パナソニックらも支援、10年かけて夢を追う男 阪根 信一

パナソニックらも支援、10年かけて夢を追う男 阪根 信一

2018.04.12

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長の阪根 信一氏。世界初を謳う全自動衣類折りたたみ機「Laundroid(ランドロイド)」を開発中の男だ。2015年910月にプロトタイプを公開した時から話題をさらった同製品だが、2017年度中の出荷開始がずれ込み、現在は2018年度の出荷開始を予定している。

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長 阪根 信一氏

2015年に存在が明かされてから2年強、出荷が順調に行ったとしても消費者の手元に届くまでおよそ3年の月日がかかる。これがクラウドファンディングによる資金調達であれば、昨年11月に出荷延期を発表した段階で"返金祭り"になってもおかしくない状況だろう。

しかし、ランドロイドのバックにはパナソニックと大和ハウス工業という大手事業会社、そしてSBIインベストメントなどのファンドがいる。2005年頃から温め続けてきたアイデアを世に放つまで、干支1周分以上の歳月がかかったが、それでもなお、2大事業会社が出荷延期に首を縦に振ってでも実現したいランドロイドとは何なのか。

出荷遅延も、完成度を高く

出荷が遅れた理由として阪根氏は、パナソニックと大和ハウス工業と議論する中で、「この(ハードウェア)スペックで出荷し、その後はソフトウェアのアップデートで対応していこう」という意見があったことを明かす。しかし、メカ機構を必要とするランドロイドは、スマートフォンのように「劇的に性能が向上する」という保証はない。

「ベンチャーとして、出荷時期を優先という話もあったが、逆に、世の中に初めて登場する製品で『この基準でなければならない』という答えがなかったのも事実。だったら、その価値判断の基準をここまで引き上げましょう、ということでスケジュールし直しました」(阪根氏)

ランドロイドは、予定価格で185万円の代物。アップデートが難しいハードウェアを中途半端に妥協しては、その後の製品展開に長期的な影響を及ぼす。それであれば、最初から万全を期すというのが阪根氏らの考えなのだろう。

10年以上かけてランドロイドという夢を実現したワケ

2005年に阪根氏がアイデアを夢想したとき、アイデアを実現できる要素はまだまだ足りなかった。

「ここに至るまで、さまざまな『反対意見』との戦いを繰り返してきました。社内の技術者が『やりたくない』と言い出し、『完成するわけがない』と会社を辞められた。間にはリーマンショックもあり、既存事業を切り詰めているのに、『なぜランドロイドを続けるんですか?』と経理部長から詰められた。さらに言えば、さまざまなVCから『出資したくない』とも言われましたね」(阪根氏)

ベンチャー企業というイメージがあるセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、もともと同氏の父・勇氏が滋賀で「I.S.T」という会社を立ち上げており、阪根氏も一時期社長を継いでいた。日本らしいB2Bのモノづくりテクノロジー企業として、先端複合材料などを開発。阪根氏自身も、I.S.Tで新規事業開発に着手し、成功を収めていた。

「既存事業を伸ばしつつ、新しい事業を、と考えた時に、個人的な目標との乖離にぶつかりました。2030年までに売上高3500億円、経常利益20%を叩き出す、研究開発型モノづくりを極めたいと思った。そのためには、B2Bのコンポーネント事業だけでは難しい。B2C完成品をやって、それで初めてその規模まで行ける、と」(阪根氏)

B2C製品を、という想いから2005年にランドロイド、2007年にも鼻腔挿入デバイス「ナステント」を着想した。B2B事業では10%~30%という年率の成長は見込める。だが、50%~100%という成長は難しい。ひいては2030年の3500億円という目標にはたどり着けない。

アメリカでは"ボツ"も、パナ、大和ハウスらが救いの手

B2C事業をやるからには、成長に耐えうるだけの資本の増強、ブランディングやマーケティング部隊を必要とする。テクノロジーはもともとの得意領域、2008年に素材メーカーのスーパーレジン工業を買収したほか、子会社も設立した。当初は2015年頃を目処に製品開発を進めていたことから、製品化がランドロイドより容易だったナステントを売り出そうとしていた。しかしそこで、一つの壁があった。

「父に、B2C事業を進めるために、そろそろ外部資本を取り入れて、IPOも視野に入れたいんですと伝えたんです。そうしたら『B2Cは良いけど、外部資本入れるのはやめてくれ』と言われた。それまで、I.S.Tで自由に事業をやらせてもらっていただけに、内心『えっ』と思った。ただ、I.S.Tは父が作った会社。僕が変えるわけにもいかず、姉にI.S.Tを引き継ぎました。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、B2C事業を進めるために作った、スピンアウトベンチャーとして再出発したんです」(阪根氏)

