警備ドローンは当たり前に? セコムとKDDIが実証実験で果たした

警備ドローンは当たり前に? セコムとKDDIが実証実験で果たした"世界初"

2018.03.16

首相官邸の屋上にドローンが落下し、ニュースとして大きく取り上げられたのは2015年4月。あれから3年、ドローンの話題はあまり聞かなくなったが、一方で産業用途ではその存在感が増している。老朽化が進む社会インフラの保守・管理や、人が立ち入りづらい場所の遠隔監視、工事現場における3Dマップの作成など、一般消費者があまり意識しづらい場面では既に実践配備されているケースも少なくない。

例えば、建機大手のコマツは、スマートコンストラクション構想の一部でドローンを活用している。三菱地所は、実証実験ではあるが、現在のドローンの多くがGPS測位による安定飛行を実現している中で、自律飛行ドローンを用いて大手町の地下を通る洞道(トンネル)の点検作業を行った。

また、積極的な動きを見せるのは携帯キャリアだ。現状のドローンの多くは専用無線かWi-Fiを用いる方法が一般的だが、産業用途では当然ながら航行距離を伸ばすニーズの増大が見込まれる。となれば、Wi-Fiの力不足は明らかで、現在の4Gや将来的には5Gを搭載したドローンがメインストリームになる可能性が高い。

例えば、NTTドコモは"ドローン特区"の千葉県千葉市や、国家戦略特区の福岡県福岡市などで、楽天やエアロセンスといった企業とドローンを用いた実証実験を重ねており、2月にはドローン運用のサポートサービス「ドローンプラットフォーム docomo sky」を発表している。また、3月14日には、エアロセンスとともに垂直離着陸機(VTOL)によるLTEを用いた広域リアルタイム映像伝送に成功している。

一方でKDDIはより大規模にドローンビジネスを展開している。2016年12月にスマートドローン構想を発表し、「KDDIドローンプラットフォーム」と題して、ドローンメーカー「プロドローン」や運行管理システムの「テラドローン」、気象データの「ウェザーニューズ」、3次元マップの「ゼンリン」などと協力してドローン関連サービスのB2B基盤を整備している。

企業の導入支援としては、ドコモに先んじて2017年10月に「KDDI IoTクラウド ~ドローンパッケージ~」の提供を開始し、ケースによってはLTE通信の実用化無線局申請による実用化に向けた取り組みを進めている。LTEを活用したドローンでは、ほかにも災害時における臨時基地局の展開なども行っている

LTEドローンは実用レベル?

そして3月15日には、KDDIとテラドローン、セコム、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の4者が「世界初」として、4G LTEで自律飛行する複数ドローンを活用した広域警備に成功したと発表した。この実証実験は、NEDOが2017年度からの5年間に渡り行うプロジェクト「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(DRESSプロジェクト)」に基づき行われた。

LTEを用いたドローンの自律飛行では、2017年5月に「完全自律飛行」に成功しており、11月には3次元マップを活用した自律飛行にも成功していた。今回のケースでは、複数機体の同時運用を4G LTE経由で自律飛行させたもので、3次元マップも利用している。

DRESSプロジェクトは、2017年度だけで33億円の予算を組んでおり、政府自体も積極的にドローンの社会普及を目指している姿勢が伺える。現在は4G LTEを活用したスマートドローンの利用には前述の通り、試験運用のための無線局申請が必要となるが、飛行レベル3の「無人地帯における目視外飛行」が2018年度以降、レベル4の「有人地帯における目視外飛行」が2020年度以降に想定されており、目視外飛行には4G/5Gが必要となることから、遠くない将来に規制緩和される可能性が高い。

実際にNEDO ロボット・AI部 部長の弓取 修二氏は、「2020年までに、人口密集地域におけるドローン物流活用を目指したい」と話す。DRESSプロジェクトは、この壁を超えるために進められているものだが、主に「機体開発」「システム開発」「国際標準化」のくくりで中期計画が進んでいる。今回の実証実験は、システム開発の「無人航空機の運行管理システム及び衝突回避技術の開発」にあたるもので、3年間の期間の1年目の成果として発表されたものだ。

NEDO ロボット・AI部 部長 弓取 修二氏

全体を俯瞰・監視する俯瞰ドローンと、俯瞰ドローンが見つけた不審者などを追尾する巡回ドローンの組み合わせで監視を実現するものだが、ある関係者によれば「1年目の成果としては上々で、NEDOがぜひ大きく発表したい」として発表会が行われた。通信環境の不具合によって、一度失敗する場面も見られたが、実験場所のWi-Fi環境の不具合による失敗であり、4G LTEによる運行管理に問題があったわけではなかった。デモンストレーションでは、リアルタイムで自律飛行するドローンからの映像を確認でき、不審者を発見したセコムの監視要員による手動切り替え、ドローンによる不審者への警告などが行われた。

セコムの監視員がさまざまなデータをもとにドローンによる監視を行う
実際に巡回するドローン
広大な敷地を、俯瞰ドローン2台と巡回ドローン2台の計4台で監視する
実証の1年目ということもあり、当初はセコム監視員による目視で不審者に対して警告を行うが、いずれは画像認識技術による警告作業の自動化を目指す
自律飛行エリアと各ドローンの視点の混合表示も可能
警戒するエリアは、自律飛行するために事前にドローンを飛ばして3Dマップを作成する
実証実験に利用されたドローン
キヤノンの高感度カメラで、夜間でも不審者や不審火などの検知を行う
報道陣向けにセコム警備員が飛ばすデモンストレーションも行われた

セコムはこれまでも「セコムドローン」を実際にサービスとして提供しており、企業の物流拠点の監視などを実際に受託して提供している。セコムドローンはWi-Fiを活用した映像伝送であり、現状は「倉庫の各所にWi-Fi環境を整備しなければならない。それだけで数百万円のコストがかかるため、顧客がそういった面で渋るケースもある」(セコム関係者)という。

すでにサービスとして提供しているセコムドローン

一方の実運用では、通常の警備体制と同じく、社員が警備のシステム解除を忘れて現場に入り、ドローンが出動するというケースがあるという。「それで改めて顧客が『こうやって稼働するのか』と納得していただくケースもある。同時に、対処員も出動しなければならないので私たちとしては大変な面もあるが」(同)と苦笑いしつつ、実用性もアピールする。

今回の実証実験については、4G LTEの広範なエリア性について評価しつつ「実際に利用するとなると、法整備が必要(現状はLTEを利用できない)だし、実験機も積めるものをとりあえず積んだだけの状態」(同)と話す。ただ、「ある意味で、すぐに実利用できる下地は出来ていると感じた。特に複数機の運用は私たちも目指したいところだし、警備の高度化も果たせる」(同)と期待感を示す。セコムとしては2020年の東京オリンピックもあるため、それに合わせたい思惑もあるだろう。

KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部 商品1グループ 課長補佐の杉田 博司氏は、「スマートドローンは4G LTEであっても十分力を発揮する」と語る。今回の実験では、2Mbpsのスループットで動画を運行管理システムに送信したが、カメラ機材は4Kの動画撮影が当たり前になりつつあり、2020年には8Kも視野に入る。

KDDIは5Gを、2020年に商用スタートする見込みだが、それに合わせたスマートドローンの高度化も以前から強く打ち出している。5Gが実現する「大容量」「低遅延」「多接続」という三大メリットは、いずれもドローンを運用する上で重要な鍵だ。ではなぜ4Gでもと杉田氏は語るのか。

3月8日に行われた防災訓練でも、5Gの特徴を活かした災害時のスマートドローンの未来を提案していた

当然ながら、これまで3Gや4G LTEが歩んできた道と同じく、5Gはそのエリア整備に時間がかかる。2012年にスタートした4G LTEであれば、そのエリア性を存分に活かせるし、高解像度やリアルタイム性が求められない現場であれば、「監視環境を用意する」という大前提さえクリアできれば実用に耐えるというイメージだろう。

むしろドローンに足りない要素はバッテリーだ。この日の実証実験では、「十分にデモンストレーションできる時間」として10分飛行できる機体で臨んだ。落下の恐れがないように、40%の残量を残してということだが、産業用ドローンの多くは現状で長くても30分が限度の機体が多い。

「今回のような複数機運用を実際に行う場合、例えば数万m2の敷地であれば1機の俯瞰ドローンと4機の巡回ドローンの5機×2セットの10機といった運用が考えられる」(セコム関係者)というように、しばらくはバッテリー問題が残る見込み。電気自動車でも、パナソニックとトヨタが車載電池開発で協業するように、ドローン分野でも電池のブレイクスルーが求められそうだ。

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

2018.09.21

iPhone Xs、Xs Maxが発売。価格は最大17万円越えと高価

キャリア各社による、これまでとこれからのiPhoneの売り方は?

Appleの強気の価格設定の裏に「型落ち機」の存在感

9月21日、いよいよ新型iPhoneが発売となった。iPhone XSは昨年発売されたiPhone Xの後継モデルで、iPhone XS Maxは6.5インチの大画面が特徴だ。

性能とは別に、話題となっているのが本体価格だろう。今回、いずれも64GB、256GB、512GBの3つの容量が用意されているが、64GBモデルでも12万円を超え、512GBモデルとなれば17万円を超える値付けとなっている。もはや、スマホとは思えない価格設定だ。

ついに発売された「iPhone Xs」と「iPhone Xs Max」

他国に比べ圧倒的にiPhoneのシェアが高い日本だが、そんな状況が生まれた理由の1つとして、これまでは「安価に買えた」というポイントは無視できない。

「安いiPhone」が日本普及の鍵だった

かつてソフトバンクはiPhoneを販売するにあたり、「Everybodyキャンペーン」と銘打ち、端末代が実質ゼロ円となる施策を実施。ガラケーに使い慣れていたユーザーに、iPhoneをお試し的に使えるキャンペーンがハマった。また、KDDIとNTTドコモが相次いでiPhoneの取り扱いを始めたことで、同じ機種を3キャリアが同時に扱うという競争環境が生まれ、各社でキャッシュバックや実質ゼロ円での販売が横行。結果として「Andoridスマホを買うより安い」という状況が生まれた。

さらにiPhone人気に拍車をかけたのが「下取り」だ。iPhoneを販売する際、各キャリアが持ち込まれた”使用済み”iPhoneを高値で買い取ったため、「iPhoneはリセールバリューが高い」という認識が広まったのだ。

分離プラン、4年縛り……奔走するキャリア各社

しかし、ここ数年は総務省がキャッシュバックや実質ゼロ円販売に歯止めをかけた。これにより、過剰な端末割引は表向きは鳴りを潜めた。

総務省としては、端末の割引をやめることで、余った原資を通信料金の値下げに回すべきという考えを持っている。その意向に賛同したのが、KDDIが昨年始めた「ピタットプラン」だ。ピタットプランは、端末の割引をやめ、ユーザーが使った分だけ料金を請求するという、いわゆる分離プランになっている。

データ利用量に応じて支払い金額が変動する「ピタットプラン」

しかし、端末の割引がなくなってしまうと、10万円以上するiPhoneを購入するのはかなり心理的な負担が大きい。ユーザーの負担を抑えつつ高価なiPhoneを売るため、KDDIが始めたのが4年割賦、いわゆる4年縛りだ。iPhoneの本体価格を4年、48回払いにすることで、月々の負担額を下げた。

ただ、これでは機種変更が4年に1回になってしまいかねないだけに、メーカーが痛手を被る可能性がある。そこで、同じ機種を2年間使い続けたら、残債の負担なしに機種変更できるという決まりを作った。ただし、機種変更する際には、今使っている端末を回収するという条件となっている。

そういったユーザーとメーカーに配慮した売り方に対して、待ったをかけたのが公正取引委員会だ。

4年割賦で購入した場合、2年後に機種変更すると、さらに同じプログラムに加入しなくてはならず、さらに4年の割賦が発生する。そうなると結局、半永久的に縛られることになるため「それはよろしくない」ということで、KDDIとソフトバンクに改善を求めたのだ。そこで両社は、機種変更時に、同じプログラムの加入を強制しないと改めた。

ただ、これで4年割賦がなくなるかと思いきや、今年のKDDIとソフトバンクのiPhone商戦は、やはり4年割賦がメインの売り方となっている。

本体価格を見ると、「実質価格」として、2年間で支払う金額が強調してある。まるで、半額でiPhoneが買えてしまうような見せ方だ。機種変更時に端末の回収が必須だということは、本当に小さくしか書かれていない。

SoftBank 「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

KDDI「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

とはいえ、総務省に端末割引に対して厳しいメスが入れられたことで、4年縛り以外売る方法がないというのが実情だ。高価なスマホを購入するために、4年も拘束されることが本当にユーザーのためになっているのかは、改めて検証する必要があるだろう。

「売れ行き不調」でも強いApple、型落ちiPhoneが暗躍

ここまで高価な値付けをしてくるAppleの自信は一体どこから来るのか。

Appleとしては、iPhone XS、iPhone XS Maxをフラグシップモデルと位置づけているが、必ずしも「主力商品」とは考えていないのかも知れない。最新バージョンとなるiOS12は6年前の機種となるiPhone 5sから利用可能だ。Appleは、iPhone XS、iPhone XS Maxを売るにあたって、iPhone 7やiPhone 8を1万円ほど値下げしている。

日本では、サブブランドのワイモバイルや、KDDI子会社のUQモバイルがiPhone 6sを販売。また、NTTドコモも毎月1500円、通信料金が割引される「docomo with」でiPhone 6sの取り扱いを開始した。

docomo withの対象機器に追加された「iPhon 6s」。最新iOSへのアップデートが可能であるため、そこまで高い性能を求めなければ、十分に使える

関連記事:分離プラン普及の試金石"docomo with"に「iPhone 6s」追加のワケhttps://biz.news.mynavi.jp/articles/-/1950

Appleはこうした型落ち端末で、ガラケーユーザーからiPhoneへの乗り換えを促し、新規ユーザーを獲得しつつ、iPhoneから離れられなくなったユーザーに高価な最新機種を売っていくという戦略なのだろう。

実際、海外市場では型落ちiPhoneや中古iPhoneがよく売れている。iPhone 6sなどの型落ち機種でも、iOS12をインストールするとサクサクと動くという声も多く、意外と評判がいい。

今後、iPhone XS、iPhone XS Maxが「高くて売れていないようだ」といった報道が出てくるかもしれない。しかし、それだけでAppleの勢いが落ちていると見るのは早計だ。じわじわと売れ続ける型落ちiPhoneこそが、Appleの本当の実力を表しているといえるだろう。

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

2018.09.21

9月21日、「Apple Watch Series4」が発売

最新機はフィットネスの成功を土台に、より健康志向に

心電図機能の追加で、医療業界に影響をもたらす存在となる

9月12日に行われたAppleの発表会で、新iPhone「XS/XRシリーズ」と、新Apple Watch「Series 4」が登場した。iPhoneの市場の大きさから、発表会後の話題はiPhone一色になっているところがある。

新しいApple Watchである「Series4」。日本では9月21日より発売

しかし、発表会に参加し、現場を取材した筆者の感触でいえば、Apple Watchの発表は、iPhoneと同等、いやそれ以上に戦略的な意味合いをもっていたように思える。ではそれはなんなのか? 解説してみよう。

Apple WatchはAppleの「ヒット製品」に返り咲く

Appleのティム・クックCEOは、「Apple Watchは、世界で一番人気のある時計になった」と発表会で語った。人気とは売り上げ金額なのか数なのか、集計期間はいつからいつまでなのかなど、まあ、いろいろ突っ込みたい部分はある。

Appleのティム・クックCEO

だが、Apple Watchが当初の「過大な期待と持ち上げの時期」を過ぎ、Appleの中でも「重要な、売れるプロダクト」になったのは間違いない。ヒット製品の少ないウェアラブル機器の中で、Apple Watchは累計では数千万本が売れ、iPhone・Mac・iPad「以外」のApple製品の中では、圧倒的な稼ぎ頭に成長している。

Apple Watchが登場した時、市場は「ポストスマホ」的な期待を抱いた部分がある。だが、実際のスマートウォッチはそうしたものではなく、スマホの周辺機器の域を出ていない。そのことを「期待外れ」と考える人はまだ多いようだ。

だが、結果的に言えば、Appleはじっくり取り組むことで、この市場でも成功を収めつつある。ポイントは「フィットネス」だ。iPhoneからの通知を表示する、というもっとも基本的だが誰もが使う機能に加え、フィットネスの状況を可視化し、より楽しく効率的に体を動かすことに役立つ機器としてApple Watchに磨きをかけることで、非常に底堅いニーズを生み出し、顧客を掴んだ。

「スマホがあるし、普通の腕時計でいいからApple Watchはいらない」という方もいるだろう。それも真実だ。だからこそ「スマホだけでも、普通の腕時計だけでもダメな部分」を見極めることで、Apple Watchは成功に近づきつつある。

フィットネスの成功を土台に「より健康志向」へ

では、今年のApple Watchはどこを狙うのか?

