JR九州が「蓄電池式電車」の導入を進めるねらい

JR九州が「蓄電池式電車」の導入を進めるねらい

2018.01.11

BEC819系の車体や車内設備は、この817系電車を基本としている

JR九州は、車両に搭載した蓄電池の電力でも走行できる電車「BEC-819系」の営業運転を、2016年10月より、筑豊本線(若松線)折尾〜若松間で開始した。続いて、2017年3月4日のダイヤ改正からBEC-819系の増備車も投入して、同区間の列車をすべて蓄電池式電車に置き換えた。

BEC-819系の愛称は「DENCHA」である。「DUAL ENERGY CHARGE TRAIN」の頭文字を取ったものだ。

蓄電池式電車とは、一般的な電車と同じく架線から取り入れた電力で走れるのはもちろん、搭載した蓄電池に充電した電力でも走ることができる鉄道車両だ。それゆえ、折尾〜若松間のように架線がない(非電化)区間でも運用できる。急速充電可能かつ大容量の蓄電池が開発されたことによって、実現した方式の電車で、BEC-819系は、世界で初めての交流電化区間用の蓄電池式電車でもある。

左:折尾駅に停車中のBEC819系。電化区間に入るとパンタグラフを上げて、通常の電車として走行する。右:蓄電池を使い、架線がない非電化区間を走るBEC819系。パンタグラフは折り畳まれている
BEC819系の床下に搭載された蓄電池

蓄電池への充電は、電化区間で架線からパンタグラフを通じて行うのみならず、回生ブレーキ時に発生した電力でも可能である。非電化区間でもブレーキを使用すると充電が行われ、消費した電力を補える。

なお、回生ブレーキとは、モーターと発電機が同じ構造の装置であることを利用し、回路の組み替えによってモーターで発電を行い、その際の抵抗力をブレーキとするシステム。通常は、発生した電力は架線に戻され(回生)、他の電車が利用できる。省エネ性能が非常にすぐれており、現在では、あらゆる種類の電車において一般的に採用されている。

JR東日本も「JR九州タイプ」を導入

JR東日本も2017年3月4日より、奥羽本線・男鹿線の秋田〜男鹿間に、蓄電池式電車「EV-E801系」を投入。営業運転を始めた。

このEV-E801系は、実はJR九州のBEC-819系の設計を流用し、寒冷地向けに耐寒耐雪設備などを付加した電車。塗色が違うので気づかれにくいが、車体デザインがほぼ同じなのが、その証拠である。

JR東日本はこれに先だって、2014年3月より東北本線・烏山線の宇都宮〜烏山間で、やはり蓄電池式のEV-E301系の営業運転を始めている。終点の烏山には、充電設備も新設された。

ただ、この車両は電気系統が直流電化区間向けであり、東北地方の交流電化区間には対応できない。そこで、新たに独自開発を行うより、JR九州が開発を進めている交流電化区間向けのBEC-819系をカスタマイズする方が有利と判断したのであった。

烏山駅に停車し、折返し運転に向けて充電中のEV-E301系

JR東日本がJR九州の車両をそのまま採用したのには、訳がある。烏山線や男鹿線を含む蓄電池式電車の走行区間は片道30〜40kmほどで、必要とする車両数は多くない。EV-E301系などは、わずか8両で烏山線の全列車の運用を担っている。

従来から非電化区間で用いられていた車両は気動車(ディーゼルカー)で、例えばJR東日本では、関東、甲信越、東北と全社的に「キハ100・110系」と総称される気動車を使用している。設備投資の面で、スケールメリットが享受できているのである。

男鹿線を走るEV-E801系。車体やシステムはBEC819系と共通する

蓄電池式電車も同じことで、「電化区間と非電化区間をまたがって走る列車」という、もっとも有利となる(充電設備への投資が最小限で済む)投入対象区間に対して、必要となる両数が多くないと、1両当たりの投資額が大きくなる。まず開発費用の抑制を考えるのも当然のことだろう。

BEC-819系も交流電化区間と非電化区間を通して運用することが大きな目的である。増備車の投入後は、電化されている筑豊本線・篠栗線(福北ゆたか線)との直通列車にも充当されている。

非電化区間に「電車」を走らせる意味

JR九州には、非電化区間から主要都市への直通が望まれている路線。あるいは、主要都市の近郊において、交流電化区間と非電化区間を直通する気動車列車が比較的多数、運転されている路線もある。

例えば香椎線(海の中道線)は非電化だが福岡市内を走る区間も長く、通勤通学の利用客が多い。しかし、中心駅の博多へ直通する列車がなく、香椎などで乗り換える必要がある。また長崎〜佐世保間(長崎本線・大村線・佐世保線)や熊本〜三角間(鹿児島本線・三角線)などが、一部が電化、一部が非電化であるため気動車が用いられている例である。

こうした事情から、将来、老朽化した気動車で運転されている列車を蓄電池式電車で置き換えるとしても、かなりの両数が必要となり、スケールメリットもある程度、享受できる目処が立てられそうなのだ。

また、これらは電化設備が、完全に有効活用されていない例でもある。JR発足後、大幅な改良が図られてきたものの、気動車は電車と比べると性能的には劣り、同じ区間で併用すると、電車の運行の"足手まとい"となることもある。

蓄電池式電車の走行性能は、従来の電車に匹敵する。併用しても差し支えはなく、かつ、電化設備も活用できる。その上で、非電化区間へ直通可能という大きなメリットがある。大きな設備投資をせずに輸送の改善が図れ、利便性も向上させることができるのだ。

他の面から見れば、蓄電池式電車は、蓄電池を除けば電車そのもの。制御・走行システムに違いはなく、主要な機器類は共通である。モーターで走る電車と、ディーゼルエンジンで走る気動車と、まったく違うシステムを持つ2種類の車両を抱える必要性が薄れ、電車に可能な限り統合することで、製造コストや保守コストの削減も期待できる。

収益構造の強化・改善が背景

関門トンネルに入る下関行き。直流区間にまたがって走るため、この路線向けの電車が必要である

つけ加えるなら、直流電化されている門司〜下関間の問題も、蓄電池式電車で解決できそうである。この区間は、かつては本州と九州を結ぶ長距離列車の大動脈であったが、今や北九州市の近郊列車が関門トンネルを越えて走る区間へと変貌した。

ただ、小倉方面の交流電化区間と直流電化区間を直通するために、このエリアにだけは特殊な交流・直流両用の電車が必要である。直流電化区間は蓄電池で走行すれば、これを蓄電池式電車で置き換え可能と思われる。

つまりは、保有する車両のタイプを統一し、コスト面の改善を図ることが、蓄電池式電車開発の主眼と見られるのだ。JR九州は2016年に株式を上場して、純民間会社となった。その一方で、地域産業の衰退によって輸送量が大きく減った線区も抱えている。2018年3月17日ダイヤ改正では、会社発足後最大となる117本/日の列車が削減される予定だ。

収益構造の強化こそ、JR九州の喫緊の課題なのである。その一環として、省エネ性能にすぐれた蓄電池式電車が期待されているのだ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。