紆余曲折を経てスタートしたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだが、前述のように増資の引受先がなかなか見つからなかった。スタートアップならアメリカだ、とアメリカ留学の経験を生かして渡米してVCを回ったが「ナステントとランドロイド、カーボンゴルフシャフトという3つの事業を提案したんですが『やることがバラバラ過ぎる』として受け入れてもらえなかった」(阪根氏)。

結果として、技術をわかる、社会を変えるという意義を認めてくれたのは、ホームグラウンドの日本だった。パナソニックは家電メーカーとして、ある種のミッシングピースを埋めるため、大和ハウス工業も住環境の価値向上を目指すという目的があっての提携・資本参加だったのだろう。「最近になって、完成が近づいて実現性が高まるとアメリカから『出したい』と言われています(笑)」(阪根氏)というが、ある意味で日本らしさが溢れた出資案件と言えるだろう。

技術的ハードルが高いからこそ、アドバンテージに

10年以上の歳月をかけたランドロイド。それだけ先行投資してきたからこそ「ライバルはどこかにいるだろうとかなり探したんですが、本当にどこにもいない」(阪根氏)。実現できると思う人がいなかったんだろうと阪根氏は笑うが、開発過程ではさまざまな壁があったという。

一例では、衣類の山から一枚一枚認識してピックアップする技術。昨今は画像認識技術の発達によって簡単に認識できるのでは?とも思うが、そこからアームを伸ばしてピックアップする行為が繊細であり、「未だにプレイヤーはいないと思う」(阪根氏)。衣類を畳むという行動は米UCバークレー校のロボットベンチャーなど一部しかないという。

今年のCESでは「FoldiMate」という折りたたみ機がコンセプトで発表されているが、もともと2018年販売を想定していたものが2019年にずれ込んでおり、いちいち自分で洗濯物をセッティングしなければならない。折りたたみ領域だけでも、技術的ハードルが高いことがわかる。

一方のランドロイドは、タオルやTシャツなどの分類別、お父さんや子供といった家族別の自動仕分けも実装する。ある意味「お手伝いさんが勝手にやってくれる」という環境を実現するのだ。もちろん、FoldiMateは格安(数十万円程度の想定)というアドバンテージがあるが、画像認識や複雑なアームによる技術開発は、派生製品など、より長期的な製品開発の可能性を見据えている。

「昨今のIoT製品の広がりを見ると、時流に乗っている部分があるなと思います。(アイデアが出た)2005年とは全く違う。技術的にもそうですが、マーケティング的にラッキーなんですよ。例えば、AIやロボティクスが徐々に人々に受け入れられていますし、実際に私たちもそのテクノロジーを取り入れています」(阪根氏)

阪根氏は、目指す"企業"としては「ソニー」、経営哲学の理想像は「松下幸之助」と話す。売上高の成長曲線は、ソニーをイメージし、「意外に長くない30年」(阪根氏)という期間の中で、1兆円という自己目標を見据えつつも、3500億円の売上高目標を掲げた。

なぜ、日本のB2C二大メーカーを志すのか。理由はモノづくりの大切さだ。昨今は金融、IT領域が大きく伸長する。これらの領域は業種横断的に「プラットフォーム化」を目指す稼ぎ方だ。だが阪根氏からすれば「やはりモノづくり、それが一番スケールする」。

実際、世界一の時価総額はアップルであり、日本一もトヨタだ。アップルはファブレス企業ではあるものの、誰もが手に取るiPhoneで時代を席巻する。

「大学院に居た時は『教授になりたい』と思って論文と同時に、経営哲学の本も読み漁った。その中で感じたことは、ビジネスの場は大学とは異なり、『戦争』の世界。勝つためには競争を排除しなければならない。ITの世界は競争が多く残るが、モノづくりは技術でぶっちぎれば競争のない世界になる」(阪根氏)

ランドロイドは、さまざまな要素技術を組み合わせており、一つ一つで見れば"オンリーワン"は少ないかもしれない。だが、全自動衣類折りたたみ機を作るための研究開発で培った技術は、時間と金がかかる。実際、阪根氏が歩んできた10年という歳月がそれを物語っている。

製品はバラバラでも「合理的」

我が子を自慢するかのようにランドロイドを説明する阪根氏

かつて、モノづくりで世界をリードした日本だが、中国や韓国の台頭によって"没落"の危機に瀕している。だが阪根氏は、「日本人は集団行動に適しているし、モノづくりに必要なものはそれ。国として『新しいものを作り出す力がない』という人もいるが、電機に限らず独創的な製品はこれまでも出てきている」と話す。

