増える電気自動車、使用済みバッテリーはどこへ向かうのか(前編)

増える電気自動車、使用済みバッテリーはどこへ向かうのか(前編)

2018.04.26

クルマの電動化が進む今、考えたいのは使用済みとなったバッテリーをどうするかだ。まだ使える電池をゴミにしないためには再利用が不可欠だが、中古バッテリーのビジネスには難しい部分も多そうだ。そんな難題に挑むフォーアールエナジーの牧野英治社長に話を聞いたので、前編・後編に分けてお伝えする。

電気自動車の使用済みリチウムイオンバッテリー(画像)をどうするか、フォーアールエナジーで聞いた(画像提供:フォーアールエナジー)

初代「リーフ」発売前に誕生したフォーアールエナジー

日産自動車が51%、住友商事が49%を出資し、2010年9月に創業したのがフォーアールエナジーだ。同社は、電気自動車(EV)で使用済みとなったリチウムイオンバッテリーを再利用(Reuse)/再販売(Resell)/再製品化(Refabricate)/リサイクル(Recycle)するための会社であり、その頭文字をとって社名(4つの「R」でフォーアールエナジー)とした。

同社の誕生は、日産のEV「リーフ」が発売される3カ月も前のこと。その前年に三菱自動車工業が法人向けEVの発売を開始したばかりで、世の中にまだほとんどEVの存在しない頃であった。

日産の初代「リーフ」(画像提供:日産自動車)

日産が自社のEVを売り出す前に、その使用済みバッテリーを事業基盤とする会社が立ち上がったのはなぜか。フォーアールエナジー代表取締役社長の牧野氏は次のように語る。

「日産の先進技術の担当部長として北米に赴任し、EVはもちろん、燃料電池車(FCV)やハイブリッド車(HV)の実証実験、あるいは他社とのパートナーシップに関わっていた折、現地では試作車の『アルトラEV』(日本名:ルネッサEV)に乗っていました。帰国後、短期間インドでの生産工場の立ち上げに関わったあと、日産のトップマネージメントに呼ばれ、『EVをやれ』と下命があったのです」(以下、発言は牧野氏)

「北米でEVに乗っていた経験から、EVの普及へ向けて良いクルマを開発するのは自動車メーカーとしてもちろんですが、いずれは使い終わった大量のリチウムイオンバッテリーをなんとかしなければいけないとの思いがありました」

フォーアールエナジーの牧野社長

「日産のトップマネージメントも『従来のクルマであれば良い新車を開発して売るだけだが、EVはそれだけでは売れない。充電器など周辺の社会基盤を整える部署が必要だ』といって、車両開発責任者とは別に、私がそのEV普及のための責任者になったのです」

日産が踏み込んだ初めての領域

日産は、自動車メーカーがやってこなかったクルマづくり以外の新たな事業に、おそらく世界で初めて足を踏み入れたのである。牧野氏がまず取り組んだのは、海外の政府や他業種の企業と、EV導入へ向けた合意形成をすることだった。日産はポルトガルを皮切りに、国内外を含めた政府、自治体、企業と、ゼロエミッションモビリティ実現のためのパートナーシップ協定を2008年から次々に結んでいった。

「これまで経験したことのない業務でしたので、当初は協定が成立するものなのかと思いましたが、地球温暖化に対する政府や企業の意識は高く、ことに中国では、経済発展の中で石油消費が増えれば輸入依存度が高くなっていくので、エネルギー安全保障の観点からの関心が高かったです」と牧野氏は振り返る。

定置型バッテリーに市場はあるのか

そして、いよいよ使用済みバッテリーの「4つのR」(再利用/再販売/再製品化/リサイクル)の取り組みとなる。とはいえ、使用済みリチウムイオンバッテリーが市場に出てくるまでには、リーフが発売されてから時間を要する。そこで、フォーアールエナジーは新品のリチウムイオンバッテリーを使った製品開発から始めた。その理由を牧野氏は次のように説明する。

「EV(車両)としてリチウムイオンバッテリーがどのように使われるかは、自動車メーカーの日産で想定が成り立ちます。しかし、定置型のバッテリーに対し、どのような市場があるのか、あるいは市場の要求が何であるかは全く分かりません。新品のリチウムイオンバッテリーを使った製品を出すことで、市場の状況を学びました」

フォーアールエナジーが取り扱っている家庭用リチウムイオンバッテリーシステム「エネハンド蓄電池」(画像提供:フォーアールエナジー)

