デュアルカメラを搭載した新Xperiaで見えた光明と課題

デュアルカメラを搭載した新Xperiaで見えた光明と課題

2018.04.16

国内のスマホメーカーとして、実質的に最後の砦であるソニーモバイルコミュニケーションズだが、ここのところ冴えない状況が続いている。従来のものよりワイドな液晶に、ディスプレイをほぼ全面に据えたデザインや、2つのカメラセンサーを搭載してボケ味や擬似的な高画質ズームを可能にした"デュアルカメラ"など、グローバルのトップメーカーが作り出した潮流にことごとく乗れていないためだ。

グローバルだけではない。国内でも、MVNO向けに製品を投入しているシャープがAndroid端末として最大シェアを獲得。安価な製品ラインナップも持つシャープと異なり、ソニーはプレミアムセグメントのみの製品ラインナップという事情もある。ただ、長年「Android No.1ブランド」を国内では維持してただけに、それなりにインパクトのあるニュースだった

今夏にXperia XZ2 Premiumを投入

そのソニーは4月16日、フラグシップモデルとなる「Xperia XZ2 Premium」をグローバル向けに発表した。現時点で国内向けの投入は発表されていないが、2年連続で「Premium」製品をドコモ向けに投入していることから、そう遠くないうちに発表される可能性が高いだろう。

Xperia XZ2 Premium

XZ2 Premiumの最大の特徴は、ソニーとして初めて「デュアルカメラ」を採用したこと。すでに、スペイン・バルセロナで2月に行われた「MWC 2018」において、Xperiaの次期モデルにデュアルカメラを採用すると明らかにしていたが、これがPremium向けのモジュールだったわけだ。

MWC 2018で言えば、ソニーモバイルコミュニケーションズのEVP, Global Sales & Marketingの古海 英之氏が発表会の冒頭に、「Xperia XZ2 Premium」と誤って発言したことが一部で話題となったが、同日にデュアルカメラの技術発表があっただけに、混同してしまったのだろう。

ただ、ソニーとして初めてであっても、世界のスマホメーカーは2016年頃からデュアルカメラを採用してきた。2周遅れと言ってもいい状況だが何が違うのか。同社が謳うのは「専用プロセッサー」による「超高感度撮影」だ。

一般的に知られているデュアルカメラのスマートフォンと言えば「iPhone」だが、iPhone 7 Plus、iPhone 8 Plus、iPhone Xは基本的に1200万画素の広角カメラと1200万画素の望遠カメラを組み合わせて写真を作り出している。望遠カメラは光学的に2倍のズームが可能で、これを広角カメラと組み合わせることで画質を落とさずに1~2倍の擬似的なズームを可能にしている。

待望のデュアルカメラを採用したXZ2 Premium

一方で、ソニーのデュアルカメラは12メガピクセル の モノクロCMOSセンサーと19メガピクセルのカラーCMOSセンサーを搭載した。こちらは、Huaweiが2016年に発表した「HUAWEI P9」と似た構成で、モノクロセンサーで明るさの情報を取得し、カラーセンサーで色情報を取得する。

まさにちょうど2年かかっての"キャッチアップ"となるが、ソニーはセンサーに加えて専用の画像融合処理プロセッサー「AUBE」を搭載することでノイズを減らし、より明るい動画・写真の撮影を可能にしたと謳う。その超高感度撮影は、動画で最高ISO 12800、写真ではISO 51200で撮影を可能にしており、従来難しかった薄暗いシーンも撮影できるようになる。

将来的には、モノクロセンサーやデュアルカメラの利点を活かした"モノクロ写真"や"ボケ味ある写真"を撮影できるソフトウェアアップデートも予定しており、XZ2 Premiumに搭載されている4Kディスプレイをフルに活かした迫力の写真体験が可能になるだろう。

デュアルカメラ搭載、だけでは厳しい競争環境

ただし、ソニーがXZ2 Premiumがキャッチアップできた要素はここまで。RAMメモリが6GBまで増強されているほか、XZ2でも対応したワイヤレス充電(Qi)やダイナミックバイブレーションシステム、より大容量化したバッテリー、画面の明るさが30%アップなど、細かい部分での改良・改善はある。

トリプルカメラを搭載した「HUAWEI P20 Pro」(Huawei Webサイトより)。こちらはカメラメーカー「ライカ」との協業モデルだけに、フルサイズミラーレスで評価が高いソニーとしては負けられない相手だ

一方で、前述のHuaweiは先日発表した「P20 Pro」でデュアルカメラを超えるトリプルカメラを採用。1/1.7インチの4000万画素センサーとモノクロセンサー、3倍ズームの望遠カメラセンサーを搭載し、ユーザーの「コンパクトデジカメを買わずとも望遠できる」というニーズと高画質化のニーズを両方押さえた。なお、一部報道では次期iPhone Xでもトリプルカメラが採用されるとの話もある。

P20 / P20 Proについては、iPhoneやGalaxyでもお馴染みとなった"ベゼルレス"、狭額縁で、ディスプレイが全面的にスマートフォンの前面を占めたデザインも採用した。これに対してXZ2 Premiumは、前代のXZ Premiumよりも狭額縁化しているものの、依然として上下左右に"額縁"が残ってしまっている。また、4KディスプレイはZ5 Premium時代から画質こそ素晴らしいものの、アスペクト比が18:9ではなく16:9のため、昨今のトレンドからするとデザイン面でやや野暮ったくも見える。

発売当時はAndroid端末として随一の高いデザイン性で話題をさらったXperia X10や、背面が弧状に反ったデザインで人気を博したXperia Arcなど、"デザインのソニー"の貫禄を見せつけていたXperiaだが、XZ2 / XZ2 Compact / XZ2 Premiumで採用されたデザインコンセプト「Ambient Flow」は、Web上の評判が良いとは言いがたい。

XZ2 Premiumではないが、XZ2に触れた筆者としては、端末の質感はそれなりに高く、他社スマホより狭額縁化できていないとはいえ、新シリーズは、Web上の評価より「断然良いものだ」と言いたい。ただ一方で、その評判通りにどこか周回遅れのモノに思えてならない思いもある。

Xperia XZ2。賛否両論あるものの、実際に触れると端末の質感は上々だ(撮影・石川 温)

XZ2 Premiumは、他国で既に発売がスタートしているXZ2 / XZ2 Compactと異なり、グローバルで2018年夏の発売を予定していることから、MWC 2018では発表せず、あえてこのタイミングでの発表になったとみられる。しかし、XZ2 / XZ2 Compactとあまり差がない製品仕様で、あえて時期を外す必要があったのかという声が上がる可能性も否めない。

いずれにせよ、一般的に批判の声が上がる理由は、それだけ国内ユーザーがXperiaに期待している裏返しでもある。ソニーは、全社的に「プレミアムセグメントで利潤を確保しつつ、技術面も含めたリーディングカンパニーになる」という方針をとっている。それは、絶好調のカメラに加え、ソニー低迷の象徴とも言われたテレビでも"ソニー復活の象徴"として取り上げられるほどに好調だ。

ソニーは、ラジオやウォークマンなど、"小型化"や"モバイル化"で成功してきた企業だ。それら製品の最終到達点の一つと言っていいスマートフォンは、今後のソニー全体を左右する「切るに切れない」かつ、もっとも大切な製品セグメントでもある。

モバイル子会社である「ソニーモバイルコミュニケーションズ」では、「Xperia Hello!」や「Xperia Touch」「Xperia Ear Duo」といった新基軸の商品が登場し、一定の評価を得ている。これらには、今「次の技術トレンド」の最先端であるAIを活用したAIエージェント機能を搭載している。

先日発表されたXpeair Ear Duoは、開放型のイヤホンにAIエージェントの「Assistant for Xperia」を搭載し、耳元にコンシェルジュがいるかのような体験を提供する

Googleの「Google Assistant」やAmazonの「Alexa」、Appleの「Siri」、サムスン Galaxyの「Bixby」など、各社がこぞって開発しているが、ソニーはAIのコアとなるディープラーニング技術を全社的に一元開発しており、それをさまざまなソニーグループの製品に応用している。あの「aibo」でも採用しているのが良い例だ。この取り組みを途中で止むことなく続ければ、いつか次の勝機が見えてくることだろう。

とはいえ、テレビのBRAVIAと同様に、「スマホの次」を見据えつつも、いかに"スマートフォンのXperia"が表舞台へと舞い戻るかが重要であることに変わりはない。

