クルマの電動化は2018年が正念場、メーカーの勝敗を分けるのは?

クルマの電動化は2018年が正念場、メーカーの勝敗を分けるのは?

2018.01.04

ZEV規制強化のインパクト

2018年から、クルマの電動化はいよいよ正念場を迎える。米国カリフォルニア州での「ZEV規制」が、厳しさを増して開始されるからである。

実質的には、2017年9月から販売される新車は2018年モデルとされるため、すでにZEV規制の2018年版は始まっているといえる。その内容は、新車販売の4.5%を燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)のクルマにするよう各メーカーに求めるというもの。この規制は、カリフォルニア州のほかに8州(コネチカット、メリーランド、マサチューセッツ、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バーモント)が調印している。

カリフォルニア州では、およそ200万台の新車が毎年販売されており、その4.5%というと9万台になる。ちなみに、カリフォルニア州で2017年に売れたEVは推計で約5万台だ。直接の比較にはならないが、身近な数字として、日産自動車「リーフ」の日本における年間販売台数は多くて1.5万台ほど。ZEV規制は必ずしもEVだけで達成すべきものではないが、9万台というのが相当な台数だと感じていただけるのではないだろうか。

日産「リーフ」の日本における販売台数は多くて年間1.5万台規模

その市場へ、日本の自動車メーカーもEV、PHV、FCVを数多く販売していかなければならない。全体のたった4.5%といえども、少なくない数字だ。

さらに、ZEV規制は翌2019年に7%、2020年には9.5%となって、新車販売台数の約1割に達する。以後も義務台数は毎年増え続け、2024年には19.5%、すなわち5台に1台はEVまたはPHVとしなければならない。しかも、PHVの比率を下げなければならない規制もあわせて進められる。つまり、早急にEVの販売台数を軌道に乗せていかなければならないのである。この流れを考えると、2018年は具体的な行動が求められる年となるのだ。

要求されるのは販売台数

トヨタ自動車は先日、クルマの電動化技術に関する説明会を開き、1997年の「プリウス」発売以来、約20年にわたる開発の過程で「電動化技術は磨かれている」と語ったが、この自信だけではZEV規制を乗り切れない点には注意が必要だ。

トヨタがHV「プリウス」で磨いてきた電動化技術はEVなどにも応用可能だが、応用しただけではZEV規制対策として十分ではない

つまり、EVを売り出しただけでは規制を満せないのである。実際に、顧客が買った台数が義務パーセンテージに達しなければならないことを確認しておく必要がある。EVを作る上で電動化技術が必須なのは言うまでもないが、そのクルマが消費者に買ってもらえる魅力や商品性を備えたものであるかどうかも、ZEV規制への対応には同じくらい重要なファクターとなる。

十分な航続距離は前提に? どんなEVを作るべきか

では、買ってもらえる商品性とは何か。EVとして、航続距離などの性能が顧客の望む域に到達しているのはもちろんのこと、例えば、コネクティビティやデザインなどを含め、総合力が高く、先端技術が程よく盛り込まれたクルマでなければならないだろう。もはや、走行距離が短いとか十分だとかという議論ではなく、情報・通信を含めた先進性や、それを使いこなせるインテリアデザイン・装備、また時代を牽引するような魅力あるスタイルのEVでなければならないのである。

航続距離の長短でEVを議論する時代は早晩、終わるかもしれない(画像は東京モーターショー2017で撮影したホンダの「Honda Urban EV Concept」)

では、どのようなEVであればいいのか。答えは各メーカーが模索していくことになる。とはいえ、叩き台となるヒントはあるはずだ。

テスラに見る先進的で独自のEV

米国のテスラは、世界が注目するEVを作るメーカーだ。「モデルS」は400~600キロの航続距離を持つのみならず、キーを持ってクルマに近づけば自動的にロックが開錠され、ドアノブが手前に出てくるといったような先進性を示す。そして乗り込めば、イグニッションスイッチを入れるまでもなく、自動的にスイッチはONの状態となっており、いきなりシフトレバーを「D」へ操作し、アクセルペダルを踏み込めば走り出せる。

「モデルS」(画像)はキーを持って近づけばドアノブが出現し、乗り込めばスイッチはONの状態となっている(画像提供:テスラモーターズ ジャパン)