昨年まで、Apple Watchの発表は「フィットネスの発表会」のようだった。だが、今回の製品ではその要素は見えない。フィットネスへの対応はすでに「基本機能」だし、Apple WatchのOSである「WatchOS」のアップデートにより、機能の洗練は進んでいる。

次にAppleが狙ったのは、より広い層だ。「腕時計の代わりに、なぜApple Watchを身につけるのか」という問いに対する答えを、Appleはついに示しつつある。

それは「万一のためのアシスタント」という考え方だ。普段はiPhoneからの通知を受けたり、音楽を聴いたり、フィットネスの情報を知ったりするのに使いつつ、「いざという時の助け」のために、自分の生体データを記録しておいてくれるデバイスとしても働いている……。これが、Appleが見つけた答えなのではないか。

Apple Watchのように腕につける機器は、体が発する情報をより多く取得することができる。これまでは歩行や心拍数などのデータが中心だったが、Apple Watch Series 4はモーションセンサが強化された結果、「転倒」も把握できるようになった。心拍の異常低下を検知し、心房細動の徴候を掴むことも可能になっている。

なによりインパクトが大きかったのは、「心電図」を計れるようになったことだろう。竜頭型のデジタルクラウンに指をあてると、内蔵の電極を使って心電図をチェックできる。

「デジタルクラウン」にセンサを埋め込むことで「心電図」の記録に対応。ただし日本では当面利用できない

心拍にしろ転倒にしろ心電図にしろ、専門の機器に比べると精度は劣るかもしれない。出番はそれこそ「一生に一度」かもしれない。

だがそれでもいいのだ。なにもなければ通報が遅れたり、医師が適切な判断を下すのが難しくなったりする。精度が劣ったとしても「いままでは見過ごされてきた徴候や状況に対応できる」ことで、誰かの命が救われるかもしれない。そうした部分を持つことが、「より良いスマートフォン・コンパニオン」である、とAppleは判断したのではないだろうか。

こうした要素は、ハードウェアの進化なしには実現できない。AppleはiPhone同様、Apple Watch用の半導体(SoC)も自社で設計し、いっきに量産する戦略を採っている。SoCの内容だけでいえば、Qualcommも同じようなことを考えているようだ。だが、「同じスペックのものをいっきに量産し市場にばらまく」という観点でいえば、Appleのように人気のあるメーカーが独自に展開する方が有利である。

医療機関との関係を強化、「医師に必要とされる」製品へ

一方、医療の世界に足を踏み込むなら、厳密かつ責任あるハードウェア作りが必要になる。関係法令を守り、審査と査読を経て、医療業界から認められる必要があるのだ。

今回Apple Watch Series 4は、アメリカの担当省庁であるFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を得た、と説明された。そこには相応の時間とコストがかかったことだろう。

だが、日本を含む他国での認可はこれから行われる。いつ認可され、心電図の機能が使えるようになるのか? 法令対応が終わったアメリカですら「年末以降」とのみアナウンスされている状況で、日本は目処すら立っていない。日本でApple Watch Series 4が医療機器として認定されるのは非常に困難である、との専門家の指摘もある。

ただどちらにしろ、こうしたことは必要だ。フィットネスとは話が違う。心電図機能にしても、消費者がそれを見て「自分で健康になる」ことを目的としているわけではない。あくまで医療機器として「医師が判断する情報」として、「医師のすすめとともに」使うものだ。そうした部分を勘違いしてはいけない。

特にアメリカの場合、日本と違い、「国民皆保険」制度にはなっていない。健康を保つために自ら機器を使って管理することは、コストを削減する面でも、健康そのものの面でも「望ましい」とされている。Apple Watchはフィットネスを切り口に、そうした流れの先頭にいた。今後はさらに「医師との窓口」としての役割を果たし、医療費削減の切り札として使われていくだろう。

日本においては、医療機器は専業メーカーの領分であり、機器メーカーが医療機関や関係省庁と話す量が少ないように思う。Apple Watchは、そうした変化の先駆けになる製品だ。

日本で心電図を含めたすべての機能が使えるようになるには、年単位での時間が必要である可能性が高い。だが数年以内に、「保険を割り引く条件として、Apple Watchをつけることと、そのデータを保険会社が管理すること」といった条件の健康保険が増えて来る可能性は高い。

垂直統合によってそうした未来を自らの力で引き寄せる……。これこそが、Appleが描いている「スマートウォッチ戦略」なのだ。