ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(前編)

ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(前編)

2018.03.15

販売台数は右肩上がりで、2017年にはカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど日本で再び存在感を高めつつあるボルボ。しかし、着任当時は「ブランドがガタガタだった」とボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は振り返る。ボルボ好調の要因とブランド再建、そして今後について、木村社長にじっくり話を聞いた。2回に分けてお伝えする。

東京・港区にある「ボルボスタジオ青山」は、「神乃(かんの)珈琲」とコラボしたカフェを併設するボルボのコンセプトストア。ここで木村社長(画像右)にじっくり話を聞いた

輸入車では「ゴルフ」以来の快挙

スウェーデンの自動車メーカーであるボルボ・カーズが日本で存在感を高めている。ボルボ・カー・ジャパンが2017年に国内で販売した新車は1万5,751台。これは前年比8.3%増の成績で、なおかつ3年連続で前年を上回る結果となった。

販売の好調さだけでなく、国内でのボルボの存在感が着実に増している。昨年、SUVの「XC60」というクルマで日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)を受賞したのである。

2017年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したボルボ「XC60」

COTY38年の歴史の中で、輸入車がその栄誉を得たのは2013年のフォルクスワーゲン「ゴルフ」のみで、ボルボはそれに次ぐ快挙であった。というのも、輸入車に対してはインポート・カー・オブ・ザ・イヤーという章典が別に用意されており、COTYの本賞を受賞できなくとも、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーを手に入れることが輸入業者の第一目標となってきたからだ。

ボルボから近く登場するのは、同社SUVラインアップで最もコンパクトなモデルとなる「XC40」だ(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

その年の1番と評価されるCOTYの受賞には、クルマそのものが優秀であることが不可欠だが、高まりつつあるクルマの評判を3年連続で前年を上回る販売成績につなげたのは、経営の成果といえるだろう。好評を博した「XC60」に続き、日本では近く、コンパクトSUVの「XC40」を発売する予定。すでに「2018年欧州カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している「XC40」だけに、追い風を受けての登場となる日本市場でどんな評価を受けるのかが気になるところだ。

「ユニクロ」のファーストリテイリングにも在籍

3年半前の2014年7月に、ボルボ・カー・ジャパンの代表取締役社長に就任したのが、木村隆之氏である。木村氏は、トヨタ自動車、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング、日産自動車を経て、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任した。自動車会社の社長になりたいとの明確な意志を持ってキャリアを積んだ人だが、それが異色に見える過去の経歴にも表れている。

「自動車業界には開発、生産、購買、営業などいろいろな部門がありますが、それらの機能を束ね、お客様志向かつ会社最適で動かしていくと、業績が変わるような気がしたのです。単に販売やマーケティングのトップで終わるのではなく、トヨタに在籍した当時から経営をしたいという考えでした。ファーストリテイリングは海外展開やM&Aで子会社の社長が大勢必要とのことで、柳井正社長に『どこかで社長が必要になるから来なよ』と言っていただきました」(以下、発言は木村社長)

社長になりたいと明確に考えていたという木村氏

クルマの会社を率いるのに必要なものとは

そして、トヨタを飛び出す。約10年前のことだ。「いま私は53歳ですが、トヨタ社内で例えば、子会社の社長になるような頃までは待っていられないと思ったのです」と木村社長は当時を振り返る。その後は、ファーストリテイリング入社からわずか2年で日産自動車へ移ることになった。

「日産が自動車業界に引き戻してくれました」。インドネシア日産、アジアパシフィック日産兼タイ日産で社長を経験し、そこからボルボ・カー・ジャパンへという流れである。同社で初の日本人社長となった。

異業種と海外を経験し、木村氏はボルボ・カー・ジャパンの社長に就任した(画像はボルボスタジオ青山で撮影)

「これまでに自動車会社の社長を計9年やっていることになります。そこで改めて実感するのは、クルマには多くの機能や部門があり、それらが個々に一流でないと生き残れないのですが、一方で、各部門が一流であろうとして突き詰めていくと、部門間の対立が起こります。それが強まると、お客様志向や、会社最適ができなくなるのが自動車会社の性といえます。それであるからこそ、自動車会社を引っ張っていけるうまい経営は、腕の見せ所といえます」

