「H.I.S. Mobile」の本領発揮は5月から - エイチ・アイ・エスらMVNO参入

「H.I.S. Mobile」の本領発揮は5月から - エイチ・アイ・エスらMVNO参入

2018.02.16

エイチ・アイ・エスと日本通信は2月15日、共同で合弁会社「H.I.S. Mobile株式会社」を設立し、MVNO事業に参入することを発表した。5月初旬をめどに国内初の海外旅行者向け格安SIMはどのような仕組みで実現しているのだろうか。

エイチ・アイ・エスと日本通信が合弁会社「H.I.S. Mobile株式会社」を設立

70カ国で利用可能に

H.I.S. Mobileは発表と同日から国内向けの格安SIMの販売を開始しているが、これらは基本的に日本通信が販売している「b-mobile」のサービスに近い形態の料金プランに近いものばかり。ドコモ回線に加えてソフトバンク回線が選択できるのが特徴的だが、MVNOとしては平均的なタイプだ。

主力となる「きままベストチョイスプラン」は音声付きで月額945円〜(税別)と、一般的なMVNOと渡り合うに十分な低価格だ
国内向けサービスは先着1万名に限り割引キャンペーンも実施されている

H.I.S. Mobileの真骨頂は国内向けサービスではなく、5月1日にスタートする予定の海外向けサービスだ。今回の発表ではまだ詳細を調整中ということだったが、金額は1日500円。サービス開始時で、日本人の利用が多い上位70程度の国や地域で利用できるという(海外から日本へ訪れる、いわゆるインバウンド向けサービスは将来展開予定)。

当面は70カ国ということだが、日本人が利用する上位20国はほぼ抑えているとのこと。また中国からのGoogleサービスの利用なども今の所問題がないとしていた

基本的に利用する国でアクティベーションするごとに500円かかることになるため、トランジット(経由地)でアクティベーションすると500円、さらに到着地でアクティベーションすると追加で500円かかることになる。3Gサービスは含まれず、純粋に4G LTEでのみのサービスになる見込みだ。音声通話などについては「LINEなどを使ってもらえばいい」(H.I.S. Mobileの猪腰社長)という、かなり割り切ったスタイルになる。

このサービスで利用するSIMは一般的なプラスチック製のSIMではあるが、各国のサービス向けに内容が書き換えられるタイプのもので、利用したい国でアプリを起動して操作することでその国用の設定に切り替える。ただし日本向けの設定は入っていないようで、当面は日本用のSIMと海外用のSIMを入れ替えて使う(機種によってはデュアルSIM)ことになる。また、このとき利用するアプリもSIMに組み込まれている(後述)。

専用アプリで国を選択して設定を切り替える。なお書くスマホ用OSのアプリと、SIMカード上のアプリはまた別の扱いになる模様

既存のキャリアの海外ローミングと比較すると、KDDIの「世界データ定額」や、ドコモが3月15日からスタートする「パケットパック海外オプション」が1日980円。これらのサービスが日本で契約したデータ容量を消費するのに対し、H.I.S. Mobileの場合は200MB程度を利用できるようだ。

最近は海外での利用についてはキャリアも力を入れ始めたために、インパクトはあまり大きくなくなってしまったが、従来のデータ無制限のローミングは1日2980円程度かかっていたので、そちらと比べると差は歴然としている。また、通常の利用額も安いMVNOで安価に海外利用もできるということであれば、海外渡航の機会が多いユーザーには強く訴求するだろう。

秘密は「フルMVNO化」と「eSIM」

それではH.I.S. Mobileの新サービスの秘密はどこにあるのだろうか? 実はこれは、ここ数年MVNO界隈で話題になっていた「フルMVNO化」が影響している。

フルMVNOとは、従来のMVNOではキャリアが管理している「HLR」(Home Location R)と「HSS」(Home Subscriber Server)をMVNOが自前で持つことだ。HLR/HSSはユーザーの情報を登録したサーバーであり、これがあればMVNOは独自にユーザーを管理し、SIMカードを発行・管理できる(現在はMNOからSIMを貸与されてユーザーに転売している状態)。MNOは物理的なネットワークや基地局だけを提供することになる(日本国内の場合、電話番号はMNOだけが所有しているので、まとめて卸してもらうことになる)。

