インバウンドに新提案、「ガストロノミーツーリズム」の可能性

インバウンドに新提案、「ガストロノミーツーリズム」の可能性

2018.02.28

“食”を通じ、その土地の歴史や文化などを体験する「ガストロノミーツーリズム」。日本では聞きなれないが、海外では浸透している概念と聞く。インバウンドは増え続けるも“爆買い”には一服感のある日本で、次の一手としての“食”の旅には可能性を感じる。

ガストロノミーツーリズムとは

2月5日、国連大学で開催された「ガストロノミーツーリズム in Japan シンポジウム」に出席して、この概念が日本にフィットしそうだと思った。本稿ではシンポジウムで聞いた話を含め、インバウンド客に対する新たな提案として、また地方創生に向けた施策として、今後も十分な検討が必要と思われるガストロノミーツーリズムについてお伝えしたい。

まず、ガストロノミーツーリズムの定義だが、シンポジウムでは「その土地の気候風土が生んだ、食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」を意味すると紹介された。

まだまだ認知度の低い「ガストロノミーツーリズム」

食文化を通じ、その地域を体験するのがガストロノミーツーリズムだ。異なる文化を理解するための、ひとつの橋渡しが“食”なのである。

食べもの単品ではなく食文化としての訴求

ガストロノミーツーリズムの利点としては、①地域で差別化やユニークポジショニングが可能、②訪問客にかつてない新しい価値観や体験を与えることができる、③観光資源が乏しい、または未開発の地域でも始めることができる(小さな村でも起こせる)、④内容の紹介が容易でありストーリーを語りやすい、⑤訪問地域への高いロイヤルティーを生み、再訪意識をもたらすことができるという5つが紹介された。

“食”との掛け合わせで可能性が広がる

当然のことながら、日本における“食の旅”で主役になるのは和食だ。和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたことは多くの日本人に認識されていると思うが、注目したいのは、和食が「日本人の伝統的な食文化」として、ユネスコの認定を受けているところだ。つまり、単品の食べ物としてではなく、文化として評価を受けているわけだ。

シンポジウムで聞いたところによれば、地域における観光資源と食を組合わせた取り組みは、官主導のケースと民主導のケースが入り混じってはいるが、日本各地で取り組まれているとの報告があった。

日本酒の聖地? 飛騨高山の取り組みとは

日本における好例として、シンポジウムでは飛騨高山の地酒ツーリズムが紹介された。

白川郷や下呂温泉など、近くに有数の観光資源を有し、年間700万人の観光客(うち70万人は海外から)が訪れる飛騨高山。この地では従来から、地酒を観光資源として活用していたが、取り組み方は酒蔵ごとに異なっており、例えば酒蔵見学をオフの日に限定したり、試飲は無料で少量を提供したりといった具合だったそうだ。

天領酒造の社長で飛騨地酒ツーリズム協議会会長を務める上野田隆平氏が語ったところによれば、地酒を使った観光についての考え方が変わったのは、ワインの産地として有名なカリフォルニア州のナパを訪れた時だった。ナパのワイナリーでは、いつでも見学を受け入れる体制が整っており、試飲は有料(それも数千円)なのだが、それでも多くの観光客が来訪し、ワインを購入していたという。ナパ視察後、上野田氏らは地域の酒造組合で討議したが、多くの蔵元は試飲の有料化になかなか納得しなかったそうだ。

「日本酒の聖地」と打ち出す飛騨高山

日本人の清酒消費量が減り、地域の酒蔵も減少する中で、飛騨高山を「訪れる町」から「楽しむ町」に変えていこうとの理念のもと、飛騨地酒ツーリズム協議会が設立された。その理念に賛同する酒蔵と連携し、協議会では有料試飲に取り組んだり、飛騨の酒蔵紹介チラシを英語で作るといった施策を進めた。酒蔵と風光明媚な観光資源、そして地域の食材を組合わせ、「見る、飲む、買う」をメインに体験する観光地へと飛騨高山を変貌させていったのだ。

バリューチェーンの構築も不可欠

シンポジウムではガストロノミーツーリズムで大切にすべきものとして、バリューチェーンの重要性についても語られた。特に重要なことは、素材商品をそのまま取り上げるのではなく、加工や商品開発を通じ、商品として創り上げること。そして、単品として取り上げるのではなく、飲み物との組み合わせや観光資源との組み合わせにより、「持続可能な地域づくりにつなげる」ことがバリューチェーンであるとした。

それぞれの商品、商材の持つ価値をつなげることで、相乗効果を生み出すのがバリューチェーンだ。単に素材だけを取り上げることで、町に名産品を作るだけではチェーンにならない。

バリューチェーンを構築することで広がりと深みが出る

チェーンによる相乗効果をより生かすのが、ストーリーの存在だ。どこの町や村にでもあるものを取り上げては独自の文化になっていかない。素材や産品にまつわる背景や地域の特性をいかすことにより、初めてガストロノミーツーリズムの定義に当てはまる。

日本の食文化に対する関心は高い

従来の地域おこしにおいては、神社・仏閣をはじめとして地域における観光資源と呼ばれるものや食べ物、飲み物がそれぞれバラバラに取り上げられていたと思われる。それらを組み合わせることで、相乗効果を発揮させるのがガストロノミーツーリズムだ。

数年前にアジアからの観光客による爆買いが話題になったことは記憶に新しいが、当然ながら、売っているモノだけが日本の魅力ではない。また、日本の食といっても、高級料理店をターゲットに来訪する人も、実際のところそれほど多くはない。

海外からの旅行客が最も関心を持っているのが日本の食だ

日本にはまだまだ多くの観光資源が眠っている。海外からの観光客を待つまでもなく、日本の旅行客の中にも、「体験型」や「食文化」に興味を持ち、訪問先を探している人は多いだろう。

ガストロノミーツーリズムの概念を取り入れることは、地域の人達にとっても、自分が住む場所の魅力を再発見することにつながるのではないだろうか。そして、食文化を中心とした本当の意味における町づくり、地域創生につなげることもできそうな気がする。今回のシンポジウムに参加し、地域の魅力づくり、そして新しい価値づくりのヒントとして、この「ガストロノミーツーリズム」という切り口が有効かもしれないと感じた。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。