ。家に帰ったら3Dプリンターを買ってと、親にねだって欲しい(笑)」(中澤氏)

企業からこの講座に参加した社員は、誰もが「即座に仕事に繋がるわけではない」と口を揃える。レーザーカッターメーカーの担当者が「学校さんに納入していますが、一般的な高校に広く、というわけではない」と話せば、オリンパスの担当者も「私は技術開発部門で、特にこれをセールスするわけではない」と話す。一方で、「重要なのは、新しい価値に触れてもらって、自分たちで気づかなかった使い方とか、可能性を見出したい」(オリンパス担当者)という想いもあるようだ。

アドビシステムズ デジタルメディア ビジネス本部 教育市場営業部 担当部長の楠藤 倫太郎氏は、奈良県との包括契約を結んだ理由に立ち返って「ファブリケーションのような新しい時代の価値観を広げるのは、1校ずつ全国でこうした未来講座をやって回るのは難しい。教育委員会とお話して、この仕組みの話になったとき、機会が増えると感じた」と振り返る。

生徒同士が語り合ってアイデアを出したものがレシピになるだけでなく、傍らで観察する先生たちもまた、意見を出し合うことで「よりよい授業」を導き出し、それを共有していく

アドビシステムズは外資だが、日本法人として出来ることをやってきた。「日本の子供は創造性が足りないと言われるが、それは(創造性に繋がるような)体験が足りないだけ。私たちが子供の教育のためにやってきたことは半分CSRでもあるが、何より体験できる機会を増やせば、自発的に考える生徒が出てくると信じている」(楠藤氏)。

中澤氏も、企業が教育に直接携わるメリットについて「生徒と社会の距離を縮める」「企業ネットワーク」の2点を上げる。社会は人と人、そして会社と会社の関係性で成り立っている。会社が商取引を通じて経済が回り、人々が生きているという実感を生徒がどこまで意識できるのか。

「高校生からすれば、『デジタルのモノづくり』と言われても遠く感じてしまう。でも、実際に目にしたことがある企業が自分たちに直接説明してくれたら、実感として一番残る。それは、高校生のみならず、先生でも同じことだ。大学としても、企業が入ってくれれば、企業が繋がっている教育の現場で新しい学びの在り方を模索できる」(中澤氏)

80年ぶりとなるチョコレートの新カテゴリ「ルビー」登場、その味わいは?

80年ぶりとなるチョコレートの新カテゴリ「ルビー」登場、その味わいは?

2018.09.20

ミルク、ダーク、ホワイトに続くチョコレートの新カテゴリ「ルビー」

着色料なし、天然のピンク色が特徴

9月下旬から店頭にルビーのスイーツが続々登場

ダーク、ミルク、ホワイトに続く新しいカテゴリのチョコレートが登場した。

「ルビーチョコレート」

それが第4のチョコレートの名である。

バリーカレボー社の発売する「ルビーチョコレートRB1」(製菓材料)のパッケージ

スイスに本社を置くグローバルチョコレートメーカー・バリーカレボー社が生産し、10月3日から日本でも業務用として発売。すでにパートナー企業ではルビーチョコレートを使用した新商品が開発されており、9月から順次、先行発売される。

9月18日、そんなルビーチョコレート「RB1」のお披露目がANAインターコンチネンタルホテル東京で行われた。

発表会の場では、ルビーチョコレートを使ったさまざまなスイーツが披露された。詳細は記事下部にて 

発表会にはバリーカレボージャパン 代表取締役社長、パスカル・ムルメステール氏が登壇。ルビーチョコレートの発売は「ここ数十年のチョコレート業界でもっともエキサイティングな出来事」と語った。

ムルメステール氏によると、ルビーチョコレートの特徴は甘さが控えめでかすかな酸味があること。これまでにない新しいコンセプトで生み出された商品とのことで、「日本のような洗練された消費者には必ず喜んでもらえるはず」と自信をのぞかせた。

今回、バリーカレボーが発売するルビーチョコレートは業務用で、内容量は1.5kg、価格は5,400円(税込)となる。前田商店を始めとする従来の卸店、または楽天市場のカレボー公式オンラインショップで購入することができる。

