ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

2018.03.16

ボルボ・カー・ジャパンの木村社長は、販売面で新たな施策を次々に仕掛ける自称“企画屋”だ。クルマをスマホのように所有する「スマボ」など、日本の商習慣に挑戦する新たな手法もうまくいっている様子。技術革新によりクルマのコモディティ化を心配する声も聞かれる中、ボルボは“幸せな時代”を迎えると木村社長は語る。本企画の前編はこちら

自らを“企画屋”と称したボルボ・カー・ジャパンの木村社長

日本の商習慣は異常? クルマのリース販売を増やすボルボ

接客以外に、顧客満足を高めていくための販売手法についても木村社長は手を打っている。その1つが「スマボ」(SMAVO)だ。「スマートにボルボを購入する」の意味を持ち、スマートフォンのスマホを連想させる命名である。いわゆるリース販売であり、webサイトでは「おまとめ定額プラン」として案内されている。

「1987年のトヨタ入社から30年近く自動車業界で働いてきて、日本の商慣習と世界との間に差があると実感しています。その1つが個人リースです。米国では個人リースが自動車販売の30~40%に及ぶのに対し、日本はわずか1%でしかなく、その差が異常に思えます」

「理由として、日本では所有することが望まれているからなど、いろいろと言い訳はしますけれども、今日ではスマホの利用と同じように、(端末の)販売価格は知らなくても、月々の支払い料金で判断するといったことが当たり前になってきているのではないでしょうか。クルマもスマホと同じように利用できた方が、心地よいと感じるお客様もいらっしゃるはずです。『スマボ』の導入により、ボルボのリース比率は20%を超えるようになっています」

ボルボ・カー・ジャパンでは個人リースの比率が増えているという(画像はボルボスタジオ青山に展示してあった「XC60」)

ブリッジ・スマボなら大胆なクルマ選びも可能?

さらに、「ブリッジ・スマボ」という販売方法も編み出した。そのシステムが効果を発揮したのは、新型「XC60」の販売に際してディーゼルエンジン車の導入が遅れ、ディーゼル車を希望する顧客が待たされる事態となったことだ。

「日本には車検制度があって、ディーゼル車導入までに車検が来てしまうと、クルマが無くなるといった状況が生じます。車検を更新して間もなく新型に乗り換える無駄を省き、前型にはなりますが未登録の新車に数カ月お乗りいただき、その間も利用料金としてリース料をお支払いいただく。そして新型が届いたら、スムーズに移行していただくという乗り方です」

「『XC60』の前型のディーゼル車はもうなくなりましたが、『V60』や『V60 クロスカントリー』でブリッジ・スマボをご利用いただくことはできます。これの良いところは、どうせ短期間しか乗らないのであれば、普通は選ばない派手な車体色に乗ってみようか、といった楽しみ方ができることです。現在はスマボが10%、ブリッジ・スマボが10%の計20%というリース比率になっています」

ブリッジ・スマホであれば、自分では選ばないような色のボルボ車にも気軽に乗ってみることができそうだ(画像はパッションレッドの「S60」、画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

日本でなかなか定着しなかったリース販売が、工夫次第で顧客満足につながる例である。

貸し倒れはほとんどなし! 優良顧客もボルボの武器

顧客満足向上の取り組みは、自動車保険でも行われている。

「自動車保険など金融商品は、差別化できないと言われています。しかし、ボルボのディーラー網はボルボを中心に扱う店が多く、またボルボには優良なお客様が多いので、自動車保険でも、他のプレミアムブランドと差をつけることができます」

ボルボの所有者向けに提供されているボルボオリジナル自動車保険に加入すると、付帯サービスとして提供されてきた内容が、従来の4項目から10項目へ、2015年7月から拡大された。以前のサービスで契約していた顧客も、「インテリガード10」と呼ばれる新しい付帯サービスへ自動的に移行される。

優良な顧客基盤を有することもボルボの強みと木村社長は語る(画像はボルボスタジオ青山の店内)

インテリガード10の内容は、飛び石などによるウインドウスクリーン補償(フロントおよびリア)、キー補償、タイヤ補償までが従来の4つの補償で、これに新しく、スモールリペア補償(いたずら/落書き)、レンタカー補償(3日間、スモールリペアセット)、チャイルドシート補償、愛犬アクセサリー補償、歩行者エアバッグ補償(V40のみ)が追加となる。ただし、1保険年度につき、いずれか1つを1回限りの条件が付く。

他に残価設定ローンのアクティブローンや、個人リースのスマボを利用して新車や中古車を購入した場合、3年以上の支払い期間の契約では、ボルボ交通傷害保険が最長で3年間無料で付帯される。その内容は、交通事故や交通乗用具の火災によるケガの入院、手術、通院を補償する。

「ボルボにお乗りのお客様は、貸し倒れになる方がほとんどいらっしゃらないので、ファイナンス会社に還元できることがあるのではないかということから実現しました」

ボルボの顧客は貸し倒れが少ないという(画像はボルボスタジオ青山の店内)

人のけがなどに対する手厚い補償であるとともに、インテリガード10では小さな傷を無料で直してクルマをきれいに保てたり、クルマを預けた間も足を確保できたりと快適にクルマを利用できる環境が補償され、まさに顧客志向の気遣いが感じられるサービスの提供といえる。

古くて四角いボルボが好きな人も多い

ブランド自体の強化策となるのが、クラシック・ガレージの開設や、古いクルマの博物館への寄贈、ボルボスタジオ青山の開店といった取り組みである。

クラシック・ガレージは2016年8月に、東京・町田市に開設した古いボルボ車のための整備や修理を行う拠点だ。「ボルボを所有されるお客様は良いものを永くお使いになる方が多いので、古いクルマの保守管理を提供する拠点づくりをしました」。木村社長はボルボ所有者の特性をいかす取り組みの一環であると説明する。

古いクルマを復刻するレストアとはやや意味を異にするが、スウェーデン本社には旧型の部品も残されている物が多く、かなり古い年式の車種でも日常的に利用可能な水準に整備したり、外観を補修したりできる体制が整えられた。木村社長自身、1971年型のボルボ「P1800E」を所有し、催しなどの折に乗ってくる。

古いクルマに長く乗り続ける顧客も多いというボルボ。町田市にあるボルボ・カーズ東名横浜には、そういったクルマのリフレッシュ作業を請け負う「KLASSISK GARAGE」(クラシック・ガレージ)を開設した(画像は木村社長が所有する「P1800E」で伊勢志摩のラリーイベントに参加した時の様子、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

他に、クラシック・ガレージで引き取った古い車種を整備し、中古車として販売することも行っている。クラシック・ガレージの拠点は町田の1店舗のみだが、国内各地のボルボサービス工場での修理や補修の相談にものってくれる。

博物館への寄贈では、世界で初めて3点式シートベルト(肩からと腰にベルトを付ける今では一般的な方式)を標準装備したボルボ「PV544」を昨2017年12月にトヨタ博物館へ届けた。

世界で初めて3点式シートベルトを標準装備したボルボ「PV544」(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「3点式シートベルトを開発したのはボルボであり、その特許を公開することで今日、全てのクルマが安全装備の基本として装備するようになったことをご存知の方は多いと思いますが、トヨタ博物館にはボルボが1台も展示されておらず、それならば意味のあるクルマを展示して頂こうと、スウェーデンの本社へ交渉しました。また、現在のトヨタ博物館の館長がかつての同僚でしたので、話もうまくまとまりました。後日、トヨタ時代の先輩から、3点式シートベルトのことを当時は『ボルボ式』と呼んでいたといった話を聞くこともできました」

世界で2番目のコンセプトストアが日本に

同年10月には、東京・港区の北青山に、世界で2番目となるコンセプトストアのボルボスタジオ青山を開店した。

「スウェーデン本社のホーカン・サムエルソン社長兼CEOに、こういうことをやるべきと直訴した際、ちょうど世界的にダウンタウンストアをやろうと考えていたところだったようで、その1つに東京を指名してもらいました」

2017年10月には世界で2カ所目となるコンセプトストアの「ボルボスタジオ青山」を開店

「この青山通りを『オートモービル銀座』と私は呼んでいるのですが、プレミアムブランドのディーラーなどが数多く集まっています。それらのほとんどは販売店として開いているとか、あるいは自動車メーカーの展示場で、展示するだけでしたら博物館と同じだと、私は言っています(笑)」

