人手不足とは無縁? 「ガスト」のすかいらーくが進める働き方改革

人手不足とは無縁? 「ガスト」のすかいらーくが進める働き方改革

2018.02.19

「ガスト」や「バーミヤン」などを展開するすかいらーくは先頃、「IT化による店舗業務の効率化と働き方改革の推進について」と題する記者発表会を開催した。外食産業の人手不足に対応した新たなIT施策の導入かと思いきや、その内容は意外なものだった。

2017年の採用数は5.7万人

スタディストが提供するマニュアル作成・共有プラットフォーム「Teachme Biz」(ティーチミー・ビズ)をすかいらーくが導入するとアナウンスした今回の発表会。冒頭、すかいらーく常務執行役員の金谷実氏は、同社の近況について数値を示して説明を行った。中でも目を引いたのは、パート・アルバイトの人数に関する項目だ。人手不足が話題となる外食業界だが、すかいらーくでは応募数・採用数が右肩上がりで増えており、2017年には前年比120%となる16万人弱の応募の中から、前年比109%となる約5.7万人を採用している。

発表会に登壇したすかいらーくの金谷常務(左)とスタディストの庄司啓太郎取締役COO。金谷常務は人財本部のマネージングディレクターだ

すかいらーくでも外国人在籍者数は増えているが、上記の数字からも分かる通り、彼らを採用する理由は日本人スタッフの穴埋めというわけではない。外国人スタッフの多くは、日本人スタッフの代替というよりも、年末年始や深夜時間帯など、日本人スタッフが敬遠する時間帯をカバーしてくれる貴重な戦力だというのが、すかいらーくの捉え方だ。

定着率が上がらない理由は業務の難度

応募も採用も増え続け、人手不足とは無縁のすかいらーくだが、課題としているのはスタッフの定着率向上だ。驚いたのは、約5.7万人を採用した2017年の退職数が5万人を超えていること。スタッフ在籍数の安定を図るため、スタッフ定着率の向上が不可欠な情勢だ。では、なぜパート・アルバイトは定着しないのか。その主な理由の1つは「業務の難度」であると金谷氏は分析する。

パート・アルバイトの応募数、採用数は右肩上がり。課題は定着率の向上だ

具体的には、作業手順の多いブランド、メニュー数の多いブランドほど定着率が低いのだ。例えば、オペレーションの難度が高くなく、かつ商品アイテムの少ないブランドである「しゃぶ葉」は比較的、定着率が高いとのことだった。

人手不足には困っていないが、スタッフの定着率は上げていきたいというのがすかいらーくの考え。そこで同社は、店舗に新たなITツールを導入することを決めた。

ファンド支配から脱却、長期的な視点で投資が可能に

2006年に戦略的な上場廃止を行い、その後はファンドの支配下にあったすかいらーくだが、2017年にはファンド株主が保有株式の全てを市場に売却した。ファンドの支配から脱却したすかいらーくでは、短期的な目標を追うことだけにフォーカスするのではなく「従業員と店舗に投資していくつもり」(以下、発言は金谷常務)だという。年間100店舗ペースの出店も継続していくそうだ。今回、スタディストのマニュアル作成・共有プラットフォーム「Teachme Biz」を導入するのは、従業員への投資の一環だ。

Teachme Bizは、画像を中心に調理のポイントなどを分かりやすく解説したマニュアルを作成できて、それをスタッフが多様なデバイスで閲覧できる体制を整えられるプラットフォームだ。スタディストは国内外の約1,800社に同サービスを有償提供している。

簡単に言えば、従来は紙で作っていたマニュアルをデジタル化し、スタッフがスマートフォンやタブレットなどのデバイスで、いつでもどこでも閲覧できるようにするのがTeachme Bizだ。

画像を中心とする分かりやすいマニュアルが作成可能だという「Teachme Biz」

料理手順の微妙なニュアンスも説明しやすく

多くの会社で採用されている紙のマニュアルだが、作るのも、全てのスタッフに閲覧可能な環境を整えるのも大変だ。厳密に1人1冊を徹底すれば、それだけで大きなコストになる。また、マニュアルは不変のものではなく、常に内容を精査して刷新すべきものなので、そのメンテナンスも紙だと手間だ。

作るのも大変だが、紙のマニュアルは使う場合にも不便がある。例えば店舗において、新商品の作り方などを紙のマニュアルで説明しようとした場合、大きな作法は共有できたとしても、細かいニュアンスは伝わりにくい。マニュアルを閲覧するスタッフに外国人もいるとすれば尚更だが、同じ日本人であったとしても、伝わりにくい言葉の言い回しはいくらでもある。「こんがり焼く」とか「さっと炒める」といった言葉がマニュアルに記載されているチェーン店では、全ての店舗で同じ品質のメニューを提供することが困難だ。

その点、Teachme Bizであれば、画像と動画をベースとするマニュアルをスマートフォンだけで作成し、配信することが可能だ。簡単に作れるし、動画による解説は入社したばかりのスタッフにも理解しやすいだろう。多言語のマニュアルが作成可能な点は、外国人スタッフが増え続ける現状にも即している。

辞めなければ熟度が上がるスタッフのサービスレベル

すかいらーくは2017年9月、ガスト全店(1,367店舗、2018年1月31日現在)でTeachme Bizを導入。まだ導入から日が浅いため、数値としてのデータが顕在化してはいないものの、従業員の満足度とともに、顧客の満足度も向上しつつあるという声は上がっているという。今後はグループの全ブランドに同システムを導入し、約3,000店舗で約10万人の従業員トレーニング体制を確立する構えだ。

2018年3月からは「Teachme Biz」の導入を主要ブランドに広げていく方針

当たり前のことだが、サービス業においてスタッフが定着するということは、そのスタッフが「熟練していく」ことと同義であり、それはサービスレベルの向上を意味する。マニュアルの改善で従業員の定着率が上がれば、サービスの品質も向上し、顧客満足度も高まるわけだ。

Teachme Bizの導入は、店舗マネージャーの負担軽減にもつながるだろう。スタッフの入れ変わりが激しいと、店舗では常に新人スタッフをゼロから教育しているような状況となり、教育を担う店舗マネージャーの負担も大きくなるからだ。

客にもスタッフにも選ばれる店になれるか

Teachme Bizによりスタッフの働き方、仕事の覚えやすさが改善すればスタッフが定着する。スタッフが定着すれば、店舗のサービスレベルが向上してリピーターを獲得できる。こんな流れをすかいらーくは狙っている。「サービス力を向上させるため、スタッフの習熟度を上げる。習熟度を上げるため、スタッフの定着率を上げる。今後は1年以内退職率を(現状の)60%から50%以下に引き下げることを目指したい」と金谷常務は目標を語る。

「Teachme Biz」の覚えやすさを問うアンケートにスタッフの88%が「はい」と答えたという

システムを導入することで、直接的にスタッフの出入りに影響があるかどうかを見るには、今後のスタッフ定着率をチェックしていくほかない。しかしながら、システムを導入することで、従業員が働きやすい環境を整備しようと会社が考え、実行しているとのメッセージになることは確かだ。今回のシステム導入により、すかいらーくが顧客にもスタッフにも選ばれる企業として進化を遂げられるかに注目したい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu