インバウンド観光客を魅了できるか!? 日本独自の食文化「駅弁」復活への課題【前編】

インバウンド観光客を魅了できるか!? 日本独自の食文化「駅弁」復活への課題【前編】

2016.01.26

「駅弁いかがっすかー」。ホームで威勢のよいかけ声を放つ販売員を呼び止め、列車の窓越しに代金を払って弁当箱を受け取る。走り出した列車の中で買ったばかりの弁当箱のフタを開け、車窓に流れる景色を眺めながら舌鼓を打つ。昭和の原風景ともいえるこんなシーンはすっかりみなくなったが、「駅弁」は“旅を彩る楽しみ”のひとつであることは今も昔も変わらない。

そんな旅情を演出する駅弁だが、“冬の時代”が到来しているといわざるをえない。モータリゼーションの台頭をはじめ、鉄道の高速化による乗車時間の短縮、駅構内に整備される「駅ナカ食堂」の増加、手軽に空腹を満たせるコンビニの存在などが駅弁の市場を縮小させている。冒頭で述べた“窓越しの購入”ができない固定窓式の車両に、ほとんどの鉄道が移行してしまったことも駅弁が苦戦している一因に挙げてもよいだろう。2015年4月、105年間も駅弁事業を手がけてきた山口県の老舗業者すらも、弁当事業から撤退するなど、その厳しさがうかがえる。

海外メディアに駅弁の魅力を伝える試み

海外メディア向け説明会に用意された100種類の駅弁

こうした情勢のなか、駅弁業者はどのように生き残りを図ればよいのだろうか。公益社団法人「米穀安定供給確保支援機構」は、「日本の食文化『EKIBEN』とごはんの魅力」と銘打った説明会でその一端を示した。この説明会はズバリ海外メディア向け。海外メディアを通じて駅弁の魅力を各国に紹介してもらい、来日の際にはぜひとも駅弁を利用してもらおうという意図がある。

2015年、おしくも2,000万人には届かなかったものの、過去最高の約1,974万人のインバウンド観光客が日本に押し寄せた。つまり、日本総人口の約17%にあたる需要が生まれたことになり、この市場をねらうのは至極単純な発想だ。問題はいかにして駅弁を認識してもらうかということか……。「『弁当』はすでに海外で認識され始めており、『BENTO』とパッケージに記されたお弁当が欧米のイベントで配られることがあります。“ベントー”という発音が普通に通じますよ」と海外取材経験が多い記者はいう。この「BENTO」に続けとばかりに説明会の題名に「EKIBEN」と銘打ったわけだ。

伝承料理研究家/大阪市立大学大学院生活科学研究科非常勤講師 奥村彪生(あやお)氏

そもそも、駅弁は日本独自の食文化といってよい。説明会に登壇した伝承料理研究家/大阪市立大学大学院生活科学研究科非常勤講師である奥村彪生氏は、「1885年に発売された“おにぎり2個とたくあん”のセットが駅弁の始まりで、130年もの歴史を誇る」と解説した。日本で生産される「ジャポニカ米」は冷えてもおいしく、しかも粘りがあるので握りやすい。この特性を生かした携帯食として「にぎりめし」が誕生したのは約1300年前のこと。以来、日本人は昼食を携えて出かけることに抵抗がなくなり、明治以降、急速に敷設された鉄道の発展と結びつき、駅弁という発想に結実した。

加えて奥村氏は、日本列島の地理的な特徴が、駅弁の多様性につながったとする。日本列島には北から親潮が、南から黒潮が流れてきており列島周辺で混ざり合う。この独特の海流によりさまざまな海産物が各地で水揚げされる。また、陸上においても山地や平野、森林、河川、湖沼が複雑な配置になっており、各地域で独特の産物が生じやすい。さらにアジアモンスーン圏に覆われた日本は四季がハッキリしており、春夏秋冬で収穫できる産物が異なってくる。つまり日本列島のあらゆる土地に、いわゆる“特産品”があり、それを使った郷土料理が生まれ、そして駅弁に発展していくのである。

会場に展示された駅弁の一部。左上から「村上牛しぐれ」(新潟駅)、「のどぐろわっぱ」(東京駅)、「北海道老舗イクラかに弁当」(東京駅)、「炭焼風穴子重」(姫路駅)、「仙台・宮城にぎわい祭り弁当」(仙台駅)、品川弁当(品川駅)

駅弁が日本に発祥した3つの要素

講演で奥村氏は「500種類以上の駅弁がある」としたが、実数はもっと多いだろう。駅弁の定義は曖昧で正確な統計はないが、5,000種類はあるのではないかという説もある。

いずれにせよ「弁当(昼食の持ち歩き)に抵抗感を抱かない日本人の気質」「年間の乗降客数が世界1位という鉄道大国」「全国各地に特産品が生まれる地理的優位」など、駅弁はこの3要素が見事に結びついて生じた“結晶”ともいえる存在。海外でも駅弁が販売されている例はわずかにあるが、その“質”“量”“歴史”ともに日本の駅弁が圧倒的だ。そのため、駅弁は日本独自の食文化と言い切れる。

では、駅弁が外国人に受け容れられるのか、後編で考えてみたい。

過去最高のインバウンド来日数にわく日本文化

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何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる