ソニーでもがっかり、「クラウドファンディング」を変えられるか

ソニーでもがっかり、「クラウドファンディング」を変えられるか

2018.01.12

ここ数年の間、スタートアップやベンチャー企業によるハードウェア開発のブームがあったように思う。大手電機メーカーでは作れないような尖った製品を企画し、未来感のある、格好いいYouTube動画をアップする姿を見ていると、私たち消費者はそれを見ているだけで、ワクワクさせられた。

そうした商品の多くはクラウドファンディングの仕組みを通す。すぐに製品として発売されるわけではなく、お金を払って、開発が完了するまで、製品が届くのをただひたすら待つ。ほとんどのケースで、スタートアップ企業が設定した日付に製品が完成することはなかった。数ヶ月~半年以上待たされるのはザラだ。

設定されたはずの期限をそれだけ過ぎてしまうと、届いた箱を開けたところでもはや何の感動もない。クラウドファンディングで「購入」ボタンを押したときの興奮した気持ちは、すっかり冷めてしまっているのだ。

始末が悪いことに、箱を開けて製品を手に取ると、さらにガッカリ感が増してくる。お世辞にも質感が高いとは言えず、安っぽいことがほとんどだ。クラウドファンディングのページではCGで描かれていたためか、格好良く、高級感も漂っていたのだが、目の前にある実物は、Webページの画像とは全く異なるものでしかなかった。

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

ソニーでも"がっかり"

仕事柄、テクノロジーとして画期的なものはいち早く自分で使ってみて、できれば我先にと購入し、記事を書いてレポートすることが半ば信条だ。しかし残念ながら、これまで購入したハードウェアスタートアップの製品は「レビューを書こう」という気にならないものがほとんどだ。

そして前回にインタビューした新規事業創出部 統括部長の小田島 伸至氏率いるSAPが世に投入した製品も、ソニーの名前を冠すれど「それに近いもの」という印象が拭えなかった。ITやモバイルを中心に取材活動しているため、SAPが手がける製品は目にする機会が多く、開発者に取材することもある。

特にwena wristは当時、ソニーの入社したての社員が開発担当者だったことで、ストーリーとして取材しがいがあったし、各メーカーの腕時計型ウェアラブル機器の方向性が当時は不明瞭ななかで、「ベルト部分にFeliCaを載せる」という画期的なアイデアが素晴らしかった。

ソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長 小田島 伸至氏
入社してすぐにwenaのアイデアがオーディションに合格したソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏

実際、ワクワクしながら購入手続きをしたものの、届いた製品の印象は「ちょっと安っぽい」。結局、ほとんど使わずじまいだったことを取材して思い出した。wenaだけでなく、その前には「FES Watch」も購入していたが、こちらも同じく「安っぽい」という理由で、一度も装着して街に出ることがなかった。

wena wristとFES Watchは「腕時計」である以上、それなりの質感をどうしても求めてしまう。ユーザーからすれば「ソニー」の看板を背負う製品としての期待値になるからだ。腕に装着する私は40歳を超えたおっさんだし、いくら最先端のデバイスだからといって、気持ち的に妥協するわけにはいかないのだ。

FES Watch(ソニー Webサイトより)

今回、SAPの取材を通してFES Watchの後継機種である「FES Watch U」やwena wristの第2世代モデルを触る機会があったが、初代の製品より遙かに質感が向上し、製品としての完成度が増していたことに驚いた。

FES Watch U(ソニー Webサイトより)

初代FES Watchは、ベルト部分がプラスティックでとにかく「安っぽい」という印象しかなかったが、FES Watch Uはバンド部分がシリコン素材になり、装着感が快適になっていた。また、ケース部分もガラスになったことで、初代とは比較できないほどに質感が増していた。

wena wristもラインナップが増え、時計やバンドとしての選択肢が増えただけでなく、質感が高まったように感じた。「初代から、この質感で出してくれれば」と本音が出てしまうが、やはり最初から、それを求めるのは無理があるのだろう。こうした後継機種の出来を見ると、このあたりが「ソニーがSAPを手がける底力」のように思う。

第2世代製品のwena wrist pro

やはり、ぽっと出のスタートアップやベンチャーとなると、ハードウェアというWebサービスとは異なる"継続的な改善・改良"の難しさから、最初に出した製品で終わってしまうことが多い。しかしSAPであれば、後継機種を継続して開発でき、さらに完成度を高めた製品を出せる環境が整っているようだ。

実際、小田島氏はSAPに対して「スタートアップに着目した組織だが、継続的に事業を続けていくのがミッションだ」と語っている。まさに「継続は力なり」ではないが、製品開発を継続することで、良いものに仕上がっているのが手に取るようにわかるのだ。

安定したモノづくり、だけではないソニーの強み

また、SAPの強みとして「実際に手にとって試し、購入できる販路がある」という点も忘れてはならない。FES Watch Uであれば、時計専門店だけでなく、セレクトショップなどでも取り扱われている。wena wristも時計専門店や家電量販店で購入できる。

一番いい例はパーソナルアロマディフューザーの「AROMASTIC」だ。この製品は名前の通り、スティック糊ぐらいの大きさの機械のボタンを押すと、アロマが香ってくる。つまりこの製品の良さは「アロマを手軽に持ち運べる」という点に集約されるのだが、実際に体験しなければほとんどの人にとってその良さは理解できないだろう。

AROMASTIC(ソニー Webサイトより)

いくらソニーとてアロマ取り扱いショップの販路はなかったが、大手のニールズヤードなどをすぐに開拓し、実体験から購入までのスキームをすぐさま構築した。筆者の実体験として、Webサイトやプレスリリース上では正直、AROMASTICの良さが全くわからなかった。しかし製品に触れ、アロマを嗅いだところ、すぐさま病みつきになって、気付いた時には購入ボタンを押していた。

今の時代、「新しいモノを作る」ことは、アイデアがあればクラウドファンディングで資金を集め、中国に行って作ってくれる工場を見つければ具現化できる。しかし、ハードウェアがともなう「デバイス」は、それ単体で"バズらせる"ことは、モノがあふれるように存在する現代では至難の業だろう。

「ネットの住人」以外に認知してもらい、リアルの体験によって納得して購入してもらう。さらに、初代で終わらせることなく、継続して開発していくには、企業としての体力も不可欠だ。その点において、SAPは単に「ソニーのものづくり」だけでは語れず、販路開拓やマーケティング、広報といったサポート体制が充実しているのが、強みと言えるだろう。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
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○「食べる」をつくる科学と心理
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○阿久津良和のITビジネス超前線
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu