ヤマザキビスケットはリッツ、オレオとどう戦うか

ヤマザキビスケットはリッツ、オレオとどう戦うか

2018.02.05

米モンデリーズ社との契約終了に伴い、2016年8月に「リッツ」「オレオ」の製造を終了、同年9月にヤマザキナビスコから商号変更をしたヤマザキビスケット。あれから1年半、ヒット商品を失ったヤマザキビスケットは今どうしているのか。担当者に聞いた。

写真左:岡田均マーケティング部商品開発課主任、写真右:須藤敦寛マーケティング部商品開発課課長代理

ヤマザキビスケット杯にならなかった理由

ヤマザキビスケットの最大の課題。それはリッツ、オレオの空白を埋めることだった。そのために同社が取り組んだのは、リッツに匹敵する商品の育成だった。

同社は商号変更にあわせ、新たなクラッカー「ルヴァン」を発売した。ルヴァンはフランス語で「発酵種」を意味する。ルヴァンではライ麦発酵種を用いて「コクのある旨み、芳醇な香り」を加えた。リッツとは製法、形状も変えた。派生品なども含めると、ルヴァンの名称は同社の商品に多数使われ、それだけ期待のかかった商品だとわかる。

リッツに変わるクラッカーの新商品「ルヴァン」

だが、作っただけでは誰にも認知されない。リッツは広く知れ渡ったロングセラー商品であり、それに対抗していくには、テレビCMなどを活用して、時間をかけていくしかない。商品名を覚えてもらうには時間がかかるのだ。

それでも、短期間で結果を得られたという。2016年12月に実施した認知度調査について豊間根洋行マーケティング部広告宣伝課係長は次のように話す。「リッツの認知度は約9割。けれども、(発売後3カ月で)ルヴァンも60%弱くらいまでいった。これは相当高い数値。いいスタートを切れた」。

認知度向上に向けては、テレビCMの活用、スーパーマーケットでのマネキン試食販売など、かつてやってきたことはすべて取り組んだ。

幸運だったのは「YBCルヴァンカップ」として、Jリーグの大会名称に"ルヴァン"の名が入ったことだ。商品名が入るのは異例のことで、Jリーグの村井満チェアマンがヤマザキビスケットの事情を察し、実現したようだ。

しかも、大会名称の公表はルヴァン発売前の2016年6月。ニュースを通じて発売前から多くの人に存在を知ってもらうことができ、大きなアドバンテージとなったはずである。

「YBCルヴァンカップ」で配布したルヴァン(非売品)

まだスタートを切ったばかり

それでもなお、リッツとオレオの穴は埋めきれていない。親会社となる山崎製パンの直近の決算短信にも「ビスケットクラッカーの売上逸失が大きく、売上減となりました」と記述されている。リッツとオレオの存在の大きさがわかるコメントだ。

だが、担当者は現状について悲観はしていない。ヤマザキビスケットは昨年12月に本当のスタートを切ったばかりという認識だからだ。

実は昨年11月末までモンデリーズとの契約上、類似品の製造・販売が禁じられていた。呪縛がとけたのは昨年12月。そこに合わせてルヴァンの新作「ルヴァンプライム」とオレオに代わる新商品「ノアール」を出すことができたのだ。

ルヴァンプライムは丸型のクラッカー。丸型にしたことで軽い食感を出せたのが特徴だ。岡田均マーケティング部商品開発課主任によると「製品の質や食感などを考えるとこれが理想の形。ルヴァンプライムを本筋としつつも、ファンの付いた青ルヴァンも同時に売っていきたい」とルヴァンプライムへの期待を話す。

ルヴァンプライム

ノアールはオレオに代わる商品だ。ブラックココアのクッキーでバニラクリームをサンドしている。サックリとした食感が特徴的で、バニラクリームの口どけ感も調整した。

ノアール

これでようやく主要商品が揃ったことになる。須藤敦寛マーケティング部商品開発課課長代理によると「軸となる主要商品があれば、スーパーマーケットや量販店で特売を実施してもらえることもある」とし、販売戦略上、大きな効果があると見込まれるとのことだ。

ヤマザキビスケットの今

ヤマザキビスケットは今、リッツ、オレオと戦う準備が整ったばかりといえる。自ら育て上げてきたブランドと戦うというのは、何とも皮肉なものだが、これから先、どういったポイントが明暗を分けると見ているのか。

その点について豊間根氏も須藤氏も異口同音に強調するのが、おいしさという"品質"だ。リッツ、オレオともに、ブランド名は以前と同じだが、製造国は海外であり、日本ではない。作り手が変われば味も変わるし、食感も変わる。マーケティング調査からもそれを示すデータがあるとし、何十年もかけて培ってきた味へのこだわりをルヴァン、ノアールに注ぎ込むことで勝てると見ているという。

