ロールス、ポルシェ、テスラに乗って考えたクルマの無個性化問題

ロールス、ポルシェ、テスラに乗って考えたクルマの無個性化問題

2018.03.21

日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会でロールス・ロイス「ファントム」、ポルシェ「911 タルガ 4 GTS」、テスラ「モデルX」の3台に乗る機会を得た。いずれも個性的なクルマだ。電動化や自動化など、自動車業界で急速に進む技術革新は、ともすれば各社が同じ方向に向かうものと捉えられがちで、クルマのコモディティー化を不安視する声も聞かれる。大変革の自動車業界にあっては、個性的なクルマであっても差別化が難しくなっていくのだろうか。

輸入車一気乗りでクルマの個性について考えた(画像はテスラ「モデルX」)

尖った個性を持つ3台のクルマに試乗

毎年2月初旬をめどに、JAIAは媒体やフリーランスのジャーナリスト向けに試乗会を開催している。JAIAとは、海外の自動車メーカーと直接日本への輸入契約を結ぶ輸入業者の団体で、その設立は1965年にさかのぼる。試乗会は今年で38回目となった。

今年のJAIA試乗会には、23ブランドから77台のクルマが集まった。輸入車は、それぞれに個性豊かであり、それがブランドとなって経営を牽引しているが、今後は電動化が進む情勢であることから、クルマのコモディディー化(差別化の難しさ)を心配する声も聞かれる。

今回のJAIA試乗会では、高級車の象徴といえる英ロールス・ロイスの「ファントム」、スポーツカーの代名詞の1つである独ポルシェの「911 タルガ 4 GTS」、電気自動車(EV)の寵児といえる米テスラのSUV「モデルX」に試乗し、電動化における個性やブランドの行方を模索した。

電動化するとクルマの個性はどうなるのか(画像はポルシェ「911 タルガ 4 GTS」)

英国流で作りこんだロールス・ロイス「ファントム」

現在は独BMWの傘下にあるロールス・ロイスだが、クルマづくりは英国中心で進めている。使われる要素部品の中にはBMWと共通のものもあるが、個性はあくまで英国流で作り込まれる。ロールス・ロイスの中でも、「ファントム」は最上級車種に位置づけられる。今回の試乗はドライバーが運転し、その後席にVIPのごとく座っての同乗試乗だった。

ロールス・ロイス「ファントム」はドライバーが運転。後席でVIP気分を味わった

「ファントム」は1906年に創業したロールス・ロイスの「シルバーゴースト」の後継車であり、シルバーゴースト同様、あたかもエンジンが回っていないかのように振動もなく、静粛性に優れた高級車を目指したクルマである。

ガソリンエンジンの自動車は、1886年にドイツのカール・ベンツによって発明されたが、当時のエンジンはまだ未成熟で、振動も排気音も大きかった。ロールス・ロイスは、そうしたエンジンを精密に組み上げることにより、上質な原動機へと発展させることを行った自動車メーカーである。

エンジン自動車誕生の前にEVがすでに世の中にはあり、米国のフォードを創業したヘンリー・フォードの夫人クララ・ブライアントも、静かで上品なEV愛好者の1人であった。このことからも、ロールス・ロイスはモーターのように静かでなめらかなエンジンを目指したのだろうと想像できる。

「ファントム」の後席では世界最高レベルともいわれる静粛性を感じられた

最新のファントムも、エンジンとしてはもっとも調和が良いとされるV型12気筒エンジンを搭載し、アルミニウム製の軽量な車体に十分な防振・防音を備えることにより、圧倒的な加速と、上質な乗り心地をもたらしている。国内の速度規制に従いゆったりと走りながら、後席に座っていても571馬力の圧倒的出力による底力を感じさせるゆとりを覚えさせた。もし、全力加速をしたなら、猛然たる速度をもたらすであろう潜在能力を伝えてくるクルマだった。

