【ファーストリテイリング】トレンドの変化が激しいアパレル業界の荒波を、M&Aで漕ぎ進む

【ファーストリテイリング】トレンドの変化が激しいアパレル業界の荒波を、M&Aで漕ぎ進む

2016.06.28

【ファーストリテイリング】トレンドの変化が激しいアパレル業界の荒波を、M&Aで漕ぎ進む

 UNIQLO、GUなどのファッションブランドを展開するファーストリテイリング<9983>は、独自ブランドであるUNIQLOの自社展開と並行して、M&Aを活用して新規ブランドの獲得を行ってきた企業である。ファーストリテイリングの中核企業であるユニクロは、柳井正氏の父親・柳井等氏によって1949年に山口県宇部市で創業された。今や国内で800店舗以上を展開(2016年3月末時点)するユニクロだが、84年の1号店(当時はユニーク・クロージング・ウエアハウスという屋号で広島市に開店)出店からわずか30年の間での出来事である。ユニクロの出店を行う一方で、M&Aを活用してブランドのラインアップの拡大を目指している。

 ファーストリテイリングのM&A戦略は、非常に明確化されており、2つの目的をもって行われている。まず1つ目に、海外や新しい市場でユニクロのビジネスのプラットフォームを獲得することである。M&Aによって、小売業で最も重要な店舗開発、人材育成などを新しい市場でも短期間で高い水準にすることができ、優れた経営人材の獲得も可能であるという大きなメリットを享受することが背景にある。2つ目に、グローバル展開の可能性のあるブランドを買収し、事業ポートフォリオを強化・拡充することである。この2つの戦略をもとに一貫性を持ってM&Aを行ってきたことが、ファーストリテイリングの特徴である。

■ファーストリテイリングの行った主なM&A

年月 内容
1949.3 柳井等氏、メンズショップ小郡商事(ユニクロの前身)を創業。
1994.7 広島証券取引所に上場
1997.4 東京証券取引所二部に上場
2002.2 東京証券取引所一部に上場
2004.1 アパレルブランド「セオリー」を展開するリンク・インターナショナル(現リンク・セオリー・ジャパン)へ出資
2004.2 レディースアパレルショップ10店舗を展開するナショナルスタンダード(売上高5億円)の第三者割当増資を引き受け、株式71.8%を1億4000万円で取得し、子会社化
2005.3 靴の小売店「フットパーク」など330店舗を展開するワンゾーン(売上高253億円、営業利益▲5億円、純資産▲178億円)の全株式を取得し、完全子会社化
2005.5 欧州でフレンチカジュアルブランド「コントワー・デ・コトニエ」を展開するネルソン・フィナンス(売上高115億円)の株式31.53%(議決権割合51%)を取得し、子会社化
2005.8 日本においてASPESIブランドを展開するシールド(売上高13億円)の株式60%を3億4500万円で取得し、子会社化
2006.2 フランスを中心に欧州でランジェリーブランド「プリンセス タム・タム」86店舗を展開するプティヴィクル(売上高91億円)の株式95%を100億円で取得し、子会社化
2006.3 子会社のナショナルスタンダードを解散
2006.3 新規事業のジーユーを設立
2006.4 婦人服専門店を展開するキャビン(売上高201億円、営業利益▲6億円、純資産243億円)の株式25.7%を取得
2006.6 ネルソン・フィナンスの株式を追加取得し完全子会社化、株式100%の買収総額は260億円
2006.8 キャビンの株式18.43%を公開買い付けにより58億円で追加取得し、子会社化
2006.10 婦人靴専門店97店舗を展開するビューカンパニー(売上高105億円、営業利益5億円、純資産13億円)の第三者割当増資を引き受け、株式33.4%を取得
2006.12 仏子会社にネルソン・フィナンスの事業を譲渡の上で法人を解散
2007.8 キャビンの株式44.03%を公開買い付けにより130億円で追加取得
2008.3 ビューカンパニーの株式65.57%を公開買い付けにより29億円で追加取得
2008.7 アスペジ・ジャパン(旧シールド)の保有株式全部を売却
2008.12 GVOリテイリング(旧ワンゾーン)にビューカンパニーの事業を譲渡の上で法人を解散
2009.3 リンク・セオリー・ホールディングス(売上高599億円、営業利益20億円、純資産112億円)の株式66.12%を公開買い付けにより183億円で追加取得し、子会社化
2010.7 リンク・セオリー・ジャパンとキャビンを合併
2012.12 米国でコンテンポラリーブランドを展開するJ Brand ホールディングス(売上高102億円、営業利益26億円、純資産16億円)の株式80.1%を246億円で取得し、子会社化
2014.3 香港証券取引所に上場