「一方、ボルボスタジオ青山は、お茶を飲みながら、ボルボがスウェーデンのクルマであることを感じて頂ける空間として開設しました。しかし、それだけでは博物館で終わってしまうので、独自の販売方法も取り入れています」

“オートモービル銀座”こと青山通りにあるボルボスタジオ青山

1つは、受注生産の導入である。内外装の色や注文装備を自分の好みで選んで発注する、eコマースによる販売だ。この方式で注文してスマボによるリース契約を結ぶと、車両保証やメンテナンスパッケージ、保険、消耗品の交換などが付帯される仕組みとなっている。月々の支払い以外に、クルマを利用する上で必要となる費用負担を別途で強いられることなく、自分独自の仕様のボルボに乗れる嬉しさや気軽さがある。「同じ青山通りにあっても、他のメーカーとは違う独創的な空間なのでは」と木村社長は話す。

想像力から始まる独創的な経営

社長就任からわずか3年半の間に、次々に展開される木村氏の独創的な発想の原点は、どこにあるのか。

「ビジネスで最も大事なのは、想像力をつないでいくことだと思います。もちろん、現場が大切なのは承知しています。しかし、常に現場にいたり、そこで意見を交わしたりできるわけではありません。ですから、自分が顧客になったつもりで、状況をちょっと見ただけでもそれらをつなぎあわせ、本質を見極めることのできる力が一番大事だと思うのです。お客様第一と皆が言いながら、実は業界の慣習が優先され、お客様第一になっていないところがあります。そこにビジネスチャンスがたくさんあると考えています」

では、本質とは何か。それは、前編の冒頭から木村社長が掲げた「お客様第一と会社最適の両立」である。その実現へ愚直に突き進もうとすれば、おのずとなすべきことが見えてくるということだろう。

想像力を原点とし、真の顧客第一主義とは何かを追求するのが木村社長の経営手法だ

ここまで、3年半の取り組みについて聞いてきた。では、今後の課題は何か。

「就任した2014年7月からの半年は、いわば敗戦処理投手みたいな状況で、その後3年間の実績は、対2014年比で2017年には販売で2割増し、売り上げでは4割増しでしたので、プレミアムブランドとして生き残る道筋は付けることができたのではないかと思っています」

「一方で、歯がゆい思いでいるのは、スピードが足りないことです。やるぞ、変えるぞと言っても、日本はなかなか動きません。5年間勤めた東南アジアは、日本の2倍の速度で物事が動きます。行動のスピードが速ければ、例え失敗しても結論が早く得られるので、修正して向上・発展させていくことができます。『スピードではトヨタに勝て』と社内でいっています」

「CASE」で激変の自動車業界、ボルボの考えは

電動化や自動運転の導入、あるいはカーシェアリングの普及で、ディーラー経営が危うくなるのではないかとの懸念も世の中でささやかれはじめている。Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングなど)、Electric Drive(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが「CASE」と呼び始めた技術革新は、ディーラー経営にどんな影響を与えるのか。

「CASEについては、つい最近、ディーラーの方々へプレゼンテーションしたところです。プレミアムブランドになりますと、共有(カーシェア)とは距離があり、自分のクルマだという喜びが大切になってきます。今後は二極分化していくだろうと思っていて、もう一方は軽自動車です。こちらは、日常の利便性のためカーシェアリングやライドシェアリングに関わってくるでしょう」

「電動化については、電気自動車(EV)となればサービス項目が減るかもしれませんが、プラグインハイブリッド車(PHV)では逆に、エンジンとモーターというように部品点数が増えるので、オーナーとのつながりを強化すれば、サービスでも売り上げを伸ばすことができます」

スウェーデンのボルボ・カーズは、2019年から全モデルを電動化すると発表済み。グループのパフォーマンス・カー部門である「ポールスター」については、独立したブランドとしてグローバルな高性能エレクトリック・カー専業とする方針を示している(画像は2019年半ばの発売を予定するポールスターのファーストモデル「Polestar 1」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