最新のIT機能を使い、所有者個人の認証がなされるなら、わざわざキーでドアロックを開錠したり、イグニッションスイッチを押したりする操作を運転者が行わなくても、走り出せるはずだという、エンジン車の時代には想像できなかったクルマと人との関係性が生まれている。

一方で、テスラのデザインは比較的オーソドックスだが、それでも簡素な造形の中にテスラならではの独自性が表現されている。その独自性は、モデルSに続く「モデルX」や「モデル3」へも継承されている。とはいえ、金太郎飴のように形が同じで大小のみ違うといった単純なデザインではない。

テスラ初の量産モデルとなる「モデル3」(画像)も同社の哲学を受け継ぐ(画像提供:テスラモーターズ ジャパン)

そうしたことに共感を覚えるからこそ、モデル3では、テスラが販売予約の受け付けを開始して間もなく、2016年の段階で30万台の受注を獲得し、約1年後には予約数が50万台に達したのだ。予約を入れ、納車される前に充電器を家に設置して待つ顧客が居る。そんなEVでなければ、ZEV規制を達成することはできない。

では、ZEV規制を達成できないとどうなるのか。

しばらくはクレジット購入が続きそうな日本勢

ZEV規制を達成できないメーカーは、EVなど規制を満たすクルマを数多く売っている他のメーカーから「クレジット」と呼ばれる温室効果ガスの排出枠を購入するか、カリフォルニア州の大気資源局へ罰金を支払わなければならない。

テスラはEVしか販売していない自動車メーカーなので、販売台数の100%が規制に適合する。例えば2018年の4.5%でいえば、95.5%分が余剰となる。従って、その95.5%に相当する台数分を、ZEV規制を達成できていないメーカーへ売ることができる。これが、クレジットの売買だ。

日産はリーフを米国で販売しているが、トヨタ、ホンダ、マツダ、スバル、スズキなどの国内メーカーは、量産EVとして数多く販売できるクルマを手駒として持っていないので、クレジットを購入するか、罰金を支払うしか選択肢がない状況にある。エンジン車やHVを売れば売るほど、その台数の4.5%分のクレジットに資金を使わなければならないのだから、まともに収益を得ることができなくなってしまう事態も起こり得るのだ。

スバルは東京モーターショー2017に水平対向エンジンによるハイパフォーマンスな走りを打ち出すコンセプトモデル「SUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」を出展(左)、マツダは革新の次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を積むコンパクトハッチバックコンセプト「マツダ 魁 CONCEPT」を展示した

日本メーカーにとって、カリフォルニア州は重要な市場であるにもかかわらず、世界的に見れば一部市場での対応と、やや気長に考えてきた節がある。だが、そこに昨2017年の世界的な電動化への移行の動きが起き、慌てているといった様子が見受けられるのである。

より厳しい規制を準備中の世界最大市場・中国

これまでに述べてきたように、提携によって電動化技術の融通をしたとしても、結果として買ってもらえるEVを発売できなければ、クレジットを買い続けなければならないかもしれないのである。ここで問われるのが、単に機能だけではない次世代車という商品概念の構築だ。また、あのメーカーのクルマなら乗ってみたいという、ブランド力も問われることになるだろう。

テスラはスポーツカーの「ロードスター」(初代は左、右は2017年に発表となった2代目)からEV作りを始めた(画像提供:テスラモーターズ ジャパン)

ZEV規制と同様の内容で、中国ではNEV(ニュー・エナジー・ビークル)規制が始まろうとしている。2019年から10%をEV、PHV、FCVにしなければならない。2020年には12%へと規制は強まる。これは2019年に7%、2020年に9.5%とするZEV規制より厳しい数値だ。

トヨタが2019年から中国でEVを発売するとしたのも、こうした背景があるはずだ。だが、中国で売れるEVと、米国で売れるEVとは、商品性が異なるのではないだろうか。実際、中国メーカーが開発したEVを合弁会社で生産するという話も出ている。正式には、2020年から中国でEVを販売するとトヨタは表明しているが、内製主義を貫いてきたトヨタが、それをかなぐり捨ててでもEVの販売を急がなければならない状況が迫っている。

2018年は、商品力を備えたEVの市場投入に向け、世界の自動車メーカーにとって正念場となるのである。

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ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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