ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

2018.03.16

ボルボ・カー・ジャパンの木村社長は、販売面で新たな施策を次々に仕掛ける自称“企画屋”だ。クルマをスマホのように所有する「スマボ」など、日本の商習慣に挑戦する新たな手法もうまくいっている様子。技術革新によりクルマのコモディティ化を心配する声も聞かれる中、ボルボは“幸せな時代”を迎えると木村社長は語る。本企画の前編はこちら

自らを“企画屋”と称したボルボ・カー・ジャパンの木村社長

日本の商習慣は異常? クルマのリース販売を増やすボルボ

接客以外に、顧客満足を高めていくための販売手法についても木村社長は手を打っている。その1つが「スマボ」(SMAVO)だ。「スマートにボルボを購入する」の意味を持ち、スマートフォンのスマホを連想させる命名である。いわゆるリース販売であり、webサイトでは「おまとめ定額プラン」として案内されている。

「1987年のトヨタ入社から30年近く自動車業界で働いてきて、日本の商慣習と世界との間に差があると実感しています。その1つが個人リースです。米国では個人リースが自動車販売の30~40%に及ぶのに対し、日本はわずか1%でしかなく、その差が異常に思えます」

「理由として、日本では所有することが望まれているからなど、いろいろと言い訳はしますけれども、今日ではスマホの利用と同じように、(端末の)販売価格は知らなくても、月々の支払い料金で判断するといったことが当たり前になってきているのではないでしょうか。クルマもスマホと同じように利用できた方が、心地よいと感じるお客様もいらっしゃるはずです。『スマボ』の導入により、ボルボのリース比率は20%を超えるようになっています」

ボルボ・カー・ジャパンでは個人リースの比率が増えているという(画像はボルボスタジオ青山に展示してあった「XC60」)

ブリッジ・スマボなら大胆なクルマ選びも可能?

さらに、「ブリッジ・スマボ」という販売方法も編み出した。そのシステムが効果を発揮したのは、新型「XC60」の販売に際してディーゼルエンジン車の導入が遅れ、ディーゼル車を希望する顧客が待たされる事態となったことだ。

「日本には車検制度があって、ディーゼル車導入までに車検が来てしまうと、クルマが無くなるといった状況が生じます。車検を更新して間もなく新型に乗り換える無駄を省き、前型にはなりますが未登録の新車に数カ月お乗りいただき、その間も利用料金としてリース料をお支払いいただく。そして新型が届いたら、スムーズに移行していただくという乗り方です」

「『XC60』の前型のディーゼル車はもうなくなりましたが、『V60』や『V60 クロスカントリー』でブリッジ・スマボをご利用いただくことはできます。これの良いところは、どうせ短期間しか乗らないのであれば、普通は選ばない派手な車体色に乗ってみようか、といった楽しみ方ができることです。現在はスマボが10%、ブリッジ・スマボが10%の計20%というリース比率になっています」

ブリッジ・スマホであれば、自分では選ばないような色のボルボ車にも気軽に乗ってみることができそうだ(画像はパッションレッドの「S60」、画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

日本でなかなか定着しなかったリース販売が、工夫次第で顧客満足につながる例である。

貸し倒れはほとんどなし! 優良顧客もボルボの武器

顧客満足向上の取り組みは、自動車保険でも行われている。

「自動車保険など金融商品は、差別化できないと言われています。しかし、ボルボのディーラー網はボルボを中心に扱う店が多く、またボルボには優良なお客様が多いので、自動車保険でも、他のプレミアムブランドと差をつけることができます」

ボルボの所有者向けに提供されているボルボオリジナル自動車保険に加入すると、付帯サービスとして提供されてきた内容が、従来の4項目から10項目へ、2015年7月から拡大された。以前のサービスで契約していた顧客も、「インテリガード10」と呼ばれる新しい付帯サービスへ自動的に移行される。

優良な顧客基盤を有することもボルボの強みと木村社長は語る(画像はボルボスタジオ青山の店内)