「産業用バッテリーは2011年から、家庭向けバッテリーでは2012年から製品を販売しています。その上で、2014年の大阪・夢洲(ゆめしま)の実証実験から、中古バッテリーを導入していきました」

自治体との共同実証に住友商事の協力も

大阪市此花区にある人工島の夢洲では、再生可能エネルギーとして太陽光発電を導入した。住友商事が主導するプロジェクトに参画し、その充放電の変動に応じて出力を安定させるバッテリーに、フォーアールエナジーの中古リチウムイオンバッテリーを使ったのだ。具体的には日産リーフ16台分の使用済みリチウムイオンバッテリーパックを設置した。これは、世界初の使用済みバッテリーによるマネージメントシステムとなった。

夢洲における実証実験の様子(画像提供:フォーアールエナジー)

フォーアールエナジーは翌2015年、沖縄や鹿児島県薩摩川内市の上甑島(かみこしきしま)における実証実験に参加している。沖縄は島嶼型エネルギー基盤技術研究事業のプロジェクトで、小型蓄電池システムへの中古リチウムイオンバッテリーの可能性を探ることを行った。

上甑島で使用した使用済みリチウムイオンバッテリーは、夢洲同様リーフ36台分だが、夢洲での知見を活用し、性能や信頼性の向上に取り組んだ。また、九州電力による系統との接続や、太陽光の他に風力発電における変動の対応など、将来的な検証も含まれていた。

こうした自治体ごとの実証実験に参加できた要因として、同社が日産と住友商事との合弁会社であることが機能している。「住友商事はビジネス、日産は技術というすみ分けがうまく機能しています」と牧野氏は話す。

また同2015年には、日産の先進技術センター「NATC」(神奈川県厚木市)にリーフ24台分の使用済みリチウムイオンバッテリーを設置し、ピークカット(需要最大時の電力消費の削減)による電力料金の抑制と、ピーク以外の時間帯における電力の有効利用を探った。この試みは、自社内の省エネルギーと電気料金の低減という経済性だけでなく、システム網につながる他の設備にも電力を融通して有効活用を図る社会システムとして、バーチャル・パワー・プラント(VPP)の実現性を模索する実証実験にもなった。

日産「リーフ」の思想を受け継ぐ「防爆設計」

これらの実証実験を通じ、フォーアールエナジーが得た知見の1つは、日産がリーフに用いるリチウムイオンバッテリーと制御システムの安全・信頼性が高いと再認識したことだった。

「EV用に開発されたリーフのリチウムイオンバッテリーと、それを搭載するバッテリーパックはショート(短絡)が起きないよう設計されていますが、万に一つのショートが起きたとしても、発火しないような設計が追加されています。バッテリーパック内が万一の際に酸欠となる設計がされていることにより発火しない、いわゆる『防爆設計』というものです」

「リーフは世界累計で30万台ほど販売されていますが、リチウムイオンバッテリーに関する事故ゼロが続いています。弊社では、その日産の安全思想を受け継ぎ、家庭用バッテリーにおいても防爆設計としているので安全です。ただし、定置型バッテリーとしての容量、出力、価格の面で、競合他社に比べやや損をしている面があるかもしれませんが…」

フォーアールエナジーは定置型バッテリーに防爆設計を施している(画像提供:フォーアールエナジー)

クルマとは違う使い方に苦労も

安全性の面で特徴的なのは、クルマの場合、駐車すれば必ず1日に1回はメインスイッチがオフになるので、そこでおかしなメモリーなど、デジタル制御機器における不安要素を取り除く設計がなされている。一方、ことに産業用や家庭用などでは、何日も何カ月も連続して使い続ける場合が多いため、1日1回のオン・オフを行うことが面倒であったり、それを厭う顧客があったりするのも事実だ。もちろん、オン・オフは自動で行われるが、「その間も充放電をしたいとか、その分を価格の安さに振ってほしい」との声もあるようだ。

しかしながら、産業用であれ家庭用であれ、万が一にも火災が生じれば事態は深刻になる。人命に関わるかもしれない。それは、各地で起こる災害も同じだ。災害時の電力確保としてもバッテリーの需要は高まっており、安全性・信頼性はこれからのエネルギー保障において重要項目と言える。目先の安さだけで済まされない問題だ。