阪根氏が指摘するのは「人がやらないことに挑戦するマインド」が欠けていること。小さく、中国に比べれば人も少ない。それでも、これからも「日本はまだまだやれるんだと強く示したい」と自身の思いを話す。その意思に対して、エンジニア60名のうち、40名がいわゆる一流メーカーから転職してきたという。「彼らは、優秀で個性的。この国はやっぱり凄いんだと感じる」(阪根氏)。

この技術者陣で作り出す商品は、ランドロイドを含む既製品3つに加えて4つ目、5つ目がある。「4つ目は粛々とプロジェクトを進めていて、5つ目は構想を練っているところ。どちらも楽しい」(阪根氏)。6つ目も検討をスタートさせているところだが、ブレスト段階にあり、「人々の生活を豊かにする、技術的ハードルが高いモノ」(阪根氏)。

これまでも、これからも、一つひとつの商品は関係性の薄い別々のセグメントで攻めていく。それは「それぞれの領域でイノベーションを起こせれば、これまでになかった情報価値が生まれるから」だという。ニーズからテーマを見つけてチャレンジする。シーズやソースを無視して新たなことに挑戦することが、ビジネスモデルとして合理的だと阪根氏は笑う。

「既成概念を崩していくことがかっこいいし、そう思われたい。『この会社は次に、何をやるんだろう』というワクワクした気持ちを持ってもらえる会社にしていきたい。3500億円、1兆円という目標は、逆算して『今何をしないと到達できないのか』と考えて粛々と進めるだけ。目標が高いとトラブルはつきものだが、色んなパンチを繰り出して、一つ一つ倒すだけ。心と身体が健康であれば、出来るものだと思っている」(阪根氏)

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

2018.11.14

VAIOが独自機構の新型モバイルPC「A12」を発表

パソコン事業の成長は数年続き、海外展開も拡充

パソコンのVAIOから、ITブランドのVAIOを目指す

VAIOが業績が好調だ。2017年度は売上、利益ともに2ケタ成長となる増収増益を達成した。PC事業が順調なことに加え、EMS事業も進展したことが奏功したという。11月22日にはオールラウンダーPCというコンセプトを打ち出した新型モバイルパソコン「VAIO A12」を発売する。国内PC事業は合従連衡や海外への売却が続くが、数少ない「純国産」のPCメーカーであるVAIOの今後の戦略とは。

VAIO A12

働き方改革を追い風に地固め、今後は拡大を目指す

VAIOは、ソニーから独立後、法人向けビジネスを中心に据えたことで、早くから黒字化を実現しており、今期も順調な決算となった。売上高は前年同期比10.8%増となる214億8,800万円、営業利益は同13.9%増となる6億4,800万円で、過去最高益を達成した。

PCの法人需要が旺盛で好調な決算となった

法人向けモバイルPCの伸びが前年比30%増と順調だった点が特徴で、その背景にあるのが昨今のトレンドとなっている「働き方改革」だ。テレワークやフリーアドレスなど、それまでの決まったデスクに座ってデスクトップPCを操作するという環境から、ノートPCを持ち歩いて仕事をするという環境に移っていくなかで、VAIOの製品構成がこれに上手くはまった。

VAIO株式会社 代表取締役 吉田秀俊氏

VAIOでは、2017年から11~15インチのモバイルPCでラインアップを構築しており、今年はその後継機種を投入していた。パフォーマンスに特化したVAIO True PerformanceやVAIO Premium Editionといったバリエーションモデルも提供してはいるが、一方でVAIO ZやVAIO Z Canvasといった過去のハイエンドモデルに相当する製品はなく、あくまで「メインターゲットは法人ユーザー」を想定していることが伺える。

同社の吉田秀俊代表取締役は、今後も数年はPC事業が伸長を続けると想定している。働き方改革の拡大を受けて法人需要がさらに伸びることに備え、ラインアップをさらに拡充することで売り上げを伸ばしたい考えだ。

構想3年、開発2年の「VAIO A12」

これを目指して今月発売する新ラインアップが、12.5インチサイズのデタッチャブルWindows PC「VAIO A12」だ。市場にある課題とその解決を徹底的に図ったという製品で、求められているPCはクラムシェルか2in1か、タブレットタイプかコンバーチブルかデタッチャブルか、そういったゼロからの検討を行った結果、「構想3年、開発2年」を費やして仕上げたモバイルPCだという。

VAIO A12は、既存のカテゴライズでは、タブレットとキーボードの着脱機構を備えたいわゆる2in1モバイルPCだ
「膝上で使える」問題の解決や、まともなキーボードの搭載など、クラムシェルPCの使い勝手を求めた

