リコーが目指す、

リコーが目指す、"再起動"からの「挑戦」

2018.02.07

リコー 社長 兼 CEO 山下 良則氏

リコーは昨年4月に発表した3カ年の第19次中期経営計画に取り組んでいる最中だが、2月6日に行われた方針説明会でリコーの社長 兼 CEOの山下 良則氏は、2018年度からの2年間の成長戦略を「挑戦」として、より具体的な方向性を示した。

中計では2017年度の1年間を、成長を実現するために足腰を鍛えて実行力を磨く「再起動」のフェーズとしていた。一方、今回の説明では2019年度までを「挑戦」と位置づけ、さらに2022年度までを、持続的成長とさらなる発展を確実なものにする「飛躍」と定めている。

財務目標も明示しており、2019年度は中計の売上高2兆2000億円、営業利益1000億円、営業利益率4.5%、ROE6.9%、フリーキャッシュフローで1000億円の目標を維持する。これに加えて新たに発表した2022年度の目標は、売上高2兆3000億円、営業利益1850億円、営業利益率8.0%、ROE9.0%以上、フリーキャッシュフローで2500億円を目指すという。同社の営業利益は、過去最高が2007年度の1815億円であり、2022年度の計画は実に15年ぶりの最高記録を見通したものだ。

山下氏は昨年の中計発表時、「過去のマネジメントとの決別」という言葉を用いて「これまで、社会と約束した中期経営計画の目標を達成できないのは、経営に問題があったといわざるをえない」と指摘。2017年度を「再起動」の1年に位置づけてきた。

過去との決別では、「マーケットシェア追求」と「MIF(複合機の設置台数)拡大」「フルラインアップ」「直売・直サービス」「ものづくり自前主義」という5大原則を見直すとともに、オープンな体質に生まれ変わることを目指してきた。

具体的な構造改革施策として、ものづくり自前主義の見直しや直販・直サービスの見直しによる「コスト構造改革・スリム化」、社内デジタル革命を打ち出した「業務プロセス改革」、自社リソースで成長可能な事業、成長性があるがリソース不足の事業、成長が見込めない事業を、聖域を設けずに分類する「事業の選別の徹底」の3点から取り組んできた。

コスト構造およびスリム化については、生産拠点の統廃合、開発機種の絞り込み、本社・バックオフィスのスリム化を実施し、北米の販売体制の最適化を除いて、2017年度で一定のめどがついたという。一方の業務プロセスの改革は、シェアードサービスによる生産性向上、新機能搭載機拡充による保守プロセス改革、生産自動化によるコストダウンを実施した。

ただし2018年度以降も継続して取り組み、とくにAIやロボィクスを活用したデジタル革命を実施する考えを示した。また、事業の選別の徹底では、電子デバイス事業の株式譲渡、三愛観光の株式譲渡、リコーインドの支援方針変更を行い、今後も継続的に事業検証を行っていく姿勢をみせた。

山下氏は「再起動」の1年の振り返りとして次のように総括する。

「成長の妨げになるすべての要因を排除することに取り組んできた。2016年度末には10万5600人の正社員数は2017年度末には10万人を下回ることになる。また、売上原価率を引き下げ、2022年度には売上原価率を55%を目指す。販管費は、この1年で2ポイント減少。従業員1人あたりの売上総利益は、2015年度第3四半期を100とした場合、2017年度第3四半期では105にまで引き上げた。決めたことをきっちりやることは大切だが、稼ぐ力をどれだけ高めたが大切である。その点では、2020年度に向けて一層の努力が必要である」(山下氏)

成長戦略は「0」「1」「2」

1人あたりの売上総利益が5%上昇したという着実な"稼ぐ力"の向上が成果として表れた。こうした成果をもとに打ち出したのが、「挑戦」と呼ぶ新たな成長戦略になる。基本戦略としては「強みに立脚した事業展開」と「オープンな経営スタイル」「メリハリのついた成長投資」の3点を掲げる。

「強みに立脚した事業展開」では、複合機をはじめとして、140万社、440万台に達するデバイス資産や顧客基盤、それをカバーする販売、サービスネットワーク、デバイスに組み込まれたプリンティング、キャプチャリング技術などを活かして、「オンデマンド、マスカスタマイゼーションという時代の要請に、リコーの強みで応える」とした。

ここでは既存の複合機を進化させ、社内オペレーションを磨き、顧客基盤を固める「成長戦略0」、商用印刷や作業印刷などにおいて、プリンティング技術の可能性を追求し、顧客基盤を拡大する「成長戦略1」、オフィスサービスや産業ブロダクツ、Smart Vision、デジタルビジネスといった領域において、顧客基盤にリコーならではの付加価値を乗せて、オフィスと現場をつないだ提案を行う「成長戦略2」という、3つの切り口から展開する。

成長戦略0となるオフィスプリンティングの売上げ構成比は2016年度実績で53%を占めていたものの、これを2022年度には39%まで引き下げる。一方で成長戦略1、2については2019年度までにそれぞれ1000億円のM&A投資を行う。成長戦略1では2016年度に12%だった構成比を20%に拡大し、成長戦略2についても2016年度の24%を2022年度には31%まで拡大して、事業構造を変える計画だ。

野心的な成長戦略だが、成長戦略1では「プリンティング技術の産業革新への挑戦」を掲げる。紙へのプリント以外に、フィルム、布、建材、職湖などの紙以外にもプリントする「表示する印刷」に加えて、プリンティング技術によって新たな価値創造に取り組む「機能する印刷」に取り組む姿勢をみせた。

機能する印刷とは、リコーが持つ高分子材料設計やインク処方設計などの「材料設計技術」、微粒化や微粒子分散などの「粒子化技術」のこと。ほかにも、レーザー書き込みや粉体制御、成膜などの「電子写真プロセス」、インク吐出、吐出位置制御、均一造粒、積層技術などの「インクジェットプロセス」によって、3D造形のほか、二次電池への応用、細胞チップ、ヒト組織モデル、吸引薬などの新たな領域への応用にも踏み出すことを示した。

一方の成長戦略2では、よりビジネスメソッドに寄ったソリューションの展開だ。中小企業を中心としたオフィスのワークフロー改革や、大手企業を中心としたオフィスのコミュニケーション戦略をベースにしており、会議支援サービスを利用した会議の生産性向上、コンシェルジュサービスや社会インフラ点検などの価値を生むワークプレイスへの展開を進める。

ここでは「RICOH Smart Integration」と呼ぶ、新たなオープンプラットフォームを展開。MFPやIWB(インタラクティブホワイトボード)、UCS(ユニファイドコミュニケーションシステム)、360°カメラのTHETA、ステレオカメラといった同社が提供する、オフィスと現場をつなぐエッジデバイスを活用する。さらに今年中に、ターゲット業種向けアプリケーションを約100本、利用できるようにする予定だ。

同社の顧客、約40万社の中小企業を対象とした調査では、中小企業同士のコミュニケーションはいまだに過半数が「FAXのやり取り」。こうした環境を改善するため、IWBとIBMのWatsonを連携するといった外部ソリューションの活用も進めている。

これまでのIWBでは、キャプチャ機能の活用や遠隔地との情報共有、PCやスマートデバイスの連携などが行われていた。ここにWatsonを加えることで、会議音声のテキスト化や会議履歴のタイムライン表示など、会議の見える化を実現し、さらに次のステップとして「議論内容の字幕表示」や「リアルタイム翻訳」「自動議事録作成」などが可能になるという。

リコーではすでに数万台のIWBを納入した実績があり、これを活用することで、現場とオフィス、あるいは会社と会社を連携した活用が促進できるとしている。なお、リコーでは自らAIエンジンを開発する計画はなく、ここでは、AIエンジンを持つ様々な企業と連携していくことになるという。

リコーの強み、それはプリンティング技術

強みに立脚した事業展開は、従来のリコーを進化させるものとしてイメージしやすい。では、「オープンな経営スタイル」と「メリハリのついた成長投資」とは何か。

前者は「脱自己完結」と「脱自前主義」の御旗のもと、オープンイノベーションや外部資本を活用した新規事業創出に取り組む。そのために昨年11月に準備室を作り、2018年4月から本格的に新たな経営スタイルでスタートするという。

例えば半導体事業は日清紡に譲渡したリコーだが、2割の資本を維持している。これはリコーにとって半導体事業は重要であるものの、「優先順位が後ろであることから取った施策」(山下氏)。