それぞれに違うセルの劣化状況

大量の中古バッテリーを製品化するため、フォーアールエナジーは使用済みリチウムイオンバッテリーの品質検査技術を構築してきた。

「リーフには、搭載される1パックのバッテリーに48のモジュールが収められています。このバッテリーパックの中で、一つ一つのモジュールがバラバラの性能に劣化しています。それらを一つ一つ確認し、性能の高いものから順に3つのグレードに分け、それぞれ用途に合った使い方に適用していきます」

「そのためには、まずそれぞれのバッテリーセルの劣化状況を確認することから作業が始まります。1モジュールの性能を充放電しながら検査するのに従来は8時間かかっていました。それではリーフ1台分の48モジュール全ての検査を終えるまでに16日掛かってしまいます。これでは次々に持ち込まれる中古バッテリーの検査が追いつきません。そこで弊社では、1モジュールにつき約4時間で検査を済ませ、性能を把握できるようにしました。これで初めて、中古バッテリーの事業が動き出せます」

「加えて、中古バッテリーが3つのレベル別にそれぞれ、例えば5年後にはどれくらいの容量、出力、充放電性能を保持しているか、温度差など使用環境の変化も加味しながら、将来の性能を推定するツールの開発も行いました。この2つの柱となる技術ができあがったことで、初めて中古バッテリーの事業を開始できたのです。これには日産の支援が欠かせませんでしたし、世界を走る全てのリーフのバッテリー情報がビッグデータ化され、確認できる状況にあることも不可欠です」

日産の2代目「リーフ」

8年近い歳月をかけバッテリー再利用に道筋

3グレードに分類された中古バッテリーの内、最も性能のよい製品はリーフの交換用再生電池として販売される。中程度のグレードは、フォークリフトなどで利用される。グレードの低いバッテリーは、工場における電源のバックアップ用などで再利用の道がある。

「2010年の創業から8年近くの歳月をかけ、ようやく弊社の主力事業であるEVで使用済みになったリチウムイオンバッテリーの再利用と再販売に至りました。この事業は、そう簡単に誰にでもできるものではありません」と、牧野氏は感慨深げに語る。

様々な試行錯誤を積み重ねながら、使用済みEV用リチウムイオンバッテリーの再利用と事業化に向けた取り組みを進めてきたフォーアールエナジー。「EVシフト」との言葉も聞かれるようになった今、2018年3月には福島県の浪江町に新工場も開所し、いよいよ同社のビジネスは軌道に乗りそうに見える。今後の展開について牧野氏は何を思うのか。そのあたりは後編でお伝えしたい。

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2019.05.18

PayPayの100億円キャンペーンが終了

「〇〇ペイ」が乱立する中、PayPayの立ち位置は?

6月には新キャンペーンを実施、「決済No.1」への道筋とは

前代未聞の「20%還元」で話題を呼んだPayPayが、第2弾の100億円キャンペーンを5月13日に終了した。だが6月以降には新たなキャンペーンが始まり、まだまだその熱は冷めそうにない。

ソフトバンクグループの資本参加など、PayPayを取り巻く環境は急速に変化している

派手な還元策が注目されるPayPay。今後のビジョンとして打ち出したのは「決済No.1プラットフォーム」を目指すことだ。最近のPayPayを取り巻く状況を振り返りながら、次の展開を予想してみたい。

PayPayは「認知No.1の維持が重要」

4月25日のヤフーによる決算説明会では、PayPayに関する最新の数字として、登録者数は600万人、加盟店は50万店、決済回数は累計2,500万回を突破したことが明らかになった。さらに登録者数は10連休後には700万人に達するなど、順調にその数を伸ばし続けている。

PayPayの累計登録者数が700万人を突破(5月8日のソフトバンク決算説明会にて)

現状、名称認知やサービス理解ではPayPayがNo.1を維持している(PayPay調べ)。これから先、スマホ決済がマジョリティ層に広がっていくにつれ、まずはNo.1のサービスから始めようと考えるユーザーは増えていく。とにかく、認知度No.1を維持していくことが重要というわけだ。

PayPayによる調査では認知度No.1をキープ

100億円キャンペーンの第2弾は終了したが、同社は新たに「次の20%還元」として、6月からはドラッグストアで最大20%を還元するなど、月ごとにジャンルを限定して実施するという。またキャンペーンとは別に、通常の還元率も最大3%に引き上げている。

まだまだPayPayの大盤振る舞いは続きそうだが、店舗側が払う決済手数料は場合によっては0%であるほか、売上金の入金手数料も無料期間を延長している。こうした間にもユーザーへの還元は続いており、PayPayが使われるたびに損失は膨らむ計算になる。

そこで改めて注目されるのが、「どうやって儲けにつなげていくのか?」というビジネスモデルの視点だ。ヤフーやソフトバンクの決算説明会からは、その将来像が明らかになってきた。

PayPayが「プラットフォーム」として本格始動?