 上記の年表の通り、ファーストリテイリングはM&A後も買収した事業の再編を絶えず行っていることが分かる。05年3月に買収したワンゾーンは、08年にGOVリテイリングと社名を変更した上でビューカンパニー及びジーユーの事業を統合した。最終的にはファーストリテイリングの方針で靴事業は再編・縮小が図られ、GOVリテイリングは社名をジーユーに変更し「GU」ブランドのみを展開することになる。一方の靴事業は「UNIQLO SHOES」に集約して規模を大幅に縮小させるに至る。また、06年8月に子会社化したキャビンはリンク・セオリー・ジャパンと合併させ、展開ブランドを廃止、店舗を別ブランドへ転換した。このように、ファーストリテイリングは、買収した事業の再編を絶えず行っており、買収した企業を含めたグループ全体で経営していることがうかがえる。

 ここで、下のセグメント別売上高推移の図表を見ていただきたい。


■セグメント別売上高推移

 海外ユニクロ事業の売上高の伸びに目が行ってしまうが、注目すべきはグローバルブランド事業の売上高の伸びである。グローバルブランド事業の主な構成内容は、ジーユー、セオリー、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タム、J Brandであり、ジーユーを除く4ブランドはM&Aにより買収したブランドである。過去、靴事業やキャビンもグローバルブランド事業に含まれていた。

 グローバルブランド事業の売上高推移をさらに分解すると、下記図表のようになる。

■グローバルブランド事業の売上高推移

(出所:会社IR資料等より編集)

 棒グラフは、M&Aにより買収したブランドの当時の売上高、ジーユーは調査可能なものを積算した数値を示しており、折れ線グラフはグローバルブランド事業全体の売上高を示している(買収した月が決算期の半ばである場合があるため、グローバルブランド事業全体の売上高を超過している年度もある)。図表を見ると、M&Aをしたブランドが売上高の伸長に大きく寄与していないことが分かる。これは買収した企業の再編を行っているためで、売上高が伸長しているブランドもあるが、グループ全体に占める割合は軽微である。従って、先のセグメント別売上高推移と合わせると、ファーストリテイリング全体の好調な業績を支えているのは「UNIQLO」ブランドの海外展開と「GU」ブランドの積極展開であると言える。

 これらから、同社にとってM&Aの効果は極めて限定的である。アパレル業界はトレンドの移り変わりが早く、自社立ち上げ、M&Aともに難しい部分があることの証左とも言える。

 次に、資産の状況について下記の図表を見て頂きたい。

■総資産額の推移等

 毎年自己資本を積み増しており、自己資本比率もおおむね60~70%程度で推移している。また、のれんが総資産に占める割合も15年8月期で2%程度で、減損した際に財務状況に与える影響は軽微である。そういった点においては、財務状況は非常に健全である。

 しかし、先述した通り、アパレル業界はトレンドの移り変わりが激しいため、今の「UNIQLO」と「GU」の二本柱では他の企業に比べて事業リスクが相対的に高い。下記図表(ファーストリテイリングHPより抜粋)に記載がある通り、世界的に展開している他のアパレル製造小売業者を見ても事業規模は見劣りしないが、世界的に展開しているブランドが「UNIQLO」のみという点において、やはり事業リスクが高い。

■アパレル製造小売業者の事業規模上位5社

会社名(国) 売上高 展開ブランド
インディテックス(スペイン) 2兆4600億円 「ZARA」「PULL&BEAR」「Bershka」など
H&M(スウェーデン) 2兆1700億円 「H&M」「COS」「Monki」など
GAP(アメリカ) 1兆9900億円 「GAP」「Banana Republic」「Old Navy」など
ファーストリテイリング(日本) 1兆6790億円 「UNIQLO」「GU」など
L Brands(アメリカ) 1兆3800億円 「Victoria’s Secret」「Bath & Body Works」など

(出所:ファーストリテイリングウェブサイト)

 これらの事業リスクを踏まえ、「UNIQLO」の世界展開と並行して、自社立ち上げおよびM&Aを通じたブランドラインナップの強化は、最優先事項といえる。ファーストリテイリングは、財務状況が健全である時こそ攻めの経営をしていく必要があると言える好例であり、いくつかのM&Aの失敗も必要経費と捉えることができるだろう。実際、アパレルという業態においては廃止ブランドの店舗はブランドの転換が利くので、一概に失敗とも言えない。ファーストリテイリングというと「UNIQLO」というイメージが先行してしまうが、これからは同社のM&A戦略にも注目したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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