鴻海傘下になったシャープや、国内専業ながら投資ファンドに一部資本を売却した富士通、KDDI向け製品を中心に事業を続ける京セラなど、国内メーカーはいずれも状況があまり芳しくない中で、グローバルスマホメーカーとして日本勢最後の砦であるソニーの真価がいま、問われている。

ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

2018.09.26

台湾ティーカフェ「ゴンチャ」に日本オリジナルメニューが登場

独自に開発した「ほうじ茶のミルクティー」で客層の広がり狙う

既存店と同数を翌年に出店し、店舗網の拡大も

近年、台湾発のカフェがにぎわい、タピオカ入りミルクティーをはじめとした茶飲料が人気を集めている。

中でも若年層からの強い支持を受けているのが、台湾発祥のグローバルカフェチェーン「ゴンチャ」。日本への出店は他国と比較して後発となったが、2020年までに100店舗という目標を掲げ急拡大している。

このほど、ゴンチャは進出3周年を記念し、オリジナルの日本茶を国内の茶問屋と開発し、9月26日よりメニューに加えた。「台湾の茶」にこだわる同ブランドが、国産のオリジナルメニューに着手した理由とは。

日本独自メニューは「ほうじ茶 ミルクティー」

日本の茶、と言っても種類はさまざま。今回、ゴンチャが静岡の茶問屋・マルニ茶藤と開発したのは「ほうじ茶」だった。この新しい茶葉は、期間限定メニュー「ほうじ茶 ミルクティー」として提供される。

価格はSサイズ420円、Mサイズ470円、Lサイズ570円。既存ラインアップと比較すると「基本メニューより数十円高いが、スムージーよりは安価」という立ち位置にある。

同社の開いた試飲会で提供された「ほうじ茶 ミルクティー」。同日より"復刻"するトッピング「あずき」が追加されたもので、和を全面に押し出した構成だ

飲んでみると、ミルクと合わせてもほうじ茶の味わいが色濃く感じられ、既存商品とは違う口当たり。自宅やペット飲料で飲む"ストレート"のほうじ茶と比較して濃厚で、香りに華やかさがあり、渋みもなく飲みやすい。

ほうじ茶を決め打ちで開発したのではなく、煎茶、玉露、和紅茶、玄米茶、ほうじ茶で検討を開始し、ほうじ茶に決定した後も15種の茶葉、300のブレンドで試作が行われた。ちなみに、既存メニューの抹茶 ミルクティーはグローバルメニューのため、こうして日本での提供のためだけに開発された茶葉は初めてとなる。

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏(左)、マルニ茶藤 加藤重樹代表取締役(右)

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏によれば、ほうじ茶を選択した理由は、「ほうじ茶が、近年デザート類のフレーバーで高い支持を得ていること」、「試作した他の種類に比べて、求める風味に一番近いのがほうじ茶だったこと」の2点にあったという。

確かに、ほうじ茶をベースにしたスターバックスのフラペチーノをはじめ、パフェやケーキなどにもほうじ茶を使ったものはあり、抹茶に次ぐフレーバーとして定着してきた感がある。

また、既存の茶葉はミルクティー・ストレートティーいずれでも選択できるが、ほうじ茶に関してはアイスのミルクティーでメニューが固定されている。これは、「自信を持って提供できる状態」がこのメニューであったため。

ゴンチャでは今回の限定メニューやスムージーなど一部を除き、茶葉の種類や氷の量、甘さなどをカスタマイズできる自由度を持ち味のひとつとしている。グラフ下部の四角い枠内の数字は、注文全体においてどの選択肢が選ばれたかというパーセンテージだ

その裏には、ミルクティーが注文の7割を占める人気という状況もある。「提供時期はホット・アイスどちらもご提供可能な季節ですが、アイスの仕上がりに自信があったので、アイスに絞って提供したいと考えた」(葛目COO)

外食で「茶」はまだ伸びる

試飲会の中では、コーヒーではなく茶を主軸とした「ティーカフェ市場」のポテンシャルについて、葛目COOのプレゼンテーションが行われた。

カフェ市場の規模と提供形態の割合

現在のカフェ市場の39パーセント、4000億円強がセルフサービス型コーヒーショップであるが、紅茶などのティーメニューの認知度はきわめて低い状況にある。

同社では、「ティーカフェ市場」のポテンシャルは1800億円に届くと予想

それに反して、「お茶」というカテゴリはペット飲料や茶葉含め市場規模が大きい。外食での提供機会がまだ少ないため、「ティーカフェ市場」には現在の3~6杯の市場機会があると考えている、と葛目COOは語った。同社の経営理念については、本誌が行った葛目COOのインタビューに掲載しているので、こちらを参照してほしい。