ルビーチョコレートとペアリングできるさまざまなもの。定番のコーヒー・紅茶だけでなく、ロゼシャンパンやビール、ハーブ、塩気のある食べ物ともマッチする

同社グルメセールスダイレクターの押切一浩氏によると、ルビーチョコレートは10年以上をかけて開発したとのこと。ルビーカカオになりうる成分を持つカカオ豆を選別し、特別な加工を施して美しいピンク色に仕上げている。もちろん、着色料や香料は一切使用していない。

バリーカレボージャパンはルビーチョコレートをダーク、ミルク、ホワイトに続く「第4のチョコレート」に位置づけ、幅広く活用されることを期待しているという。特に相性が良いのはチーズやスパイス、ナッツ類。爽やかな酸味を生かして、塩味の料理にも合わせられるという。

ルビーチョコレート「RB1」だけをチョコレート原料とした製品に付加される専用ロゴ

バリーカレボージャパンは、原材料のうち、チョコレートに関してこの「RB1」のみを原料に使用した商品に対し、専用ロゴの使用を認めている。ロゴがパッケージに表示されていれば、その商品のピンク色は着色料ではなくルビーチョコレート由来だとわかるわけだ。ロゴを使用したい場合は、商品が基準を満たしているかどうか、同社のチェックを受ける必要がある。

コンビニスイーツから本格派の菓子までラインアップ

ルビーチョコレート「RB1」が発売されるのは10月3日だが、先行していくつかの企業とシェフがルビーチョコレートを使用した商品を開発している。

ローソン Uchi Cafe プレミアムルビーチョコレートのロールケーキ

ローソンからはUchi Cafe プレミアムルビーチョコレートのロールケーキ(9月25日発売/350円)とUchi Cafe ルビーチョコレートのショコラケーキ(12月2日~25日/3,200円)。

ユーハイム ルビーミルフィーユ
ローゼンハイム ルビー&チョコレートヒストリー

ユーハイムからはルビーミルフィーユ(9月25日発売/540円~)、ローゼンハイムからはルビー&チョコレートヒストリー(10月上旬より順次発売/3,456円)。

モンサンクレール ソシオンショコラルビー

著名シェフともコラボレーションした。モンサンクレールの辻口博啓シェフはソシオンショコラルビー(2019年1月中旬発売/2,300円)。ルビーチョコレートのフルーティーな香りを生かすために、酸味のあるフルーツと組み合わせた。

パティシエ エス コヤマ 小山チーズ エチオピアンコーヒー+ルビーチョコレート

パティシエ エス コヤマの小山進シェフは、ルビーチョコレートをエチオピアンコーヒーを引き立たせるパートナーとして採用したチーズケーキを作成(11月1日発売/1,728円)。クリームチーズとコーヒー、そしてルビーチョコレートの組み合わせはカフェオレを思わせる上質な味わいだ。

アステリスク ケイク ルビー

アステリスクの和泉光一シェフは同店のパウンドケーキのシリーズ「ケイク」に新しくケイク ルビー(10月初旬発売/2,000円)を追加した。全体をルビーチョコレートでコーティングし、さらに生地にもルビーチョコレートが練り込まれている。

洋菓子マウンテン×CELLAR DE CHOCOLAT by Naomi Mizuno ルビーココ

洋菓子マウンテンの水野直己シェフはルビーチョコレートの酸味を生かしてクランベリービネガーを合わせガナッシュに。ルビーココ(9月22日発売/1,080円)として発売する。

発表会の会場となったANAインターコンチネンタルホテル東京も、ルビーチョコレートを積極的に取り入れていくという。

ホテル内のレストラン、ピエール・ガニェールのランチコース「ピンクレディーランチ」に、ルビーチョコレートをふんだんに使用したデザート、スフィア・ルビーを用意する。

「チョコレート・センセーション」の提供例

また、来月からはアフタヌーンティーやスイーツブッフェなどさまざまな形態でチョコレートを提供するイベント「チョコレート・センセーション」を開催するとのことで、用意される約200種類のチョコレートメニューのうち、47種類はルビーチョコレートを使用したものとなる。