ヤフーが決算説明会で示したPayPayのビジネスモデルとは、決済データやPayPay残高の活用だ。蓄積された決済データから個人の消費行動を分析すれば、店舗への送客や広告に利用できる。PayPay残高を利用すればさまざまな金融商品の販売が可能だ。

PayPayのビジネスモデル(4月25日のヤフーの決算説明会資料より)

近未来を描いたイメージビデオでは、PayPay残高が足りないときに利用できる「後払い」、近隣店舗の商品在庫の表示や送客、PayPay残高による投資信託や保険の購入、デリバリーやレンタカーといったサービスを利用する様子が描かれていた。

最近では、楽天やLINEに続き、KDDIもアプリを入り口としてコード払いや資産運用、ショッピングやサービス利用にポイントを循環させていく構想を打ち出している。PayPayが目指すビジネスモデルは、そこに真っ向勝負を挑むものとみて間違いなさそうだ。

続々と強化されるPayPayアプリ。今後は金融サービス連携も?

ヤフーはPayPayのオンライン対応を進めており、6月以降にYahoo!ショッピングとヤフオクに対応する予定だ。特にヤフオクの売上金をPayPayで受け取れるようになる機能は、メルカリの売上金を利用できるメルペイに対抗する動きといえる。

また、ソフトバンクはガラケーからの移行にPayPayを活用する。ガラケー利用者向けの「スマホデビュープラン」では合計6,000円相当のPayPayボーナスを付与すると発表している。PayPayに関心を持ち始めたガラケー利用者に向けて、スマホに移行させつつPayPayユーザーとして取り込む、一石二鳥のアプローチだ。

PayPayを取り巻く体制も変化している。ソフトバンクグループはPayPayに460億円を出資する一方、ソフトバンクはヤフーを子会社化することで効率化を図るなど、グループ全体でのシナジーを追求していく構えだ。

PayPayを中心にソフトバンクグループ全体とのシナジーを追求

スマホ決済の中でも飛び抜けて勢いのあるPayPayだが、アプリ起動やコード読み取りの手間を嫌う声は多い。還元キャンペーンの間だけ盛り上がる一過性のものと考えていた人も少なくないだろう。だがここに来て、ソフトバンクとヤフーはPayPayを本気で「No.1」にする戦略に着手したといえそうだ。

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チームの環境はどう変わったか? 代表者4人が語る「eスポーツ2018-19」

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2019.05.17

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界

選手や大会だけでなく「eスポーツチーム」にも影響を及ぼした

eスポーツチーム運営に携わる4人に集まっていただき座談会を実施

チームに起きた変化や現在の環境について話し合ってもらった

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界。選手や大会運営だけでなく、プロ選手の所属する「eスポーツチーム」にも影響があったようだ。そこで、eスポーツチームを運営する4名に、チームの変化やeスポーツの現状、これからの展望について語ってもらった。

今回、集まっていただいたのは「よしもとゲーミング」「SCARZ」「SunSister」「DetonatioN Gaming」の4チームの代表者だ。

流入する資本。eスポーツのマネーゲーム化を懸念

――昨年からeスポーツを取り巻く環境が大きく変わったと思います。みなさんのチームにはどのような変化がありましたか? 昨年その波に飛び込んだよしもとクリエイティブエージェンシーさんは、eスポーツへの参入意図について教えてください。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏(以下、星):巷で言われているのと同様に、弊社にとっても2018年は“eスポーツ元年”でした。よしもとクリエイティブエージェンシーはエンターテインメントの総合商社として、タレントに仕事を持ってくることがメインの会社です。内容は時代によって変化しますが、eスポーツはまさにこれからタレントの活躍の場の1つとなると考えたため、参入することにしました。

ただ、「よしもとゲーミング」として、eスポーツ事業に乗り出したはいいものの、右も左もわからない状態だったので、まずはすでにeスポーツチームを運営しているところにパートナーとして参加しました。プロeスポーツチームの「よしもとLibalent」がそうですね。

