AQUOSに負けたXperia、好調ソニーの死角「スマホ事業」はどこへ向かう?

AQUOSに負けたXperia、好調ソニーの死角「スマホ事業」はどこへ向かう?

2018.02.09

ソニーは4月より、代表執行役 副社長 兼 CFOの吉田憲一郎氏が社長に就任する人事を発表した。同社は、3年ごとに中期経営計画を策定しているが今年はその最終年。3年前に設定した目標を大きく上回り、営業利益が20年ぶりに過去最高を達する見込みであることから、平井氏としても次へバトンタッチする気になったようだ。

これまで、ソニーは「再建」のためにパソコン「VAIO」事業の売却や、テレビ事業の分社化など、組織体制にメスを入れてきた。肝心のエレクトロニクス事業においては、デジカメやテレビを高付加価値モデルへシフトして収益性が高まった。

半導体部門では、スマートフォン向けのイメージセンサーが絶好調。ゲームもPS4本体のプロモーションが成功して計画以上によく売れたうえ、サブスクリプションサービスが収益面で大きな役割を果たしている。音楽事業もストリーミング配信の売上げが伸び、映画事業では「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」が大ヒット。安定した収益貢献を続けている金融事業も、ソニー生命が増収を果たしている。

為替の好影響という側面もあるが、数年前のソニーと比べれば、まさに追い風が吹いていると言えるだろう。今年1月には、イヌ型ロボット「aibo」を12年ぶりに販売。まさに、aiboはソニー復活の象徴とも言える存在だ。

好調な業績も背景に、新規開発された新生aibo

そんな死角なしに見えるソニーでも、唯一冴えないのがモバイル・コミュニケーション事業だ。

売上高を下方修正、販売台数見込みも減少

モバイル事業は昨年10月時点で通期7800億円の売上げ予想であったものが、2月時点で7400億円、実に400億円もの下方修正を余儀なくされている。

主な理由は、スマートフォン販売台数の減少。昨年10月には年間1550万台の販売を見込んでいたが、2月時点では1400万台に下方修正している。年間で黒字を見込むが、それも50億円程度しかなく、他の事業に比べれば、ソニーにとってモバイルは「お荷物」のようにも見えてくる。

実際のところ、ソニー「Xperia」が強いはずの日本国内市場でも、大きな異変が昨年あった。BCNが発表した2017年第3四半期(7〜10月)のAndoridスマホのメーカー別販売台数シェアにおいて、それまでトップシェアであったXperiaがついに陥落。シャープがトップシェアに躍り出たのだった。

昨年、シャープは3キャリア向けにそれぞれ別の名前で納入していたAQUOSシリーズを「AQUOS R」というメーカーブランドに統一。この戦略が功を奏したのは明らかだ。さらにシャープは、キャリア向けのみならず、MVNOなどのSIMフリースマホも積極的に展開。11月からは「AQUOS sense」を販売している。

AQUOS senseを各キャリアへ、そしてSIMフリー版も用意したシャープ

NTTドコモの「docomo with」は通信料から毎月1500円が割り引かれる施策だが、AQUOS senseはこれに向けた製品としてかなり売れそうだ。また、auでも端末割引しない代わりに、通信料金が安くなる「ピタットプラン」が好調。安価な端末がユーザーに好まれる傾向が強まるなか、相性のいい端末として期待されている。

さらに、AQUOS senseはキャリアに加えて数多くのMVNOへ納入している。シャープが上手いのは、AQUOS RやAQUOS R compactといったハイエンドやコンパクトモデルを投入しつつ、格安スマホ市場向けにも安価なモデルも揃えてきたという点だ。

一方、ソニーは4Kディスプレイを積んだ「Xperia XZ Premium」やハイエンドモデルの「Xperia XZ1」、ハイエンドコンパクトの「Xperia XZ1 Compact」といったプレミアム製品しか存在しない。

これは、ソニー全体として「安売りで販売台数を稼ぐ」といった考えから距離を置き、「高付加価値なプレミアムモデル」で勝負する路線を貫いた結果から来ているのだ。今後、日本で格安スマホ市場が拡大していけば行くほど、プレミアム路線のソニーの販売台数シェアは下降の一途をたどっていくことだろう。

ただし肝心のプレミアム路線も、ユーザーに響いているかと言えば、かなり微妙だ。2017年、ここのところ「退屈」と言っていいスマホのデザインに大きな変化があった。

アップルが有機ELディスプレイを採用し、ホームボタンをなくして、筐体のほとんどがディスプレイという「iPhone X」を投入してきた。同様のコンセプトは、すでにサムスン電子「Galaxy S8」「Galaxy Note8」や、ファーウェイ「Mate 10 Pro」、LGエレクトロニクス「V30+」なども採用している。

有機ELディスプレイは、業界のハイエンドモデルではすっかり「標準採用」になった。そしてまた、ソニーが強みと言ってはばからないカメラにおいても、iPhoneが2016年から導入した「デュアルカメラ」が当たり前になってしまった。iPhoneもAndroidスマホの後追いで導入したデュアルカメラだが、ソニーはさらに遅れてしまっている状況だ。

他社のハイエンドスマホが軒並み「有機ELディスプレイ」「デュアルカメラ」のなかで、ソニー「Xperia」という存在は、いまだに数年前のデザインテイスト、そして機能面でも過去を引きずっており、周回遅れにさえ感じてしまう。

昨夏に発売されたXperia XZ Premiumだが、デザインは一昔前のまま。「iPhone X後」となっては周回遅れの感が拭えない

今年1月、「モバイル事業をどうしていくつもりなのか」と聞かれた現社長の平井氏は、次のように語っていた。

「ソニーの将来を語る上で、スマホはコミュニケーションビジネスだと思っている。人間同士、テレパシーで会話ができるようになるまでは、コミュニケーションするためになんらかのデバイスとネットワークが必要だ。昔はケータイだったが今はスマホ。これがウェアラブルに取って代わるのかわからないが、いずれパラダイムシフトが来る。そのパラダイムシフトを作るぐらいの気持ちでいる」(平井氏)

2月末にはモバイル製品の展示会「MWC 2018」がスペイン・バルセロナで行われ、例年通りであれば新製品が発表される。そして直後の4月には、平井氏が会長となり、吉田体制に代わる。吉田新社長は、Xperiaでどのようなパラダイムシフトを作っていくのか。Xperiaブランドの命運がかかっている。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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