全力加速をすればV12エンジンが猛然たる力を発揮するはずだ

後席優先の室内は前席との距離が離れているにもかかわらず、前席に座るロールス・ロイス広報担当者との会話は普通の声でできるほど静粛性に優れていた。高級な本革座席の座り心地の豪華さに加え、最新のデジタル機能を生かしたオーディオビジュアルの提供や、程よく冷やされたシャンパンが収納された小型冷蔵庫を備える様子など、上流社会の一端に触れた気にさせてくれた。彼らにとっては、これが日常なのであろう。

日常もサーキットもこなすポルシェのクルマ

ポルシェの「911 タルガ 4 GTS」は、911シリーズの中でも自然吸気エンジンで高性能な位置づけの車種であり、水平対向6気筒エンジンは450馬力に達する。911の特徴としてエンジンは車体後部に搭載されるが、GTSの車名に付く「4」の数字は4輪駆動であることを示している。試乗車の変速機は7速の「PDK」で、これは2つのクラッチを交互に使うことで自動変速を可能にするシステムだ。最高速度は時速306キロに達し、発進から時速100キロまでの加速はたった3.7秒である。

屋根が開くのも特徴の「911 タルガ 4 GTS」

超高性能な「911 タルガ 4 GTS」ではあるが、日常的な運転では実に操作がしやすく、簡単にいえば乗用車と変わらない気軽さがある。昔からポルシェは、日々の足としても、サーキット走行も、両方をこなせるGTカーと価値づけられてきた。

今日でこそ、フェラーリなどのスポーツカーも運転しやすくなってきているが、ポルシェは昔から日常性を備えており、それはスポーツカーとGTカーの意味の違いによるところである。

ポルシェもフェラーリも日本ではスポーツカーと呼ばれるが、スポーツカーは運転を楽しむためのクルマであり、GTカーは「Grand Touring」(長距離移動)するためのクルマである。ただし、のんびりと旅をするだけでなく、高速で短時間に目的地を目指す高い性能を備えていることがGTカーの証だ。

長距離移動もこなせるのがGTカーの証だ

速度無制限区間のあるドイツでは、目的地に早く到着できるか、あるいは到着時間を正確に予測できるかが生活の基盤となっている。そのために最適なクルマがポルシェというわけだ。もちろん、メルセデス・ベンツもBMWも同様の価値を共有する。

リアエンジン・リアドライブの乗り味は唯一無二

ポルシェ911は1964年の誕生以来、車体の後にエンジンを搭載し、後輪で駆動することを基本に設計・開発されてきた。時代とともに高性能化しながら、速さと同時に安定して高速走行を維持できる操縦性も磨いてきた。そうした中で、今日のポルシェ911を運転してなお変わらない特色は、他のドイツ車のようにがっちりとした車体剛性ではなく、どこか力をいなすような柔軟性に富んだ運転感覚を伝えてくるところにある。

ポルシェを運転して感じるのは、力をいなすような柔軟性だ

それは、マシンを操作しているというより、馬を操っているような生き物同士の絆を覚えさせるのである。この部分は、他のスポーツカーと異なる。その訳は、何百馬力ものエンジンを車体後部に搭載し、基本的に後輪で駆動する独特な機構によるだろう。

ポルシェ911が誕生した50年以上も前の時代、アウトバーンにおいて時速200キロ以上で走行し続けるには、当時の貧弱なタイヤ性能をカバーしたり、空気抵抗を低減したりするため、車体の後部にエンジンを積むことでタイヤを強く接地させ、車体前側は流線形を描けるよう、薄い造形であることが必要であったはずだ。しかし、その配置は前後重量配分の悪さを生み出す。後部が重すぎるのだ。そのままエンジンを高性能化していけば、後輪に必要以上の負担がかかり、運転が難しくなる。

前方のボンネットはトランクになっている

それを穏やかに、運転しやすくするためには、硬すぎる車体剛性は不適当であり、余分な力をいなすしなやかさが求められる。それがポルシェ911ならではの乗り味になっているのである。この運転感覚を求めるなら、ポルシェでなければならない。

加速でエンジン車を凌駕するテスラ「モデルS」

テスラ「モデルX」は、2003年に創業したまだ歴史の浅いEV専門メーカーの3台目の商品である。1台目が2008年の「ロードスター」で2台目は4ドアセダンの「モデルS」、そしてSUVの「モデルX」となる。