発表会では、ルビーチョコレートを使用した商品を試食することができた。

ムルメステール氏が言うように、たしかにルビーチョコレートは心地良い酸味とベリー系の香りを持っている。ダークチョコレートがビター、ミルクチョコレートがクリーミー、ホワイトチョコレートがマイルドだとしたら、ルビーチョコレートを一言で表す言葉は「フルーティー」だろう。甘さもクドいものではなくエレガントだ。これはシェフにとっても創造力が刺激されるに違いない。

今月末からルビーチョコレートを使用した新商品が続々登場する。第4のチョコレートを日本の消費者がどう評価するのか注目だ。

2018年のiPhoneとApple Watchが見せた、パーソナルデバイス進化のカタチ

2018年のiPhoneとApple Watchが見せた、パーソナルデバイス進化のカタチ

2018.09.20

Appleの発表は、製品を取り巻く市場ごと変えてしまう

「A12 Bionic」チップが生み出す新しいモバイル体験とは

新Apple Watchをただのスマートウォッチと呼べない理由

SSD(Solid State Drive)、Retinaディスプレイ、64bitアーキテクチャのプロセッサなど、Appleがいち早く新しいテクノロジーを投入してきた時に、その製品を取り巻く市場が変わる。A12 Bionicを搭載するiPhone XSシリーズとXRはまさにそんなインパクトを与える新製品だ。Apple Watch Series 4もスマートウォッチの真の価値を問う製品になる。

Neural Engine が生み出す新たなモバイル体験「A12 Bionic」

Appleが9月12日に米クパチーノで開催したスペシャルイベントで、iPhoneとApple Watchの新製品を発表した。今年の最大の収穫は、スマートフォンとスマートウォッチのさらなる進化に挑む同社の戦略が見えてきたことだ。

スマートフォンは、「新しい製品が出ても目新しい機能が乏しい」と言われるようになって久しい。市場が成長期から成熟期にシフトし、新しいユーザーの増加が減速、そして買い替えサイクルも長くなり始めた。スマートフォンにはもう進化の余地は残されていないようにも見える。

2018年秋のiPhoneの新製品、「iPhone XS」と「iPhone XS Max」、「iPhone XR」は、それぞれ価格が「999ドルから」「1,099ドルから」、そして「749ドルから」。iPhone XRでiPhone X世代が700ドル台に下がったとはいえ、スマートフォンとしては高価格帯であり、価格だけで判断したら今年も販売される「iPhone 8シリーズ」(599ドル)や「iPhone 7シリーズ」(449ドル)が適切という声が少なくない。

昨年iPhone X世代は最上位の「iPhone X」だけだったが、今年はiPhone X世代がラインアップの過半数。ただし「749ドルから」

そうした中、イベント終了後にテクノロジーライターのAlex Barredo氏の「512GBのXS Maxは高くないと自分を納得させる」というツイートが話題になった。そのツイートには以下のような表が付けられていた。

「iPhone XS Max」の 512GBモデル、1,499ドルとスマートフォンなのにMacBook Pro並みの価格だが、「MacBook Pro並みの性能」と考えたら適正な価格に思える?

iPhone XSシリーズはまだ発売前だが、すでにGeekbenchブラウザに同シリーズと思われるデバイスのベンチマーク結果がアップロードされており、その数字を使っている。ぱっと見、どっちがMacBook ProでどっちがiPhone XS Maxなのか分からない。だからといって、iPhoneを持っていたらMacBookが不要になるわけではないし、1,499ドルのスマートフォンを買ってBarredo氏が奥さんに怒られない理由にもならない。でも、この表を見て分かるように、今やポケットサイズのスマートフォンは、従来のスマートフォンの使い方ではあり余る性能を備えられる。スマートフォンメーカーはその可能性を追求せずに「より安く」に進むこともできる。だが、それではスマートフォンの進化が停滞してしまう。