いよいよ、木村社長の本領が日本市場で発揮されることになった。それが、2014年7月である。

かけるべきところにお金をかけたクルマ達

では、木村氏の社長就任時、ボルボ・カー・ジャパンはどのような状況であったのか。

「まずボルボ車に乗って、どれも素晴らしいと思いました。最初に前型の『XC60』に乗り、その全てがよかった。今の新型と違い、フォードグループ時代の共通プラットフォーム(車台)で前型は作られていますが、ボルボの味を持っていました」

木村社長は前型の「XC60」(左、画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)に乗ってボルボ車のよさを再確認したという。右は現行の「XC60」

「例えばシートは、国産車の商品企画にいた経験からすると、原価低減の種が山のようにあるのですが、技術者がこうでなければならないという良心により、お金をかけるべきところにかけているので、その積み重ねで座り心地だけでなく、座席としての良さが現れていました。車体の剛性も、かけるべきところにきちんとお金をかけていないと、ここまでは出せないでしょう」

「他にも、(現行の)「V90」のリアサスペンションは20年前と基本的に同じ形式です。本来あるべき重量や性能、車体で必要な空間の確保など、クルマが目指すところは不変なので同じ結論に至り、同じ形式で進化させている。各担当技術者の考え方がしっかりしている証ではないでしょうか」

ボルボ「V90」(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「20数年来国産車に乗ってきましたが、性能が全く違う。ここまで欧州車に引き離されているとは…正直に言って驚きました」

台数を追った“安売り”がブランドイメージに影響

これから扱う商品に間違いはない。そこに安堵と確信を持ったはずだ。一方、改めるべき点はどうであったのか。

「商品は良いのですが、ブランドがガタガタでした。『V40』を安売りすることで販売台数を追いかけたため、当時の平均単価が350万円に届かないくらいでした。『V40』を含めた全体で低く、さらに『V40』を安売りしていたからです。『何をやっているのか!』というのが、正直な印象でした」

3年半後の現在、平均単価は530万円へと改善されている。

ブランド再建、手始めは「安全」イメージのアップデート

では、ブランドをどう立て直していったのか。

「日本でのボルボに対するお客様の印象は、悪いものではありませんでした。上質であるとか、安全であるといった感じです。しかし安全については、『ぶつかっても死なない』という古い印象のままでした。今は、『ぶつからないクルマ』という先進的な安全を競う時代になっています。そこが伝わっていませんでした」

木村社長が就任して間もなくの2014年12月に、「IntelliSafe10(インテリセーフ・テン)」と銘打ち、先進の安全装備や運転支援機能を全ての車種、全てのグレードに標準装備することを始めた。ボルボにおける先進安全技術の充実ぶりを、顧客は目の当たりにしたはずだ。これまでは、車種やグレードによって装備される内容が違っていたり、注文装備となっていたりした。先進安全技術を切り売りすることで車種やグレードの差別化はできても、ボルボ全体の安全思想は伝わりにくかった。

スウェーデンのクルマであること自体も魅力の1つ

「それから、実直なクルマという良い印象はあっても、スウェーデンのクルマだということは、オーナー以外の方にあまり知られていませんでした。国内でプレミアムブランドというと、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのジャーマン3とレクサスで、そこへボルボが食い込むには、スウェーデンという要素が欠かせません。そこを強化しようと考えました」。創業時より安全を何より優先したクルマ開発をしてきた歴史や技術に加え、北欧の雰囲気を伝える「スカンジナビアン・デザイン」など、ボルボはお国柄も自社製品の魅力として打ち出している。

