地方にITエンジニアを! 新しい働き方改革を進める試み

地方にITエンジニアを! 新しい働き方改革を進める試み

2018.04.11

「ITビジネスの拠点は都市圏」という考え方が変わりつつある。確かにICTビジネスに関わる企業は、首都圏や関西圏といった大都市に集中してきた。ただ、ICTが発達すればこそ、物理的な地勢の重要性は軽くなっていく。

さとやまオフィス鯖江の外観

それを象徴するような動きが各企業に見え始めてきた。そうした事例のひとつともいえるのが、福井県・鯖江市に開設された「さとやまオフィス鯖江」だろう。

まず、鯖江市だが、人口約70,000人弱の地方自治体。近年、地方自治体は人口減少に悩まされているが、鯖江市は少しずつ人口増となっている。その原動力となっているのは、産業が盛んだということだろう。

真っ先に思い浮かぶのがメガネフレーム。日本製のメガネフレームの約9割が鯖江産ともいわれ、全世界的にみても約20%のシェアを占めるともいわれている。市内には「めがねミュージアム」があり、ベンチや歩道のデザインもメガネフレームになっている。ただ、メガネフレームだけでなく、漆器や繊維などの産業も盛ん。これだけの産業があるからこそ、ほかの地方自治体と異なり人口増となっているのだろう。

働きやすさを地方都市に求める

そんな鯖江市に開設された、さとやまオフィス鯖江とは何か。端的にいえば、「新しいタイプのITエンジニアの働き場所」ということになる。これまで、IT企業は都市圏に集中してきた。ただ、都市圏ではなくてもICT環境が整っていればビジネスは行える。たとえば楽天。楽天ほどの企業になれば山手線内の都内中心部に本社があってもよいが、現在は二子玉川にビルをかまえ、10,000人ほどの社員が通う。

少し歩けば多摩川の河川敷、朝はラッシュとは逆方向となる下り路線。働き方改革のひとつの方向性として注目を集めている。さとやまオフィス鯖江は、楽天のビルとは比べるもなく小規模かつ都市圏からはるかに遠いが、働きやすさを考えたという意味では楽天に通じるものがある。

そのさとやまオフィス鯖江の完成発表会に招待された。東京から新幹線ひかり号で米原まで行き、そこから特急しらさぎに乗り継ぐ。3時間以上の道のり、乗り継ぎによっては4時間以上かかる道程だ。ただ、さとやまオフィス鯖江は駅から徒歩数分のところにあり、市内からならアプローチしやすい。

このさとやまオフィス鯖江を開設したのはメンバーズエッジという企業。ソーシャルメディアといったネットビジネスを手がけるメンバーズのグループ会社だ。メンバーズ自体は1995年創設だが、メンバーズエッジは2017年に設立された生まれたての企業。その企業が福井県鯖江に事業所を開設したというかたちだ。

左:さとやまオフィス鯖江に掲げられたメンバーズエッジのロゴ。右:メンバーズエッジは社員39名のうち、34名がエンジニアという企業だ

事業所とはいっても大規模なものではない。廃業した旅館の一画を利用し、数人程度が働ける環境を作った。建物のなかには旅館だった頃の面影が残っており、ある意味、働き場所としては新鮮な雰囲気が感じられる。

会場に設置されたビデオ会議システム

では、なぜメンバーズエッジは鯖江市に事業所を設けたのか。いくつか理由はあるが、やはり働き方改革の一環としての側面が色濃いと思った。

前述したように、IT企業は都市圏に集中している。だが、ICTの発達は物理的な距離を縮め、リモートワークのような業態発展に寄与している。福井県鯖江市は、メンバーズエッジの本社がある東京都中央区晴海からかなり遠いが、ICTの活用で本社とのコミュニケーションに問題はない。

都市圏以外の働き場所を

一方で、都市圏以外の地域に働き場所を求めるビジネスパーソンも増えている。だが、地方は都市圏ほど仕事がなく、収入が低くなる傾向にある。そうした傾向をなくすというのが今回の鯖江オフィス開設の大きな理由だろう。

実際に、さとやまオフィス鯖江に勤めるのは現在のところ一人だが、東京生まれ東京育ちのウェブエンジニアだ。都内の大手企業で働いた際、毎日の満員電車による疲弊、マンネリ化した仕事内容に辟易し、鯖江での仕事を選んだという。しかも、収入は都内で働いていたときと変わらないらしい。そして、地方の物価は都市圏より低いことを考えれば、十分に納得できる。何よりも満員電車とは無縁だ。もっとも、オフィス鯖江の至近に住居をかまえており、出勤は徒歩わずか30秒ほどということだから、電車どころか自転車も不要だろう。現在、一人だが、彼のウワサを聞いて移住したいという人も増えるかもしれない。メンバーズエッジでは早期に20名体制を目指すとしている。

左からさとやまオフィス鯖江の従業員、杉原貴彦氏。メンバーズエッジ 代表取締役社長 塚本洋氏。鯖江市長 牧野百男氏。福井7人の工芸サムライ 発起人 熊本雄馬氏

自治体にもメリットは大きい。まず、廃業した旅館の使い道が拓けた。地方に取材に行くたびに目にするが、活気がそがれているところが数多くある。特に商店街などはシャッターで閉じてあるところが多く、人口流出が容易に想像できる。だが、産業が盛んな鯖江ではそんな印象は感じなかった。

そしてエンジニアが勤めるという点も、長い目で見れば鯖江市に大きなメリットを生む。メガネフレームや漆器、繊維といった産物はあるが、それだけでは発展は大きく望めない。ITに関わるエンジニアが集まり出せば、「越前のITの街」として企業が集まる可能性が高くなる。以前、プログラミング教育に力を入れ、将来的にエンジニアを増やそうという島根県松江市の取り組みを取材したのを思い出した。

鯖江市の市長、牧野百男氏の期待も大きい。その証拠にメンバーズエッジの発表会に市長も登壇した。鯖江市自体は人口増の傾向にあるが、地方自治体は人口流出の危機にさらされている。そのことを考えると、IT企業が市に根を張り、そして発展していくことは市にとってもありがたい。メンバーズエッジの今回の選択は、大歓迎ということだろう。

タタミ部屋やお風呂も完備

さて、前置きが長くなったが、さとやまオフィス鯖江の施設をみてみよう。ユニークなのは、もと旅館だったという点を残していること。基本的に内装はリノベーションされているが、タタミの部屋があったり石灯籠が庭に設置されていたり、リラックスできる施設となっている。特にタタミ部屋は日本人にとって休息の拠り所。東京青山にある外資系企業、日本オラクルの本社ビル最上階にも茶室(和室)が設けられ、社員の憩いの場となっている。

左上:いかにも旅館といった風情の和室。右上:石灯籠のある庭。左中:旅館の名残がある掲示板。右中:くつろげるスペースを用意。下2枚:越前箪笥など、調度品もこだわりがある

もちろん、もと旅館だけあって浴室といった設備もある。ただ、そうした設備になると、泊まり込みで働く社員も出てきそうだと、いらぬ心配も生じてしまった(笑)。いずれにせよ、都市圏ではなかなか味わえない仕事環境だ。さとやまオフィス鯖江という名前から、山に囲まれているかというとそうではなく、福井の平野にあるので、傾斜はほとんどない。地方で働いてみたいという方は、さとやまオフィス鯖江を一度、チェックしてみてはどうだろうか。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。