ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(前編)

ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(前編)

2018.03.15

販売台数は右肩上がりで、2017年にはカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど日本で再び存在感を高めつつあるボルボ。しかし、着任当時は「ブランドがガタガタだった」とボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は振り返る。ボルボ好調の要因とブランド再建、そして今後について、木村社長にじっくり話を聞いた。2回に分けてお伝えする。

東京・港区にある「ボルボスタジオ青山」は、「神乃(かんの)珈琲」とコラボしたカフェを併設するボルボのコンセプトストア。ここで木村社長(画像右)にじっくり話を聞いた

輸入車では「ゴルフ」以来の快挙

スウェーデンの自動車メーカーであるボルボ・カーズが日本で存在感を高めている。ボルボ・カー・ジャパンが2017年に国内で販売した新車は1万5,751台。これは前年比8.3%増の成績で、なおかつ3年連続で前年を上回る結果となった。

販売の好調さだけでなく、国内でのボルボの存在感が着実に増している。昨年、SUVの「XC60」というクルマで日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)を受賞したのである。

2017年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したボルボ「XC60」

COTY38年の歴史の中で、輸入車がその栄誉を得たのは2013年のフォルクスワーゲン「ゴルフ」のみで、ボルボはそれに次ぐ快挙であった。というのも、輸入車に対してはインポート・カー・オブ・ザ・イヤーという章典が別に用意されており、COTYの本賞を受賞できなくとも、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーを手に入れることが輸入業者の第一目標となってきたからだ。

ボルボから近く登場するのは、同社SUVラインアップで最もコンパクトなモデルとなる「XC40」だ(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

その年の1番と評価されるCOTYの受賞には、クルマそのものが優秀であることが不可欠だが、高まりつつあるクルマの評判を3年連続で前年を上回る販売成績につなげたのは、経営の成果といえるだろう。好評を博した「XC60」に続き、日本では近く、コンパクトSUVの「XC40」を発売する予定。すでに「2018年欧州カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している「XC40」だけに、追い風を受けての登場となる日本市場でどんな評価を受けるのかが気になるところだ。

「ユニクロ」のファーストリテイリングにも在籍

3年半前の2014年7月に、ボルボ・カー・ジャパンの代表取締役社長に就任したのが、木村隆之氏である。木村氏は、トヨタ自動車、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング、日産自動車を経て、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任した。自動車会社の社長になりたいとの明確な意志を持ってキャリアを積んだ人だが、それが異色に見える過去の経歴にも表れている。

「自動車業界には開発、生産、購買、営業などいろいろな部門がありますが、それらの機能を束ね、お客様志向かつ会社最適で動かしていくと、業績が変わるような気がしたのです。単に販売やマーケティングのトップで終わるのではなく、トヨタに在籍した当時から経営をしたいという考えでした。ファーストリテイリングは海外展開やM&Aで子会社の社長が大勢必要とのことで、柳井正社長に『どこかで社長が必要になるから来なよ』と言っていただきました」(以下、発言は木村社長)

社長になりたいと明確に考えていたという木村氏

クルマの会社を率いるのに必要なものとは

そして、トヨタを飛び出す。約10年前のことだ。「いま私は53歳ですが、トヨタ社内で例えば、子会社の社長になるような頃までは待っていられないと思ったのです」と木村社長は当時を振り返る。その後は、ファーストリテイリング入社からわずか2年で日産自動車へ移ることになった。

「日産が自動車業界に引き戻してくれました」。インドネシア日産、アジアパシフィック日産兼タイ日産で社長を経験し、そこからボルボ・カー・ジャパンへという流れである。同社で初の日本人社長となった。

異業種と海外を経験し、木村氏はボルボ・カー・ジャパンの社長に就任した(画像はボルボスタジオ青山で撮影)

「これまでに自動車会社の社長を計9年やっていることになります。そこで改めて実感するのは、クルマには多くの機能や部門があり、それらが個々に一流でないと生き残れないのですが、一方で、各部門が一流であろうとして突き詰めていくと、部門間の対立が起こります。それが強まると、お客様志向や、会社最適ができなくなるのが自動車会社の性といえます。それであるからこそ、自動車会社を引っ張っていけるうまい経営は、腕の見せ所といえます」

いよいよ、木村社長の本領が日本市場で発揮されることになった。それが、2014年7月である。

かけるべきところにお金をかけたクルマ達

では、木村氏の社長就任時、ボルボ・カー・ジャパンはどのような状況であったのか。

「まずボルボ車に乗って、どれも素晴らしいと思いました。最初に前型の『XC60』に乗り、その全てがよかった。今の新型と違い、フォードグループ時代の共通プラットフォーム(車台)で前型は作られていますが、ボルボの味を持っていました」

木村社長は前型の「XC60」(左、画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)に乗ってボルボ車のよさを再確認したという。右は現行の「XC60」

「例えばシートは、国産車の商品企画にいた経験からすると、原価低減の種が山のようにあるのですが、技術者がこうでなければならないという良心により、お金をかけるべきところにかけているので、その積み重ねで座り心地だけでなく、座席としての良さが現れていました。車体の剛性も、かけるべきところにきちんとお金をかけていないと、ここまでは出せないでしょう」

「他にも、(現行の)「V90」のリアサスペンションは20年前と基本的に同じ形式です。本来あるべき重量や性能、車体で必要な空間の確保など、クルマが目指すところは不変なので同じ結論に至り、同じ形式で進化させている。各担当技術者の考え方がしっかりしている証ではないでしょうか」

ボルボ「V90」(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「20数年来国産車に乗ってきましたが、性能が全く違う。ここまで欧州車に引き離されているとは…正直に言って驚きました」

台数を追った“安売り”がブランドイメージに影響

これから扱う商品に間違いはない。そこに安堵と確信を持ったはずだ。一方、改めるべき点はどうであったのか。

「商品は良いのですが、ブランドがガタガタでした。『V40』を安売りすることで販売台数を追いかけたため、当時の平均単価が350万円に届かないくらいでした。『V40』を含めた全体で低く、さらに『V40』を安売りしていたからです。『何をやっているのか!』というのが、正直な印象でした」

3年半後の現在、平均単価は530万円へと改善されている。

ブランド再建、手始めは「安全」イメージのアップデート

では、ブランドをどう立て直していったのか。

「日本でのボルボに対するお客様の印象は、悪いものではありませんでした。上質であるとか、安全であるといった感じです。しかし安全については、『ぶつかっても死なない』という古い印象のままでした。今は、『ぶつからないクルマ』という先進的な安全を競う時代になっています。そこが伝わっていませんでした」

木村社長が就任して間もなくの2014年12月に、「IntelliSafe10(インテリセーフ・テン)」と銘打ち、先進の安全装備や運転支援機能を全ての車種、全てのグレードに標準装備することを始めた。ボルボにおける先進安全技術の充実ぶりを、顧客は目の当たりにしたはずだ。これまでは、車種やグレードによって装備される内容が違っていたり、注文装備となっていたりした。先進安全技術を切り売りすることで車種やグレードの差別化はできても、ボルボ全体の安全思想は伝わりにくかった。

スウェーデンのクルマであること自体も魅力の1つ

「それから、実直なクルマという良い印象はあっても、スウェーデンのクルマだということは、オーナー以外の方にあまり知られていませんでした。国内でプレミアムブランドというと、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのジャーマン3とレクサスで、そこへボルボが食い込むには、スウェーデンという要素が欠かせません。そこを強化しようと考えました」。創業時より安全を何より優先したクルマ開発をしてきた歴史や技術に加え、北欧の雰囲気を伝える「スカンジナビアン・デザイン」など、ボルボはお国柄も自社製品の魅力として打ち出している。

