パナソニック・マイクロソフト・トライアル、三者三様の

パナソニック・マイクロソフト・トライアル、三者三様の"流通改革"

2018.02.21

日本の流通業が飛躍するための礎、それがスマートストアであり、RFIDだ――。こう語るのは、経済産業省 商務・サービスグループ 商務・サービス審議官の藤木 俊光氏。ECサイトの生活インフラ化や、Amazon Goや中国ですでに稼働している無人小売店など、消費のあり方が大きく変わる中で、各プレイヤーはどう生き残るべきなのか。

国内でも、福岡県に拠点を構える小売のトライアルカンパニーとパナソニック スマートファクトリーソリューションズが2月19日、共同で業界初のウォークスルー型RFID会計ソリューションの実証実験を開始した。

ゲートを通過するだけで精算完了

このソリューションでは、買い物バッグをレーン内の読み取り部にかざしながら歩くだけで商品の判別、会計を完了する。利用イメージは下記の動画を確認するのがわかりやすいが、プリペイドカードの読み取りからRFIDタグが付いた商品の判別、精算結果の表示までわずか10秒のうちに収まっている。

1月の特集「変わる、パナソニック。」でも取り上げた、翻訳機能付きメガホン「メガホンヤク」のデザイナーである松本 宏之氏のチームメンバーである大澤 香織氏がワーキングプロトタイプのデザインを担当し、2カ月足らずで実働にこぎつけたという。松本氏らのチームは、羽田空港で稼働する顔認証ゲートのデザインにも携わっているが、こうした短期間でのプロダクトの実現はよくあることだという。

実証実験は福岡県東区にあるトライアルカンパニー本社ビルの「トライアル ラボ店」で行われるが、実際に現場に行くことなく、写真などから「打ちっぱなしのコンクリートなど、場所の雰囲気に合わせてデザインした」(大澤氏)と話す。

ただし、ワーキングプロトタイプでありながら、「多店舗展開を想定してプリペイドカードの読み取り部や会計表示のディスプレイ部などを可動式にする」「コンビニ弁当で最大サイズに近いA4サイズでもRFIDの読み取り部を通過できるように」(大澤氏)といったこだわりを見せている。

ディスプレイ部などは接続部分を可動式にして、店舗レイアウトに合わせた配置を可能にしている

2カ月足らずという実装期間の短さもあり、安定してRFIDを読み取れるのは3個の商品まで。また現状では、RFIDは金属や液体が近くにある場合に読み取りが難しくなることもあり、筆者が「大きいお弁当」と「(アルミの)ポテトチップス」「(液体かつ金属の)コーヒー缶」「(液体の)ペットボトル」という劣悪な環境で実験したところ、4個入れたはずが3個しか認識できない時があった。ただ、4回試行したうちの1回の失敗であり、急造品としては十分に合格点だろう。

実証実験ということもあるが、トライアル ラボ店は社員向けの実験店舗であり、万引きリスクがない。万が一個数がズレてしまっていても、失敗データを確実に残せる可能性が高いというのも実証実験を始められた一つの要因だろう。

RFIDが読み取りにくいものを多く詰め込んだ結果、4回中1回だけ読み取ることができなかった
ウォークスルー型RFID会計ソリューションの後ろに立つ、パナソニック 松本 宏之氏と大澤 香織氏

パナソニックの立ち位置

電子タグのRFIDは、従来のバーコードからの置き換えを目指すものとして期待されている。冒頭の経済産業省が音頭を取り、セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンなど小売各社、そしてパナソニックや日本電気(NEC)、富士通などのベンダー各社などが協力して普及を目指している。

現在の電子タグ製造コストは1枚10数円のコストがかかる。ただ、普及にあたっては「10円チョコでも運用可能な、商品価値が下がらない形で運用したい」(パナソニック 執行役員 青田 広幸氏)。RFIDが1円にも満たないコストになれば、バーコードのプリント感覚で利用されるようになる。

実証実験では手作業でRFIDを貼り付ける。こうした煩雑さも、コスト高を招く要因として改善が期待される

RFIDの魅力は、従来は製品単位で管理されていたものが商品一つひとつの"個体管理"ができるようになる。例えばお弁当で(万が一)おかずが抜けていた場合になぜその事態が起きたのか工場側で原因究明が可能になる。また、賞味期限が切れてしまった個体をラック内で検知するといったこともできるため、店員が全商品を確認する必要がなくなり、ロボティクスとの組み合わせでは商品入れ替えの自動化も目指せるというわけだ。

経産省が2017年4月に公表した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」は、まさにこうした付加価値を小売の現場だけでなく、サプライチェーン全体の最適化を目指したもので、1年間でコンビニ事業者が取り扱うアイテム1000億個すべてに電子タグを貼付する未来を描いている。

目標年度は2025年と遠いようですぐそこの未来。これを実施するには、店頭でバーコードのように貼付するよりも、商品の製造や機器ベンダーの協力が必要だ。そのため、前述の通り流通でさまざまな機器を納入する電機各社や大日本印刷、凸版印刷といったプリンティングベンダーがこの宣言に参画している。

