エプソンを牽引する大容量インクプリンタ、3四半期連続で上方修正

エプソンを牽引する大容量インクプリンタ、3四半期連続で上方修正

2018.02.02

セイコーエプソンが、プリンターの大容量インクタンクモデルの販売計画を再び上方修正した。1月31日に行われた2017年度第3四半期決算説明で、同社 取締役執行役員 経営管理本部長の瀬木 達明氏は、2017年度の大容量インクタンクモデルの販売台数が790万台以上になることを明らかにした。

セイコーエプソン 取締役執行役員 経営管理本部長 瀬木 達明氏

同社が大容量インクタンクモデルの販売計画を上方修正したのは、今年度だけで3回目。当初は730万台の計画だったが、7月にこれを740万台に上昇修正し、10月には780万台以上と上昇カーブを描いていた。四半期決算のたびの上方修正で、年度初期から60万台の上乗せとなる。プリンタ全体の出荷計画については変更せず、当初は45%以上としていた大容量インクタンクモデルの構成比が50%弱になる見込みで、2016年度実績の約40%からも大きな飛躍となる。

瀬木氏は、「グローバルのA4サイズプリンタ市場においても、市場全体の10%を超える水準となった。大容量インクタンクモデル市場に競合他社が参入したあとも、エプソンの販売台数は着実に増加している」と話す。実際、同社によれば大容量インクタンクモデル市場でシェアが約70%に達しており、圧倒的なリーダーポジションにいることが伺える。

同社はかねてからこのモデルを「収益ドライバー」と位置づけていたが、実際に同社の成長を支える製品へと育ってきた。また、これまでは新興国における販売拡大が業績の牽引役となっていたが、大容量インクタンクモデルの販売は先進国でも拡大基調に乗り、瀬木氏は「各地域で引き続き需要が強い」と語る。

お膝元の日本でも、年末商戦でテレビCMを大容量インクタンクモデルの訴求に注力。第3四半期の販売促進費は前年同期比で19億円増の96億円、広告宣伝費も8億円増の63億円を投下した。

積極的な投資成果は即座に業績にも表れており、2017年度第3四半期のプリンティングソリューションズの売上収益は前年同期比10.0%増の2116億円、事業利益は10.7%増の351億円となった。「電子部品や材料の調達価格が想定以上の上昇があったものの、増収効果や為替の影響がプラスに働き、セグメント全体では増益になった」とする。

一部マイナス要因も、新しい軸を

ただ、1から10まですべてが良いわけではない。

通常のインクカートリッジプリンターでは、欧米市場で競合プロモーションに対抗した価格調整を実施したほか、本体数量が販売未達に終わったこと、チャネルの一時的な在庫調整の影響、部品や材料の価格上昇などがあったという。そのため、プリンティングソリューションズの業績は「社内計画には達していない。また、家庭向けインクカートリッジプリンターの稼働台数が減少するなど、マイナス影響があった」と瀬木氏は話す。

また、好調な大容量インクタンクモデルについても、一部部品の調達納期が変更されたことで第4四半期へのスライドがあり、第3四半期では計画に未達だったという。」という。もちろん、「成長に向けた取り組みは着実に前進している」(瀬木氏)と、大容量インクタンクモデルを、今後の成長の柱に位置づける姿勢に変わりはない。

さらにもう一つの成長軸として同社が期待するのが2017年6月に出荷を開始した高速ラインインクジェット複合機「WorkForce Enterprise LXシリーズ」だ。

日本と欧米に続き、12月には中国をはじめとするアジア諸国での販売を開始。各地域での販売体制の整備やプロモーション活動の強化を図り、グローバル展開をスタートさせた。

「実際の商談では、新たなニーズがあることを実感できた。多くの企業が、環境負荷の低減に向けた取り組みを進めているが、高速ラインインクジェットならではの低消費電力による環境性能の訴求が、効果的であることがわかってきた。100枚/分の高速印刷を実現する基本性能の強みに加え、レーザー方式の複写機に比べて消費電力量を大幅に低減できるメリットを訴える形で、コミュニケーションを強化している」(瀬木氏)

また、「日本市場特有のニーズとして、サーバーレス認証印刷オプションを追加で用意した」というように、市場ごとの要求にあわせた対応も開始している。欧米などではセキュリティ管理の観点から、サーバーによる集中管理で認証を行うのが一般的だが、日本ではサーバーレスで利用したいというニーズが高いため、当初はなかった機能を追加で用意したという。

こうしたニーズは、企業ユーザーからの引き合いが増加するのに伴って発生したものだ。同社は当初、高速印刷用途での利用が多いと見込んでいたが、今回の新機能追加は、オフィスからの引き合いが予想以上に多いことを裏付けるものだといえよう。既存の複合機に対するコストやスピードへの不満が、エプソンの高速ラインインクジェット複合機の販売に弾みをつけているようだ。

通期は利益減の予想も「成長基調の売上をもとに投資」

エプソンは2017年度の通期業績見通しを修正。売上収益は400億円増の1兆1100億円、事業利益は据え置いて790億円、当期利益は70億円減の510億円とした。なかでも、大容量インクタンクモデルや高速ラインインクジェット複合機が含まれるプリンティングソリューションズは、売上収益で230億円増の7450億円へと上方修正しており、事業利益は10億円減の1000億円へと修正した。

瀬木氏は「プリンティングソリューションズをはじめとして、事業環境に変化があったものの、成長のベースとなる売上収益は着実に拡大している。将来成長に向けた費用投下や投資は、中期経営計画に基づき、意思を持って継続する」と話す。特にプリンティングソリューションズ関連では、将来的な生産体制の強化に備えて、海外の事業用地を拡張する考えだ。

プリンティングソリューションズの成長を担うのは、大容量インクタンクモデルと高速ラインインクジェット複合機。いずれも、レーザー方式から置き換えるといった提案とともに、これまでのエプソンにはなかったビジネスモデルへと姿を変え、成長を遂げている。変革と成長という「二兎を追う」戦略が成功している事例といえそうだ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。