主力商品を揃えて準備を整えたヤマザキビスケットのこれからに期待

時間をかけた戦いとなりそうだが、当面はスーパーマーケットや量販店の棚替えとなる春が運命の分かれ目となる。この時期に採用されれば、定番商品として半年もしくは1年陳列されることになるという。採用店舗を増やせれば、戦いはその分有利になっていく。

リッツとルヴァン、オレオとノアール、今年の春は店舗の菓子コーナーに注目したい。小売店の棚から見える無言の戦い。時を経るごとに優劣は決まっていきそうだ。ヤマザキビスケットの見立てどおり品質が突破口となり、無言の戦いを制することができるだろうか。

月額制でクルマに乗れる? 「NOREL」が挑む新たなビジネスモデル

月額制でクルマに乗れる? 「NOREL」が挑む新たなビジネスモデル

2018.02.03

中古車のガリバーを運営するIDOMが、クルマの定額・乗り換え放題をうたって始めた新サービス「NOREL」。もうすぐローンチから2年を迎える同サービスだが、IDOMでは提供エリアの大幅拡大に踏み切り、現状の10倍以上となる会員数10万人を目指す方針を打ち出した。

IDOMは「NOREL」を日本初のクルマのサブスクリプションサービスと表現する

提供エリアを全国に拡大

NORELとは、好きなクルマを月々いくらの定額制で借りられて、飽きれば年に3~4回は乗り換えられるというサービスだ。ガリバーを運営するIDOMは、中古車という資産を活用して同事業をスタートさせた。

車種により金額は上下するが、NORELの最も安いプランは月額1万9,800円(税別)から。3万9,800円のプランであれば、選べるのは5年落ち程度の国産車が中心となる。7万9,800円のプランだと、ジープ「チェロキー」(2015)、メルセデス・ベンツ「E250」(2014)、レクサス「NX」(2015)などが選べる。これらの金額は対人対物無制限・人身傷害3,000万円の任意保険を含む料金だが、駐車場は利用者が用意しなければならない。1台のクルマに90日間乗ると、次のクルマの予約申込みが可能になる。

借りられるクルマの一部

同サービスで、2016年4月のローンチから現在までに獲得した会員数は1万人弱。2月からは現状で18都府県の提供エリアを沖縄を除く全国に拡大する。2019年2月までの目標は売上高10億円、会員数10万人だという。

このほどIDOMは、メディア向け勉強会でNORELの現状と今後を語った。IDOMでNOREL事業部の責任者を務める許直人氏によれば、NORELが競合するのはレンタカーやカーシェアリングなどではなく、「クルマを所有する」という従来の人とクルマの付き合い方そのものであるという。

クルマの所有をリプレイスする

「ハードウェアとしてのクルマではなく、『移動需要』にフォーカスしないと時代の波に取り残される」。許氏はIDOMがNORELの立ち上げを決めた背景として、このような危機感があったと振り返る。NORELが目指すのは、クルマの「所有そのものをリプレイス」(以下、発言は許氏)することだという。

IDOMでNOREL事業部の責任者を務める許直人氏

NORELの特徴は「体験できるクルマの数」だ。「新車の利用年数は平均9年で、リースなら短くて3年、長くて9年といった具合だが、NORELであれば10年で30台、一生に100台も不可能ではない。従来のクルマの所有体験とは全く違う」。それでいて、クルマの利用をやめたい時はいつでもやめられる。この「自由で多彩なクルマ体験」こそが、NORELが打ち出す強みだ。

「レンタカーやカーシェアなどと比較されることもあるが、NORELは所有体験のリプレイスを担うので、一時利用のユーザーとは市場が違う」というのが許氏の見立て。また、「レンタカーやカーシェアリングはフレキシビリティーこそ高いものの、利用頻度の高い人には割高になるので、頻度が上がるようであればNORELの方がお得」だそうだ。

契約数は1万件に迫る勢い。ただし、契約から予約(実際にクルマを使い始めること)までに数カ月を要する会員もいるそうなので、稼働率は別の話と考えるべきだろう

ローンを組むか、月額契約を結ぶか

NORELの今後について、許氏は「まずは年商10億円を目指して投資を拡大していく。まだまだ認知度は低いので、広告投資には1桁(金額の)違う投資を仕掛けたい」とする。ちなみに、NORELではすでに一定数の契約数を確保できているので、投資を抑制すれば今すぐにでも黒字化を達成することが可能だそうだが、スタートアップでもあるので、まだまだ継続的に投資を増やしていくべき段階だというのが許氏の現状認識だ。