テスラのSUV「モデルX」

初代「ロードスター」は、英国のロータス「エリーゼ」を基にEVへと改造した車種だが、「モデルS」以降は、テスラが独自に設計・開発したEV専用車となっている。

まだ歴史の浅いテスラとはいえ、トヨタやダイムラーとの提携や、自動車技術者の採用などにより、独自開発の「モデルS」や「モデルX」も品質の高いEVに仕上がっている。また、バッテリーもパナソニックとの提携により、高性能かつ安定した性能で高い信頼性を備えている。

高付加価値の4ドアセダン(モデルS)やSUV(モデルX)から発売をはじめ、今後は、より廉価で量販・普及の可能性をもつ「モデル3」が日本国内へも導入される予定となっている。

「ファルコンウィングドア」はインパクト抜群だ

高付加価値の車種から導入することにより、走行性能の高さも証明した。「モデルS」の最上級車種では、発進から時速100キロまでの加速がわずか2.7秒だ。これは今回試乗したポルシェ「911 タルガ 4 GTS」より速い。そして「モデルX」でも3.1秒と、猛然たる加速で速さを誇示してきたGTカーやスポーツカーに勝るとも劣らない加速を誇るのである。

こうなると、単に数値で示される速さがGTカーやスポーツカーの証とは言えなくなってくる。

モーター駆動の時代に求められる個性とは

また、静粛性や走行の滑らかさにおいては、そもそも排気音のような騒音を出さず、ピストンが上下するような振動もなく回転するモーターが、エンジンより優れているのは間違いない。となると、ロールス・ロイスがV型12気筒エンジンで目指した静粛性や滑らかさは、いったい何であったのか。単なるエンジンへの郷愁でしかないとさえ思えてくる。

すなわち、エンジン車であるがゆえに馬力という数値がものを言ったり、精緻な作り込みによる滑らかさや、防音などによる静粛性が個性となり得たりしたが、モーターで走るEVともなれば、数値比較が全く意味をなさなくなるのである。

モーター駆動が一般化した時、エンジンの作り込みで語られてきたクルマの個性は意味をなさなくなるかもしれない

数値比較や職人技ともいえる精緻な作り込みで商品性を最も訴えかけてきたのは、実は日本の自動車メーカーであった。象徴的なのが、技術の内製化を進めてきたことだ。個別の独創技術を生み出すことで差別化をはかる手法である。一方、欧米の自動車メーカーもある部分では数値や緻密さが独自性を作ってきたかもしれないが、多くのクルマは共通の部品メーカーからの同じ部品を使いながら、メルセデス・ベンツやBMWであるといった絶対的個性を生み出してきた。味わいの開発は、もともと欧米に利がある。

ロールス・ロイスからは、10年後までにはなんらかのEVが誕生するかもしれないし、誕生しないかもしれないということだが、「ファントム」のV型12気筒エンジンと同様にBMWと部品の共用を行えば、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)を作ることは可能だろう。ポルシェは「ミッションE」と呼ぶEVを間もなく発売に移す。ポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長インタビューでも、二酸化炭素(CO2)の排出規制によってやむを得ずEVを開発しているのではないとの答えであった。

ポルシェは「ミッションE」というEVを準備中だ(画像提供:ポルシェ ジャパン)

どういうクルマであれば“らしさ”、すなわち個性を発揮できるのか。そこが明快であれば、エンジンでもモーターでもかまわないという物づくりができない自動車メーカーは、電動化時代を迎えると淘汰されていくことになるだろう。その意味で、電動化によるコモディティー化は懸念材料だが、味わいを作れる自動車メーカーには問題ないはずだ。

さらには、テスラのように新規参入メーカーであっても、情報社会の日常性を取り入れ、先進の自動運転を積極的に生かし、なおかつ情報端末のアプリケーションのように新しい機能をダウンロードすることで常に最新の仕様にできたり、整備項目が減るEVならではの保守管理の仕方を取り入れたりするなど、顧客と向き合い、日々の生活感覚に密着した価値を提供できれば、EVでも個性を発揮できるはずだ。実際、テスラは歴史が浅くともEVメーカーとしてのブランドを確立している。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。