ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

ブランド再建から“スマボ”まで、木村社長に聞くボルボの今(後編)

2018.03.16

ボルボ・カー・ジャパンの木村社長は、販売面で新たな施策を次々に仕掛ける自称“企画屋”だ。クルマをスマホのように所有する「スマボ」など、日本の商習慣に挑戦する新たな手法もうまくいっている様子。技術革新によりクルマのコモディティ化を心配する声も聞かれる中、ボルボは“幸せな時代”を迎えると木村社長は語る。本企画の前編はこちら

自らを“企画屋”と称したボルボ・カー・ジャパンの木村社長

日本の商習慣は異常? クルマのリース販売を増やすボルボ

接客以外に、顧客満足を高めていくための販売手法についても木村社長は手を打っている。その1つが「スマボ」(SMAVO)だ。「スマートにボルボを購入する」の意味を持ち、スマートフォンのスマホを連想させる命名である。いわゆるリース販売であり、webサイトでは「おまとめ定額プラン」として案内されている。

「1987年のトヨタ入社から30年近く自動車業界で働いてきて、日本の商慣習と世界との間に差があると実感しています。その1つが個人リースです。米国では個人リースが自動車販売の30~40%に及ぶのに対し、日本はわずか1%でしかなく、その差が異常に思えます」

「理由として、日本では所有することが望まれているからなど、いろいろと言い訳はしますけれども、今日ではスマホの利用と同じように、(端末の)販売価格は知らなくても、月々の支払い料金で判断するといったことが当たり前になってきているのではないでしょうか。クルマもスマホと同じように利用できた方が、心地よいと感じるお客様もいらっしゃるはずです。『スマボ』の導入により、ボルボのリース比率は20%を超えるようになっています」

ボルボ・カー・ジャパンでは個人リースの比率が増えているという(画像はボルボスタジオ青山に展示してあった「XC60」)

ブリッジ・スマボなら大胆なクルマ選びも可能?

さらに、「ブリッジ・スマボ」という販売方法も編み出した。そのシステムが効果を発揮したのは、新型「XC60」の販売に際してディーゼルエンジン車の導入が遅れ、ディーゼル車を希望する顧客が待たされる事態となったことだ。

「日本には車検制度があって、ディーゼル車導入までに車検が来てしまうと、クルマが無くなるといった状況が生じます。車検を更新して間もなく新型に乗り換える無駄を省き、前型にはなりますが未登録の新車に数カ月お乗りいただき、その間も利用料金としてリース料をお支払いいただく。そして新型が届いたら、スムーズに移行していただくという乗り方です」

「『XC60』の前型のディーゼル車はもうなくなりましたが、『V60』や『V60 クロスカントリー』でブリッジ・スマボをご利用いただくことはできます。これの良いところは、どうせ短期間しか乗らないのであれば、普通は選ばない派手な車体色に乗ってみようか、といった楽しみ方ができることです。現在はスマボが10%、ブリッジ・スマボが10%の計20%というリース比率になっています」

ブリッジ・スマホであれば、自分では選ばないような色のボルボ車にも気軽に乗ってみることができそうだ(画像はパッションレッドの「S60」、画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

日本でなかなか定着しなかったリース販売が、工夫次第で顧客満足につながる例である。

貸し倒れはほとんどなし! 優良顧客もボルボの武器

顧客満足向上の取り組みは、自動車保険でも行われている。

「自動車保険など金融商品は、差別化できないと言われています。しかし、ボルボのディーラー網はボルボを中心に扱う店が多く、またボルボには優良なお客様が多いので、自動車保険でも、他のプレミアムブランドと差をつけることができます」

ボルボの所有者向けに提供されているボルボオリジナル自動車保険に加入すると、付帯サービスとして提供されてきた内容が、従来の4項目から10項目へ、2015年7月から拡大された。以前のサービスで契約していた顧客も、「インテリガード10」と呼ばれる新しい付帯サービスへ自動的に移行される。

優良な顧客基盤を有することもボルボの強みと木村社長は語る(画像はボルボスタジオ青山の店内)

インテリガード10の内容は、飛び石などによるウインドウスクリーン補償(フロントおよびリア)、キー補償、タイヤ補償までが従来の4つの補償で、これに新しく、スモールリペア補償(いたずら/落書き)、レンタカー補償(3日間、スモールリペアセット)、チャイルドシート補償、愛犬アクセサリー補償、歩行者エアバッグ補償(V40のみ)が追加となる。ただし、1保険年度につき、いずれか1つを1回限りの条件が付く。

他に残価設定ローンのアクティブローンや、個人リースのスマボを利用して新車や中古車を購入した場合、3年以上の支払い期間の契約では、ボルボ交通傷害保険が最長で3年間無料で付帯される。その内容は、交通事故や交通乗用具の火災によるケガの入院、手術、通院を補償する。