ここ数カ月は、対前月比で平均140%以上というペースで予約数が増加しているとのこと。選ばれる料金プランは高価格帯と低価格帯に二極化する傾向にあるようだ

全国展開で需要が増えれば、人気車種が枯渇する可能性がある。対策としてNORELでは、ガリバーグループで投下できる車両を、2月から月間500~1,000台規模で増やすという。それ以降は、中古車、登録済み未使用車、新車などを持つ他社との提携も視野に、提供可能車両を増やしていく方針だ。

サービス開始当初は料金プランが単一で、輸入車のニーズが高かったという「NOREL」。低価格プランの登場で、国産車を選ぶ会員の割合が増えた。トヨタ車では「プリウス」や「ハリアー」といった定番モデルが人気だが、「FJクルーザー」や「86」といった趣味性の強いクルマも、掲載すると「かなり高い確率」で予約が入るそうだ

全国展開すれば、日本各地に点在する中古車を、NORELの需要地に運ぶロジスティクスの問題など、対応すべき課題も増えていきそうな感じはする。しかし、クルマが必須という地域は日本中にあるわけだし、ローンを組んでクルマを購入し、月々いくらという金額を払い続ける“所有”から、NORELに“乗り換える”という決断を下す人がいてもおかしくはない。

「残債もなく、ローンも組まず、必要な時に、必要なだけ、好きなクルマで、クルマの体験自体を楽しむ。そんな需要に徹底的にフォーカスしたサービスにより、クルマの所有体験を根底から変えていく」。こういったビジョンのもと、NORELでは今後も事業拡大を図っていくという。

記者会見から見えた、ソニー新CEO 吉田氏の顔

記者会見から見えた、ソニー新CEO 吉田氏の顔

2018.02.03

ソニーは2月2日、同社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏が4月1日付で社長を退任し、取締役会長に就任すると発表した。新たな社長 兼 CEOには、副社長 兼 CFOの吉田憲一郎氏が昇格する。

吉田氏は財務畑を歩んできた人物で、2000年にはソニーコミュニケーションネットワーク(その後ソネット、現ソニーネットワークコミュニケーションズ)に移り、2005年に同社 代表取締役社長に就任。2013年12月に平井氏の要請もあり、ソニー本社の執行役 EVP CSO(最高戦略責任者) 兼 デピュティ CFO就任した。

2015年4月に現在の副社長 兼 CFOに就いた後には、経営規律の正常化と高収益企業への脱皮を図るために奔走。大きくマイナス基調であったキャッシュフローの持ち直しに成功し、同日に発表された今期の通期見通しでも同社過去最高益となる7200億円を見込むなど、平井氏と二人三脚でソニー立て直しに尽力してきた。

4月1日付でソニー 取締役会長に就任する平井一夫氏(左)と、同じく同社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEOの吉田憲一郎氏(右)

平井氏は、吉田氏を「CFOとしてのみならず、経営パートナーとして一緒に主導してくれた。戦略思考と多様な事業領域の幅広い知見を持ち、リーダーシップを含め、(新CEOに)最もふさわしい人物」と評価する。

「SONY」ブランドをより高められるか

吉田氏は記者会見の冒頭、「1997年度以来の最高業績を見通せるようになったのは喜ばしいが、それは我々が20年間、自分自身を超えられなかった会社だったと思ってる」と語り、過去最高益とは思えぬ、そして就任会見とも思えぬ、緊張の面持ちで言葉を口にした。

実のところ、過去最高益の中身が悪いとは言えない。第1四半期~第3四半期の連結業績では売上高が前年同期比15.7%増の6兆5930億円、一時要因を除いた調整後営業利益の比較でも同65.2%増の6684億円と、現時点で過去最高益を達成している。

売上高の通期見通しでは、ゲーム&ネットワークサービス分野が600億円、モバイルコミュニケーション分野が400億円、半導体で300億円のマイナス修正があるものの、売上高の通期見通しは維持、営業利益では+900億円の予想だ。2016年度の第3四半期には期初から2932億円悪化したキャッシュフローも、同期比で2013億円の改善(+1769億円)を果たした。

「(停滞していた)20年の間、グローバルの環境は変わった。グローバルの中で、ソニーの位置付けは大きく異なったし、競争力を高めていけるのかという課題は、平井とともに共有している危機感だ。ソニーの最大の強みは、世界に親しまれている『SONY』のブランドであり、それは最大の資産でもある」(吉田氏)

危機感の中身は「市場環境の変化」と「ソニー自身」。

例えば全社好調の中、2四半期連続で通期の売上見通しを引き下げたモバイル・コミュニケーション分野は、主力スマートフォンのXperiaが二眼カメラやワイドディスプレイなどのトレンドに乗り遅れ、販売見通しを前年度割れの1400万台まで引き下げた。細かい点では、今四半期決算からセグメントの表示順がこれまでの最上位から、6番手まで引き下げられた。好調な半導体分野が7番手にあるとはいえ、優先度が高いとは言い難い状況にあるのだろう。

