単なる

単なる"物流"からの脱却、ヤマト運輸が考える「MaaS」の世界

2018.03.24

タクシーの配車アプリやカーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。

MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。MaaSは、既存の業界の枠組みを超えた新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持っており、日本でも各業界の企業がこの市場に参入し始めている。

自動運転を活用したMaaSのサービスプロバイダとしての立ち位置を確立すべくこの領域に進出したDeNA。彼らが目指すMaaSとはいったいどんなものなのだろうか。特集2回目は、DeNAと提携して次世代物流プロジェクト「ロボネコヤマト」に取り組むヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長の畠山 和生氏に話を聞いた。

ヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長 畠山 和生氏

「荷物の受け取り方」を多様化したい

MaaSを実現するには、人やモノを運ぶ手段に多様性を持たせる必要がある。一方、畠山氏は、「我々の考えとしては、モノを運ぶ手段というよりは、モノの受け取り方の手段の多様化を目指していきたいのです」と語る。

誰もが知るヤマト運輸の「宅急便」は1976年に誕生、40年以上の歴史を誇るサービスだ。しかし最近では、外部環境、そして利用者の環境も含め、劇的に変化しつつある。宅急便は当初、贈りものの配達を想定したCtoCのサービスだった。

しかし近年、生活スタイルの変化により独居世帯や共働き世帯が増加するにつれて、EC市場が拡大し、宅急便の荷物を受け取る利用者の属性も大きく広がった。これによって、従来よりも「サービス時間外に荷物を受け取りたい」や「玄関先で荷物を受け取るのは億劫」といったニーズが急拡大している。

これに対してヤマト運輸は、不在時の集荷・再配達依頼といった利用者とのコミュニケーションの手段を、電話からメール、LINEまで広げた。コミュニケーション以外にも、コンビニやロッカーの受け取りサービスなど、時代にあわせた「荷物の受け取り方の多様化」を進めてきた。そしてその"多様性"の一つが、来たる自動運転時代における新たな荷物の受け取り方である「ロボネコヤマト」だ。

なぜDeNAと組んだのか?

ロボネコヤマトのプロジェクトが始動したのは、2015年11月。DeNAとの共同プロジェクトとしてヤマト運輸が提案を受けた形だ。

「DeNA側の考えは、旅客だけでなく、市場の大きい物流領域でも、モビリティのサービスプロパイダとして事業を展開していきたいというものでした。一方で我々物流会社は、その時点では『自動運転』と『配送』がアイディアとしてまったく結びついていない状態でした。しかし、誰もやっていないのであれば、試しにうちでやってみても良いのではと考えました」(畠山氏)

ヤマト運輸としては当時、BtoB領域の配送サービス強化と、より地域に密着したサービス展開を課題に抱えていた。一方でDeNAから提案されたロボネコヤマトの事業は、特に地域密着型のサービスとしてマッチすると考えた。「MaaSを通して過疎化地域の課題を解決したいというDeNAのビジョンと、我々のビジョンは非常に近いものであると感じました」(畠山氏)。

その後両社は、2017年4月から国家戦略特区の神奈川県藤沢市で実用実験をスタート。ひとつは、希望する場所で宅配便が受け取ることができるオンデマンド配送サービス「ロボネコデリバリー」。もうひとつは、複数の地元商店の商品をインターネット上で一括購入し、まとめてお届けする買物代行サービス「ロボネコストア」だ。いずれも10分刻みで希望する時間の指定ができる。

スマホアプリで受け取り場所を指定し、到着したミニバンの後ろに用意されたロッカーから荷物を受け取る。QRコードをかざすだけの簡単操作で、10分単位という小刻みな受け取り時間で荷物を手元へと運んでくれる

現状では無人走行はできないためドライバーによる有人運転となるが、将来の完全自動運転時代を見据えて、車両に搭載した保管ボックスから利用者が荷物や商品を受け取る際も、商店の店員が商品を預け入れる際も、ドライバーは関与しない仕組みになっている。

意外なニーズと、見えてきた課題

実用実験から約1年が経過するが、実験を通して「意外なニーズと課題が見えてきた」と畠山氏は話す。例えばロボネコデリバリーのリピート率は50%程度と高く、中でもヘビーユーザーは専業主婦が多い30-40代女性だった。

なぜその層なのか。現状では、通常の宅配サービス稼働時間である8-21時のみの提供となることも影響した結果であると考えられるが、家事や子育てをしながら数時間程度の幅がある時間指定で荷物を待機しているのは、主婦にとってかなりのストレスであることがわかってきた。