増え続ける輸入車販売、「所有したいクルマ」は生き残る

「国内における2017年の輸入車販売は久しぶりに30万台を突破し、このうち66%の20万台がプレミアムブランドです。世界的な潮流として、プレミアムブランド比率は上がっており、国内でも5年後に輸入車販売が40万台に達し、このうちプレミアムブランドが70%まで高まると予測すると、28万台という数字になります」

「この試算からすれば、現在のプレミアムブランド20万台の40%増へと市場が拡大するのですから、プレミアムブランドのクルマを扱うディーラーにとっては、幸せな時代を迎えるといいました」

プレミアムブランドにとっては、顧客が「自分のものにしたい」と強く思うようなクルマを用意し続けられるかがますます重要となってくる(画像は「XC90」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「次に、国内のボルボの保有台数を見ると18万5,000台で、このうちボルボディーラーに帰ってくるのが約11万5,000台です。ということは、正規ディーラーにいらしていないお客様がまだある、取りこぼしがあることになります。そこに成長の余地が残っています」

「新規のお客様の来店回数が減っているとはいえ、一度ボルボとつながりを持っていただいたお客様は、整備などを含め再度来店していただけるようになるので、CSナンバーワンをしっかりやっていけば、まだまだディーラービジネスはやっていけます。前向き、上向きに、(ディーラーの方々には)積極的にビジネスをやっていきましょうと話しました」

一連の話は、データを見極めながら想像力をつないでいくことで見えてくる戦略と展望である。最後に、「自動車会社の経営は楽しい」と木村社長は笑顔を見せた。その活力が、国内でのボルボ販売や存在感、将来への見通しに現れている。

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なぜ国内版「Xpeira 1」のストレージは半分になってしまったのか

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待望のXperia 1国内投入に、なぜか落胆の声?

原因はストレージのスペックダウン、その背景

価格とスペックの狭間でゆれる国内市場の現状

携帯電話大手3社から夏のスマートフォン新モデルが次々と発表されたが、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1」に、ファンから落胆の声が上がっているようだ。それはストレージ容量が海外版の最大128GBではなく、64GBに抑えられてしまったため。そこには販売価格を巡る、メーカーや携帯電話会社の苦悩があるといえそうだ。

値引きが難しい状況下で価格を下げる苦肉の策

大型連休が終わると、携帯電話業界は夏商戦に向けたスマートフォン新製品が次々と発表されるシーズンに入る。今年もその例にもれず、大手メーカーを中心として各社からスマートフォン新製品が次々と発表されている。

だが各社の新製品発表直後、ちょっとした話題となったのが、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1」に関してである。Xperia 1は映画が見やすい21:9比率の4K有機ELディスプレイを搭載した同社のフラッグシップモデルで、携帯キャリア大手3社から発売される予定だが、話題となった理由はストレージ容量にある。

Xperia 1のストレージ容量は、グローバルで見ると最上位モデルで128GBだ。だが国内に投入されたXperia 1は、ストレージ容量がその半分となる64GBのモデルのみであった。それゆえ最上位モデルの登場を期待していたファンから、落胆の声が多く上がったのである。

大幅なリニューアルをはかったことで注目されていた「Xperia 1」だが、海外版と比べストレージ容量が減らされていたことに落胆の声を上げるファンが多かったようだ

ではなぜ、Xperia 1のストレージ容量は減ってしまったのだろうか。その理由は国内市場向けの販売価格にあると考えられる。例としてNTTドコモ版のXperia 1の価格を見ると、ドコモオンラインショップで10万3,032円となっている。かなりの高額であるというだけでなく、それより高い機種は、東京五輪限定機種モデルの「Galaxy S10+ Olympic Games Edition SC-05L」(11万4,696円)しかない状況のようだ。もしXpeira 1をグローバル版そのままのスペックで投入した場合、もっと高額な販売価格になってしまったはずだ。

しかもこの夏は、NTTドコモが通信料金と端末代を分離した新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」の投入を発表するなど、携帯電話会社が従来のように、通信料金を原資としてスマートフォンの価格を大幅に値引くことが困難になっている。そうした状況下で端末価格が高騰し過ぎると、販売が大きく落ち込んでしまうことから、スペックを下げたモデルを投入して価格を下げるという判断に至ったのだろう。