「売却という言い方をされるが、私は日清紡と、半導体事業において親戚づきあいをしていくビジネスだと考えている。外部資本を取り入れてノウハウを吸収して事業化するものや、リコーで生み出した事業の種を、クラウドファンディングなどを活用して、カーブアウト、事業を加速するといったことも考えていく。また、社内にイノベーション特区を用意して、コア事業とは異なるプロセスを使い、新規事業の種を、事業化に結びつけていきたい」(山下氏)

また、成長投資としては前述の通り、2018年度から2019年度にかけてM&Aで計2000億円を超える投資を計画する。

会見では、富士フイルムによる米ゼロックスの買収について質問が出たが、「これによって、リコーのオフィスプリンティングの事業が揺らぐことはないが、新たな競争が始まることになるのは明らか。そこにワクワクしている」と、山下氏は話す。

周知のように富士フイルムはフイルム/カメラメーカーから脱却し、メディカルやライフサイエンス、医薬品、電子材料をベースとしたインフォメーションソリューションなどを事業の柱にしている。今後、富士フイルムとゼロックスが持つ技術を組み合わせることによって、新たな事業領域に踏み出す可能性もあるだろう。

今回のリコーが打ち出した成長戦略ではバイオプリンティング領域への進出が盛り込まれるなど、プリンティング技術を生かした積極姿勢が目に付く。プリンティングメーカーとしての競合はもちろん、リコーとゼロックスが新たな領域で競合するといった可能性も出てきたといえよう。

「三大発明のひとつである印刷は、情報伝達、情報共有、知恵の蓄積という点で、文明に多大に影響を与えてきた。このプリンティング技術が、ここにきて、さらに役割が拡大していくことになる。デジタル技術との組み合わせによって、活用領域が広がり、既存の技術を置き換えるイノベーションを起こすことになる。リコーは、プリンティング技術の可能性を広げていく」(山下氏)

プリンティングの強みを新たな成長の柱に繋げられるか。ソリューション売りだけではない「テクノロジー」の特異性、強みが、誰も知らないリコーへと生まれ変わる「挑戦」の成功の鍵を握る。

日本で中古スマホが使われない本当の理由 - MMDLabo調査結果

日本で中古スマホが使われない本当の理由 - MMDLabo調査結果

2018.02.06

日本では中古スマートフォンの利用が低いといわれている。端末流通が海外とは異なるのがひとつの理由だが、MMDLaboが公開した「日本とアメリカにおけるスマートフォン中古端末市場調査」には興味深い別の理由が記されていた。

同調査はMMD Laboがオークネット総合研究所と共同で実施したもの。日本在住の男女1007人と米国在住の男女1241人(いずれも15 歳~69 歳)を対象に行なわれた。

調査では中古端末の購入割合について触れられており、日本では4.5%、米国では13%となった。米国での購入割合が高いわけではないものの、日本はそれを大きく下回る結果となった。ただし、日本の中古端末割合は2016年4月調査実施時の1.8%からアップしており、わずかながらも中古端末の利用が進んだようだ。

日本よりも米国のほうが中古端末が使われている

中古端末の利用が進まないひとつの理由として端末が出回らないことが挙げられそうだ。それを示すのが、調査結果から見えてきた端末の処分方法についてである。

日本人の端末の処分方法で最も多かったのは「自宅保管」で60.7%、次点は「キャリア下取り」で20.6%、「中古買取店へ売却」が5.2%となった。

米国も変わらなかったのが「キャリアの下取りサービス」(20.7%)、「中古買取店への売却」(5.4%)の2項目。しかし、「自宅保管」(43.7%)、「家族・友人に譲った」(12.3%)とこの2項目で大きな差が出た。

日米で自宅保管の割合が大きく異なる

少なくとも日本と違い米国では、自宅でお蔵入りになるのではなく、誰か他の別の人が使うことが多いわけだ。日本人は自宅にしまいこむのが常のようだが、それはなぜなのか。その答えがわかるのが、自宅保管の理由についてだ。