前提とした課題がすべて解決しない限り製品化を見送るという強い意識で開発されたのがA12であり、それには新たな技術的ブレークスルーが必要となった。それが「Stabilizer Flap」と呼ばれる新たなデタッチャブルの機構だ。

「Stabilizer Flap」と呼ばれる独特のデタッチャブル機構が最大の特徴

きっかけは書籍の背の動きだったそうだが、軽量なPCを実現しながら、クラムシェル型と同等の使い勝手を実現した。キーボード部にはVGAやLAN端子を含む多くの端子類を装備して、周辺機器との接続性を求める日本の法人ユーザーのニーズに対応させた。実際、すでにA12導入に向けて動いている法人の中には、「VGAがあるのが選択の決め手」というところもあるそうだ。

機能はとにかくニーズの実現を徹底し、端子が豊富という今では貴重な仕様。手持ちのモバイルバッテリで本体を充電できる5V充電機能もいざというときに役立つ

コンシューマ向けで考えると、端子を減らしてスッキリとしてさらに薄型化、軽量化、低価格化も期待したいところだが、豊富な端子に対する法人ニーズは根強く、その点はVAIOとして譲れない線ということだろう。ただ、薄型軽量であることにはこだわり、タブレットとしては重さ607グラムで薄さ7.4ミリ、キーボードユニットを装着しても重さは1,099グラムまで抑え込んだ。

ソニー時代から同社が得意とする高密度実装技術を活かし、薄型軽量化にもこだわった

海外市場に再挑戦、PCラインアップも早々に増やす

PC事業では、一度は撤退した海外市場に向けて再挑戦にも乗り出している。販売エリアを順次拡大しており、今年は12カ国まで拡大した。今後は北米、中国、欧州での展開を計画している。特に欧州へは「検討中というわけではなく、決めている。来年早々にも展開する」(吉田氏)という。

PC事業の勝算はあるのか。吉田氏は、会社としてのVAIOが240人体制になり、「(ソニー時代に比べ)限られたリソースの中でどう成長戦略を描けるか」が課題であったと振り返る。この1年は「足りているもの、足りていないものを見極める」ことに集中し、独立後1~3年という「短期決戦を乗り切った」と話す。

引き続き、「VAIOはPC事業だけで将来生き残れるのか、という(市場の)問いに答えなければならない」としており、その答えとしては、「ビジネスユーザーにPCは必要なので、PCが大きな核としてVAIOを支えるのは間違いない」とするが、それだけではPC事業としての生き残りには不十分というのが吉田氏の認識だ。

そのため、技術革新や世の中の進化に伴って、ユーザーの生産性をいかに高められるかという観点で新しいPCを打ち出し、生き残りを図っていく考え。その一つの回答が「VAIO A12」となるが、来年以降の新製品でもそうした点を踏まえた新製品を投入していく。「来年度はもう少し違った形で生産性を高める製品を提供していく」という意向を示しており、年明け早々には今までとは異なるタイプの製品を企図しているようだ。

現行のラインアップ。最上部にあるのがVAIO A12で、来年さらなる新ラインアップを展開する

PCはVAIOのコアだが、VAIOはPCブランド脱却目指す

吉田氏は「貪欲な姿をもちながら、VAIOのブランドを伸ばす」と話すが、ここで大きな戦略の柱となるのは、「PCブランド」としての「VAIO」ブランドからの脱却だという。PC事業は順調とは言え、ライバルも多い。MicrosoftのSurfaceだけでなく、レノボとその傘下のNEC、富士通、鴻海傘下のシャープ、東芝、そしてデル、HPといった米国勢もあり、働き方改革の影響で伸びた市場をどこまで獲得できるかは未知数だ。

吉田氏は「次世代ITブランドとしてのVAIOを目指す」としており、単にPC単体を売るのではなく、セキュリティやキッティングといった付加価値サービスも盛り込むことで、トータルソリューションとしてのPC事業を展開する。

これに、EMS事業でのシナジーも追加していきたい考えだ。あわせてPCの周辺機器などを扱うことで、PC事業の強化にも繋げていき、市場全体の活性化も狙える。ハード、ソフトの両面から事業領域を拡大していく。

PC事業は、周辺機器やセキュリティソリューションなどでさらなる拡大を目指す

EMSやパートナーの強化、IoTなどの新規事業など、ビジネス領域の拡大で企業としてのVAIO自体の強化を目指すが、今後も屋台骨となるPC事業で好調を維持できるか。ここまでの短期決戦を乗り切り、ここから一過性の盛り上がりではなく継続した強い事業構造への転換を図る、吉田氏が「フェーズ2」と呼ぶVAIOの新たな成長戦略がはじまったばかりだ。