「当初、お客様自身で荷物を取りに行くというフローは利用者にとってかなりの手間なのではないかという懸念もありましたが、それを差し引いても10分単位で時間指定ができるのは一日のスケジュールが立てやすくなり、ストレスが低減できるという声が多くあります」(畠山氏)

買い物へ行き、子供の送り迎えと主婦は忙しいため、2時間という一般的な配達時間指定の幅は重荷になる。10分単位であれば、時間の融通が効く

一方でロボネコストアは当初、地元商店街の各店舗に加盟してもらって、利用者が一括で加盟店の商品を受け取れるというサービスを想定していたが、実際は個人経営飲食店のフードデリバリーとしての利用方法がメインとなっている。

この理由について畠山氏は、「商店街の方々の高齢化が進んでおり、パソコンや自動音声電話を利用するサービスフローにハードルを感じる方が多いということがわかりました。一方で、個人経営の飲食店からは、お客様が気軽に出前を取れるようになったことでマーケットが広がったという声をいただいています」と話している。いずれも実用実験を行わなければわからなかった結果である。

しかし、いざ事業化となると課題も多くある。

現在宅配の受け取りに関しては、「クロネコメンバーズ」という会員限定のオプションサービスとしてロボネコヤマトのサービスを提供しているが、利用者数を増やしていくためには、より手軽に誰もが利用できる方法を検討していかなれればならない。

さらに、今回の実用実験は藤沢市という比較的人口の多い地域で行われたが、実際に買物困難者が多くロボネコヤマトのようなサービスを必要としている過疎化地域では、また事情が異なってくる。今後、過疎化地域も含めて全国へサービス展開していくためには、各地域の状況にきちんと向き合い、その地域ならではの課題を解決できるレベルにまでサービスを磨き上げていく必要があるだろう。

人材不足の解決策にもなり得るロボネコヤマト

現在、深刻な問題となっている宅配業界の人手不足に対しても、ロボネコヤマトは可能性を秘めたサービスだ。

ヤマト運輸のセールスドライバーには、安全運転技術、在宅時間に合わせて配送コースを組む能力と経験、配達先でのコミュニケーション、荷物を運ぶ体力といった4つの要件が求められる。この要件をすべて満たす人材は決して多いわけではない。これが宅配業界における人材不足の原因のひとつになっているわけだが、ロボネコヤマトのドライバーは全員が新規採用で、そのほとんどが配送経験のない人材だという。

ロボネコヤマトのドライバーは一般的なセールスドライバーのような、20代~30代男性以外でも対応可能になる(ロボネコヤマト現地写真は、ヤマト運輸提供)

「安全運転技術に関しては、今のところロボネコヤマトのドライバーも社内での研修と認定が必要ですが、配送ルート組み、コミュニケーション能力、体力の3つの要件については、ロボネコヤマトのオペレーション上必要ありません。ロボネコヤマトは、利用者が荷物や商品を取り出すという非対面型の受け取り方法を採用しているので、コミュニケーション能力と体力は要件として強く求めていません。また、配送ルートや時間はロボネコヤマトのシステムが決めているので、ドライバーはタブレットに表示されるスケジュールに合わせて作業をしていくだけです」(畠山氏)

このオペレーションであれば、女性や高齢者でも対応できる。またこの先、安全運転技術の要件も自動運転によってカバーできるようになれば、さらに宅配の仕事に携われる人の範囲は広がる。地域密着型のサービス展開を想定して始めたロボネコヤマトプロジェクトだが、これに加えて宅配業界の人材不足という課題解決に対しても適用可能な要素が詰まっていたのだ。

ゲーム・野球で有名なDeNAが

ゲーム・野球で有名なDeNAが"クルマ"に挑戦するワケ

2018.03.22

タクシーの配車アプリやカーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。

MaaSの取り組みが進むフィンランド・ヘルシンキでは、目的地を指定するだけで、タクシーや公共交通機関、レンタカーなどを組み合わせた複数の乗り継ぎルートから最適なものを選べ、予約や運賃の支払いを一括でできるアプリをベンチャー企業「MaaS Global」が提供している。

このようにMaaSは、既存の業界の枠組みを超えて新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持つ。日本でも、さまざまな業界の企業がこの市場に参入し始めているが、そのうちのひとつがディー・エヌ・エー(DeNA)だ。

DeNAといえば、モバイルゲーム事業が現在の主力。最近ではヘルスケアやスポーツといった他の事業領域を拡大しつつあるが、なぜ、これに加えてMaaSの領域に目をつけたのだろうか。そして、どのような戦略で市場シェアを拡大していくのか。DeNA オートモーティブ事業本部のシニアマネージャー 山下 淳氏に話を聞いた。

DeNA オートモーティブ事業本部 シニアマネージャー 山下 淳氏

日本が抱える交通の課題

山下氏はMaaSの考え方について「車や免許を持っていない人も含め、すべての人に対して『移動』という価値を提供するためには、移動をサービスとして捉えていく必要があります。これがMaaSの目指すところです」と説明する。

現代の日本の交通は少子高齢化に伴う移動弱者や買い物弱者の増加、交通や物流の担い手であるドライバー不足など、さまざまな課題を抱えている。DeNAは、逆にこの状況をビジネスチャンスであると捉え、MaaS領域に参入した。

「人口が減少し高齢化が進む日本において、このまま行けば『移動手段を減らす』という解しかありません。しかし、人間の移動したいという欲求は永遠に続いていくものです。市場規模は縮小していくかもしれませんが、さまざまな手段で移動を効率化し、このような日本の状況でも、移動そのものをアップデートさせ、MaaS領域を牽引していくことを目指しています」(山下氏)

こうした考えのもと、現在DeNAオートモーティブ事業部では、自動運転、AI、シェアリングをキーワードに、小型および大型車両旅客領域、物流領域で合計6つの事業を展開している。

車両やインフラなどは各パートナー企業から提供してもらい、DeNAは各事業をモビリティサービスプロバイダという立ち位置で牽引。将来的には、各サービスのコアとなる機能を統合してMaaSを進化させていきたい考えだ。現在はこれに向けて実証実験を行うなど段階的に各事業を進めている状況だという。

オートモーティブ事業におけるDeNAの強みとは

では、モバイルゲーム事業のイメージが強いDeNAが、国内外の大手企業が続々とMaaSの領域に参画するなかで勝機を見いだせるのか。山下氏は「モビリティサービスプロパイダというレイヤーとして参入するのであれば、ゲームのプラットフォームを作ってきたIT企業としての知見をうまく生かすことで、勝てる可能性があると考えました」と自信を見せる。

例えば、タクシー配車にしてもカーシェアリングにしても、膨大な車両台数を管理する必要がある。これらを瞬時に処理し、最適な配置やルートを提示することは、リアルタイムでのオンライン対戦ゲームなどの運営においてサーバ管理やデータベース運用を行ってきた経験を有効に活用していける。

また、多くの人が利用するモビリティサービスでは、わかりやすいUIが求められる。DeNAはこれまで、ゲームのユーザーに対して直感的でわかりやすいスマートフォンUIの研究を重ねてきた。

「スマートフォンを介したお客様との接点などを上手く設計してきた強みがある。最終的には、自動車や自動運転システム、インフラなどのハードとお客さまを繋ぐプラットフォーム部分を担っていければと思っています」(山下氏)

一方で、6つあるオートモーティブ事業のうち、特に力を入れているというのがタクシー配車サービス「タクベル」だ。

オートモーティブの6サービス

AIを活用した需要予測システムと車載端末およびユーザー向けの配車アプリを連動。効率的なタクシーの運行・配車を目指しており、実用化に向けて神奈川県タクシー協会とともに横浜市での実証実験を昨年実施した。そして今年春に正式リリースが予定されている。

山下氏は、「既存の有人タクシーと将来的に出てくる自動運転タクシーの双方を、同じプラットフォーム上で活かせる。だからこそ、早い段階から顧客接点を持つ神奈川県タクシー協会さんと共同で取り組みを進め、市場シェアを広げていく、という戦略で進めています」と、タクベルに注力している理由を説明する。

プラットフォームはスケールしなければ、簡単に別のプラットフォームへと乗り換えられてしまうリスクがある。なるべく早いタイミングでユーザーにサービスを体験してもらうことで、プラットフォームとしてのシェアを拡大させていきたいというわけだ。

移動の「選択肢」を増やしたい

世界の自動車や部品メーカーなどが、自動運転車の早期実用化を目指して急ピッチで開発を進めている。自動運転車自体の市場が今後拡大していくことは明らかだが、それを利用したサービスの市場はさらに広い。

MaaSという業界横断領域で、先行して自動運転車を利用したサービスを開発するという戦略をとるDeNA。日本政府が掲げている2025年の限定地域での無人運転サービスの拡大というロードマップに対して、DeNAは、今後のMaaSの方向性をどう見ているのだろうか。

「大きく見ると、移動主体をサービスとして提供しているタクシーも電車も、MaaSのひとつだと思います。場所や状況、ニーズによってアプリケーションの適用の仕方は変わります。従来のように1台のタクシーで1人で移動しても良いし、乗り合いでも良い。私個人としては、タクシーであろうと電車であろうと、お客様がその瞬間に一番安く早く便利に目的地へとたどり着ける移動の選択肢を増やしていくことが、MaaSの捉え方としては非常に重要であると考えています。お客様の移動の選択肢を増やすため、DeNAとしてはなるべくオープンに、海外のサービスも含めてさまざまな企業との提携を進めていきたいですね」(山下氏)

IIJが始める「フルMVNO」、これまでの格安スマホとはどう違う?

IIJが始める「フルMVNO」、これまでの格安スマホとはどう違う?

2018.03.22

インターネットイニシアティブ(IIJ)が、「フルMVNO」サービスの開始を発表した。まずは法人向けに提供開始し、2018年初夏には個人向けのサービスも始まるという。

IIJが「フルMVNO」で提供するSIMカード

フルMVNOでは、これまで大手キャリアに依存していた加入者管理機能を自社で持つことで、これまでにないSIMカードのビジネス活用が可能になるという。格安スマホで知られている従来のMVNOとは、どのように違うのだろうか。

「SIMライフサイクル」をコントロール可能に

格安スマホとともに認知度が高まったMVNOは、大手キャリアから通信の帯域を購入することでサービスを提供してきた。だが、システム面では多くの部分をNTTドコモを始めとする大手キャリアに依存しているのが実態だ。

IIJによる「フルMVNO」も、ドコモが全国に張り巡らせた基地局によるLTEや3Gのネットワークを利用する点は変わっていない。だが、加入者に電話番号を発行する機能を自社で持つなど、基地局以外はすべてコントロール可能になるのが最大の違いだという。

従来型MVNO(ライトMVNO)とフルMVNOの違い

フルMVNOで大きく変わるのがSIMカードだ。これまでMVNOはドコモが1枚394円で発行したSIMカードを借り受け、毎月の回線維持費を支払ってきた。IIJによれば、全国のコンビニに10万枚のSIMカードを在庫として持つ場合、毎月1000〜1500万円の費用がかかるという。

インターネットイニシアティブ MVNO事業部長の矢吹重雄氏

しかしフルMVNOではIIJが独自にSIMカードを発行できるため、在庫費用を大きく削減できることになる。以前にSIMカードを雑誌の付録として配布したMVNOが話題になったが、コストが下がればこうした「ばら巻き」も再び可能になるというわけだ。

「サスペンド」でコスト削減、法人需要を狙う

フルMVNOの特徴として、まずはSIMカードに注目したが、加入者情報管理を活用すれば契約中の課金状態も自由にコントロールできるようになる。こうした「SIMライフサイクル」を自社で握れるできることが、フルMVNOの強みといえる。

フルMVNOなら「SIMライフサイクル」をコントロールできる

これを活用できそうなシナリオが、IoTや保守業務の分野だ。業務用機器の制御にLTE通信を活用する例は広がっているが、除雪車のように通年で利用しないものであっても、毎月の回線費用がかかる問題があった

サスペンドにより月額費用をカットできる

そこでIIJがフルMVNOで提供するのが「サスペンド」機能だ。回線を解約するのではなく休眠状態にすることで、毎月の維持費はわずか30円になるという。しかも遠隔から操作でき、月内にサスペンドした場合は日割り計算になるため、本当に必要な日数だけ通信機能を利用できるのが特徴だ。

海外展開にも注目だ。6月には海外ローミングを開始予定となっているが、フルMVNOでは海外キャリアとのローミングではない直接接続も可能になるという。これまで海外との通信は割高なイメージがあったが、接続形態によっては海外現地の安い料金で使える可能性も見えてくる。

一方でフルMVNOは、従来型MVNOにはなかった課題も抱えている。まず、音声通話サービスは提供されず、当面はデータ通信のみに限られる。そのためスマホのメイン回線ではなく、IoTやプリペイドなど用途はやや限定的になるだろう。

また、ドコモとは別のキャリアという立て付けになることから、フルMVNOのSIMを使うには、ドコモの端末であってもSIMロックを解除する必要がある。これまでドコモ系のMVNOはSIMロックされた端末でも使えていただけに、注意を要する点だ。

このようにフルMVNOにはメリットとデメリットの両面があるものの、従来型のMVNOとはうまく棲み分けていく存在になりそうだ。従来型MVNOが似たような料金プランやサービスに落ち着きつつある中で、フルMVNOがこれまでにない市場を開拓できるか注目したい。