昨年、iPhone10周年の年に登場したiPhone Xは、表面全体にディスプレイが広がるオールスクリーン、ホームボタンのないデザインとジェスチャーを活用した新しいUIで、新世代のiPhoneと見なされている。だが、もう1つiPhoneを新世代iPhoneたらしめる重要なパーツがある。深層学習コア「Neural Engine」を搭載してニューラルネットワーク向けに強化された「A11 Bionic」プロセッサだ。10年に一度のデザインとUIの大刷新の影に隠れてしまっているが、iPhone Xの新たな「体験」はA11 Bionicなくして実現できない。

例えば、Face IDによる顔認識アンロックは、ロック状態のiPhoneを持ち上げて、ユーザーが画面に目を向けたらアンロックが完了する。ヘアスタイルを変えたり、メガネをかけるといったユーザーの変化も学習し、賢く高精度にユーザーを認識する。ユーザーにとっては、iPhoneを手にしてアンロックというとてもシンプルなアクションだが、その背後では、アンロックのために端末を持ち上げた動きを正確に感じ分け、持ち上げた人の顔をマッピングして登録されているユーザーのデータに照らし合わせるという、膨大な計算が実行されている。それらをNeural Engineを用いて一瞬で完了させる。他にも、写真の管理・整理、撮影した写真やビデオの加工処理、QuickTypeの的確な入力候補の表示、TrueToneディスプレイの調整など、ユーザーが気づかない様々なところで機械学習が活用されている。

「アンロックの手間なんて取るに足らない」と思う人もいるだろう。でも、iPhone Xを使い慣れた人が数年前のスマートフォンを使ってみたら、アンロックなどの細かい操作にげんなりし、撮影した写真のさえない出来に失望することになる。機械学習活用の効果は目に見えるような違いではないが、一度体験したら後戻りできない。

逆行、水面、速い動きと厳しい状況でもバランスのよい写真に仕上げるスマートHDRを、iPhone XSシリーズはNeural Engineも活用してリアルタイムに処理

iPhone XSシリーズやiPhone XRが搭載する「A12 Bionic」は7nmプロセスで製造されている。キーノートでAppleは「初の7nmチップ」とアピールしていた。構成を見ると、CPUが高性能コア×2、高効率コア×4とA11から変わらず、GPUが4コアになって、そしてNeural Engineが8コア構成になった。A11に比べて、CPUの性能アップが15%であるのに対して、Neural EngineのCore MLの動作は最大9倍高速、そして消費電力は1/10だ。7nmの微細化の恩恵を、Appleが何に割り振ったのか明白である。

  • 2017年6月にiPad Proに搭載した「A10X」で10nmに移行
  • 2017秋発売のiPhone Xなどに搭載した「A11 Bionic」で設計変更、Neural Engineを導入
  • 2018年秋発売のiPhone XSシリーズ/XR搭載の「A12 Bionic」で7nmに移行、Neural Engine強化

Appleは手堅くAプロセッサ開発をチクタク (設計変更と製造プロセスの微細化を交互に実施)させながら、ニューラルネットワーク活用を着々と進めてきた。その結果、A12 Bionicで同社はスマートフォンの制限の中で「リアルタイムの機械学習」を実用的なものにした。クラウドにデータを送らず、端末内でプライバシーを保護しながら、処理能力が問われる機械学習処理をリアルタイムと呼べるスピードで実行できる。

それで何ができるかというと、キーノートで紹介されたNex Teamの「HomeCourt」が好例だ。バスケットボールの練習用のアプリである。シュート練習を撮影しながら、プレイヤーやボールの動き、ゴールの位置を含む環境をリアルタイムでトラッキング、解析を実行する。ゴール成功率といった統計はもちろん、シュートごとにシュートの種類、スピード、プレイヤーの体や腕の角度といった詳細なデータをリアルタイムで提供する。以前ならモーションキャプチャスーツを着たプレイヤーを撮影し、後処理で行っていたようなプレイ解析を、スマートフォンだけで練習中にできてしまう。

激しいプレイヤーの動きを、撮影しながらリアルタイムでトラッキング・解析する「HomeCourt」
シュート1本ごとに、リリースの角度や脚の角度、スピードなど詳細なデータを確認できる