ボルボスタジオ青山の内装からもスカンジナビアン・デザインの一端を感じられる

「ボルボは技術中心ではなく、『デザインド・アラウンド・ユー』(Designed Around You)というブランド戦略のもと、人を中心とした素晴らしいクルマ作りの思想があります。運転する人だけでなく、大切な人や物を守ることをこの言葉はいっています。人が中心というのであれば、顧客満足度で一番を目指すべきです。CS(Customer Satisfaction)ナンバーワンの活動を始めることで、JDパワー(調査会社)の調査で輸入車1位になれました。ブランドが本来持っているものを接客の現場で実践し、お客様へ伝えることがブランド再構築の基本であり、大事なことです」

営業職は二極化の時代へ

では、CSナンバーワンは、どのように目指すのか。

「プレミアムな世界のお客様は、おのおの求めていらっしゃることが違います。また、デジタル化により、1人あたりの来店回数は減っています。事前に情報を入手し、ブランドを絞り込んだり、価格や装備を比較したりした上で来店される方もあれば、店へふらっと立ち寄られる方もあります。そうした多様なお客様に対し、求めていらっしゃることをいかに汲み取り、提案ができるか。マニュアル通りでは他ブランドとの差別化要因にはなりません。マニュアルではダメだという意識変革が必要です」

「ここは、トヨタ時代にレクサスでCSナンバーワンを目指した際の考え方と同じです。当時、国内の一流ホテルが外資系に負けたのを見て、お客様が何を望んでいらっしゃるかを知り、最適な提案がいかにできるかを外資系ホテルから徹底的に学びました」

「また、ドレスコードも作りました。最初にやったのが、ボルボのピンバッジの製作です。それまでは、スウェーデンで売っている野球帽に付けるようなバッジを買ってきて着けていたのですが、それではダメだと。ブランドの誇りとなるよう一から作り直し、ブランド研修を受けた人にのみ渡して、スーツの襟に付けるようにしました。これは非売品で、退社したら返してもらいます」

木村社長もボルボのピンバッジを身に付けていた

意識改革の第一歩として、社員の自覚を促すことからはじめたということである。その上で、「営業職は、今後ますます二極化していくと考えています。1つは、お客様と少し話をしただけで要望を感じ取り、いろいろ提案できるスーパーセールスです。こういう人材に雑用をさせてはいけません。新車登録などはアシスタントに任せ、販売に全力を尽くしてもらう。もう一方は、月に数台となかなか成績の上がらない人で、そういうセールスにはIT(情報技術)武装するように言っています」

スーパーセールスとIT武装の両輪

文字通り、IT武装の武器となるのが、JATOの「Carspecs」という製品だ。このソリューションを使って、ボルボではタブレット端末でクルマのスペックを調べたり、他社のクルマとボルボ車を比較したりできる体制を整えている。このタブレットは、セールスに話しかけられることを好まない顧客が、来店した際に自分で手に入れたい情報を調べることにも使える。

「商品、価格、装備などの相対的な価値を、タッチ式に検索し、グレードの違いによる価格差と装備の充実度を比較検討できます。また、競合他社と比べることもできます。ボルボの利点はもちろん、ボルボの負けている点も比較できるようにしています」

さまざまなクルマを簡単に比較できるアプリがタブレットに入っている

星取表で負けていても、それは単なる負けではなく、顧客によっては必要ない装備によりついた勝敗であるかもしれない。そこを明らかにすることにより、不要な装備に余計な費用をかけずに済む満足といった、バリュー・フォー・マネーの充実につながる場合もあるだろう。競合比較の中で、弱点もあえて明らかにすることにより、正直で実直なプレミアムブランドであるとの好ましい評価につながる可能性もある。

スーパーセールスが活躍しやすい体制と、IT武装によるバリュー・フォー・マネーの提供という2本柱によって、来店した顧客の満足度を高めていく戦略である。

IT武装の重要性を語る木村社長

前編では、木村社長の異色の経歴からボルボ・カー・ジャパンの社長就任後に取り組んだ営業面での改革までを聞いてきた。後編では、日本ではなじみの薄いクルマのリース販売をボルボが増やせている要因など、同社が進める独自の戦略について話を聞き、ボルボ・ブランド復権の背景をさらに探っていく。