2018年の出店予定

続々と進めている出店について、2018年中にさらに店舗数を伸ばし、年末の段階では23店舗となることを発表。2019年は新たに約30店舗を出店予定で、既存店と同数を翌年に出店するような想定で伸ばしていく想定だという。

既存客層「以上」にもリーチ狙う

同社はターゲット層を「20代の女性」と設定しており、実際に店頭に列を成す人たちを見ると若い女性が中心。赤いストローの刺さった容器を持って飲み歩く姿を見ると、ゴンチャでの喫茶は若者のトレンド、という印象を受ける。一方、取材する側の記者にその年代はほぼいないため、現在の人気についての質問が相次いだ。

中でも、現在の客層より上の世代の支持の有無について質問を受けた葛目氏は、「若年女性に支持いただいている反面、それ以上の年齢層の方にとって遠い存在であることも事実と受け止めている。しかし、住宅地、ビジネスエリアの店舗では(客層は)その限りではなく、男性の来店者も全体の3割まで増えている」とコメントした。

今回開発されたほうじ茶の茶葉。収穫時期が最も早く、高品質な一番茶にカブセ茎茶をブレンドした。

今回リリースしたほうじ茶は「全年齢にリーチしやすい商材」のため、この新メニューで客層を広げていきたいと抱負を語った。

台湾発祥のティーカフェが新たに開発した「日本茶」メニュー。ほうじ茶に関して、反応次第で定番化も検討ということだが、葛目氏は今回見送ったその他の種類の茶葉についても、開発の意向をのぞかせていた。

ほうじ茶しかり、長く親しまれてきた日本茶は、客層拡大に寄与する可能性がある。台湾文化であるティーカフェが日本独自に広がっていく可能性について、今後も注視していきたい。

 

 

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第5回

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

2018.09.26

昔のクルマに乗って楽しみたい人には厳しい自動車大国・日本

そんな状況に憂い顔の安東弘樹さんがマツダへ

初代「ロードスター」のレストアを担当する梅下執行役員を直撃!

日本で古いクルマを楽しむのは大変だ。製造から年数の経ったクルマは税金が上がったり、維持していくのに必要な部品を見つけるのが難しかったりするので、あえて旧車を選んで乗るにはお金も手間も掛かるからだ。それであれば、どんどん新車に乗り換えていこうと考える人が多くても無理はない。

そんな状況に一石を投じたのが、1989年に発売した初代「ロードスター」のレストアを開始したマツダだ。この取り組みに共鳴する“クルママニア”安東弘樹さんが、マツダで同事業を担当する梅下隆一執行役員に話を聞いた。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

挨拶早々、試乗したばかりの新型「アテンザ」について「購入するか迷っている」と切り出した安東さん。「アテンザ」の開発主査を務めたこともある梅下さんは「たくさんのクルマに乗っていらっしゃる、その目でご覧になってもいいクルマでしたか?」と笑顔で応じていた(対談風景の撮影:安藤康之)

なぜ自動車メーカーがレストアするのか

安東さん(以下、安):なぜ今、しかも「NA」(初代ロードスターのことをNA型と呼ぶ。2代目はNB型、4代目となる現行型はND型といった具合)のレストアなんですか? ユーザーからすると「485万円か……」って感じもありますよね?

※編集部注:マツダが始めた「NAロードスターレストアサービス」の価格は、「基本メニュー」が税込み250万円、「フルレストア」が同485万円。

もちろん、色々なリバイバルプランが各メーカーにあるんですけど、でも、当時200万円で買えたNAを、485万円かけて……。そういうお客さんがいるという目算はあったんですか?

左は初代から4代目まで勢ぞろいした「ロードスター」。初代は中央右(画像提供:マツダ)

梅下さん(以下、梅):いろんな側面で語れるんですけど、体験ベースでいうと、ロードスターって、ものすごく多くのファンの方に愛していただいているクルマで。毎年、軽井沢でファンイベントがあります。ここ数年は大体、1,200台くらい来るのかな? 僕もお邪魔することがあるのですが、基本的にファンのイベントなんですよ、マツダが主催しているわけでもなんでもなく。うちはそういうの全然やってなくて、ほとんどお客様におんぶにだっこなんですけど……

安:自然発生的なね。

梅:だから、まあ、ロードスターというのは、お客様に育ててもらっているクルマだなと。僕らは“生みの親”だけど、お客様が“育ての親”になっていて。そんな気持ちでイベントを見学させていただいてたら、お客様が「ちょっと来いよ」と。

安:梅下さんの立場を分かった上で、ですよね?