苦戦が続くモバイル・コミュニケーション分野だが、「ラストワンインチ」を掲げるソニーにとって、この部門は欠かせない存在だ

吉田氏の後任としてCFOに就任する十時 裕樹氏はソニーモバイルコミュニケーションズ 代表取締役社長 兼 CEOだったが、4月1日付ではこの領域を外れ、モバイルコミュニケーション事業担当の後任には石塚 茂樹氏が就くものの、同日付でソニーモバイルコミュニケーションズの社長就任は決まっていない。吉田氏は「新しい3カ年の中期経営計画は新しい体制で推進するが、今日の発表以外にもいくつかの人事・組織変更を議論している」と語っており、もうひと波乱がありそうだ。

市場の変化への対応力ではもう一点、イメージセンサーが好調な半導体分野がある。こちらは、昨対比でモバイル向けイメージセンサーの販売数量が大幅な増加を記録して増収増益だったが、売上高の通期見通しは300億円下方修正された。AppleのiPhone Xの減産が話題となったタイミングでの修正で報道陣から質問が富んだが「中国のスマホ市場が減速したことによる同国メーカーの受注減。それ以外は想定通りの推移」(吉田氏)。

そのため、好調な半導体事業や映画事業など、バランスシートが重たくなる投資が多い事業の経営判断については「投資判断を間違わないようにしたい」と吉田氏は慎重な姿勢を見せる。ただ、同事業はモバイル用途以外にも各種センシングや監視カメラ、FA(ファクトリー・オートメーション)、先日車メーカーらとの協業が発表された車載向けなど好材料もあるため、長期的な成長が見込めると判断しているようだ。

一方で、退任する平井氏も危惧するのが「好業績を背景とした気の緩み、危機感や緊張感がなくなることが心配だ」(平井氏)。吉田氏も、バランスシートの改善は緒についたばかりであり、そもそもグローバルメーカーとして競争力が付いていないという見立てを話す。

「(株式市場の)時価総額という形で世の中(の企業価値)を見てみると、以前のトップ企業は『資源』企業ばかりだったものが、今はテクノロジー企業が多くを占める。ソニーはテクノロジーの会社。だからそこに、危機感がある」(吉田氏)

平井氏はこの数年間、ソニーのミッションを「お客さまに『感動』を提供する」と掲げ、コンシューマーエレクトロニクスの再生を果たした。PS4のゲーム&ネットワークサービスは、定額制サービス「PS+」のグローバル会員数が3000万人を超え、テレビやカメラなどは一時期戦犯視されながらも高収益が見込めるハイエンド市場を果敢に攻め、着実に成果を残した。

吉田氏はこの路線を引き継ぐとしつつも、感動を提供するビジネス側、B2B事業の拡大も示唆した。

「会社の競争力を上げていく上で、『感動の提供』というキーワードに合わせるならば形としてはコンテンツとIPが重要になる。映画事業ではジュマンジが好調だったが、これは1995年に作られたIPだ。今回のヒットではなくIPの価値が上がったことが重要で、同様にコンテンツ面ではユーザーに近いPSNも投資すべきポイント。クリエイターに近いところとユーザーに近いところ、ここへの投資を増やして企業価値を上げていきたい」(吉田氏)

ジュマンジのヒットは短期的な要因だが、長期的には「IPの価値向上」がソニーにとって大きな意味を持つと吉田氏は話す

質疑応答で吉田氏は、「短い時間軸であれば、私という議論だったようだ」と語ったように、財務畑の吉田氏はあくまでソニーの財務基盤をより強固にするための中継ぎであり、テクノロジーをよりよく知る「次期経営者候補」の育成期間なのかもしれない。

過去最高益だった1997年、その次に高い利益水準だった2007年の翌年以降は利益水準を維持できず、韓国勢の台頭を許した。同じ轍を踏まぬためにも「持続的に高水準の利益を黒く出来るかが大きなチャレンジ。経営陣としてやらなければならないところ」(吉田氏)と話す。

九州の新聞社が「九州の出身として経営に活かしたいことは?」と尋ね、「生まれは熊本、親が公務員だったため九州内で転勤が多く、文化が異なる環境に揉まれ、適応力が付いた」と笑顔で答えた吉田氏だが、平井氏と同じく非テクノロジー領域の人間が持ち味の"適応力"でソニーを更なる高みへと導けるか。

今、一番愛用している自社製品と語ったロボット「aibo」が成功するか否かが、ある意味で「吉田ソニー」の運命を握っているのかもしれない。

1月11日に発売された「aibo」