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

2018.11.14

VAIOが独自機構の新型モバイルPC「A12」を発表

パソコン事業の成長は数年続き、海外展開も拡充

パソコンのVAIOから、ITブランドのVAIOを目指す

VAIOが業績が好調だ。2017年度は売上、利益ともに2ケタ成長となる増収増益を達成した。PC事業が順調なことに加え、EMS事業も進展したことが奏功したという。11月22日にはオールラウンダーPCというコンセプトを打ち出した新型モバイルパソコン「VAIO A12」を発売する。国内PC事業は合従連衡や海外への売却が続くが、数少ない「純国産」のPCメーカーであるVAIOの今後の戦略とは。

VAIO A12

働き方改革を追い風に地固め、今後は拡大を目指す

VAIOは、ソニーから独立後、法人向けビジネスを中心に据えたことで、早くから黒字化を実現しており、今期も順調な決算となった。売上高は前年同期比10.8%増となる214億8,800万円、営業利益は同13.9%増となる6億4,800万円で、過去最高益を達成した。

PCの法人需要が旺盛で好調な決算となった

法人向けモバイルPCの伸びが前年比30%増と順調だった点が特徴で、その背景にあるのが昨今のトレンドとなっている「働き方改革」だ。テレワークやフリーアドレスなど、それまでの決まったデスクに座ってデスクトップPCを操作するという環境から、ノートPCを持ち歩いて仕事をするという環境に移っていくなかで、VAIOの製品構成がこれに上手くはまった。

VAIO株式会社 代表取締役 吉田秀俊氏

VAIOでは、2017年から11~15インチのモバイルPCでラインアップを構築しており、今年はその後継機種を投入していた。パフォーマンスに特化したVAIO True PerformanceやVAIO Premium Editionといったバリエーションモデルも提供してはいるが、一方でVAIO ZやVAIO Z Canvasといった過去のハイエンドモデルに相当する製品はなく、あくまで「メインターゲットは法人ユーザー」を想定していることが伺える。

同社の吉田秀俊代表取締役は、今後も数年はPC事業が伸長を続けると想定している。働き方改革の拡大を受けて法人需要がさらに伸びることに備え、ラインアップをさらに拡充することで売り上げを伸ばしたい考えだ。

構想3年、開発2年の「VAIO A12」

これを目指して今月発売する新ラインアップが、12.5インチサイズのデタッチャブルWindows PC「VAIO A12」だ。市場にある課題とその解決を徹底的に図ったという製品で、求められているPCはクラムシェルか2in1か、タブレットタイプかコンバーチブルかデタッチャブルか、そういったゼロからの検討を行った結果、「構想3年、開発2年」を費やして仕上げたモバイルPCだという。

VAIO A12は、既存のカテゴライズでは、タブレットとキーボードの着脱機構を備えたいわゆる2in1モバイルPCだ
「膝上で使える」問題の解決や、まともなキーボードの搭載など、クラムシェルPCの使い勝手を求めた

前提とした課題がすべて解決しない限り製品化を見送るという強い意識で開発されたのがA12であり、それには新たな技術的ブレークスルーが必要となった。それが「Stabilizer Flap」と呼ばれる新たなデタッチャブルの機構だ。

「Stabilizer Flap」と呼ばれる独特のデタッチャブル機構が最大の特徴

きっかけは書籍の背の動きだったそうだが、軽量なPCを実現しながら、クラムシェル型と同等の使い勝手を実現した。キーボード部にはVGAやLAN端子を含む多くの端子類を装備して、周辺機器との接続性を求める日本の法人ユーザーのニーズに対応させた。実際、すでにA12導入に向けて動いている法人の中には、「VGAがあるのが選択の決め手」というところもあるそうだ。