中でも前のめりなのがパナソニックだ。この宣言でも、たたき台としてローソンとの共同実験「レジロボ」の成果報告を行っている。1月の特集でも取り上げたパナソニック スマートファクトリーソリューションズ 小売・物流システムビジネスユニットのビジネスユニット長であり、取締役の足立 秀人氏は、今回の実証実験でも「経産省指導のもと、一緒にやってる。2018年度以降も同様の取り組みで進めていく」と話す。

パナソニックは、メーカーから物流、小売、消費者まですべてのレイヤーで接点を持つ。その立ち位置を活かして一気通貫で統合プラットフォームを提供できるというのが前のめりになっている理由だ。もちろん、デバイスを作れる強みから、今回のウォークスルー型ソリューションに加えてレジロボでも提供したスマートシェルフなど、ハードウェアとソフトウェアの融合で価値を提供していく腹づもりだ。これこそが、パナソニックの最大の強みなのだろう。

一方で導入側の小売店も、自身で試行錯誤を続けている。パナソニックの実証実験相手であるトライアルカンパニーは、スマートカメラを活用した商品の動向分析を実店舗の「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」で2月14日にスタートした。こちらもパナソニックと、Remmo社の3社で行う取り組みだが、トライアルカンパニーのシステム子会社「ティー・アール・イー」で独自開発した技術も活用するという。

店内には計700台のカメラを設置。そのうち100台はパナソニックのスマートカメラで、来店者の属性や行動を分析する。不特定多数の撮影・分析にはプライバシーの懸念があるが、このカメラではデバイス内で人物の検出と年齢・性別を分析し、その結果のみがクラウド上に送信される。映像自体はデバイス内で完結するため、消費者にとって、そしてネットワーク負荷を気にする小売店にとっても優しい作りとなっている。

スマートカメラ(左)で分析したデータ(右、デモ)。ヒートマップ化することで、導線分析なども可能になる

また、残りの600台についてはVAIO社製スマートフォンを活用して、トライアルカンパニーが開発したAIによる画像認識で商品棚の陳列状況・購買行動分析を行う。陳列してある商品を顧客が取った場合に、個体を検知・認識して商品の欠品状況や鮮度落ちなどを把握する。カメラとしてスマートフォンを利用しているものの、こちらは映像データを店舗内で一旦集約して分析する。

VAIO Phoneを活用して商品管理を行う

現時点ではデータの収集・集積段階であり、欠品している棚の従業員への通知や、鮮度落ちの商品入れ替えなどは実業務として行っていない。ただ、こうしたAIによる商品管理の仕組みは米Amazonのスマートストア「Amazon Go」でも行われており、「RFIDありきというよりも、さまざまな技術を活用して多角的にスマートストア化を目指したい」(説明を担当したトライアル・シェアードサービス 代表取締役社長 矢野 博幸氏)。

トライアルカンパニーは全国展開する中堅小売業だが、流通業向けにITシステムをこれまでも開発してきた。この画像認識技術や分析ツールを流通業向けに拡販していく構想もあるとしており、実店舗を運営する立場だからこそわかる悩みを解決するソリューションの存在は、他社にとっても脅威となりそうだ。

MS人脈がAzure導入に影響?

これらの取り組みの裏には、すべて「クラウド」が存在する。米AmazonのAWS、米MicrosoftのMicrosoft Azure、米GoogleのGoogle Cloud Platformが主なプレイヤーだが、ウォークスルー型RFIDソリューションではAzureが利用されていた。

というのも、日本マイクロソフト幹部が当日、登壇こそしなかったものの、会見場に姿を見せていた。パナソニックの足立氏が、ソリューションの説明で「経産省指導のもと、(現場のデバイスから)吸い上げたデータを国際規格に準じて保管する」と語っていたように、今のITソリューションでいちばん大切なものはデータだ。

冒頭の経産省 藤木氏も「全体が効率化される、そこで合理化される、データ共有で新しい価値が生まれる流通の効率化」と語る。国としても、もはやクラウド基盤を活用することは当たり前であり、むしろ「データを活用して何を生み出すか」を念頭に置いている。

パナソニックでB2B事業の主担当者であるコネクティッドソリューションズの社長 樋口 泰行氏は前日本マイクロソフト 会長。この新ソリューションでAzureを採用したことは、ある意味で当然の流れとも言えるだろう。一方で協業相手のトライアルカンパニーは、データ分析基盤に最大手であるAWSを活用しているとみられる。

米国では、小売大手のウォルマートが、自社データセンター+Azureの利用を公言する一方で、取引先を含めAWSの使用を禁じたとも言われている。日本でも楽天がウォルマートと提携し、ソフトバンクらがイオンと提携するなど、小売・流通で「対Amazon」の構図が鮮明となっている。もちろん、AWSは別組織化されており、データ機密に関する取扱レギュレーションも厳格だ。それは、金融業の最大手、三菱東京UFJ銀行がAWSを軸にサービス開発に取り組む方針を打ち出したことからも理解できるものだ。

しかし、ECの黒船であるAmazonというポジションは、やはり心象的にAWSへの抵抗感も生むだろう。そうした環境で対抗するMicrosoftとGoogleはどう立ち振る舞うのか。三大都市圏から離れた福岡の地で垣間見えた"クラウド戦争"が流通改革を後押しできるか、期待したいところだ。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。