ソニーだから回せるSAP、コア事業にも影響し始めたSAP

ソニーだから回せるSAP、コア事業にも影響し始めたSAP

2018.01.11

2014年4月に、ソニーで誕生したのが「Seed Acceleration Program」、通称・SAPだ。代表執行役社長 兼 CEO の平井 一夫氏の肝いりで始まったプロジェクトで、「新たなビジネスコンセプトをスピーディに事業化する」というミッションを背負っている。

現場でSAPを統括するソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長の小田島 伸至氏は、SAPのコンセプトについて「ソニー本体が手がける既存の事業体と被ることなく、飛び地を開拓しなくてはならない、新規事業創出専門の事業といえる。スタートアップに着目した組織として誕生しているが、事業を継続的にやっていくことがミッションだ。起業家人材を育成しつつ、ソニー社内にいる匠の人材を束ねてプロ集団にしていくのが狙いであり、このコンセプトは3年が経過していまでも変わらない」と話す。

ソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長 小田島 伸至氏

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

SAPは、単に電機メーカーが社内スタートアップを支援して、「新しいハードウェアを量産しよう」としているわけではない。小田島氏は「SAPの基本はプラットフォーム型にある。コアをソニーが持ち、他のプレイヤーが得意なコンテンツを持ち寄ってくれる世界を目指している」と語る。

確かに、SAPが事業化したものを見ると、プラットフォームとして機能しているものばかりだ。例えば「AROMASTIC」という5種類の香りを持ち運べるカートリッジ式のパーソナルアロマディフューザーがある。本体のボタンを一押しすると、気体拡散方式(ドライエアー方式)により、自分だけがアロマの香りを楽しめるようになっている。

SAPとしては、本体やカートリッジなどのプラットフォームを構築する一方、香りのオイルは、イギリスのニールズヤードレメディーズやyuicaなどのアロマを専門とする会社が提供する。「アロマ業界はソニーにとってはまさに飛び地。飛び地なので、全く新しい販路を開拓しないといけない。しかし、飛び地にソニーのフラグを立てることに価値がある」(小田島氏)。

一方、SAPでの取り組みが成功し、ソニーの将来に欠かせない存在になったことで、ソニーグループに取り込まれた事例もある。

Qrio Smart Lock

スマートロックの「Qrio」はもともと、ベンチャーキャピタルのWiLと組んで会社を立ち上げた。しかし、2017年8月に「ソニーのスマートホーム戦略に合致する」として、nuroなどを手がけるソニーネットワークコミュニケーションズ(SNC)に移管され、同社の子会社となった。

「Qrioはサービスのアイデアが豊富で、ユーザーに刺さる提案ができている。一方でSNCはネットワーク関連の知見が豊富。いま、SNCには家の中でつながる製品が集められており、Qrioと連携すれば誰がいつ、帰ってきたかがわかる。これから面白い提案が期待できそうだ」(小田島氏)

現在、SAPのある新規事業部門のトップは十時裕樹氏が担当だ。十時氏はXperiaを手がけるソニーモバイルコミュニケーションズの社長でもあり、SNCの社長でもある。「スマートホーム戦略は十時が俯瞰して見ている。彼の知見と判断を仰ぎながら、SAPを進めている」(小田島氏)

今後、あらゆるものがネットにつながる時代になっていくが、十時氏がSAPをはじめとして、ソニーモバイルやSNCを見ていることもあり、IoT時代におけるネット連携にも強みを発揮できることになりそうだ。

欧州部隊が日本のSAPに与えた影響

SAPでは1年目に社内外の人が集まり、ワークショップなどを行ったり、試作機を作れる「Creative Lounge」を設立。2年目には早くもプログラムのなかから製品化したものが出てきた。3年目以降は社外のスタートアップを対象にしたオーディションを実施。さらにスウェーデンに「SAP Europe」を設立するなど、海外展開も始まっている。

小田島氏は「スウェーデンはもともとソニーモバイルのR&D施設があり、世の中に全く新しいモノを出していきたいという人が多かった。いまではヨーロッパのSAPが独自に進化し、その取り組みが日本に反映されているものもある」と語る。

SAPでは、ビジネスアイディアを審査するオーディションが開催されるのだが、SAP Europeではその模様を、社員食堂などでライブビューイングするという試みが行われた。そうしたことにより、ほかの社員を巻き込み、気づきを与えることにつながったため、日本でもライブビューイングが導入されたのだという。