機能はとにかくニーズの実現を徹底し、端子が豊富という今では貴重な仕様。手持ちのモバイルバッテリで本体を充電できる5V充電機能もいざというときに役立つ

コンシューマ向けで考えると、端子を減らしてスッキリとしてさらに薄型化、軽量化、低価格化も期待したいところだが、豊富な端子に対する法人ニーズは根強く、その点はVAIOとして譲れない線ということだろう。ただ、薄型軽量であることにはこだわり、タブレットとしては重さ607グラムで薄さ7.4ミリ、キーボードユニットを装着しても重さは1,099グラムまで抑え込んだ。

ソニー時代から同社が得意とする高密度実装技術を活かし、薄型軽量化にもこだわった

海外市場に再挑戦、PCラインアップも早々に増やす

PC事業では、一度は撤退した海外市場に向けて再挑戦にも乗り出している。販売エリアを順次拡大しており、今年は12カ国まで拡大した。今後は北米、中国、欧州での展開を計画している。特に欧州へは「検討中というわけではなく、決めている。来年早々にも展開する」(吉田氏)という。

PC事業の勝算はあるのか。吉田氏は、会社としてのVAIOが240人体制になり、「(ソニー時代に比べ)限られたリソースの中でどう成長戦略を描けるか」が課題であったと振り返る。この1年は「足りているもの、足りていないものを見極める」ことに集中し、独立後1~3年という「短期決戦を乗り切った」と話す。

引き続き、「VAIOはPC事業だけで将来生き残れるのか、という(市場の)問いに答えなければならない」としており、その答えとしては、「ビジネスユーザーにPCは必要なので、PCが大きな核としてVAIOを支えるのは間違いない」とするが、それだけではPC事業としての生き残りには不十分というのが吉田氏の認識だ。

そのため、技術革新や世の中の進化に伴って、ユーザーの生産性をいかに高められるかという観点で新しいPCを打ち出し、生き残りを図っていく考え。その一つの回答が「VAIO A12」となるが、来年以降の新製品でもそうした点を踏まえた新製品を投入していく。「来年度はもう少し違った形で生産性を高める製品を提供していく」という意向を示しており、年明け早々には今までとは異なるタイプの製品を企図しているようだ。

現行のラインアップ。最上部にあるのがVAIO A12で、来年さらなる新ラインアップを展開する

PCはVAIOのコアだが、VAIOはPCブランド脱却目指す

吉田氏は「貪欲な姿をもちながら、VAIOのブランドを伸ばす」と話すが、ここで大きな戦略の柱となるのは、「PCブランド」としての「VAIO」ブランドからの脱却だという。PC事業は順調とは言え、ライバルも多い。MicrosoftのSurfaceだけでなく、レノボとその傘下のNEC、富士通、鴻海傘下のシャープ、東芝、そしてデル、HPといった米国勢もあり、働き方改革の影響で伸びた市場をどこまで獲得できるかは未知数だ。

吉田氏は「次世代ITブランドとしてのVAIOを目指す」としており、単にPC単体を売るのではなく、セキュリティやキッティングといった付加価値サービスも盛り込むことで、トータルソリューションとしてのPC事業を展開する。

これに、EMS事業でのシナジーも追加していきたい考えだ。あわせてPCの周辺機器などを扱うことで、PC事業の強化にも繋げていき、市場全体の活性化も狙える。ハード、ソフトの両面から事業領域を拡大していく。

PC事業は、周辺機器やセキュリティソリューションなどでさらなる拡大を目指す

EMSやパートナーの強化、IoTなどの新規事業など、ビジネス領域の拡大で企業としてのVAIO自体の強化を目指すが、今後も屋台骨となるPC事業で好調を維持できるか。ここまでの短期決戦を乗り切り、ここから一過性の盛り上がりではなく継続した強い事業構造への転換を図る、吉田氏が「フェーズ2」と呼ぶVAIOの新たな成長戦略がはじまったばかりだ。