ニューラルネットワークの利用はAppleだけではなく、ライバルも推進している。例えば、Googleは昨年「Pixel 2」にTensorFlowをサポートするイメージ処理チップを搭載した。Appleは自らチップを設計しているとはいえ、Neural Engineだけではライバルとの大きな差別化にはならない。しかし、同社にはApp Storeのエコシステムという強力な武器がある。ニューラルネットワーク向けチップも、ユーザーに役立つ形で使われなかったら「宝の持ち腐れ」になってしまう。「HomeCourt」のようなモバイル機器のリアルタイム機械学習を活かしたアプリ、サービスやソリューションが登場してこそ、スマートフォンの新たな活用法として広がる。

iPhone XからiPhone XSシリーズ / iPhone XRは、iPhoneの最初の10年間において飛躍期間になったiPhone 5sからiPhone 6の2年間に似ている。

2007年の初代モデルの登場から2017年までのiPhoneの販売台数の推移、2015年をピークに2016年に減速と言われるが、全体を見ると「iPhone 6」シリーズの販売が突出して良かったのが分かる

上のグラフはiPhoneの販売数の推移だ。2013年秋発売の「iPhone 5s」が長く販売され続ける人気モデルになり、その翌年の「iPhone 6シリーズ」は爆発的に売れた。これらのヒットには市場の伸びという追い風もあったが、iPhone 5s搭載の「A7」でAppleがいち早く64bitアーキテクチャに移行したのが大きい。モダンなソフトウェア構造を取り入れやすくして性能アップを果たし、その劇的な進化に刺激を受けた開発者によってiOSアプリの質や利便性が向上、アプリを用いたソリューションの幅が広がった。スマートフォンそのものより、モダンなアプリでスマートフォンが進化する起点になったモデルであり、iOSアプリの充実によってiPhoneが売れるプラス循環が生まれた。

市場の成長期と成熟期の違いがあるので、iPhone 5sや6シリーズのような爆発的な販売台数の伸びをiPhone XSシリーズ / iPhone XRに望むことはできない。だが、スマートフォンの新たな活用法やソリューションが生まれ、それが新たなデジタル・ディスラプションにつながりそうなワクワク感を覚える。

スマートな時計にとどまらないApple Watch、デジタルヘルスに市場拡大

Apple Watchの新製品「Apple Watch Series 4」は、周回遅れのライバルを全力で抜き去るような新モデルである。

初代モデルの投入から初めて、Series 4で大幅なデザインと設計の変更を施したモデルチェンジが行われた。ディスプレイが30%以上大きくなって、これまでの38ミリと42ミリのラインナップが、40ミリと44ミリに。広くなった画面を活かせるように、UIパーツも見直した。バックパネルにセラミックとサファイアクリスタルを採用し、表背面で信号が通るようにしてデータ通信の品質を改善。新しいS4チップは最大2倍高速だが、バッテリー駆動時間はこれまでと同じ、一日中持続する。

あらゆる面で強化されているが、最大の目玉はヘルス機能だ。Series 4で、本格的にデジタルヘルスに市場を広げた。低心拍や不整脈のアラートなど、心拍モニターを強化。まずは米国のみの提供になるが、ECG (心電図)を搭載する。デジタルクラウンに30秒間触れるだけで心調律をモニターして記録、解析結果を得られる。このECG機能とECGアプリ (米国で年内リリース予定)はDe Novo (新規分類)でFDA (米食品医薬品局)の承認を得ている。

画面が大きくなり、UIの改善で表示できる情報量が増えた「Apple Watch Series 4」
Series 4のECG機能は米国でFDAの承認を得ており、店頭で消費者が直接購入できる初のECGデバイスになる

スマートウォッチ市場は、イノベーターが市場を開拓しスタートアップの製品も多数存在した黎明期から、本格的な成長段階を迎えようとしている。その中でApple Watchの一人勝ち状態が続いており、2位以下との差がさらに開きそうな様相である。IDCの調査によると、2017年の出荷台数はAppleのシェアが50%を超えている。