ただし、MVNOがSIMカードを独自に発行できるようになったとしても、それだけで特に安くなったりするわけではない。フルMVNO化を進めているIIJがプレス向けの説明会で語った内容によれば、IIJはドコモとの間でデータ通信の卸電子通信役務契約を締結しており、安価な卸価格でデータ通信を提供できるのだという。

もし同様に他社がフルMVNO化した場合でも、同様に国内MNOと契約を結ばない限り、国内で通信するには、海外MNOから割高なローミングサービスを受けねばならないとの説明だった。はっきり明言されたわけではないが、IIJはドコモとの間で独占ではないにせよ、かなり有利な契約を結んでいる(あるいは契約自体が非常に難しい)のだと見られる。

日本通信は昨年1月に、海外の子会社(JCI Europe Communications Inc.)を通じて、ベルギーの「BICS S.A.」との間でフルMVNO契約を済ませており、今回のサービスはこの契約のもと、日本通信が独自に開発したSIMを発行し、そこに提携している各国のMNOが番号を付与する形になると見られる。

SIM自体はOTAで情報が書き換えられる、いわゆる「eSIM」の体裁を取っており、提携先の国に行くたびにスマートフォン用のアプリで切り替える。ローミングではなく1日単位で現地のMVNOとして契約するので、割安になるわけだ。国内向けはローミングを使うより、国内向けのSIMに差し替えた方が安上がりという判断だろう。

ちなみにSIMには元々仕様として、Javaアプリを実行するための「Java Card Virtual Machine」(JCVM)というOSが搭載されており、Javaアプリを保存するためのメモリも用意されている。H.I.S. Mobileが提供するSIMでは、この仕様も利用して、SIM上のアプリを使ってデータを書き換えるようだ。

フルMVNO化の背景にはIoTの存在

なお、フルMVNO化についてはIIJや日本通信だけでなく、ソラコムの「SORACOM Air」や、さくらインターネットの「さくらのセキュアモバイルコネクト」といったサービスがすでに始まっている。各社が数十億と言われる高額の設備費を投じてフルMVNO化を進めるのは、IoTの普及が目前になっているからだ。

IoTが普及してくれば、それらをモバイルネットワークに接続する必要が出てくる。たとえば自動車を例に取ると、海外ではヨーロッパの「eCall」や、ロシアの「ERA-GLONASS」といった緊急通報システムの搭載が義務付けられはじめている。単に一国に出荷するだけなら固定のSIMでもいいが、地続きで国境を越えたり、輸出入などで国をまたぐことを考えると、書き換え可能なeSIMは必須であり、これを自由に発行できるフルMVNO化は大きな商業上のチャンスになり得るのだ。

これまで日本通信やIIJは、どちらかといえばフルMVNOのメリットをIoT化を通じて語ってきただけに、今回H.I.S. Mobileのサービスが個人向けとして提供されるのは、意外といえば意外な展開だったのだが、個人が携帯するIoT機器もどんどん増えていくことを考えれば、むしろ莫大な数になるIoT向けのeSIM書き換えシステムが十全に機能するかの、いい検証機会になるとも言える。

3年でMVNOのトップ10入りを目指す

H.I.S. Mobileの猪腰社長は「3年を目安に、MVNOの上位10社に入れるよう目指したい」とし、目標のユーザー数を50万人とした。ちなみに現在の段階でMVNOシェアのトップ10入りするには、だいたい30万ユーザーが必要になる計算だ。

エイチ・アイ・エスが1年間に扱う海外旅行者は300万人程度ということで、このうち17%前後にSIMが売れれば、概ね計画が達成できることになる。エイチ・アイ・エスは全国に約270の営業所を展開しており、販売はここを拠点に行われるという。新興のMVNOとしては、いきなり大きな販売ネットワークを持つことになり、無店舗型が多いMVNOとしては有利だ。

もっとも、3年後には現在MVNO事業でトップの楽天モバイルがMVNOからMNO化する計画だったり、先日ソフトバンクと業務提携を行ったLINEモバイルの存在など、業界の地図がどのようになっているかは、非常に読みづらい。目標を達成するには競合MVNO事業の買収など、アクティブな戦略も必要になりそうだ。

海外向けの新サービスは、価格面はもちろんのこと、技術的にも目新しいものが取り入れられており、ビジネス面はもちろんのこと、マニア的にも非常にそそられるものがある。正式リリースがまだ3カ月以上先ということもあって、きちんと決まっていない部分もあるようだが、ぜひ世界各地で実際に動作を試してみたい。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。