インテリガード10の内容は、飛び石などによるウインドウスクリーン補償(フロントおよびリア)、キー補償、タイヤ補償までが従来の4つの補償で、これに新しく、スモールリペア補償(いたずら/落書き)、レンタカー補償(3日間、スモールリペアセット)、チャイルドシート補償、愛犬アクセサリー補償、歩行者エアバッグ補償(V40のみ)が追加となる。ただし、1保険年度につき、いずれか1つを1回限りの条件が付く。

他に残価設定ローンのアクティブローンや、個人リースのスマボを利用して新車や中古車を購入した場合、3年以上の支払い期間の契約では、ボルボ交通傷害保険が最長で3年間無料で付帯される。その内容は、交通事故や交通乗用具の火災によるケガの入院、手術、通院を補償する。

「ボルボにお乗りのお客様は、貸し倒れになる方がほとんどいらっしゃらないので、ファイナンス会社に還元できることがあるのではないかということから実現しました」

ボルボの顧客は貸し倒れが少ないという(画像はボルボスタジオ青山の店内)

人のけがなどに対する手厚い補償であるとともに、インテリガード10では小さな傷を無料で直してクルマをきれいに保てたり、クルマを預けた間も足を確保できたりと快適にクルマを利用できる環境が補償され、まさに顧客志向の気遣いが感じられるサービスの提供といえる。

古くて四角いボルボが好きな人も多い

ブランド自体の強化策となるのが、クラシック・ガレージの開設や、古いクルマの博物館への寄贈、ボルボスタジオ青山の開店といった取り組みである。

クラシック・ガレージは2016年8月に、東京・町田市に開設した古いボルボ車のための整備や修理を行う拠点だ。「ボルボを所有されるお客様は良いものを永くお使いになる方が多いので、古いクルマの保守管理を提供する拠点づくりをしました」。木村社長はボルボ所有者の特性をいかす取り組みの一環であると説明する。

古いクルマを復刻するレストアとはやや意味を異にするが、スウェーデン本社には旧型の部品も残されている物が多く、かなり古い年式の車種でも日常的に利用可能な水準に整備したり、外観を補修したりできる体制が整えられた。木村社長自身、1971年型のボルボ「P1800E」を所有し、催しなどの折に乗ってくる。

古いクルマに長く乗り続ける顧客も多いというボルボ。町田市にあるボルボ・カーズ東名横浜には、そういったクルマのリフレッシュ作業を請け負う「KLASSISK GARAGE」(クラシック・ガレージ)を開設した(画像は木村社長が所有する「P1800E」で伊勢志摩のラリーイベントに参加した時の様子、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

他に、クラシック・ガレージで引き取った古い車種を整備し、中古車として販売することも行っている。クラシック・ガレージの拠点は町田の1店舗のみだが、国内各地のボルボサービス工場での修理や補修の相談にものってくれる。

博物館への寄贈では、世界で初めて3点式シートベルト(肩からと腰にベルトを付ける今では一般的な方式)を標準装備したボルボ「PV544」を昨2017年12月にトヨタ博物館へ届けた。

世界で初めて3点式シートベルトを標準装備したボルボ「PV544」(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「3点式シートベルトを開発したのはボルボであり、その特許を公開することで今日、全てのクルマが安全装備の基本として装備するようになったことをご存知の方は多いと思いますが、トヨタ博物館にはボルボが1台も展示されておらず、それならば意味のあるクルマを展示して頂こうと、スウェーデンの本社へ交渉しました。また、現在のトヨタ博物館の館長がかつての同僚でしたので、話もうまくまとまりました。後日、トヨタ時代の先輩から、3点式シートベルトのことを当時は『ボルボ式』と呼んでいたといった話を聞くこともできました」

世界で2番目のコンセプトストアが日本に

同年10月には、東京・港区の北青山に、世界で2番目となるコンセプトストアのボルボスタジオ青山を開店した。

「スウェーデン本社のホーカン・サムエルソン社長兼CEOに、こういうことをやるべきと直訴した際、ちょうど世界的にダウンタウンストアをやろうと考えていたところだったようで、その1つに東京を指名してもらいました」