梅:面白いのは……(編集部に)話が長くなっても大丈夫ですか?

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん

ファンクラブの猛者たちに出会って

梅:そこへ行くと、ファンクラブの中に、NAを買った時に40代くらいで、今は60代後半~70代の方々で組んでいらっしゃるチームがありまして、その人たちから見ると、僕なんか“ひよっこ”なわけですよ。「マツダから来たぞ(若造が、みたいな感じ)」と。で、前夜祭みたいな懇親会があって、その晩は軽井沢プリンスホテルのコテージに泊まるんですけど、そこで、「梅ちゃん、今晩、何号室のコテージにおいで」と。そこに行くと、20人くらいのおじさまたちが……

安:猛者がいるわけですね!

梅:そこへ挨拶にいくと、最初から最後まで「あの部品がない、この部品がない」と。だけど、ぜんぜん怒ってないんですよ。

安:あ、怒ってない?

梅:ぜんぜん! 「ないんだよねー」ってニコニコして、皆でそれを話してる。僕は当時、開発のマネジメントの立場で行ってたんですけど、カスタマーサービス本部の立場になって行ってみるうちに、その言葉がだんだん自分ごとになってきて、「こらなんとかせにゃいかんな」と。

ちょうど開発の部隊も同じ思いを持っていて、今でもNAは2万台以上が走ってるんですけど、そのお客様がお困りのところもあるし、そこに何とか答えたいなと。そういう気持ちが1つ。

往年の「ロードスター」ファンとの出会いがレストアを考え始めたきっかけの1つと梅下さん

梅:もう1つは、もう少し広く、会社・ブランドの立場で考えてみると、そんな風に愛されていて、あんなにたくさん走っている30年前の日本車って、たぶん今、日本にはないと思うのです。だからこれは、僕らにとっても、日本にとっても、けっこう大切なものかなと思って。なので、このクルマがもっと、日本の社会の中で長生きできないかなとシンプルに思ったし、将来これが、「日本にもこんな名車があったよね」と言ってもらえるようにと。

あるいは、そこまで僕らが言っちゃいけないのかもしれないのですが、自動車の文化に、少しでも貢献できればという思いもあって。やるなら、一部の部品の復刻だけではなくって、部品も復刻するけど、きっちりと「これがオリジナルだ」というモノを提供できるカタチがあるのではと思って、レストアにしました。

安:内容が徹底してますよね。「ここまでやるのか!」と感銘を受けました。そのかわり、「それなりのお金を出してもらえれば、復活させますよ」というところも、中途半端じゃない。これって、なかなか日本メーカーが踏み切れないことですよね。例えばテレビ局なら、番組づくりとして「8時だョ!全員集合」をもう1回、同じカタチでできるかというと、できないんですよ! そこの情熱が、他のメーカーと違うし、僕は好感を持ってますね。

「ロードスター」のレストアをテレビの番組づくりに例える安東さん

安:そもそも、日本メーカーには古いクルマの部品がないじゃないですか。100年単位の欧州に比べると、たかだか30年前のクルマでもないって、逆にすごい。そんな日本で、30年前のクルマを、全く同じように作り直すと。お客さんが持って来たクルマを、部品も新しくして、組み立てをやるというのは、これはもう、なんだろう? 欧州メーカーから遅れていたのを、一気に追い越したような……

梅:まあ、追い越してはないですけど(笑)

ロードスターにもう1人の「育ての親」

安:メーカーが責任を持ってレストアするというのは、僕の知る限り、なかなかないですよ。特別なお客さんは別ですよ、例えば、ずーっと「ロールスロイス」に乗ってる人とか。でも、ロードスターは庶民のクルマじゃないですか。庶民のクルマで、ここまでのっていうのは……

梅:あ、庶民のクルマという意味では、(ここまでメーカーがやる例は)ないですよ。そこがだから、我々のチャレンジになるんです。先行している欧米のブランドや、日本だったら一部の高価なクルマならできてるんですけど、やっぱり、このクルマ(ロードスター)でやるのは、すごく大変でした。