「ボルボにお乗りのお客様は、貸し倒れになる方がほとんどいらっしゃらないので、ファイナンス会社に還元できることがあるのではないかということから実現しました」

ボルボの顧客は貸し倒れが少ないという(画像はボルボスタジオ青山の店内)

人のけがなどに対する手厚い補償であるとともに、インテリガード10では小さな傷を無料で直してクルマをきれいに保てたり、クルマを預けた間も足を確保できたりと快適にクルマを利用できる環境が補償され、まさに顧客志向の気遣いが感じられるサービスの提供といえる。

古くて四角いボルボが好きな人も多い

ブランド自体の強化策となるのが、クラシック・ガレージの開設や、古いクルマの博物館への寄贈、ボルボスタジオ青山の開店といった取り組みである。

クラシック・ガレージは2016年8月に、東京・町田市に開設した古いボルボ車のための整備や修理を行う拠点だ。「ボルボを所有されるお客様は良いものを永くお使いになる方が多いので、古いクルマの保守管理を提供する拠点づくりをしました」。木村社長はボルボ所有者の特性をいかす取り組みの一環であると説明する。

古いクルマを復刻するレストアとはやや意味を異にするが、スウェーデン本社には旧型の部品も残されている物が多く、かなり古い年式の車種でも日常的に利用可能な水準に整備したり、外観を補修したりできる体制が整えられた。木村社長自身、1971年型のボルボ「P1800E」を所有し、催しなどの折に乗ってくる。

古いクルマに長く乗り続ける顧客も多いというボルボ。町田市にあるボルボ・カーズ東名横浜には、そういったクルマのリフレッシュ作業を請け負う「KLASSISK GARAGE」(クラシック・ガレージ)を開設した(画像は木村社長が所有する「P1800E」で伊勢志摩のラリーイベントに参加した時の様子、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

他に、クラシック・ガレージで引き取った古い車種を整備し、中古車として販売することも行っている。クラシック・ガレージの拠点は町田の1店舗のみだが、国内各地のボルボサービス工場での修理や補修の相談にものってくれる。

博物館への寄贈では、世界で初めて3点式シートベルト(肩からと腰にベルトを付ける今では一般的な方式)を標準装備したボルボ「PV544」を昨2017年12月にトヨタ博物館へ届けた。

世界で初めて3点式シートベルトを標準装備したボルボ「PV544」(画像提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「3点式シートベルトを開発したのはボルボであり、その特許を公開することで今日、全てのクルマが安全装備の基本として装備するようになったことをご存知の方は多いと思いますが、トヨタ博物館にはボルボが1台も展示されておらず、それならば意味のあるクルマを展示して頂こうと、スウェーデンの本社へ交渉しました。また、現在のトヨタ博物館の館長がかつての同僚でしたので、話もうまくまとまりました。後日、トヨタ時代の先輩から、3点式シートベルトのことを当時は『ボルボ式』と呼んでいたといった話を聞くこともできました」

世界で2番目のコンセプトストアが日本に

同年10月には、東京・港区の北青山に、世界で2番目となるコンセプトストアのボルボスタジオ青山を開店した。

「スウェーデン本社のホーカン・サムエルソン社長兼CEOに、こういうことをやるべきと直訴した際、ちょうど世界的にダウンタウンストアをやろうと考えていたところだったようで、その1つに東京を指名してもらいました」

2017年10月には世界で2カ所目となるコンセプトストアの「ボルボスタジオ青山」を開店

「この青山通りを『オートモービル銀座』と私は呼んでいるのですが、プレミアムブランドのディーラーなどが数多く集まっています。それらのほとんどは販売店として開いているとか、あるいは自動車メーカーの展示場で、展示するだけでしたら博物館と同じだと、私は言っています(笑)」

「一方、ボルボスタジオ青山は、お茶を飲みながら、ボルボがスウェーデンのクルマであることを感じて頂ける空間として開設しました。しかし、それだけでは博物館で終わってしまうので、独自の販売方法も取り入れています」

“オートモービル銀座”こと青山通りにあるボルボスタジオ青山

1つは、受注生産の導入である。内外装の色や注文装備を自分の好みで選んで発注する、eコマースによる販売だ。この方式で注文してスマボによるリース契約を結ぶと、車両保証やメンテナンスパッケージ、保険、消耗品の交換などが付帯される仕組みとなっている。月々の支払い以外に、クルマを利用する上で必要となる費用負担を別途で強いられることなく、自分独自の仕様のボルボに乗れる嬉しさや気軽さがある。「同じ青山通りにあっても、他のメーカーとは違う独創的な空間なのでは」と木村社長は話す。

想像力から始まる独創的な経営

社長就任からわずか3年半の間に、次々に展開される木村氏の独創的な発想の原点は、どこにあるのか。

「ビジネスで最も大事なのは、想像力をつないでいくことだと思います。もちろん、現場が大切なのは承知しています。しかし、常に現場にいたり、そこで意見を交わしたりできるわけではありません。ですから、自分が顧客になったつもりで、状況をちょっと見ただけでもそれらをつなぎあわせ、本質を見極めることのできる力が一番大事だと思うのです。お客様第一と皆が言いながら、実は業界の慣習が優先され、お客様第一になっていないところがあります。そこにビジネスチャンスがたくさんあると考えています」

では、本質とは何か。それは、前編の冒頭から木村社長が掲げた「お客様第一と会社最適の両立」である。その実現へ愚直に突き進もうとすれば、おのずとなすべきことが見えてくるということだろう。

想像力を原点とし、真の顧客第一主義とは何かを追求するのが木村社長の経営手法だ

ここまで、3年半の取り組みについて聞いてきた。では、今後の課題は何か。

「就任した2014年7月からの半年は、いわば敗戦処理投手みたいな状況で、その後3年間の実績は、対2014年比で2017年には販売で2割増し、売り上げでは4割増しでしたので、プレミアムブランドとして生き残る道筋は付けることができたのではないかと思っています」

「一方で、歯がゆい思いでいるのは、スピードが足りないことです。やるぞ、変えるぞと言っても、日本はなかなか動きません。5年間勤めた東南アジアは、日本の2倍の速度で物事が動きます。行動のスピードが速ければ、例え失敗しても結論が早く得られるので、修正して向上・発展させていくことができます。『スピードではトヨタに勝て』と社内でいっています」

「CASE」で激変の自動車業界、ボルボの考えは

電動化や自動運転の導入、あるいはカーシェアリングの普及で、ディーラー経営が危うくなるのではないかとの懸念も世の中でささやかれはじめている。Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングなど)、Electric Drive(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが「CASE」と呼び始めた技術革新は、ディーラー経営にどんな影響を与えるのか。

「CASEについては、つい最近、ディーラーの方々へプレゼンテーションしたところです。プレミアムブランドになりますと、共有(カーシェア)とは距離があり、自分のクルマだという喜びが大切になってきます。今後は二極分化していくだろうと思っていて、もう一方は軽自動車です。こちらは、日常の利便性のためカーシェアリングやライドシェアリングに関わってくるでしょう」

「電動化については、電気自動車(EV)となればサービス項目が減るかもしれませんが、プラグインハイブリッド車(PHV)では逆に、エンジンとモーターというように部品点数が増えるので、オーナーとのつながりを強化すれば、サービスでも売り上げを伸ばすことができます」

スウェーデンのボルボ・カーズは、2019年から全モデルを電動化すると発表済み。グループのパフォーマンス・カー部門である「ポールスター」については、独立したブランドとしてグローバルな高性能エレクトリック・カー専業とする方針を示している(画像は2019年半ばの発売を予定するポールスターのファーストモデル「Polestar 1」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

増え続ける輸入車販売、「所有したいクルマ」は生き残る

「国内における2017年の輸入車販売は久しぶりに30万台を突破し、このうち66%の20万台がプレミアムブランドです。世界的な潮流として、プレミアムブランド比率は上がっており、国内でも5年後に輸入車販売が40万台に達し、このうちプレミアムブランドが70%まで高まると予測すると、28万台という数字になります」

「この試算からすれば、現在のプレミアムブランド20万台の40%増へと市場が拡大するのですから、プレミアムブランドのクルマを扱うディーラーにとっては、幸せな時代を迎えるといいました」

プレミアムブランドにとっては、顧客が「自分のものにしたい」と強く思うようなクルマを用意し続けられるかがますます重要となってくる(画像は「XC90」、提供:ボルボ・カー・ジャパン)

「次に、国内のボルボの保有台数を見ると18万5,000台で、このうちボルボディーラーに帰ってくるのが約11万5,000台です。ということは、正規ディーラーにいらしていないお客様がまだある、取りこぼしがあることになります。そこに成長の余地が残っています」

「新規のお客様の来店回数が減っているとはいえ、一度ボルボとつながりを持っていただいたお客様は、整備などを含め再度来店していただけるようになるので、CSナンバーワンをしっかりやっていけば、まだまだディーラービジネスはやっていけます。前向き、上向きに、(ディーラーの方々には)積極的にビジネスをやっていきましょうと話しました」

一連の話は、データを見極めながら想像力をつないでいくことで見えてくる戦略と展望である。最後に、「自動車会社の経営は楽しい」と木村社長は笑顔を見せた。その活力が、国内でのボルボ販売や存在感、将来への見通しに現れている。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。