2017年10月には世界で2カ所目となるコンセプトストアの「ボルボスタジオ青山」を開店

「この青山通りを『オートモービル銀座』と私は呼んでいるのですが、プレミアムブランドのディーラーなどが数多く集まっています。それらのほとんどは販売店として開いているとか、あるいは自動車メーカーの展示場で、展示するだけでしたら博物館と同じだと、私は言っています(笑)」

「一方、ボルボスタジオ青山は、お茶を飲みながら、ボルボがスウェーデンのクルマであることを感じて頂ける空間として開設しました。しかし、それだけでは博物館で終わってしまうので、独自の販売方法も取り入れています」

“オートモービル銀座”こと青山通りにあるボルボスタジオ青山

1つは、受注生産の導入である。内外装の色や注文装備を自分の好みで選んで発注する、eコマースによる販売だ。この方式で注文してスマボによるリース契約を結ぶと、車両保証やメンテナンスパッケージ、保険、消耗品の交換などが付帯される仕組みとなっている。月々の支払い以外に、クルマを利用する上で必要となる費用負担を別途で強いられることなく、自分独自の仕様のボルボに乗れる嬉しさや気軽さがある。「同じ青山通りにあっても、他のメーカーとは違う独創的な空間なのでは」と木村社長は話す。

想像力から始まる独創的な経営

社長就任からわずか3年半の間に、次々に展開される木村氏の独創的な発想の原点は、どこにあるのか。

「ビジネスで最も大事なのは、想像力をつないでいくことだと思います。もちろん、現場が大切なのは承知しています。しかし、常に現場にいたり、そこで意見を交わしたりできるわけではありません。ですから、自分が顧客になったつもりで、状況をちょっと見ただけでもそれらをつなぎあわせ、本質を見極めることのできる力が一番大事だと思うのです。お客様第一と皆が言いながら、実は業界の慣習が優先され、お客様第一になっていないところがあります。そこにビジネスチャンスがたくさんあると考えています」

では、本質とは何か。それは、前編の冒頭から木村社長が掲げた「お客様第一と会社最適の両立」である。その実現へ愚直に突き進もうとすれば、おのずとなすべきことが見えてくるということだろう。

想像力を原点とし、真の顧客第一主義とは何かを追求するのが木村社長の経営手法だ

ここまで、3年半の取り組みについて聞いてきた。では、今後の課題は何か。

「就任した2014年7月からの半年は、いわば敗戦処理投手みたいな状況で、その後3年間の実績は、対2014年比で2017年には販売で2割増し、売り上げでは4割増しでしたので、プレミアムブランドとして生き残る道筋は付けることができたのではないかと思っています」

「一方で、歯がゆい思いでいるのは、スピードが足りないことです。やるぞ、変えるぞと言っても、日本はなかなか動きません。5年間勤めた東南アジアは、日本の2倍の速度で物事が動きます。行動のスピードが速ければ、例え失敗しても結論が早く得られるので、修正して向上・発展させていくことができます。『スピードではトヨタに勝て』と社内でいっています」

「CASE」で激変の自動車業界、ボルボの考えは

電動化や自動運転の導入、あるいはカーシェアリングの普及で、ディーラー経営が危うくなるのではないかとの懸念も世の中でささやかれはじめている。Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングなど)、Electric Drive(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが「CASE」と呼び始めた技術革新は、ディーラー経営にどんな影響を与えるのか。

「CASEについては、つい最近、ディーラーの方々へプレゼンテーションしたところです。プレミアムブランドになりますと、共有(カーシェア)とは距離があり、自分のクルマだという喜びが大切になってきます。今後は二極分化していくだろうと思っていて、もう一方は軽自動車です。こちらは、日常の利便性のためカーシェアリングやライドシェアリングに関わってくるでしょう」