また、よしもとはイベント運営も行っている会社なので、興行としてのeスポーツにも注目しています。2019年からは『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の国内リーグの「League of Legends Japan League(LJL)」の運営に参加しています。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏(以下、友利):これまでは、チームのスポンサーを探しに行った際、いつも「eスポーツとは」という説明からスタートしていましたが、昨年あたりからその説明が不要になりました。

また、認知度が高まっているので、プロゲーマーを目指す人も確実に増えてきていますね。ちょっと前だとYouTuberの影響などもあり、ゲームで稼ぐというとストリーマーを目指す人が多かったのですが、最近は選手志望の人が増えている印象です。20歳以下の選手も増えてきたのではないでしょうか。なので、チームとしては、資金も選手も厚みが出てきました。

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏(以下、太田):チーム設立当初は、ゲーム好きが集まる、いわばコミュニティの延長のようなものでした。なので、ゲームで日本一になりたい、世界に行きたいという気持ちは強かったのですが、「お金を稼ごう」とはあまり考えていませんでしたね。しかし、次第に企業から協賛の話をいただくようになり、「ビジネスとしてしっかりやっていかなければならない」と思うようになりました。

企業側も、資金提供されるようになってからは、eスポーツについて勉強されるので、選手やチームの状態なども細かく見られます。そのため、いまは「スポンサーされるチーム」と「されないチーム」がふるいにかけられているでしょう。協賛の数も増え、ご提供いただく資金も増えるなかで、昔ほど緩い感じではなくなりました。業態としても、これまでのようなPCメーカーやPC周辺機器メーカーだけでなく、PC関連以外の企業の参入も増えています。

あと、eスポーツが普及して感じる変化ではもう1つ、ファンの存在が挙げられると思います。最近では、試合後に選手を出待ちするファンを見かけるようになりました。プロゲーマーがアイドル化してきたなと思いますね。

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏(以下、梅崎):最近は、Twitterのアカウントをスポンサーさんに見張られている気がします(笑)。打ち合わせのときに「梅崎さんこの前~していましたよね」と言われて、「どうして知っているんですか?」と聞いたら「Twitterで見ました」って。選手も私も下手な発言はできなくなったと感じましたね。

チームとしては、やはり2018年に大きく変わりました。以前の年と比較すると、グッズ販売などの売上が2倍以上も違うんです。数千万円クラスですね。イベントだと選手のサインがもらえることもあり、現場でグッズを購入する人が増えている印象です。

選手の給料も上がってますし、確実に市場価値は高まっているでしょう。ただ、主要タイトルではマネーゲームが始まっている感じがして、それがちょっと気がかりですね。

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏

友利:大資本が入ってくるということですよね。それはまずいことなんですか?

梅崎:たとえば、中国資本が入ってきて、選手を多額の資金で集め出すと、市場はあっという間に吹き飛んでしまうでしょう。「選手1人に3000万円払います」「予算は10億あります」って言われたら、DetonatioNなんか消し飛んでしまいますよ。リアルスポーツのプロチームもeスポーツに参戦していますし、経営基盤がしっかりしているところと勝負して勝てるのかなという不安はありますね。

太田:ちょうどこの前、友利さんと話をしていたときに「数年後には、SunSisterないから」と言ったのを覚えています。「なんでそんなこと言うんですか」って言われましたけど、バックに銀行のような大資本が付いている企業と札束ゲームをしても絶対に勝てないじゃないですか。「SunSister、強くなったよね。君、いくらもらっているの? そう、じゃあ月100万出すよ」って言われたら、太刀打ちできません。

星:eスポーツの運営ノウハウがないところは、チームごと買うケースも出てくるでしょうね。

梅崎:そうですね。チーム売却まで行かず、資金力のあるところとパートナーを組んでいければいいのですが。

選手の意識は“ファンの存在”で変わる

――TwitterなどのSNSについて話が出ましたが、選手は特に注目されていると思います。そのような状況に慣れていない選手も多いと思いますが、チームとしてはどう対応していますか。また、ファン対応についてもお聞かせください。

星:うちはマネジメントの会社なので、コンプライアンスに関してはしっかりと時間をとって教育していますね。弁護士や警察OBの方に来ていただき、一人ひとりに説明します。

メディア対応についてもレクリエーションを実施しています。全員に行き渡っているとはまだ言えませんが、eスポーツ選手でも目立つ存在のジョビンには特にたたき込んでいますよ。