なぜストレージ容量の少ないモデルを選んだのかというと、ユーザーに与える影響が最も少ないためと考えられる。チップセットやRAMのスペックを下げるとパフォーマンスに大きな影響が出てしまうが、Xperia 1はmicroSDスロットを備えており、最大で512GBのストレージを追加できることから、そちらでカバーできると判断したのだろう。

海外より安い「P30 Pro」の狙い

もっとも、市場動向や企業戦略などによって端末価格を下げたり、スペックを落とした割安なモデルを投入したりするケースはこれまでにもよく見られたものだ。今回の夏モデルでいうと、ある意味NTTドコモが販売予定のファーウェイ製フラッグシップモデル「P30 Pro」も、そうした戦略を感じさせる内容となっている。

NTTドコモから販売予定の「P30 Pro」。海外版にはないFeliCaにも対応させながら、9万円以下というコストパフォーマンスの高さで話題となった

P30 ProはRAMとストレージの容量によって価格が異なり、最上位モデルはRAMが8GB、ストレージが512GBで、海外での価格は1249ユーロ(約15.3万円)とかなりの高額だ。だが日本に投入されたのは、RAMが6GB、ストレージが128GBの最も安価なモデルであり、価格もドコモオンラインショップで8万9,424円。SIMフリー版として発表された下位モデルの「P30」が7万7,880円であることを考えると、日本でのP30 Proがいかにお得な価格設定となっているかが分かる。

2019年3月にパリで実施されたP30シリーズの発表会より。P30 Proは国内向けよりスペックが高いRAMが8GBのモデルを中心にアピールしており、その価格も999ユーロ(約12.2万円)からと高額だ

ファーウェイがP30 Proをスペック重視ではなく、安価重視で投入してきたのには、やはりP30 Proの販売数を拡大したい狙いが強いといえる。ファーウェイはSIMフリー市場ではトップシェアを誇るが、それより規模が大きいキャリア大手3社向けの市場に関しては、2018年に再進出を果たしたばかりのため、認知度が低く存在感がまだ薄い。そこで新機種を割安に設定することで、携帯大手からの販売を一気に拡大し、市場での存在感を高めたかったのだろう。

もっともファーウェイは今、日本でのP30 Proの発表直後に米国からの制裁を受けたことで、P30 Proの予約が中止されるなど今後の販売が不透明になるという、別の問題を抱えてしまっている。だがそうした制裁の影響がなければ、コストパフォーマンスの高さによって、NTTドコモでの販売を大きく伸ばしていた可能性も十分考えられただろう。

国内では、スペックよりも価格を重視する消費者が多いという現状があるだけに、今後も各社の戦略によって、スペック重視のユーザーが不満を抱くケースが出てくる可能性は高い。だがあまりにも価格重視でスペックを下げ過ぎてしまうと、今度はスペック重視の消費者から多くの批判を集めて、製品そのものの評判が落ち、それが売り上げに響いてしまう可能性も出てきてしまう。メーカーやキャリア会社にとって今は、そのさじ加減が非常に悩ましい所なのかもしれない。

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カレー沢薫の時流漂流 第44回

給食「完食指導」は適者生存の虐待か? 子どもへの悪影響に賛否

2019.05.27

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第44回は、子供のトラウマ「完食指導」問題について

給食の完食指導が問題になっている。

「お残しは許しまへんで!」

アニメ『忍たま乱太郎』に出てくる食堂のおばちゃんの有名な決めセリフである。

彼女はそのセリフの通り、それを破る者には烈火の如く怒り、時には一週間食事抜き、掃除をさせる等の罰も辞さないという、「食事を残す者を地獄の業火で焼く人物」として描かれている。

あくまでフィクションであるし、何せ彼女が飯を与えているのは忍者の卵である、今後おそらく山田風太郎の世界で活躍しなければいけない面々だ。適切に調理された食堂の飯が食えないようではやっていけるはずがない。

しかし、忍たま乱太郎の世界ではあれが適切としても、将来、忍にならない子ども相手にそれをやるのは問題なのではという声が挙がっている。

令和になっても残ってしまったトラウマ給食

石でも甘辛くしてもらえれば食える、という偏食のない人間には無縁な話だろうが、そうでない者には「給食のトラウマ」の一つや二つあるのではないだろうか。

一番多いのは「完食するまで帰れま10」だ。これが表題にもなっている「完食指導」である。食べきるまで昼休みに入らせなかったり、居残りをさせたりというものだが、中には「食べ物を無理やり口に詰め込まれて嘔吐」というストロングスタイルの指導を受けた者もいる。