「電動化については、電気自動車(EV)となればサービス項目が減るかもしれませんが、プラグインハイブリッド車(PHV)では逆に、エンジンとモーターというように部品点数が増えるので、オーナーとのつながりを強化すれば、サービスでも売り上げを伸ばすことができます」

スウェーデンのボルボ・カーズは、2019年から全モデルを電動化すると発表済み。グループのパフォーマンス・カー部門である「ポールスター」については、独立したブランドとしてグローバルな高性能エレクトリック・カー専業とする方針を示している(画像は2019年半ばの発売を予定するポールスターのファーストモデル「Polestar 1」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

増え続ける輸入車販売、「所有したいクルマ」は生き残る

「国内における2017年の輸入車販売は久しぶりに30万台を突破し、このうち66%の20万台がプレミアムブランドです。世界的な潮流として、プレミアムブランド比率は上がっており、国内でも5年後に輸入車販売が40万台に達し、このうちプレミアムブランドが70%まで高まると予測すると、28万台という数字になります」

「この試算からすれば、現在のプレミアムブランド20万台の40%増へと市場が拡大するのですから、プレミアムブランドのクルマを扱うディーラーにとっては、幸せな時代を迎えるといいました」

プレミアムブランドにとっては、顧客が「自分のものにしたい」と強く思うようなクルマを用意し続けられるかがますます重要となってくる(画像は「XC90」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「次に、国内のボルボの保有台数を見ると18万5,000台で、このうちボルボディーラーに帰ってくるのが約11万5,000台です。ということは、正規ディーラーにいらしていないお客様がまだある、取りこぼしがあることになります。そこに成長の余地が残っています」

「新規のお客様の来店回数が減っているとはいえ、一度ボルボとつながりを持っていただいたお客様は、整備などを含め再度来店していただけるようになるので、CSナンバーワンをしっかりやっていけば、まだまだディーラービジネスはやっていけます。前向き、上向きに、(ディーラーの方々には)積極的にビジネスをやっていきましょうと話しました」

一連の話は、データを見極めながら想像力をつないでいくことで見えてくる戦略と展望である。最後に、「自動車会社の経営は楽しい」と木村社長は笑顔を見せた。その活力が、国内でのボルボ販売や存在感、将来への見通しに現れている。

新世代“スマートポッド”ホテルがいよいよ東京に進出

新世代“スマートポッド”ホテルがいよいよ東京に進出

2018.03.15

2017年7月、京都に合理的なカプセルホテルが誕生した。「スマートポッド」と呼ばれる居住スペースを採用した「ザ・ミレニアルズ」というホテルだ。このザ・ミレニアルズの2号店が3月15日にいよいよ東京で開業する。場所は若者文化のパワーがみなぎる渋谷だ。

さて、スマートポッドと呼ばれる居住スペースのイメージがわからない方がほとんどだろう。どう言葉で伝えればわからないが、居住性の高いカプセルホテルのようなものと、表現すればよいのか……。ただ、カプセルホテルとは異なり圧迫感が少なく、立って着替えることもできる。カプセルのような密閉空間ではない居住性が提供されている。

左:渋谷にオープンした2号店の入り口。右:カプセルよりも開放的なスマートポッド。アートが施されている

ただし、ビジネスホテルのような個室ではない。廊下と居住スペースがカーテンで仕切れるぐらいの空間だ。だが、それだけにビジネスホテルよりかはリーズナブルに利用できる。ここ数年、旺盛なインバウンド需要のためか、ビジネスホテルといえども宿泊料が上昇傾向にある。その意味で、こうした新スタイルホテルの価値は増すのではないか。

実は、京都に誕生したザ・ミレニアルズ1号店を取材したことがある。斬新な居住空間に驚きを覚えたが、今回2号店として登場した渋谷も基本的には同じコンセプトだ。だが、その役割が異なってくるのではないかと推察している。