リーグ運営という側面からほかのチームを見ていると、そのようなことができているチームとできていないチームがはっきりとわかりますね。

友利:ファンサービスは力を入れていきたいと考えています。eスポーツの場合、会場に行けば選手に会えるという「身近さ」も魅力の1つでしょう。

実はSCARZには、「元アイドル」をしていた選手も在籍しているんですが、アイドル時代よりも、eスポーツ選手になった今のほうがファンとの距離感が近くなって、彼自身も喜んでいますね。最初はeスポーツに興味がなかった彼のファンにも、eスポーツを身近に感じてもらえるようになりました。

太田:選手の教育自体は、それこそチームの発足時からしっかり行っています。ただ、なかなか浸透するまでに時間がかかりますね。選手にコンプライアンスの大事さを説明すると、その場では素直に話を聞きますし、「わかりました」って言ってくれて。やんちゃなタイプの人は少ないのですが、それでも、トラブルを起こしてしまうことがあるんです。

そのときに「SunSister、ちゃんと教育しろよ」って言われるんですが、実際は丁寧にやっているんです。たぶん、どのチームも教育はしていると思いますが、やらかす人はやらかしてしまいますね。

ただ、ファンが増えて「自分が注目されている」と認識できれば、そこで態度が一変することが多いですね。「これは下手なことはできないな」と思うようです。コンプライアンスを説明するよりも、ファンに見られているという意識を持つほうが、大事なのかもしれません。

梅崎:チームのメンバーと焼き鳥屋さんに行ったとき、店員さんからうちのチームのファンだって声をかけていただいたことがありました。すぐに「下手なこと言うなよ」選手たちに伝えましたね(笑)。太田さんがおっしゃったように、「いつどこで誰が見ているかわからない」ことを実感しました。

DetonatioNは大所帯なので、教育自体はマネージャーに任せています。なので、その教育者、教育内容を間違ってしまうと、選手が勘違いしてしまうことはありますね。僕らの考えていることをマネージャーに伝え、それをマネージャーから選手たちにきっちり伝えられる座組を作っていかないといけないと考えています。

太田:ファン対応については、定期的にファンミーティングを実施しています。実施し始めた頃は「僕にファンなんていません」とか「そんなことやって意味あるんですか」とか、ファンとの触れ合いを怖がる選手もいましたが、実際にファンミーティングをやってみると、思いのほか人が集まって「いつも動画見ています」「試合に行きました」って言ってもらえるんです。そうすると、うれしくなるんでしょうね。ファンの存在を実感して、イベントへの参加も楽しくなってきて、ファンから見られていることに対してもポジティブに感じられるようになったはずです。

梅崎:DetonatioNでは以前、ファンが離れぎみになってしまったことがあったんです。そのときに私も含めて意識改革を行って、今まで以上にファンを大事にするようにしました。

選手も昨年の「Worlds」で、わざわざ韓国まで応援に来てくださったファンがいたことがすごくうれしかったようで、意識が変わったように思います。

友利:教育という意味でいうと、有名になって、成績も残せるようになると、選手が迷子になってしまうことがありますよね。チームではなく自分の力で勝っているとか、自分だけに人気が集中しているとか、イベントのオファーは自分に来ているとか。もちろん、選手個人の強さもあると思いますが、チームゲームの場合は1人では勝てません。目立つプレイの裏には支えてるチームメイトがいます。そうなるとチームを離れても、オファーがもらえるのではないかと思ってしまうんです。

梅崎:たしかにあります。でも実際は違うんですよね。よしもとさんは、特にそのあたり詳しいのではないでしょうか。多くの芸人さんが在籍していて、よしもとの看板で仕事がくることも多いわけですから。

星:永遠の課題ですね。オファーをいただくのは、「芸人の人気」か「よしもとの存在」か。私はどちらもあると思います。もし、芸人の力だったとしても、そこまで育てたのはよしもとですし、eスポーツであればチームなわけです。

友利:実際にチームを離れてから、チームの人気に支えられていたと気づくこともあるようです。もちろん、チームの人気は個々の選手の人気あってのこと。あと、チームは強いことで人気が出るのですが、強すぎてしまうのも弊害はありますね。

星:リアルスポーツでも一緒ですよね。1チームだけが強すぎてしまうと、試合にならないですし、実は集客もトータルでは減ってしまうんですよね。NBAなどのアメリカのスポーツリーグでは、各チームが選手に支払える給料の総額に上限を設けて、戦力のバランスを取っていますが、eスポーツでは、まだそういうレギュレーションがありません。勝つことで集客を見込めるようになったのに、勝ち続けてしまうことでお客さんが離れるというジレンマですね。「観に行かなくても、どうせ勝つんだから」って、なるんです。

梅崎:そうか! 負けるように言わなきゃ(笑)。

ドライな関係が増えた「選手」と「チーム」

――賞金やプロゲーマーという職業が話題になることも増えました。もともとゲームタイトルが好きでコミュニティからプロになった選手と、eスポーツが確立されてからプロになることを目的に始めた選手では、ゲームに対する向かい方は違うのでしょうか。

太田:特に違いはないと思います。チームのなかには、ゲームを楽しみたいと思っている人もいれば、トップを目指したいと取り組んでいる人もいます。それでも、ゲームや大会への熱量はそんなに変わらないでしょう。ただ、結果が出たときに、以前の選手は「よっしゃー、勝ったー」で終わっていたところ、今では「よっしゃー、勝ったー。結果出したからお金ください」ってなるだけだと思います。

梅崎:昔からいる人はお金を求めないことが多いですね。「強さ」や「世界での活躍」が先にきます。今の選手はお金をもらえるのが当たり前という印象です。もちろん、お金の話は重要なんですけど。面接のひと言めから「いくら出します?」はちょっと……。

友利:うちも似たような感じですね。強い選手は勝つことを最重要に考えています。「勝ちたい」「結果を出したい」と頑張っている人には、こちらからサポートしたいと思うもの。そこは情の部分になってしまいますけどね。

梅崎:情は大事です。なかなか結果を出せない選手がいると「うちと契約続けるのは難しいな」とならざるを得ないのですが、本人とその話をするときに「もう少しだけ頑張らせてください!」と懇願されてしまうと「そうかぁ」って判子を押してしまうんですよね。

太田:たぶん、梅崎さんも長いことやっていらっしゃるので、どうしても選手を切らなきゃならない場面に遭遇して、涙を流しながら契約解除した経験ってあるんじゃないですか?

梅崎:そりゃありますよ! 泣きましたね。

太田:そうですよね。私も経験があります。選手と泣きながらお別れしたことがありました。できることなら契約継続したかったですし、選手もSunSisterで続けたいって思いがあったわけですから。

もちろん、今もそのようなケースはゼロではないですけど、契約に関してはわりとドライな関係が多いですね。内容に不満があったら辞めますし、こちらから切らざるを得ない場合でもあっさりと辞めていきます。

ただ、プロとしてお金をもらえることが当たり前になった時代に生まれたので、対価を求めること自体は悪ではありません。

――今年LJLは大きくレギュレーションを変え、売上が5000万円必要であったり、資本金が1000万円以上であったりと、リーグに参加できるチームの条件も変わりました。また、2部リーグを廃止し、1部リーグのチーム数を8に増やすなど、さまざまな改革を行っています。ほかのタイトルでも一定数の資本金額や売上額を満たしていないと、リーグへの参加申請ができなくなっていますが、この状況についてどう感じますか。

梅崎:LJLに関して言えば、6チーム制から8チーム制にしたのは大賛成ですね。ただ、2部制をなくしたのは早すぎたと思います。現状でも地域密着のフランチャイズ体制がまともに機能していないなかで、2部制をなくしてしまうと、東京の一極集中になりますし、これからLJLを目指そうとする若者の活躍の場が少なくなってしまいます。

リーグとしても2部との入れ替え戦があるからこそ、成績下位チームも最後まで緊張感を持って試合できるわけです。今の状態だと優勝を見込めなくなったチーム同士の試合はただの消化試合になってしまいますから、観る方もつまらなくなるのではないでしょうか。

友利:うちのチームは1部と2部を行ったり来たりしていたので、落ちたときの悔しさ、昇格したときの感動が得られなくなったのは残念ですね。

梅崎:リーグ側からすれば、資金不足が原因でチームが解散してしまうリスクを懸念して、ある程度資金力、実力のあるチームを選定していると思います。なので、2部リーグに関しては、その売上や資本金の規定を1部よりも低く設定するなどの処置で継続していただければうれしいですね。

友利:チームの売上を求めるのであれば、エコシステムも同時に作ってほしいですね。放映権を作って、チームに分配するとか。もちろんチーム自体が考える必要もありますが、さまざまな面でリーグに協力していただけるとうれしいですね。

