小さくても世界を狙え、Googleが教える「ゲーム開発のすすめ」

小さくても世界を狙え、Googleが教える「ゲーム開発のすすめ」

2018.02.02

「Minecraft」と「ねこあつめ」「Brain Wars」。これらのゲームの名前を一度は聞いたことがあるかもしれない。実はこれらのゲーム、いずれも非常に小規模なチームによって作られた。Brain Warsのトランスリミットは昨年10月にも取り上げたが、この会社の従業員数にいたってはわずか20名だ。

トランスリミットや、ねこあつめのヒットポイントなどを支援する、グーグル Google Play Apps & Games コンテンツ開拓担当 ゲーム部門 日本統括部長を務める金 清司氏は、「スモールチームの可能性を信じて推すのが私たちの仕事だ」と話す。

グーグル Google Play Apps & Games コンテンツ開拓担当 ゲーム部門 日本統括部長 金 清司氏

インストール率が数十%向上する「ABテスト」のすすめ

アプリ調査会社のApp Annieが1月25日に公開したレポートでは、2017年第4四半期におけるGoogle Playのアプリダウンロード数はグローバルで190億回以上と過去最大を記録した。この数は、iOSのApp Store比で145%以上の差だという。こうした好調なアプリマーケットも背景に、Googleは2月1日から「INDIE GAMES FESTIVAL 2018」を開催する

3月25日の受付締め切りまでに応募された、2017年1月1日以降に公開されたゲームアプリ(あるいは2018年配信予定のもの)を一般参加のゲームファンと審査員の投票で優秀なゲームトップ10、トップ3を決める。参加資格者は、個人からグループまでさまざまだが、上場企業や31名以上の正社員がいる企業は参加できない。

審査ポイントは4項目で、

  • Innovation / 革新性
  • Fun / 楽しさ
  • Design / デザイン
  • Technical & production quality / 技術力と品質

だという。金氏は、「とにかく、いいものを作っていただければ(笑)。フェスティバルで最終選考に残ったものは、ストアの特集コーナーなどで応援するようにする」と語る。Googleは欧州や韓国ですでにフェスティバルを開催済みで、日本では今回が始めて。金氏はこれまでも、さまざまな開発者をサポートしてきたが、日本のベンダーには「プラットフォームをうまく使いこなしてほしい」と話す。

Android端末は全世界で20億台以上がアクティベーションされており、アプリの決済手段もクレジットカード以外に携帯キャリアの収納代行決済、ギフトカードなど多岐に渡り、新興市場でも収益化の環境が整いつつある。「例えば日本ではキャリア課金やギフトカードが人気であり、欧州はPayPal決済が多い一方で、ドイツは日本と同じ現金文化のためギフトカードが人気。そういった多様な決済環境が利用を後押ししている」(金氏)。

また、収益化だけではないビジネス面のサポートもある。Google PlayではWebで当たり前の「ABテスト」を実装した。同じアプリでも見せ方を簡単に変えられることで、コンテンツ訴求の最適解を見いだせる機能だ。

「国内向けはもちろん、特によく効くのが海外。ストア上のすべてのアセットがABテストに対応しており、掲載するスクリーンショットや説明文などを逐一変えられる。国内の感覚でビジュアルや文章を掲載しても、海外ではその好みがガラッと変わる。コンバージョン率が数十%上がる、といった例もざらにある。私たちのプラットフォームでテストを行い、その他のプラットフォームにも適用していく、という使い方も開発者の方々はされている」(金氏)

また、もう一つ海外を狙う便利なツールが「User Acquisition Performance Report」だ。国別に、何人がアプリ詳細ページを訪れてインストールしたのか、購入したのか、2度目の課金をしたのかなどが、ファネル形式で確認できる。さらに、同ジャンルのアプリの平均コンバージョン率などとの比較も可能で、「その成績をもとに、開発コスト・人的リソースをどこに配分するのかといった判断も可能になる」(金氏)という。

「低コスト」ではなく「多くの人に届ける」すすめ

かつては低コストでゲーム開発が可能になるとして人気を博したスマートフォンゲームだったが、「現在のモバイルゲームの予算規模は、決して小さいとは言えない」と金氏は認識を示す。最新デバイスでは、かつての携帯ゲームの枠を超えたクオリティの3D CGが動作し、5年以上に渡るスマートフォン時代がユーザーの見る目も変えたという。