なぜ渋谷が選ばれたのか

グローバルエージェンツの代表取締役 山崎剛氏

まず京都だが、同地は観光資源が豊富で、インバウンドの来訪が多い。つまり、外国人観光客の利用者が多くなるのは想像に難くない。事実、ザ・ミレニアルズを運営するグローバルエージェンツの代表取締役 山崎剛氏によると、7~8割が外国人観光客の利用だという。ビジネスホテルよりもリーズナブルな価格設定が、長期滞在を目的にする外国人観光客に支持されているのだろう。

端末のアプリで照明調節やベッドのリクライニングができ、ベッドの下にトランクルームがあるのは京都1号店と同じ

一方、渋谷はどうだろうか。もちろん東京にも多くのインバウンドが来訪している。そうした外国人観光客の需要は高いだろうが、もうひとつの利用客層を想定できる。それは、ベンチャーやクリエイターといった層だ。

というのも、渋谷や五反田といった山手線駅周辺は、起業を志す、あるいは起業したばかりのベンチャーが集まりやすいところといわれている。ベンチャーはその規模によって「シーズ」→「アーリー」→「ミドル」→「レイター」と成長段階で区分される。とりわけシーズと呼ばれる段階は個人や数人であることが多い。そうした最小単位のベンチャーやフリーのクリエイターが渋谷には集まりやすく、そうした層がザ・ミレニアルズを利用するというストーリーが考えられるからだ。

では、なぜ渋谷なのだろうか。もちろん、ベンチャーにとってはビジネスチャンスが期待できるからだ。渋谷には大企業が多いし、同じベンチャーも集まっており、ベンチャー同士の協業も期待できる。山手線を利用すれば新宿や池袋、品川といった企業集積地にもアクセスしやすい。半蔵門線を使えば大手町にも出やすい。

ビジネスチャンスと創造性の高い土地柄

想像を豊かにするのならば、「地方で起業したシーズ段階のベンチャーが、東京の企業との取引のため上京。資金的にまだ余裕がなくシティホテルではなくザ・ミレニアルズを拠点にする」といった、シナリオが考えられる。

フリーのクリエイターにとっても、渋谷は絶えず新しい文化が生まれる街だし、原宿や代官山といった創作活動が盛んな地が目と鼻の先だ。

ザ・ミレニアルズの施設もこうした層をターゲットにしている。コワーキングスペースや電話室、自炊できるキッチンやランドリー(有料)、シャワー室が用意され、ビジネスと宿泊の需要に応えられるようになっている。

上左:フロントはライトの色が変わる仕組み。上右:前衛的なワーキングスペース。下左:有料の会議室。下右:ランドリーも用意されている
朝食時はパンとコーヒーがサービスされる。また17:30~18:30までビールが飲み放題。朝の空腹解消と一仕事あとの楽しみもある

前述したように、この記事がアップされる15日から開業予定だ。予想したとおりの客層が集まるのか、それとも京都のように外国人観光客が多数を占めるのか、フタを開けてみなければわからない。半年ほど経ったら、リサーチしてみることにしたい。

電気自動車時代の覇者はパナソニック、という可能性

電気自動車時代の覇者はパナソニック、という可能性

2018.03.15

パナソニックは、車載関連ビジネスを成長の柱のひとつに据えている。

現在、同社のオートモーティブ事業の売上高は、2016年度実績で1兆3000億円、全社売上高の約18%を占める。2018年度の売上高目標に至っては、16年度から7000億円も積み上げる2兆円の売上高を目指しており、年平均成長率は業界平均の7%増を大きく上回る24%増を目指す。なお、2021年度には2兆5000億円の規模を目指している。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 副社長 兼 インフォテイメンメントシステム事業部長の上原 宏敏氏は、「コネクティビティによるクルマの情報化、自動運転によるクルマの電子化、そして環境対応でのEVの拡大といったクルマの進化のなかで、当社が持つ車載・民生デジタル技術やセンシング・画像処理技術、高度な電池・電源技術を生かすことができる。これにより、車載システム領域での事業を拡大し、業界を上回る成長を実現できる」と意気込む。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 副社長 兼 インフォテイメンメントシステム事業部長 上原 宏敏氏

2018年1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES 2018」でも、2030年ごろに実用化が見込まれているADAS(先進運転支援システム)のレベル5、つまり完全自動運転時代における車のあり方を想定した「次世代モビリティキャビン」を展示。デジタルサンシェードや空質調整付きシート、キャビンオートエアコン、リビング照明、AI・クラウド連携によるエージェント機能など、車内空間であっても、自宅リビングのような快適さを実現するデモストレーションを行った。

次世代モビリティキャビン

自動運転時代はパナの時代?

