パナソニックらも支援、10年かけて夢を追う男 阪根 信一

パナソニックらも支援、10年かけて夢を追う男 阪根 信一

2018.04.12

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長の阪根 信一氏。世界初を謳う全自動衣類折りたたみ機「Laundroid(ランドロイド)」を開発中の男だ。2015年910月にプロトタイプを公開した時から話題をさらった同製品だが、2017年度中の出荷開始がずれ込み、現在は2018年度の出荷開始を予定している。

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長 阪根 信一氏

2015年に存在が明かされてから2年強、出荷が順調に行ったとしても消費者の手元に届くまでおよそ3年の月日がかかる。これがクラウドファンディングによる資金調達であれば、昨年11月に出荷延期を発表した段階で"返金祭り"になってもおかしくない状況だろう。

しかし、ランドロイドのバックにはパナソニックと大和ハウス工業という大手事業会社、そしてSBIインベストメントなどのファンドがいる。2005年頃から温め続けてきたアイデアを世に放つまで、干支1周分以上の歳月がかかったが、それでもなお、2大事業会社が出荷延期に首を縦に振ってでも実現したいランドロイドとは何なのか。

出荷遅延も、完成度を高く

出荷が遅れた理由として阪根氏は、パナソニックと大和ハウス工業と議論する中で、「この(ハードウェア)スペックで出荷し、その後はソフトウェアのアップデートで対応していこう」という意見があったことを明かす。しかし、メカ機構を必要とするランドロイドは、スマートフォンのように「劇的に性能が向上する」という保証はない。

「ベンチャーとして、出荷時期を優先という話もあったが、逆に、世の中に初めて登場する製品で『この基準でなければならない』という答えがなかったのも事実。だったら、その価値判断の基準をここまで引き上げましょう、ということでスケジュールし直しました」(阪根氏)

ランドロイドは、予定価格で185万円の代物。アップデートが難しいハードウェアを中途半端に妥協しては、その後の製品展開に長期的な影響を及ぼす。それであれば、最初から万全を期すというのが阪根氏らの考えなのだろう。

10年以上かけてランドロイドという夢を実現したワケ

2005年に阪根氏がアイデアを夢想したとき、アイデアを実現できる要素はまだまだ足りなかった。

「ここに至るまで、さまざまな『反対意見』との戦いを繰り返してきました。社内の技術者が『やりたくない』と言い出し、『完成するわけがない』と会社を辞められた。間にはリーマンショックもあり、既存事業を切り詰めているのに、『なぜランドロイドを続けるんですか?』と経理部長から詰められた。さらに言えば、さまざまなVCから『出資したくない』とも言われましたね」(阪根氏)

ベンチャー企業というイメージがあるセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、もともと同氏の父・勇氏が滋賀で「I.S.T」という会社を立ち上げており、阪根氏も一時期社長を継いでいた。日本らしいB2Bのモノづくりテクノロジー企業として、先端複合材料などを開発。阪根氏自身も、I.S.Tで新規事業開発に着手し、成功を収めていた。

「既存事業を伸ばしつつ、新しい事業を、と考えた時に、個人的な目標との乖離にぶつかりました。2030年までに売上高3500億円、経常利益20%を叩き出す、研究開発型モノづくりを極めたいと思った。そのためには、B2Bのコンポーネント事業だけでは難しい。B2C完成品をやって、それで初めてその規模まで行ける、と」(阪根氏)

B2C製品を、という想いから2005年にランドロイド、2007年にも鼻腔挿入デバイス「ナステント」を着想した。B2B事業では10%~30%という年率の成長は見込める。だが、50%~100%という成長は難しい。ひいては2030年の3500億円という目標にはたどり着けない。

アメリカでは"ボツ"も、パナ、大和ハウスらが救いの手

B2C事業をやるからには、成長に耐えうるだけの資本の増強、ブランディングやマーケティング部隊を必要とする。テクノロジーはもともとの得意領域、2008年に素材メーカーのスーパーレジン工業を買収したほか、子会社も設立した。当初は2015年頃を目処に製品開発を進めていたことから、製品化がランドロイドより容易だったナステントを売り出そうとしていた。しかしそこで、一つの壁があった。

「父に、B2C事業を進めるために、そろそろ外部資本を取り入れて、IPOも視野に入れたいんですと伝えたんです。そうしたら『B2Cは良いけど、外部資本入れるのはやめてくれ』と言われた。それまで、I.S.Tで自由に事業をやらせてもらっていただけに、内心『えっ』と思った。ただ、I.S.Tは父が作った会社。僕が変えるわけにもいかず、姉にI.S.Tを引き継ぎました。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、B2C事業を進めるために作った、スピンアウトベンチャーとして再出発したんです」(阪根氏)

紆余曲折を経てスタートしたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、前述のように増資の引受先がなかなか見つからなかった。スタートアップならアメリカだ、とアメリカ留学の経験を生かして渡米してVCを回ったが「ナステントとランドロイド、カーボンゴルフシャフトという3つの事業を提案したんですが『やることがバラバラ過ぎる』として受け入れてもらえなかった」(阪根氏)。

結果として、技術をわかる、社会を変えるという意義を認めてくれたのは、ホームグラウンドの日本だった。パナソニックは家電メーカーとして、ある種のミッシングピースを埋めるため、大和ハウス工業も住環境の価値向上を目指すという目的があっての提携・資本参加だったのだろう。「最近になって、完成が近づいて実現性が高まるとアメリカから『出したい』と言われています(笑)」(阪根氏)というが、ある意味で日本らしさが溢れた出資案件と言えるだろう。