オープン・スペースや社食などでオーディションをライブビューイングする。そうした環境が、新たな"起業家候補"を生み出す

そんなSAP Europeから生まれた第一号の事業化案件として、スマートオフィスソリューションの「Nimway」がある。ソニー独自の屋内位置情報認識技術を活用し、オフィスの会議室の場所や空き状況、同僚の居場所が一目でわかるというものだ。ヨーロッパではフリーアドレスのオフィスが多いことからニーズが高まっている案件で、スウェーデン企業の導入を起点に、ヨーロッパ各国の大手企業らが導入を検討しているという。

小田島氏は「フリーアドレスのオフィスは、欧州では圧倒的に多いが、日本ではまだ導入しているところは少ない。日本でフリーアドレスのオフィスが増えたときには、向こうで完成度が高まったNimwayを日本に導入できるのではないか」と期待する。

Nimwayはスマホ、デジタルサイネージの双方で簡単に位置情報、空き情報などを確認できる

まもなく丸4年を迎えるSAPだが、小田島氏はいまの課題はどこにあると見ているのか。「SAPとして売上げは伸びているが、スケールしているとは言えない。そこはこれからだと思う。ここ数年で、ソニーグループ全体は回復したが、我々、SAPとしての尺ではスケールできていない」と振り返る。

スタートアップはいずれも規模を拡大させるところで、大きな壁にぶつかってしまう。そんななか、今後、SAPが規模を拡大させていくなかで、他のスタートアップやインキュベーションプログラムにはない「強み」といったものはあるのだろうか。

「組織が大きくなると、それだけ収益化が難しくなる。また、モノを安く作るために大量生産すれば、今度はそれらをたくさん売るのが課題になる。すると、今度はマーケティング力やPRの力が必要となってくる。つまり、モノをたくさん作って売ろうと思えば、それらを支えるオペレーション部分が重要になる。多くの会社は資金調達して人材を増やしてしまい、それでなかなか黒字化できなくなりがちだ。その点、ソニーは長年の知見からオペレーション部分の効率化はかなり得意だ。そうしたオペレーションの得意なメンバーが、SAPに入ってくることで、さらに効率化できる」(小田島氏)

実際、SAPには事業に応じて、オペレーション部分のサポートを専属、あるいは"本業"と兼ねてサポートしているメンバーがいる。こうすることで、複数の事業を効率よくサポートできる体制が整っているようだ。

SAPはオーディションによる振るい落としだけでなく、トレーニングも行われる。優秀なアイデアは新規事業創出部へ各部員が異動し、フルタイムで事業化を目指す。水準に満たない場合でも「SAP Basic」として週に1回、2割をプロダクトのブラッシュアップに割くことができる

SAPプロダクト、一つの区切りは「後任へのバトンタッチ」

2017年には、FESWatchの新モデル「FES Watch U」が登場し、wena wristも新モデルが発売された。後継機種が発売されることで、製品の完成度も増してきたように思う。

小田島氏は「2世代目の開発はとても楽だ。開発者たちに経験と知見が貯まっており、さらにみんな、小型化していくなど明確な目標ができ、開発に貪欲になっているからだ。wena wristは今後、普通の事業になっていくのではないか」と語る。

ここで気になるのが、メンバーたちのモチベーションだ。そもそも、新しいことを立ち上げたくて集まってきたSAPのメンバーたちだが、事業として成功し、ゴールテープを切ってしまうと、今度はまた新しいことをやりたくなってくる人たちではないのだろうか。

小田島氏は「wena wristなどはまだ改善し切れておらず、しばらく続くだろう。しかし、開発者たちのモチベーションがなくなるようなことになったら、違う人にバトンタッチすれば良いのではないか。良い例がPlayStationで、プロジェクトのメンバーが世代交代をして、製品も進化してきた」と話す。

ハードウェアのスタートアップとして、ぽっと出で一つの製品を出して終わるだけでなく、wena wristのように後継機種を複数、発売できる事業がようやく出始めた。将来的にソニーの屋台骨となるような、開発メンバーが世代交代して進化し続ける製品やソリューションを生み出せるようになると、SAPの評価も一気に上がることになりそうだ。

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

2019.03.20

モバイル業界を変える「携帯値下げ議論」が過熱

ファーウェイは日本を取り巻く環境を「歴史的チャンス」と発言

コスパ高いミッドレンジ端末でシェア拡大を目指す

20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
関連記事
Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

2019.03.20

Googleが新しいゲームプラットフォームを発表

配信方式でゲーム機不要、「ゲーム機」の時代の終焉?

2019年内にローンチ、性能はプレステやXbox以上か

3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

関連記事