10年以上先の未来だけでなく、直近の未来もパナソニックは忘れていない。

すでに実用化されている部分運転自動化のADASレベル2での利用を想定した「スマートデザインコックピット」では、4つのマルチディスプレイを同時にコントロールする高性能グラフィックスエンジンを搭載。ドライバーや助手席同乗者に必要な情報をそれぞれ表示したり、ディスプレイに触れることなく、手のひらや指の動きによるジェスチャーコントロールを実現する。

スマートデザインコックピット

また、条件付き運転の自動化を実現するADASレベル3に対応した「スマートビジョンコックピット」では、エンジンを始動すると大画面HUD(ヘッドアップディスプレイ)にクルマの状態とドライバーの健康状態を表示。運転中は、パノラミックディスプレイにバックカメラ、サイドカメラの映像を表示し、死角の無い安全運転を支援する。

スマートビジョンコックピット

ここではドライバモニタリング技術を活用しており、カメラで捉えた映像から瞬きや表情などを、非接触のまま高精度で検出。ドライバーの眠気を予測したり、ステアリングに加えられた圧力を計測して、ドライバーの運転集中度を推定する同社の得意技術を採用している。あわせて、赤外線アレイセンサーによって、人の温冷感や温熱快適性を非接触で計測し、車内空調との連動によって「快適に覚醒状態を維持する」といった制御も自動的に行う。

上原氏は、「クルマの変化にあわせて、コックピットシステムも大きく進化していくことになる」と前置きした上で、「すでに、レンジローバーの新型SUVであるRange Rover Velarに採用しているデュアルディスプレイやHUDは、パナソニックが民生で培ったデジタルAV技術や、デジタルカメラのLUMIXによる光学設計技術を応用したもの」と話す。

レンジローバーの新型SUVであるRange Rover Velar
Range Rover Velarのディスプレイに様々な情報を表示

例えばスマートデザインコックピットでは、樹脂製素材でありながら天然素材の質感を実現できるインモールディング技術を採用しているが、これもパナソニックが蓄積したノウハウを活用したものになる。

10年後の未来を見通した次世代モビリティキャビンでも、ライティング技術や空調技術など、パナソニックが住空間事業で培ってきた、よりよい暮らしを実現する技術とノウハウを活用する。これに車載システム開発力を融合させることで、「新たな移動空間を提供できる」(上原氏)という。

パナソニックのオートモーティブ事業は、単なる部品メーカーとしての動きではなく、むしろ自動運転時代の到来とともに、これまで同社が培ってきた家電技術、AV技術、住空間技術を活用できる場になるという捉え方をしている。この分野を垂直統合したメーカーはほぼなく、差別化を図れるだけでなく、同社にとって「クルマの数だけ、新たな居住空間が増える」というビジネスチャンス到来の時代ということになる。

小型EVという可能性

もちろん、こうしたインフォテインメントに加えて、部品メーカーとしてのパナソニックの側面もある。米テスラとの協業によるギガファクトリーでのリチウムイオン電池「2170」の生産をはじめとするEV向けバッテリーのほか、各種センサーなどの自動運転に欠かせない技術領域は、元来のオートモーティブ事業というべきものだ。

テスラのギガファクトリーで生産しているリチウムイオン電池「2170」

そうした中で新たに提供するのが小型EVソリューション「ePowertrain」だ。CES 2018のパナソニックブームにおいても、このプラットフォームは関係者の間で注目を集めた展示のひとつになった。これは、4輪および2輪の小型EVの普及を目的に、バッテリー、電源、駆動装置といった同社が実績を持つEV向けデバイスを活用してプラットフォーム化したものだ。