※編集部注:例えばホンダは、初代「NSX」のリフレッシュプランを用意している。その価格はメニューの選び方によって大きく変動するが、「エンジンオーバーホール」「足回りオール」「外装オール」「内装オール」などを組み合わせていくと1,000万円近い金額になる。

梅:正直にいって、(レストアの)値段のほとんどは工賃なんですよ。工場でクルマを預かって、部品を一旦、全部取り外すわけですよね。それから塗装し直して、部品を換えて……。作業工賃が値段のマジョリティーなんですよ。で、高いクルマだろうがロードスターだろうが、レストアにかかる工数っていうか、人手はそんなに変わらない。だから、高めのプライシングができれば「なんとかやっていけるぞ」とソロバンも作れると思うんですけど、これをフルパッケージで485万円くらいというのは、これは本当に大変。ほとんど利益ないです。“赤”ではないが利益はないという、ギリギリの線でやっているのが現状で。

レストアでは「サンバーストイエロー」など車体色も選べる(画像提供:マツダ)

安:どのくらいの受注があるんですか?

梅:大体、40人前後のお客様が待っていらっしゃる状況です。実は、今の予定では年間数台しかできない。というのも、マツダなりに自信を持っているエンジニアというか、匠(たくみ)じゃなきゃ作業をやらせないので、そういう人はやっぱり、数人しかいないんです。そういう状態なので、どうやって増やそうかと思っている。

安:妥協したくないですもんね。

梅:そこが重要で、我々からするとロードスターって、僕らは生みの親だけど、育ててくれたのはお客様と、街のショップさんなんですよ。ずーっとケアしてくれたのがショップさんで。僕らが中途半端というか、メーカークオリティでレストアできないんだったら、ショップさんにお任せした方がいいんですよ。

むしろ僕らは、少数だけど、メーカーじゃなければできないクオリティでレストアすることに存在意義がある。一方で、「485万円は出せないけど、自分のロードスターもリフレッシュしたいよ」というお客様には、僕らも部品をお渡しするので、ショップさんにも、もっと仕事をしてもらいたいという思いがあるんです。

安:今回のレストアを機に、これまでより多くの部品供給ができるようになるんですか?

梅:そうです。今回の活動で「コレは復刻しなければいけないな」という部品が見えてきたわけですよね。それをリストアップし、150部品くらいを新たに復刻して、サプライヤーさんとも相談しながら作れるようになったので。

例えば「NARDI製ステアリングホイール」(木製のハンドル)などを新たに復刻した(画像は初代「ロードスター」、提供:マツダ)

「当時のまま」へのこだわり

安:どのくらいのレベルで復活するのか、本当に楽しみ。もし機会があったら、レストアしたクルマを運転してみたいくらい。限りなく、当時のクルマに近づけるのがテーマなんですか?

梅:もちろん。当時のまま、そのものに戻したいんですよ。だから、逆にいうと、当時より良くはならないんですよ。

安:だからいいんですよねー! そこなんですよ。別に、いじらないわけですよね?

梅:お客様のクルマは、8月9日に1号車を納車させて頂いたのですが、その前に、初めてのトライアルなので2~3台、作ってるんですよ。どこが難しいかとかを見るために。

レストア1号車納車式の様子(画像提供:マツダ)
NAロードスターレストアプロジェクト第1号車の持ち主は西本佳嗣(けいじ)さん(右)と奥様の眞里美(まりみ)さん(左)。愛車のユーノスロードスターVスペシャル(1.6L、ネオグリーン、タン内装、5MT)は、1992年に新車で購入したものだという。画像中央はマツダ副社長執行役員の藤原清志さん(画像提供:マツダ)

梅:僕も昔、NAを持ってて、今回はレストアしたクルマに乗ったんですけど、本当に当時のまま。ちょっとブレーキが甘いのも含め「このままや!」と(笑)

安:原点回帰というか、とにかく元に戻したわけですね。そういうのいいな……!

「ロードスター」の原点回帰に共鳴する安東さん

ひとしきりロードスターのレストアについて話した2人。いつしか話題はNA型そのものの話に移り、なぜ最近の日本には、若者でも手を出せる手頃なスポーツカーが少ないのか、あるいは存在しないのかという、より根源的なテーマへと進んでいった。その模様は次回、お伝えしたい。

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