「ここのところスモールチームの方と話していてよく聞くのは、『より多くの人に自分たちの作品を届けられる』ということ。いちばん身近なデバイスであるスマホ、だからユーザーに届けやすい。低コストでという理由ではなく、プラットフォームが持つ価値を認識していただいている」(金氏)

そのため、冒頭に触れたトランスリミットやヒットポイントのように、スモールチームであっても海外ユーザーに親しまれる、あるいは最初から海外ユーザーを狙ったゲーム作りが増えているという。日本でも、中国や韓国のゲームメーカーが参入しているが、まさに「ボーダーレスのグローバル経済」を体現しているプラットフォームの最たる例と言ってもいいだろう。

「韓国のネットマーブルなど、確かに海外ベンダーが日本に上陸するケースはある。(日本企業は海外進出が遅れているのか?という筆者の問に)私の感触では、日本のゲーム会社が特に遅れているということはない。インディゲームではないが、バンダイナムコエンターテインメントのドラゴンボール ドッカンバトルは、フランスやアメリカなどでストア1位を取り、ほかにも任天堂のファイアーエムブレム、コナミの遊戯王など、日本のコンテンツが世界でも強さを見せつけている。IPタイトルメインだが、好調だと思う」(金氏)

既存IP以外でも、ねこあつめのヒットポイントが新たなゲーム「旅かえる」を昨秋にリリースしたが、日本語版のみながらプロモーションなしで、香港や台湾のGoogle Playで1位、5位を獲得。口コミでじわじわ勢力を拡大したねこあつめの勢いそのままに開発者にファンが根付いた格好だ。

ただし旅かえるのヒットは稀有な例。「まずはその国の文化や自分たちのアプリの親和性をしっかり考えた方がいい」と金氏は語る。ねこあつめも、英語版では猫の名前を直訳するのではなく、現地のニュアンスを取り入れるカスタマイズを行っている。

「グローバルを狙う場合は、言語性の排除やコンテンツが自動生成されるものが工数を考える上でも重要。先ほど話したネットマーブルは、日本のためにセブンナイツのホームUIをシンプルにした。韓国や中国はPCゲーム文化が定着しているためコマンドが並んでいる方が好まれるが、日本はキャラクターにフォーカスした方がいい。そういうカスタマイズは大切だ」(金氏)

プラットフォーマーとして開発者たちに望むことは何かと言えば、やはり日本が長年培ってきたゲーム産業のポテンシャルだと金氏。

「ゲーム産業の歴史、そして人材が多く日本にはある。例えばVRでは才能豊かな方々が我先にと取り組んでいるし、私たちもDaydreamを日本でもリリースした。新しいプラットフォームには新しいIPが生まれるし、エコシステムが動くと考えている。ARとあわせて新しい領域へ挑戦される方をサポートしていきたい」(金氏)

ただ、Google Playにも弱点はある。冒頭のApp Annieのレポートによれば、2017年第4四半期におけるアプリ内消費額が、iOSのApp Storeはグローバルで115億ドル(約1.26兆円)と、Google Playの2倍近くに及んでいた。

購買力の格差について金氏に尋ねると「デバイス数のリーチは圧倒的に多く、エマージング・マーケットではかなりのシェア差があるし、成長率も力強いものがある。また、ユニークなところではユーザーの傾向の違いがあり、あるジャンルのゲームではGoogle Playの方が相性がいいといったケースもある。先ほどのストアのテスト環境など含め、私たちはきめ細かにサポートできるし、成功事例の共有も常に行っている」と話した。

金氏は最後に、インディゲームを作るスモールチームに対して「ゲームに答えはないし、トレンドを追うのではなく、ぜひ作り上げてほしい」とエールを送った。

「スモールチームは、『これが作りたい』という独創性やクリエイティブ性の高い、作り手の人柄が強く出ている。そういうゲームには熱狂的なファンが付きやすい一方で、スマホゲームというライト層も取り込みやすい下地がある。シンプルで、グローバルに飛び出していける可能性があるプラットフォームをどんどん使ってほしい。そのために私たちもサポートしたいし、それが結果として、ユーザーの喜びにつながりますから」(金氏)

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。