たとえば、海外から有力選手を招聘すると、入国管理局から「厳しい」と言われることがあるんです。なぜかというと、プロリーグとしてのシステムが確立していないケースが多いためです。LJLはそこをクリアしているので、ガンガン海外の選手が入ってきています。日本の『LoL』が飛躍的に伸びたのは、韓国人選手が入ってきたことが大きいんです。「実力がはるかに上の韓国人選手がこれだけ練習しているのに、日本人選手はそれでいいのか」という雰囲気になって、日本人選手の意識が変わってきました。

選手としての実力の高さが国内のリーグのレベルを引き上げてくれるだけでなく、海外の常識、特にeスポーツ先進国の韓国のやり方が入ると、国内の選手やチームの意識改革ができるんです。Jリーグの関係者も同じことを話していましたね。

星:LJLの2部廃止は我々の決定というわけではないのですが、まず1部リーグに注力してLJL自体を広めることが目的だと思います。もっと競技人口が増えてから、2部リーグの話が再び出てくるのではないでしょうか。

梅崎:若手発掘という位置づけであれば、参加希望者によるトライアウトの「スカウティング・グラウンズ」がありますけど、狭き門のうえ、参加するのは選手単位。即席チームでのプレイを数試合観ただけで選手の実力を判断することは無理ですよ。

友利:スカウティング・グラウンズで新しい選手を獲得したとき、現存の選手の誰かを切る必要が出てきます。2部があれば、そこでの活躍次第で1部への復帰も見込めますが、現状だと1度1部を離れてしまうと、復帰は難しいでしょうね。

2019年1月に開催された「LJL 2019 SPRING SPLIT」の様子。試合会場が中野の「Redbull Gaming Sphere Tokyo」から「よしもと∞ホール」に変更された

太田:主催者側の観点から考えると、チームが安定して運営されているかどうかの担保は必要だと思います。ただ、それをされるとうちは辛いかな。まあ、レギュレーションで出られないのであれば、それは仕方ないこと。こちらはあくまでも出させていただいている立場なので。

友利:大会自体もっと増やしてもらえればうれしいですね。せめて年間スケジュールは早めに出してほしい。スポンサーさんからスケジュールを聞かれるんですけど、決まってないから言えないんです。下手すると1カ月前にならないと出ないところもあって。

太田:IPホルダーが簡単に大会を主催させてくれない点も、なんとかしてほしいところです。権利を持っているところほど何もやらず、お金も出してくれない。それでいて、大会を開こうとしても許諾が降りないのでは、タイトルが盛り上がるわけがありません。

友利:そういう点で『カウンターストライク:GO』はすごいですね。さまざまなところが開催できるので、年間700回くらい大会がありますし。選手は休むヒマがないんですけど、今の日本のように「大会がない!」という状況よりはいいのではないでしょうか。

――今後eスポーツに求めることやチームとしての目標は何でしょうか。

星:リーグ運営はもっとしっかりしたいと思っています。選手に還元できるエコシステムの構築やスタッフの育成、また、セカンドキャリアの構築なども進めていきたいですね。よしもとクリエイティブエージェンシーはスポーツ選手のセカンドキャリアを支援しているので、eスポーツ選手にも対応できると思います。

友利:日本チームが世界を取るところを見てみたいですね。そのためにも、チームとして、選手はもちろん、スタッフの育成をしていくことが重要だと思っています。フィジカルやメンタルのケアができる環境も整えていきたいですね。ファンの方々にも選手を見て喜んでいただくためにも、大会で活躍できるだけでなく、人としてしっかりとした選手を輩出していきたいと思います。

太田:せっかく多くの人にファンになっていただいたので、もっと喜んでもらいたい。見ていて、「このチームおもしろいね」って言ってもらえるようなチーム作りをしたいと考えています。ファンが増えれば、それだけチームや選手にも還元されるわけですから。チームとしては、世界中から「SunSisterすげえな」と言われるようになりたい考えています。それが一番ファンも喜んでくれると思うので。選手の意識改革をし、ファン重視で運営していきたいですね。

梅崎:今、チームの主要タイトルは『LoL』なので、昨年以上の成績を残していきたい。また、実行するまでにしばらく時間がかかりそうですが、地方に根付いたチームにしていきたいと思っています。地盤を築き、その土地のファンや地元の企業と一緒に何かやっていければいいですね。選手中心での運営するスタンスは変わりませんが、ファンのための施策もいろいろ考えていきます。ファンクラブを作ったり、グッズを増やしていったり、そんな感じですね。

――ありがとうございました!

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