ボルボスタジオ青山の内装からもスカンジナビアン・デザインの一端を感じられる

「ボルボは技術中心ではなく、『デザインド・アラウンド・ユー』(Designed Around You)というブランド戦略のもと、人を中心とした素晴らしいクルマ作りの思想があります。運転する人だけでなく、大切な人や物を守ることをこの言葉はいっています。人が中心というのであれば、顧客満足度で一番を目指すべきです。CS(Customer Satisfaction)ナンバーワンの活動を始めることで、JDパワー(調査会社)の調査で輸入車1位になれました。ブランドが本来持っているものを接客の現場で実践し、お客様へ伝えることがブランド再構築の基本であり、大事なことです」

営業職は二極化の時代へ

では、CSナンバーワンは、どのように目指すのか。

「プレミアムな世界のお客様は、おのおの求めていらっしゃることが違います。また、デジタル化により、1人あたりの来店回数は減っています。事前に情報を入手し、ブランドを絞り込んだり、価格や装備を比較したりした上で来店される方もあれば、店へふらっと立ち寄られる方もあります。そうした多様なお客様に対し、求めていらっしゃることをいかに汲み取り、提案ができるか。マニュアル通りでは他ブランドとの差別化要因にはなりません。マニュアルではダメだという意識変革が必要です」

「ここは、トヨタ時代にレクサスでCSナンバーワンを目指した際の考え方と同じです。当時、国内の一流ホテルが外資系に負けたのを見て、お客様が何を望んでいらっしゃるかを知り、最適な提案がいかにできるかを外資系ホテルから徹底的に学びました」

「また、ドレスコードも作りました。最初にやったのが、ボルボのピンバッジの製作です。それまでは、スウェーデンで売っている野球帽に付けるようなバッジを買ってきて着けていたのですが、それではダメだと。ブランドの誇りとなるよう一から作り直し、ブランド研修を受けた人にのみ渡して、スーツの襟に付けるようにしました。これは非売品で、退社したら返してもらいます」

木村社長もボルボのピンバッジを身に付けていた

意識改革の第一歩として、社員の自覚を促すことからはじめたということである。その上で、「営業職は、今後ますます二極化していくと考えています。1つは、お客様と少し話をしただけで要望を感じ取り、いろいろ提案できるスーパーセールスです。こういう人材に雑用をさせてはいけません。新車登録などはアシスタントに任せ、販売に全力を尽くしてもらう。もう一方は、月に数台となかなか成績の上がらない人で、そういうセールスにはIT(情報技術)武装するように言っています」

スーパーセールスとIT武装の両輪

文字通り、IT武装の武器となるのが、JATOの「Carspecs」という製品だ。このソリューションを使って、ボルボではタブレット端末でクルマのスペックを調べたり、他社のクルマとボルボ車を比較したりできる体制を整えている。このタブレットは、セールスに話しかけられることを好まない顧客が、来店した際に自分で手に入れたい情報を調べることにも使える。

「商品、価格、装備などの相対的な価値を、タッチ式に検索し、グレードの違いによる価格差と装備の充実度を比較検討できます。また、競合他社と比べることもできます。ボルボの利点はもちろん、ボルボの負けている点も比較できるようにしています」

さまざまなクルマを簡単に比較できるアプリがタブレットに入っている

星取表で負けていても、それは単なる負けではなく、顧客によっては必要ない装備によりついた勝敗であるかもしれない。そこを明らかにすることにより、不要な装備に余計な費用をかけずに済む満足といった、バリュー・フォー・マネーの充実につながる場合もあるだろう。競合比較の中で、弱点もあえて明らかにすることにより、正直で実直なプレミアムブランドであるとの好ましい評価につながる可能性もある。

スーパーセールスが活躍しやすい体制と、IT武装によるバリュー・フォー・マネーの提供という2本柱によって、来店した顧客の満足度を高めていく戦略である。

IT武装の重要性を語る木村社長

前編では、木村社長の異色の経歴からボルボ・カー・ジャパンの社長就任後に取り組んだ営業面での改革までを聞いてきた。後編では、日本ではなじみの薄いクルマのリース販売をボルボが増やせている要因など、同社が進める独自の戦略について話を聞き、ボルボ・ブランド復権の背景をさらに探っていく。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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