ここまでなら、まだ個の問題だが「みんなが食べきるまで全員昼休みに入らせない」という、齢10にもいかない内から連座制の厳しさを叩きこむ学校もあるようだ。

これらは全て、トラウマとして残る。私でさえ、保育園の時、とりあえず口には入れたが長考したのち「やはり無理」と吐いたほうれん草の白和えのポップなビジュアルを未だ覚えているぐらいなので、無理やり口に入れられた人が忘れるわけがない。

漫画家の清野とおる先生も保育園の時、カワイイ女の子が無理やり嫌いなものを食べさせられ嘔吐したのがトラウマになっていると書いていたので、当事者でなくても同胞が目の前で嘔吐するというのは恐怖なのである。

その結果、傷を負い、登校拒否になったり体調不良を起こしたりする児童がおり、またこの経験から大人になっても「人と食事をするのが怖い」と感じる人もいるという。

そういった強制的完食指導に意味があるかというと、私はないと思う。なぜなら、未だにほうれん草の白和えが嫌いだし、義実家での食卓で姑が「今日の推し」と言わない限りは食わない気がするからだ。無理やり食わされても、大人なのでさすがに嘔吐はしないと思うが、代わりに耳あたりから出てくると思う。

このようにアレルギーでなくても「生理的に無理」な食べ物は存在する。生理的に無理な人の指が口の中に入ってくるところを想像して欲しい。「無理」としか言いようがないだろう。そのレベルでダメなものを飲みこませることが、人間にとってプラスになるとは思えない。

しかし、そこを慮りすぎて「好きな物しか食べない人間」になるのも問題である。「大して好きじゃない物」や「苦手な物」程度なら「感情を無にして食える」練習をしておいた方が、社会に出た時や義実家などでトラブルが起こりづらいのも確かである。

食育に力を入れている小学校では、生徒個人に合わせて最初から食べる量を増減させたり、または無理やり食べさせるのではなく、生徒自身が「今日俺ニンジン食っちゃうよ?」という気になるような給食環境づくりに取り組んだりしているという。

食事は「楽しい」ことが一番

昭和のトラウマランチタイムをサバイヴしてきた人間からすると、これらのやり方は「スイート」に感じられるかもしれない。

しかし、上記の食育に力を入れている学校の校長曰く「食事が楽しくなくなるのが一番ダメ」だそうだ。確かに、食事以外に楽しいことが一つもない、という人間は私含め大勢いるし、今の子どもの65%ぐらいはそういう大人になるはずである。(当社調べ)

そんな65%の唯一の楽しみを子どものころから奪うというのは、虐待と言っても過言ではないし、何のために生まれて来たのかさえわからなくなってしまう。

ちなみに私には90歳になる祖母がいるのだが、そのババア殿は一時期、シュークリームのクリームとジュースしか飲まないという、妖精みたいな生活を送っていたが、普通に生きている。何故なら、そのジュースが妖精になった老人用に作られたメチャクチャ栄養があるジュースだからである。このように、昔だと食事=適切な栄養を取る行為であったが、最近では食事からじゃなくても栄養はとれるようになってしまった。

ならば、食事をただの生命維持活動ではなく、「楽しみ」として重視していくのも自然の流れなのかもしれない。

もちろん、作ってくれた人への感謝など、倫理的なことを言えばやはり、偏食なく、出された物は何でも食えた方が良い。

よって、偏食が多い人も「これだけ嫌いなものがあるから出すな」「嫌いなものを食べさせようとするのはハラスメント」と己の権利を主張するだけでは、協調性がないと取られてしまう。

自分で作る、1人で食う、食事会でも自分が幹事をやって店を選ぶ、など嫌いな物を食べず、なおかつ周りにも不快感を与えない方法を考えていくべきだろう。この方法で、私は1年中300日ペペロソチーノだけを食い続けたが、特にトラブルはなかった。

と言いたいが夫に「くさい」と言われたので、自分の食を楽しみつつ、周りに迷惑をかけないのは、なかなか大変ことなのである。

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