技術的ハードルが高いからこそ、アドバンテージに

10年以上の歳月をかけたランドロイド。それだけ先行投資してきたからこそ「ライバルはどこかにいるだろうとかなり探したんですが、本当にどこにもいない」(阪根氏)。実現できると思う人がいなかったんだろうと阪根氏は笑うが、開発過程ではさまざまな壁があったという。

一例では、衣類の山から一枚一枚認識してピックアップする技術。昨今は画像認識技術の発達によって簡単に認識できるのでは?とも思うが、そこからアームを伸ばしてピックアップする行為が繊細であり、「未だにプレイヤーはいないと思う」(阪根氏)。衣類を畳むという行動は米UCバークレー校のロボットベンチャーなど一部しかないという。

今年のCESでは「FoldiMate」という折りたたみ機がコンセプトで発表されているが、もともと2018年販売を想定していたものが2019年にずれ込んでおり、いちいち自分で洗濯物をセッティングしなければならない。折りたたみ領域だけでも、技術的ハードルが高いことがわかる。

一方のランドロイドは、タオルやTシャツなどの分類別、お父さんや子供といった家族別の自動仕分けも実装する。ある意味「お手伝いさんが勝手にやってくれる」という環境を実現するのだ。もちろん、FoldiMateは格安(数十万円程度の想定)というアドバンテージがあるが、画像認識や複雑なアームによる技術開発は、派生製品など、より長期的な製品開発の可能性を見据えている。

「昨今のIoT製品の広がりを見ると、時流に乗っている部分があるなと思います。(アイデアが出た)2005年とは全く違う。技術的にもそうですが、マーケティング的にラッキーなんですよ。例えば、AIやロボティクスが徐々に人々に受け入れられていますし、実際に私たちもそのテクノロジーを取り入れています」(阪根氏)

阪根氏は、目指す"企業"としては「ソニー」、経営哲学の理想像は「松下幸之助」と話す。売上高の成長曲線は、ソニーをイメージし、「意外に長くない30年」(阪根氏)という期間の中で、1兆円という自己目標を見据えつつも、3500億円の売上高目標を掲げた。

なぜ、日本のB2C二大メーカーを志すのか。理由はモノづくりの大切さだ。昨今は金融、IT領域が大きく伸長する。これらの領域は業種横断的に「プラットフォーム化」を目指す稼ぎ方だ。だが阪根氏からすれば「やはりモノづくり、それが一番スケールする」。

実際、世界一の時価総額はアップルであり、日本一もトヨタだ。アップルはファブレス企業ではあるものの、誰もが手に取るiPhoneで時代を席巻する。

「大学院に居た時は『教授になりたい』と思って論文と同時に、経営哲学の本も読み漁った。その中で感じたことは、ビジネスの場は大学とは異なり、『戦争』の世界。勝つためには競争を排除しなければならない。ITの世界は競争が多く残るが、モノづくりは技術でぶっちぎれば競争のない世界になる」(阪根氏)

ランドロイドは、さまざまな要素技術を組み合わせており、一つ一つで見れば"オンリーワン"は少ないかもしれない。だが、全自動衣類折りたたみ機を作るための研究開発で培った技術は、時間と金がかかる。実際、阪根氏が歩んできた10年という歳月がそれを物語っている。

製品はバラバラでも「合理的」

我が子を自慢するかのようにランドロイドを説明する阪根氏

かつて、モノづくりで世界をリードした日本だが、中国や韓国の台頭によって"没落"の危機に瀕している。だが阪根氏は、「日本人は集団行動に適しているし、モノづくりに必要なものはそれ。国として『新しいものを作り出す力がない』という人もいるが、電機に限らず独創的な製品はこれまでも出てきている」と話す。

阪根氏が指摘するのは「人がやらないことに挑戦するマインド」が欠けていること。小さく、中国に比べれば人も少ない。それでも、これからも「日本はまだまだやれるんだと強く示したい」と自身の思いを話す。その意思に対して、エンジニア60名のうち、40名がいわゆる一流メーカーから転職してきたという。「彼らは、優秀で個性的。この国はやっぱり凄いんだと感じる」(阪根氏)。

この技術者陣で作り出す商品は、ランドロイドを含む既製品3つに加えて4つ目、5つ目がある。「4つ目は粛々とプロジェクトを進めていて、5つ目は構想を練っているところ。どちらも楽しい」(阪根氏)。6つ目も検討をスタートさせているところだが、ブレスト段階にあり、「人々の生活を豊かにする、技術的ハードルが高いモノ」(阪根氏)。

これまでも、これからも、一つひとつの商品は関係性の薄い別々のセグメントで攻めていく。それは「それぞれの領域でイノベーションを起こせれば、これまでになかった情報価値が生まれるから」だという。ニーズからテーマを見つけてチャレンジする。シーズやソースを無視して新たなことに挑戦することが、ビジネスモデルとして合理的だと阪根氏は笑う。

「既成概念を崩していくことがかっこいいし、そう思われたい。『この会社は次に、何をやるんだろう』というワクワクした気持ちを持ってもらえる会社にしていきたい。3500億円、1兆円という目標は、逆算して『今何をしないと到達できないのか』と考えて粛々と進めるだけ。目標が高いとトラブルはつきものだが、色んなパンチを繰り出して、一つ一つ倒すだけ。心と身体が健康であれば、出来るものだと思っている」(阪根氏)

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。