100歳のパナソニックが「スタートアップ」に前のめり

100歳のパナソニックが「スタートアップ」に前のめり

2018.03.31

パナソニックが、スタートアップ企業への投資戦略を加速している。同社がスタートアップ企業に対して積極的な投資、というイメージはあまりない。だが、そうしたイメージを崩す象徴的な動きが2つある。

ひとつは、シリコンバレーに拠点を置き、米国のスタートアップ企業に投資を行う「パナソニックベンチャーズ」。もうひとつは、パナソニック社内の新たなビジネスアイデアを切り出し、事業化するスタートアップ企業に対して出資する「BeeEdge」の設立だ。 いずれも、従来のパナソニックの発想には当てはまらない形で活動する。

パナソニックベンチャーズは、パナソニックグループとして、2017年4月に設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。

一般的に、独立系のベンチャーキャピタルは、機関投資家、事業会社、個人などから拠出された資金をもとに、ファイナンシャルリターンを目的に投資するのに対して、CVCは、企業が持つ資金を活用して、技術獲得や事業シナジーが見込めそうなスタートアップ企業に出資することが多い。だが、パナソニックベンチャーズは、CVCでありながらも、その手法はVCに近いものだといっていいだろう。

パナソニックは1998年から、シリコンバレーに拠点を置いて技術探索型投資を中心に展開し、これまでも40件以上の投資実績を残してきた。

パナソニックベンチャーズ 社長の木下 雅博氏は、「年平均では2件ほどの投資実績。だが、従来はR&D部門が中心であり、主にアーリーステージへの投資が多く、技術獲得に偏重し、ビジネスの視点が不十分だった」と反省する。特に、既存事業との親和性を重視する傾向が強く、新規事業領域の視点が薄いといった課題もあった。「さらに、数億円の決裁に半年間をかけており、意思決定に関するスピードが欠如しているという課題もあった。一般的なCVCが持つ問題点にはまっていたともいえる」(木下氏)。

パナソニックベンチャーズ 社長 木下 雅博氏

2015年になって同社は体制を見直し、新事業創出に向けた事業開発目的の活動を強化した。技術部門と企画部門の混成チームによるベンチャー戦略室を設置して、外部活用による新規事業の創出や、ベンチャー投資および協業による企画立案などの検討を進め、2017年4月に、新会社として、パナソニックベンチャーを設立した。そして今年、2018年にはその拠点を、シリコンバレーの中枢となるパロアルトに移転した。

シリコンバレーでパナソニックが目指すコト

パナソニックベンチャーでは、これまでにはない取り組みを開始している。ひとつは、迅速な意思決定を実現するために、1億ドル(約110億円)以内であれば、日本での決裁を不要とし、シリコンバレー側で決裁できるようにした。

CVCの場合、投資決裁は投資部門ではなく、事業会社の本社部門が行うことが多く、結果として意思決定が遅れることで、スタートアップ企業が求める速度と歩調が合わないという場合が多い。パナソニックも従来の仕組みは同様の課題があったが、意思決定のメカニズムを見直すことで、投資決裁の迅速化を図った。

2つ目は、ベンチャーキャピタリストの積極的な登用だ。シリコンバレーの場合は特に、情報獲得に人脈の太さが大きく作用する。パナソニックベンチャーでは、シリコンバレーで実績を持つVCのKPCB(Kleiner Perkins Caufield & Byers)およびCVCのインテルキャピタル出身の 2人のベンチャーキャピタリストを新たに採用したが、「これまでと比較して異次元の投資案件を持ってくる」といった成果が出ていると話す。

そして、3つ目は、ファイナンシャルリターンを重視した点だ。継続的な活動を行うには、儲かる会社であるということが前提であり、CVCの枠を超えた姿勢を打ち出した。10年間でのエグジットを想定した投資案件を中心に取り組んでおり、パナソニックが持つ現行事業とのシナジーを求めないことも決めた。「現行事業と親和性を前提にすると、新たなビジネスモデルや破壊的技術への投資は限られてしまう。パナソニックには4つのカンパニーがあるが、それらの事業領域と違う領域を狙っていく」(木下氏)。

出資比率は20%未満としたうえで、重点投資領域を「モバイル」と「SaaS」「AI」「API」「ウェアラブル」「インダストリアルIoT」「ロボティクス&ドローン」「AR/VR、3Dプリンティング」「オートノマスドイラビング」に据えた。パナソニックベンチャーが新体制を整えて本格的に活動を開始したのは、2017年6月から。だが、2017年12月までに4件、1500万ドルを投資しており、投資に対する速度は急速に高まっているといえよう。

