コーヒー以上の事業規模に? ネスレ日本が見つけた次なる成長領域

コーヒー以上の事業規模に? ネスレ日本が見つけた次なる成長領域

2018.03.19

3兆円の市場規模を持つともいわれる国内コーヒー市場で最大手のネスレ日本が、事業規模で「コーヒー超え」も狙えると期待を示す新たな事業がある。それが「ネスレ ウェルネス アンバサダー」を核とするヘルスケア市場での取り組みだ。健康を意識した食品やサプリメントは巷に溢れるが、ネスレ日本はある問題点に気づいた。

栄養素の入った抹茶あるいはミルク(あるいは両方を合わせた抹茶ラテ、画像右)をマシンで入れて飲む「ネスレ ウェルネス アンバサダー」

平均寿命と健康寿命のギャップに目をつけたネスレ日本

ネスレ日本は栄養診断ができるサービスと栄養素が入った飲み物を武器にヘルスケア市場を開拓する。飲み物はカプセルで購入し、コーヒーのようにマシンで入れて飲む。先にマシンを売るか無償で貸与してから、そのマシンで作る中身(この場合は抹茶とミルクのカプセル)を後から定期便で供給するビジネスモデルは、同社が「ネスカフェ」のコーヒーマシンで編み出した手法を別の分野に展開したものだ。ちなみに、飲み物を入れるマシン「ネスカフェ ドルチェ グスト」では、抹茶とミルク以外にもコーヒーやカプチーノといった飲み物を作ることができる。

なぜネスレ日本がこのビジネスに取り組むのか。先日の事業戦略発表会に登壇した同社代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏は、「世界一の食品・ウェルネス企業として、やらなければならないのは、おいしいものをリーズナブルな値段で提供する役割以上に、“健康寿命”を延ばすということ、そこに貢献できるような食生活を届けること」とする。医学の進歩で平均寿命は延びるが、そのスピードに健康寿命、つまり健康に生きられる期間の伸び率が追いついていない。ネスレ日本が着目した日本の問題点だ。

平均寿命と健康寿命にはギャップがある

サプリを服用している人の割合は、日本では30%に達しているらしい。しかし、サプリを日常的に服用している人の中で、実際のところ自分に何の栄養素が足りていないかを把握し、必要なものを的確に摂取できている人は、どのくらいいるのだろうか。なんとなく、自己流の健康診断を自らに施し、その結果に基づき、実は自分にとって不要なサプリを選んでいる人は、意外に多そうな気もする。

「それを我々は、顧客が気づいていない問題と捉えた。ようするに、一人一人への“診断”がない。どんな栄養素が足りないか。足りないとどんな病気になるリスクがあるか(を把握できている人は少ない)。病気になってからの診断はあるが、なる前の診断はない。その診断を先にして、足りない栄養素を補う。さらには病気のリスクを検査して、そのリスクが高い人には、このカプセルを飲んでくださいと(提案する)。お客様が選ぶのではなく、薬と一緒で(飲んでもらうものを)我々が選ぶ。こんなビジネスモデルを立ち上げた」(高岡CEO)

「健康寿命をいかに延ばすかは近々の課題。それは製薬メーカーの仕事ではなくて、おそらく食品メーカーの仕事なのではないか」と語った高岡CEO

ネスレ日本のビジネスが単なるサプリの販売と違う最大のポイントが、事前の診断に基づく各人に合わせた製品の提供だ。例えば抹茶のカプセルには現状、栄養素の配合が異なる8種類を用意している。

定期便購入額はネスカフェ アンバサダーの1.5倍

ネスレ日本・Eコマース本部のダイレクト&デジタル推進事業部で部長を務める津田匡保(まさやす)氏によれば、ネスレ日本では診断結果に基づき、同サービスを顧客各自の健康状態に合わせてパーソナライズしていく方針だとして、次のように話した。

「現状では、ウェブサイトで食事の内容などを尋ねるいくつかの質問に答えると、自分に最適なカプセルを提案してくれる仕組みとなっている」

「将来的に、よりパーソナライズしていくためには、個人の栄養とか健康状態、体の状態を知るデータが必要になる。そのためには、血液検査やDNA検査のようなものを使って提案をしていく必要がある。これが完成すると、人間ドックに行かなくても、会員になってさえいれば自分の健康状態が把握できて、そこに最適な飲み物が送られてくるようになる。そういう姿を目指して、いろいろな企業とアライアンスを検討している」

ネスレ日本・ダイレクト&デジタル推進事業部の津田部長

マシンを無料で借りて、家庭や職場に置いて「ネスレ ウェルネス 抹茶」などのカプセルを定期購入する「ネスレ ウェルネス アンバサダー」は、「ネスカフェ アンバサダー」の立ち上げ時を上回るペースで会員数を伸ばしているという。月間1万件のペースで応募があり、2017年10月に本格展開が始まった同サービスの会員数は、すでに6万人を超えているそうだ。

高岡CEOの見立てでは、会員数は「2020年までに25万人くらい」まで伸びる。コーヒーに比べると、抹茶カプセルを中心に供給する「ネスレ ウェルネス アンバサダー」は単価が高いビジネスなので、同サービスの規模拡大はネスレ日本の売り上げ増加に直結するだろう。ちなみに、「ネスカフェ アンバサダー」の会員数は2018年3月現在で40万人、2020年目標で70万人だ。

「ウェルネス」の定期便購入単価は「ネスカフェ」の1.5倍だ

“意識低い系”には訴求できるか

では、実際に「ネスレ ウェルネス アンバサダー」は普及するのだろうか。すでに「ネスカフェ」を導入済みのオフィスが、追加料金を払うような感じで「ウェルネス」を導入するような流れとなれば、会員数の増加ペースは加速しそうだ。健康経営を打ち出す企業は、社員の健康管理に使えるツールの1つとして導入を検討するかもしれない。

ただ、「健康」は失うまで、その大切さに気づきにくいものでもある。自戒を込めていえば、自身の健康状態に根拠のない自信を持つ人は確実にいるし、そういう人に「ネスレ ウェルネス アンバサダー」を利用してもらうには、いくつものハードルがあるだろう。同サービスの利用条件は、1回あたり最低1箱以上のウェルネスカプセルを購入すること。価格は1箱1,458円~1,749円で、1杯あたりの単価で換算すると100円前後となる。

まずは、日常的にサプリを飲んでいたり、野菜ジュースを買っていたりするような、自身の健康状態に大なり小なり気を使っている人が、同サービスに関心を持ち、加入を検討することになりそうだ。健康面における“意識低い系”にまで「ネスレ ウェルネス アンバサダー」が広まれば、ネスレ日本は本当に日本の健康寿命を引き上げられるかもしれない。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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