日本人が最も懸念するのは個人情報の流出だ

日本で最も多かったのは「個人情報の流出が心配で手放せないから」が31%でトップだった。次点は「どうせたいした値段で売れないと思うから」で28.1%だった。米国は理由の1位と2位が日本とは逆であり、対照的な結果となった。

日本国内では中古端末の流通量の促進が話題になっている。総務省は携帯電話市場を活性化させるために、MVNO利用者数の増加が不可欠とし、そのための一手段として中古端末の利用が必要と見ているためだ。

こうした調査結果を見ていくと、日本で中古スマホの利用が促進しない理由として、端末売却時のデータ消去に関する情報が伝わっていない事実が見えてくる。中古端末の流通活性化には、何をすべきかが見える調査結果となりそうだ。

華はなくとも切れ者、

華はなくとも切れ者、"吉田ソニー"に対する期待

2018.02.06

ソニーの社長が4月1日をもって、平井 一夫氏から吉田 憲一郎氏に代わることが発表された。

ソニー社長就任以前から、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント・SIE)の顔として知られていた平井氏に対し、吉田氏は、一般的にあまりなじみのない人物かも知れない。吉田憲一郎氏とはどんな人物なのか、そして、彼とタッグを組んで、4月1日からは新たにCFOとなる十時 裕樹氏について、少し解説してみたいと思う。

4月1日付でソニー 取締役 代表執行役 社長 兼 CEOに就任する吉田 憲一郎氏

2世代続く「エレキ以外育ち」のトップ

平井氏から吉田氏へ。この「社長交代」に共通しているのは、「ソニーグループで育った人間である」一方で、「エレキ育ちではない」ことだ。

CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社した平井氏は、SCEでキャリアを重ね、ソニー本社の社歴は2009年からと比較的浅い。吉田氏は1983年にソニー本社入社後、ソニーネットワーク販売、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカを経て、本社内に出来た証券業務部に移る。

その後、財務や社長室長を経験し、2000年に「So-net」でお馴染みのソニー・コミュニケーションネットワークへ出向する。エレクトロニクス畑ではなく、財務や企業立ち上げといったことを専門としてきた、いわば「ソニーの外堀構築に尽力してきた人物」といえる。吉田氏がソニー本社に戻ったのは2013年のことだ。

ソニーの旗頭は現在もエレクトロニクス事業だ。

だが、それも単独で存在するものではなく、ゲームやネットワーク、エンターテインメントコンテンツと連携し、ライフプランを提供する金融事業も絡む。そうした全体戦略を見るにはエレキ一辺倒の人物よりも、より広汎な視野をもった、「エレキ外」からの人物の方が、今のソニーのトップとしてはふさわしい、という判断が見え隠れする。

実際、吉田氏は2013年、平井氏に懇願される形でソニー本社に戻った経緯がある。彼の手腕と知見を、平井氏は自身の考えるソニー改革に必要なものと判断していたのである。

平井氏の要請でソニー本体へ舞い戻った吉田氏(写真は平井氏)

So-netでの経験を「現在の家電ビジネス」に活かす

では、吉田氏はどのような事業を手がけてきたのか? 現在CFOであることからわかるように、財務・金融に強い人物であることは事実だが、それだけに留まるものではない。

特に大きいのは、吉田氏がソニー・ネットワークコミュニケーションズのトップとして数々の「事業立ち上げ」を経験しているという点だ。ネットワーク事業は変化のスピードが非常に早く、新しい事業を進めるために子会社を設立したり、既存の企業や事業を買収したり、といったことが必要になる。うまくいけば規模をスケールさせる必要があるし、そうでなければ畳む必要がある。

別の言い方をすれば、一般的な「事業部制による製品のビジネス」とは、ビジネスの整理や進め方がまったく異なるということである。現在は、過去のように「製品の性能を上げていけば消費者が買ってくれる」時代ではなくなっている。

だからこそ、必要な事業をすばやく判断して立ち上げ、成果を分析し、スケールするのか畳むのかを決めて進めていく必要がある。大企業であってもベンチャー企業と戦わなくてはならないシーンは多く、判断の精度やスピードへの要求が時代に合わせ変わってきている。