その4件も、それぞれ取り組みがユニークだ。既存技術と比較して消費電力が10分の1以下になるマイコンを開発するファブレス半導体メーカーのAmbiq Micro(本社・オースティン)や、数100種類の金属を加工できる3Dプリンターを製造するDesktop Metal(ボストン)、SNS上の情報を収集・分析し、利用可能な知見に変えるツールのSprinklr(ニューヨーク)、独自の顧客情報分析によって顧客信用度をレーティングすることで最適な利率を算定する仕組みを提供するCSC Generation(サンフランシスコ)と、分野にとらわれていない。

これらの技術や製品は、パナソニックの事業とのシナジーも考えられるが、前提としているのは、いずれも「事業シナジーよりも、新規事業としてパナソニックの成長を側面からサポートする」というものだ。スタートアップ企業の速度に歩調をあわせた仕組みが、これらの案件への投資を可能にしている。

一方で新たに設立したBeeEdgeは、シリコンバレーに本拠を置く日系ベンチャーキャピタルのScrum Venturesと共同で設立した投資企業だ。パナソニックで家電事業を担当するアプライアンス社が49%を出資しており、社内にある新たなビジネスアイデアを切り出し、これを事業化するために設立するスタートアップへの出資が、主な役割になる。

BeeEdge 社長 春田 真氏(右)と、パナソニック アプライアンス社 社長 本間 哲朗氏(左)

BeeEdgeの社長に就任する春田真氏はScrum Venturesのパートナーを務めており、パナソニック アプライアンス社 社長の本間 哲朗氏は、「春田氏は、伝統的な日本の大手企業と、ネットワークのスタートアップ企業の両方の経験を持ち、両方の企業と会話ができる稀有な経営者である。経営はすべて春田氏に任せるが、一緒になって、新たな希望の種を育てたい」と意気込む。

春田氏は、住友銀行を経て、DeNA会長、プロ野球の横浜DeNAベイスターズのオーナーも務めた経歴の持ち主。アプライアンス社の本間氏は、「パナソニック本体では手がけにくいような、新たな尖ったアイデアを実現に結びつけるプラットフォームを提供する組織になる」と期待を寄せる。

こうした通常の決裁フローでは時間のかかる案件をスタートアップアプローチで取り組む手法は、パナソニックと並ぶ日本メーカーであるソニーも「SAP」というプログラムで取り組んでいる。

「最近、痛感しているのは、ICTが家のなかにシフトしてきて、家電メーカーや住設機器メーカーが取り上げることができる提案が増えている点。もし、米国からのアイデアがあれば、それを事業化して、家電と結びつけ、日本やアジア、インド、中国の市場に対して提案することもやっていきたい」(本間氏)

春田も、外部の力を使いながら、パナソニック社内で芽が出ていないアイデアを形にしていくことに期待感を示しており、「新たなサービス、新たなプロダクトを生み出したり、日々の生活に彩りを加えたりといったように、社会にとって意味のあるものを創出したい」と話す。

本間氏は、「パナソニックは2013年に事業部制を復活させ、すべての事業は事業部機軸で進めている。これはパナソニックにとって、大変強いDNAである」と評価しつつ、「技術開発部門などから新たな技術シーズが事業部に提案されても、事業部長がやらないと言えば、それでお蔵入りになってしまう」と言葉を濁す。今回の取り組みは、アイデアの受け皿をもうひとつ用意することで出口が複線化し、「既存の事業部にも刺激を与えるという副次的効果もある」(本間氏)。

アプライアンス社は既存事業部としても、社内イノベーションプロジェクト「Game Changer Catapult」をスタート。IoT×調理家電と連携し、オフィスで、いつでも安心・安全かつヘルシーで美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」や、キュレーションされた映像と音のコンテンツをリビングなどに自然な形で提供する「Ambient Media Player(AMP)」など、社内のアイデアを形にする取り組みを行っている。

美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」
自然にコンテンツを提供する「Ambient Media Player(AMP)」
歯のホワイトニングを行う「Sylphid」

パナソニックは、社内のアイデアをスタートアップとして事業化する一方、既存の事業には捉われず、米国のスタートアップ企業に投資をするという2つの取り組みを通じて、同社の成長を牽引する、新たな事業の創出につなげていく考えだ。事業シナジーだけに留まらず、新たな事業創出に向けたスタートアップ企業への積極的な投資は、パナソニックの事業や技術、製品の横への広がりと、新たな成長を生む原動力となりそうだ。

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20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
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3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

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