求められる車両の大きさや、走行速度やトルクといった仕様に応じて、基本システムをモジュールのように組み合わせて利用できるという。具体的には、車載充電器、ジャンクションBox、インバータ、DC-DCコンバータによる「電源システム部」と、モーターによる「駆動部」で構成し、これらを組み合わせて使用する。

小型EVソリューション「ePowertrain」プラットフォーム

同社が、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)などの電動車向けに供給してきた電池や車載充電器、フィルムキャパシター、DC-DCコンバータ、EVリレーなど幅広い車載製品を活用したもので、すべてにおいて、実績がある技術を活用している点が特徴だ。

では、なぜパナソニックはEV向けプラットフォームの投入に踏み出したのか。ひとつは、インフォテインメントシステム同様に、パナソニックが家電やAV事業で培ってきたノウハウが生かせる領域であるからだ。

例えば、車載充電器やDC-DCコンバータの電顕システムは、テレビの電源基板設計技術やIHクッキングヒーターの電力制御回路技術を活用。モーターやインバータなどの駆動システムでは、エアコンの室外機などの電動コンプレッサによる高圧縮、高効率技術が活用されている。

また、電池システムでは、レッツノートなどで採用しているPC用リチウムイオンセルの安全機構や高信頼性構造を応用している。さらに、これらのコア技術を活用したシステムに、電費シミューションモデル技術を応用することにより、システム全体の電費予測を行い、ランニングコストの低減を図ることができるという。

もう1点、注目しておきたいポイントが、ePowertrainは小型EVを対象にしたプラットフォームであるという点だ。

パナソニックは、一般車のEVの開発において、テスラやトヨタをはじめとする主要なグローバルカーメーカーと、がっちりと手を組みながらビジネスを推進している。一方の小型EV向けプラットフォームは、"手離れのいいビジネス"を推進する姿勢を明確にしたといっていい。

「ePowertrain」プラットフォームによって提供されるシステム

EV車はグローバルカーメーカーの取り組みが注目を集めているが、普及段階を想定した場合、連続での長距離走行を想定していないコミュニティカーの広がりが注目される。1人乗りや2人乗りなどの小型EVは、狭い道が多いエリアを走行したり、駅から家までの距離を自動運転で送迎するといった使い方が想定される領域だ。台数ベースで見れば、こうした小型EVが大きく伸長し、先進国のみならず新興国の需要も見通せる。

つまり、既存メーカーに限らず多くの企業がこの領域に参入する可能性があるといっていい。このプラットフォームを活用すれば、EVの心臓部となる電源および駆動に関わる部分はカバーでき、開発コストの削減や開発リードタイムの短縮に貢献する。EV開発に向けた敷居が大きく引き下がるわけだ。

家電ノウハウを活用する一方、テスラなどのグローバルカーメーカーとの実績を活かした「ePowertrain」が軌道に乗れば、パナソニックは小型EV車という新領域で重要な役割を担う企業へと躍り出ることにもなる。

「グローバルにEVの急速な需要拡大が見込まれているなか、従来の乗用車だけでなく、二輪EVや新しいタイプの超小型EVなど、地域ごとの様々な生活スタイルや用途に合わせた多彩なモビリティの登場が期待されている。ePowertrainは、二輪EVや、超小型EV向けに開発したプラットフォームであり、統合小型(Integrated compact)、高効率(High Efficiency)、拡張性(Scalable)に優れた省電力で安全性の高いパワートレインとして提供できる」(上原氏)

ePowertrainの事業は、今後のEVの普及を考える上で、極めて戦略的な取り組みだといっていいだろう。パナソニックの車載関連事業は、快適を追求するインフォテインメント事業と、安全と環境を追求する電動化、自動化の両面で成長戦略を描くことになる。