そこで、企業の立ち上げと「終焉」を多数経験し、ネットワークサービスの世界で戦う速度感も理解している吉田氏の経験が重要になってくる。

実は、吉田氏からCFOを引き継ぐことになる十時氏も、吉田氏に似た背景を持つ。十時氏は現在もソニー・ネットワークコミュニケーションズの社長であり、ソニーモバイルの社長も務めている。彼もまた吉田氏と同様、「すばやく企業の組織を変えていく」「必要な判断を回していく」ことに長けた人物、と評価されている。

ソニーのライバルは家電メーカーと思われがちだが、スピードを信条とするネットワークサービス企業が実情だ。そうしたライバルと戦っていくには、旧来の家電業界的な発想でなく、より冷静な目で事業を見つめ、処理する能力に長けた人々が適切である……。

そうした発想が、ソニーの次の社長として吉田氏が選ばれた理由なのではないか、と筆者には思える。

そんな吉田氏は、ソニーの経営の中でこれまで、どのような役割を果たしてきたのだろうか?

現在のソニーは、ROI(投資利益率)とROE(自己資本利益率)、特にROEを重視する戦略を採っている。これは、平井氏と吉田氏が二人三脚で進め、特に計画立案は吉田氏が音頭をとる、という形で進んできた。冒頭で述べたように、平井氏は吉田氏を「片腕」として信頼していた。吉田氏の計画を平井氏が精査し、決断した上で自分が責任をとる、という形でソニーの改革を進めてきた。

吉田氏のチェックは厳しく、比較的小さな規模の投資案件でも、ソニー経営陣の中で収益性や必要性について最後までこだわるのは吉田氏だ、という論評は社内から聞こえてくる。だが、単なる「締まり屋」ではない。ソニーのためにその投資がどれほど必要で、どういう計画で進んでいるのかを精査する精度が厳しいからだと筆者は見ている。

実際、半導体への投資やゲームへの投資、小規模なスタートアッププランである「シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)」にも、反対ではなかった。「バランスシート上の重要性をどう判断するか」が吉田氏の思考の軸になっている。

恐らく、吉田氏は今後のソニーを運営していく上でも、バランスシートの改善と最適化を最重要課題として位置づけるはずだ。無駄のない筋肉質な企業体質を作り、変化にすばやく対応できれば、今後の問題にも対応しやすくなる。当面、吉田新体制は、これまでに平井氏と進めてきた路線を継承し、ROEの改善とバランスシート上の体質強化を進めていくことになるだろう。

平井氏は、社長を辞する上での課題として、「20年ぶりの好業績で、社員の気持ちが緩んでしまう。危機感がなくなるのが課題だと認識している」と語った。1月、CESでインタビューした際には「社員・役員が、ビクトリーラップに入ったように感じていることに危機感をもっている」とも語った。

筋肉質な企業体質。そのためにはこれまでもソニーを財務面から支えてきた吉田氏が適任というのが平井氏の理想だったのだろう

現在の好調は一時的な要因もあり「この状況に甘えてはいけない」という趣旨である。吉田氏も同じ危機感を抱いており、だからこそ「バランスシート改善は道半ば」としている。気になるのは、その上で「コンシューマエレクトロニクスの会社としてのソニー」をどう演出するのか、ということだ。

ゲームにイメージセンサー、金融と、ソニーの収益源は多様化しているが、消費者にとってのイメージは「家電のソニー」であり、ブランドイメージもそこに立脚している。だから平井氏は、ことあるごとに「コンシューマエレクトロニクスがソニーの本道」というメッセージを打ち出してきた。

派手な立ち振る舞いが似合う平井氏に対し、吉田氏は実直な人柄に見える。

そんな吉田氏が、平井氏と同じようなメッセージングの打ち出し方は難しいだろう。会見でも質問に対し、「平井ほどのカメラオタクではないので、同じように細かく指摘していくことはできない。しかし、私も製品は好きで、ゲームもかなり遊ぶ。『ラストワンインチ』という考えは共有しており、そこにコミットしていく姿勢は変わらない」と答えている。

平井氏とは違う「吉田ソニー」でのコンシューマへのメッセージがどうなるのか。筆者としてはそこに期待がかかる。吉田氏は(失礼ながら)華はないが、話は抜群に上手い。理路整然としており、非常に率直に語る人物、と認識している。そのことが、ソニーの製品に良いイメージを作り出すと、面白いと思うのだが。