Apple Watchの今日の強みは、時計市場を超えてより大きな市場の攻略に成功していることだ。スマートウォッチの訴求ポイントは主に以下の4つである。

  1. メッセージやメール、ソーシャル、予定やTo-Doなどの通知を中心とした「情報ツール」
  2. ID、モバイル決済、家や車のデジタルキーなどに使う「個人認証」
  3. 個人のアクティブな生活をサポートとする「アクティビティ/ワークアウト」
  4. 個人の健康管理に活用する「デジタルヘルス」

スマーウォッチというと多くの人が(1)の情報ツールを思い浮かべるだろう。Apple Watchも2015年に発売された初代モデルではファッション性を前面にした情報ツールだった。Appleはいち早くApple Payもサポートして(1)と(2)から市場開拓をスタートさせたが、その時点では後発でライバルと横並びだった。

翌年、AppleはSeries 2で(3) アクティビティ/ワークアウトの強化に乗り出した。当時アクティビティ/ワークアウトにスマートウォッチは大きすぎると言われ、フィットネスバンドが売上を伸ばしていたが、運動を記録してデータを活用する効果が浸透するに従って、充実したセンサーを備えてよりスマートな分析が可能なスマートウォッチが選ばれるようになった。

IDCが6月に公開したレポートによると、今年1~3月期のウェアラブル機器の世界出荷台数は前年同期から1.2%増の小幅な伸びだった。フィットネスバンドなど「ベーシック・ウェアラブル」が不振だったのが理由で、スマートウォッチは28.4%増だった。

スマートウォッチ・メーカーにとって、(1)と(2)~(4)の間には大きな壁が存在する。小さな時計の中に、様々な種類の高精度なセンサーを組み込みながら、十分に小型で、低消費電力にしなければならない。それにはチップレベルの開発力が必要だ。コストダウン、スケールメリットを出すためには、スマートガジェットに関心が薄い女性、そして若者から高齢者まであらゆる年齢層にアピールするデザイン、1日中どのようなシーンでも身に付けられるデザインが求められる。サービスの創出、スポーツ用品メーカーや医療機関など他社とのパートナーシップも重要になる。これらを考え合わせると、現実的にスマートウォッチのソリューションは、AppleやGoogleのようなプラットフォーマーでなければ提供できない。

スマートウォッチは情報ツールで十分という人もいるだろう。だが、時計市場はIT企業が奪い合うほど大きなパイではない。実際、Appleがスマートウォッチに乗り出した時に、iPhoneが開拓した携帯市場に比べて小さな腕時計の市場規模が不安材料に挙げられた。腕時計市場にとどまっていては成長は限られる。

今年5月、アスリートとして健康に暮らしていたティーンエイジャーのApple Watchが心拍のアラートを通知し、病院で調べてもらったところ腎機能障害が見つかった。ここ数年でApple Watchによって一命をとりとめたという報告が相次ぎ、人々のApple Watchのヘルス機能に対する認識が変わっている

スマートウォッチを時計と見なしている人にとって、ECG (心電図)はあまり必要性を感じない新機能かもしれない。しかし、自分の体のことをよく知りたい人、心臓に関わる心配がある人、高齢者、運動する人などは、手軽にECGを取れることを歓迎する。そうしたニーズにApple Watch Series 4は応える。Appleは時計市場を超えて、フィットネス市場やヘルス/ウェルネス市場も合わせた巨大な市場にターゲットを広げている。ライバルも(2)~(4)に進出し始めてはいるものの、展開のスピードが遅く、Appleに比べると取り組みが甘い。結果、多くが(1) (2)に停滞したまま、Appleの独走を許している。

競争という観点で、Appleの一人勝ちは歓迎できるものではない。だが、Appleの独走がウェアラブル市場の刺激になっているのも事実。スマートウォッチに対して、数年前のブームが落ち着いたという印象を抱いている人もいるかと思うが、それは情報ツールとしてのスマートウォッチの成長である。今Apple Watchは、数年前よりもダイナミックな変化を遂げようとしている。